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二章四話:名乗り上げた、新たなるその名前は

???「精神力は物理現象を超える。いいね?」

エース「アッハイ」

 集合人数、おおよそ七十名。細かい種族の説明は後の話に回すことにして、集った種族の名前だけでもここに表記しておこう。

 力鬼族(トロール)

 鬼族(ゴブリン)

 獣人族(ライカノイド)

 空族(ロングノース)半漁人(フィッシュメン)

 全体的には生真面目の割合が多く、ヤクザまがいのような相手はほとんど居ない。

 実力もそこそこ高く、エミリーが鍛えれば危険地帯と名高い竜王城でも生活できるだろう、そういった者たちが集っていた。

「結構大漁、でございます」

 にやりと笑うこともなく、それらヒトビトの名前と種族、年齢、得意魔術、簡単な略歴などをパピルスに記載していくエミリー。彼女の書いたそれをケティは後続する形で受け取っていた。荷物もちの形である。

「ししょ~、そういうのって詳しく記載する意味、あるんですか?」

「ケティは賭博場にて給仕のような仕事をしていたと聞くでございますが、採用されるまでの流れを覚えているでございます?」

 エミリーの言葉に、目を瞑って思考するケティ。

「……普通に日にち指定された日に、その場所に行って面接させられて終わりでしたね」

「でも、それだけだと非常に効率が悪いでございます。雇う側が相手の能力を正確に把握しきれていないということにも繋がる、でございます。ケティのように」

「あー、なるほどです……」

 にこりと微笑みはしなかったが、エミリーの声音は少し柔らかくなった。

「私や魔王様からすれば、貴女は案外逸材だったのでございます。魔法の使用能力に関わらず、私の魔力でひれ伏さないというだけでも、それなりでございます」

「元々高かったみたいなんですけど、ま~結構、前の仕事で嫌な思いはしましたからね~」

 ちなみに、この世界における魔力という概念だが。

 これは、イコールで精神力と結び付けられる。精神力が強くなれば、魔法を行使した際に世界を改変できる規模や領域が増える。それはすなわち、本人に内在する魔力が増えることに他ならない。そして、ケティは種族の誇りと己のプライドを投げ打って労働に励まざるを得なかった。エミリーに目を付けられるくらいには、メンタル的にそこそこタフになったということである。

 もっとも精神力の向上と魔力の向上は必ずしも万人一定ではないのだが、そういう部分は“吟遊詩人”セイラの研究テーマの一つであったため、この先数十年から数百年は研究が進まないだろう。

「さて、これで一通りチェックは終わったでございます。オーガタンクの皆様も、お疲れ様でございます。まだまだ仕事は続くでございますが、頑張るでございます」

「「「「「はい」」」」」

「女子の尻を追い回す暇など与えないから、今日はせいぜい楽しめ、でございます」

「「「「「……イエッサー」」」」」

「あ、あははは……」

 諦観したような冒険者五人の姿に、ケティはウサミミを多少萎らせながら苦笑いをした。もしかすると自分が関わったせいで現在彼らがこんな有様になっているのかもしれないと思ったが、彼らに以前追いまわされなければ自分の現在もないと思い、多少同情する程度に留めておいた。

