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二章五話: AKY

He didn't understand the mood daringly.

「さて、と」

 現れるやいなや、エースはダンジョンスイッチを一度押す。背後のゲートが閉じたのと同時に、彼は声を出した。

『あー、これ、聞こえてるかな?』

 拡散するエースの声。さきほどエミリーが使っていたものと同系統の術のようだ。

「ばっちりでございます」

 そしていつの間にやら、音声拡散の術を停止しているエミリーだった。

 さて。位置関係としては、壇の中心にエースが立つ。会場側から見て右側にエミリー、左側にセィーブが立つ図だ。

 突如現れたひょろい男に、セィーブは警戒心を持つ。

『シハイニン……、だと? 変わってるな』

『え、そう?』

『あまり聞かない』

 ちなみにこれは「変わってる(名前だ)な」「あまり聞かない(響きだ)」という風な意味合いのやりとりなのだが、残念ながらエース本人には伝わっていないようだった。

 めでたくここに、竜王の後継者「シハイニン」は多くの魔族たちに認識されましたとさ。

 本人のあずかり知らないところで微妙な齟齬問題が起こっているのだが、それに気付いて居ないエースである。そんな彼をセィーブは、値踏みするような目でみる。

 オールバックの黒髪に、温和そうな顔立ち。半透明のサングラスに廉価版燕尾服のようなジャケットとパンツ。体格はあまり大きいわけでもないのだが、決して力が弱いと相手に判断させない何かが彼にはあった。

 この男、魔族を示す魔角を持っているわけでもない。見た目だけなら、単なる人間のようだった。

 だが、何故かセィーブは不思議と、この相手が自分よりも上位にいるものだと思った。それがエミリーの言葉を受けてのものなのか、はたまた本能的に彼のなりから何かを感じ取ったのかは定かではない。しかし、セィーブは果敢に物申す。

『……アンタが、竜王様の後継者だって?』

『厳密には違うんじゃないのかな? 俺の記憶が正しければ、確か統率者って「部族長会議」にて認定されるものなんじゃないの?』

『まあ、そうだな』

 統率者とは、文字通り魔族を統率するもののことを指し示す。

 軍団の指揮であったり、魔族全体の統一意思であったりを決め、指導する存在のことを言うのだ。

 まあ要するに、総理大臣とか大統領みたいなものである。ただし三権分離でいうところの一つが完全に個人の手中に納まることと、他の二つを押さえ込むほどのパワーを持つという違いが有る。ただまあそうは言っても、血みどろの闘争の果てに誕生するリーダーという訳ではなく、もうちょっと理性的な方法で選出されるトップという話なのだ。

『ところで、一体これはどういう状況だい? 予定ならウチのメイドテレポータが、一通り説明を終えている手はずだったと思うんだけど……』

 周囲の状況を見て、エースは少し困惑していた。

 当初の予定では、ダンジョンでの雇用契約について云々の説明と、ダンジョンの支配人として自分が紹介されるはずだった。竜王城で何度も何度も、トラウマになるくらい予行練習を重ねたエースであった。ちなみにトラウマの元凶は、背後に控えているメイドテレポーターに他ならない。

 その関係上、この場内にいるヒトビトは、多くのヒトが出て行っているはずなのだ。残ったヒトビトも雇用条件について聞くため、真摯な目を向けられることを予想していた。

 それが、まさかの大混乱である。

 その場における全員の目が「お前、誰だ?」と雄弁に語っていた。

「魔王様――」

 と、エミリーが耳打ちで情報を伝える。ふむふむと頷いたエースは、セィーブに大層残念そうな目を向けた。

『……何だその目は』

『いや~、最初に謝っておこうかと思ってね。ほら、君はどうも、これを「行軍のための召集」だと思っていたみたいじゃん?』

『それがどうした?』

『もう一回、紙に書いてあることキチンと確認してみようか』

 ダンジョンスイッチのプッシュと共に、エースの左手に現れるパピルス。

 各魔族たちの土地に配布された、例の募集の紙である。

 それを軽~くセィーブに投げるエース。

『ちゃんと声に出してね~』

 セィーブは「何を言ってるんだこいつ」みたいな顔をしたが、エミリーが彼にアイコンタクトで首肯したため、断ることはしなかった。


[竜王の遺産――過去最大級のダンジョンで、働いてみませんか?

 竜王がなくなったこのご時勢、いつ人間達が攻めてくるかわかりません。そんな状況下でもまだ働く場所は安定していますが、段々とその様相は変化していきます。そこで我等は、竜王の残した最大級の遺産の運営を、手伝ってもらいたいと考えています

 今回、みなさまにスタッフキャストとして勤務していたく予定ですが、必要なのは根気と諦めない心です。戦いに勝つも負けるも、最後に決定するのはその部分。皆様には、ぜひ根気良く活躍していただきたいと考えています。

 労働の対価につきましては、ダンジョンのレアアイテムや基本的な身体技能向上、マナーや魔術の講習などによるスキルアップを予定しております。今後この部分は変更されるかもしれませんが、大きくは変わりません。すべては、ヒトビトの未来のため。ふるって、ご参加下さい。]


『はい。じゃあ問題ッ! これは、何の募集でしょうか』

『何って……、文字通り受け取れば、ダンジョンで働く奴を募集してるんだろ? だが、裏側を見れば――』

『あ、そういうのいらないから』

『……は?』

 ぽか~ん。

 そう、まさにセィーブはぽか~んとした。

 間が抜けた顔で、口が開いたまましばし思考停止してしまった。

『文字通り、解釈してくれるだけで良かったんだよ。何も変なこと、書いてないでしょ? 読んで字のごとく。それ以上は、こっちは求めちゃいない』

 まあ、そりゃ書いていないわな。

 実際に募集で書かれていることと言えば、まとめると「竜王の遺産のダンジョンで働きませんか?」しか言ってないのである。

 だが、こと裏読みに裏読みを重ねてきているだろう各魔族のヒトビトは、セィーブ同様フリーズに追い込まれていた。

 そんな場の凍った空気もなんのその。堂々と飄々と、かつ軽々と言葉を続けるその姿は、確かにある種の勇者と呼ばれる類の行為であった。

 無論、英雄的行為ではない。


『だって、俺は従業員が欲しかったんだから。スタッフキャストは、やっぱりナマのヒトが働かないと駄目でしょね~♪』


 彼の言葉が理解できるものは、少ない。

 だがしかし、自分達のプライドの沽券に関わる自体だということは、無理やりにでも把握させられた。

 鼻歌交じりに何事かをのたまう目の前の男。

 竜王の娘が主人と仰ぐその男に、セィーブは苛立ちを覚えた。

『……なあ、俺頭悪いから、きちんと確認させてもらうぞ。アンタは、お嬢が主人と仰いでいる相手ってのは間違いないな』

『さもありなん』

『……で、アンタは軍隊を組織して、人間共と戦うつもりがないと』

『軍隊を組織するつもりはないかな~』


『なら、死ね』


 速攻。

 まさに、速攻であった。

 セィーブの言葉と共に、壇の下から幾人かの男達が立ち上がり――同時に、エースめがけて刃を突きたてた。

 その黒い影のシルエットに、刃が貫通する。

『アンタに、竜王の後を継ぐ資格などない。我等が種族の安寧を守るための闘争すらしない貴様など、我等には不要だ』

 セィーブがエースを見る目は、恐ろしく冷ややかなものであった。



ケンカっ早いのはいけないとですよ・・・(察し)


次も一週間以内に投稿できると嬉しいですにょ。

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