 こういうところで、彼女は本作女性陣の中でも、割と現代の一般女子に近い思考回路を持っているらしかった。



※   ※    ※    ※



 ざわざわとしていた場内が、ふと、静かになる。

 なんということはない、集会場の前の方に置かれた壇の上に、エミリーが立ったからに他ならならない。

『本日はお集まりいただき感謝でございます』

 声の広がる範囲を拡散させる術を使い、一帯に声を響かせるエミリー。

 周囲が静まり返ったのを確認してからの言葉は、文字通り、ヒトビトの心に浸透する。

『皆様方からも多く質問があると思うでございますが、まず手始めに――』

「あー、ちょっと待ってくれ」

 不敬にも、エミリーの言葉が遮られる。

『……貴方は、誰でございますか?』

「セィーブと言います。えっと、覚えていらっしゃいますか? お嬢」

 壇上に上がる男。ハーフトロールらしい巨体と、空族らしい赤みがかった顔に前傾の角一本。見るだけで威圧されたりはしないが、その立ち姿には妙な威厳があった。

 エミリーは魔法陣を展開し、彼の言葉も拡散させるようにする。

『名前を言われれば分かるでございます。……ずいぶんと痩せたようでございますね、軍団長』

 セィーブ――かつての竜王四天王が一人「隕牙」の部下であり、軍団の一部を率いていた男。

 それなりに有名な名前であり、少なくともこの場で知らないものは居ない。

『まあ、そんな話はおいて置いて。一つだけ、確認をさせてくれませんかね』

 エミリーは一瞬だけ眉を寄せた。おおかた「何を時間取らせるんだこの男」みたいなことを考えているのだろう。しかし、そんな内心を相手に伝えず、発言を促した。

『何月か前、俺の部下が竜王城に足を踏み入れた』

 場内の空気が、その言葉を受けてざわつく。

『あー、別に盗みを働いたりしようって魂胆じゃねぇです。単純に、人間共の荒らした後の竜王城がどうなっているのかを調べて、パピルスに記して各地に伝令し、義勇軍を結成しようと考えていただけです。あと、遺言の一つくらいあるだろうと予想していたんですがね。まあ、ものの見事に失敗しましたがね。貴女のお陰で』

『夕食の支度の邪魔をしたから、でございます』

『……まあ、それはいいんですよ。で、あいつらが竜王城に入ったとき、城はきちんと機能していた。そこには貴女が居て、あいつらを問答無用で追い払った。で俺達は、竜王様の城を貴女様が受け継いだものだと考えた。あいつらが遺言を聞けなかったのも、貴女の機嫌を損ねたからだと考えた。まあそれくらいの我侭は、統率者に許されていますからね。……で、聞きたいのはこれです』

 セィーブは、周囲を見渡して手を広げた。

 その顔には、怒りとも、憂いともつかない感情がみなぎっている。


『――こんな軍団を組織するのならば、何故、我々に一声かけて頂かなかったのですか? 我々は、そこまで力不足なのでしょうか?』


 男の言葉は、忠誠の言葉であった。

 またそれは、次世代の統率者に付き従い、共に戦うために存在する自分達。その自分達を足蹴にして、こんな風に軍隊を募っている。己たちは軍団としてそこまで力不足に思われているのか、そんなに信用されていないのか、という疑問でもあった。

 深読みせずとも、場内にもその言葉は浸透する。

 数秒の間を空けて、エミリーはこう言った。


『争い方について、意見統一を求めるでございます』


『争い方?』

『竜王は――私のお父様は、我等が種族の血が流れることを憂い、人間との戦争終結を急いだ。相手を殺しつくすとなれば、究極的な反撃をくらい、こちらの被害も甚大になりかねない。だからこそ、追い詰めすぎないで放置するというのが一番と考えた。ここまでは、大丈夫でございます?』

 それは、かつての竜王が人間との争いを止めた理由の一つ。

 エースと出会う前、人間に心底軽蔑と侮蔑を持っていた頃の竜王の意志。

 だからこそ、王国も魔族との接触を断ち、一定の平穏を得ることが出来たともいえる。

『その後、諸々の経緯と色々な思惑もあり、“黒の勇者”に斬殺されたでございます。その骸はわずかな一部を残して、“吟遊詩人”により虚空の彼方へ飛ばされたでございます』

『それが、どうしたっていうんですかい?』

『そして王都で一月ほど前、勇者が暗殺されたでございます』

 場内のざわめきが、一段と大きくなった。

『この場に居る全ての者たちが、この情報を知っているわけではない、でございます。もっとも軍団長は知っているようでございますね』

『ええ。……その勇者を殺したのが、貴女様だといわれていることくらいは』

 さて、分かり難かったかもしれないから、ここで情報を少し整理しよう。

 人間側の持つ“黒の勇者”暗殺に関する表向きの経緯であるが、これは「竜王のかけた呪いを、何者か竜王の意思を継ぐものが続行した」という風に広められている。場所によって情報の伝わり方に違いが有るため全ての人間達がそれを知っているわけではない。そして、この情報は他国に対して厳重機密扱いである。色々な理由から外交問題になりかねず、国内ではトップシークレットとされている情報でもあった。もっとも間者が紛れ込んでいるかもしれないという部分に気を配っていない辺り、まだまだ王国の情報戦も杜撰では有る。だが――。

『その結果、人間達が最近ピリピリしてるってのも、貴女なら理解してますよね?』

 情報が国民に知れ渡った結果、プロパガンダというほどではないが、人々はその言葉に踊らされかけていた。

 そして、セィーブ率いる軍団からすれば、竜王の遺志を継ぐもの――竜王の後継者とは、つまりエミリーしか居ない。

 セィーブは、力強く言う。

『そのうち、人間たちは勇者殺しの恨みから、我等に特攻をかけることでしょう。だから、こうして軍団を組織しているのでしょう? だったら――』

『争い方の意見統一を求める、と言ったでございます』

 しかしエミリーは、冷静にその言葉の先を切り捨てた。

『もし私がお父様の後継者と言われるのならば、それは、お父様の願いの後継者でございます』

『……願い?』

『お父様は、血が流れることを良しとはしなかった。それだけでございます』

『……ッ、だからって、黙って傷を受けてろって言うんですか、お嬢!』

『冷静に聞け、でございます。……そんな程度では従者にも、王佐にもなれないでございます』

 筆者的には誰かさんに対する普段の仕打ちを鑑みて色々ツッコンでやりたいところだが、ここはこらえておこう。

『……俺たちは、最後の最後で竜王様が何もするなと言ったからこそ、だからこそ、最後の忠義として、自らが剣を収めたことにした。その後、騎士団だの何だのに城が制圧される様も見せ付けられましたよ。だからこそ、この軍団なんじゃないんですかい? だからこその、今日この日の集まりなんじゃないんですかいッ!』

 赤ら顔を更に真っ赤にして叫ぶセィーブの心は、既に感情に傾いている。だからこそ、その言葉には迫力と力があった。

 壇の下で泣き顔になっているケティやらリックやらが、筆者がその場に居た時の心情代理と言い換えて差し支えないだろう。

 だがそれを受けても――エミリーは、無感情のようなまま。

 あるいは、内側に沸き立つ何かを()()()()()()いるか。

『――落ち着け、あと少し黙れでございます』

 だが、その声音は先ほどまで以上に、平坦なもの。

 彼女の胸中をうかがい知ることは出来ない。だが、その様子に何かを思ったのかセィーブも多少落ち着いた。

『……申し訳ねぇです。思わず叫んでしまって』

『そう思うなら、大音量で耳を傷めただろうこの場内の方々に謝れ、でございます』

『え? あ、あ、本当に済みません。ついカっとなりました』

 周囲の何割かが耳を強く塞いでいる(主に獣人たちがであるが)を見て、ばつが悪そうに軽く頭を下げるセィーブであった。

『何も、反撃しないで我慢しろと言っているわけではないでございます。これは、ある種の反撃の足がかり、でございます』

『ある種の反撃』

『我が主の発想は色々と予想外でございましたが、これだけは納得できたでございます』

 少し含みを持たせて、彼女はこう言った。


『「第三の選択肢を求めよう――そうすれば、何か開けるかもしれない」』


 エミリーの言葉を聞いた男は、不思議そうに頭をかしげた。

 いや、それ以前に、彼女の発言を一度整理して、何かに気付いたらしい。

『……ちょっと待ってください。主? お嬢、貴女は何を言って――』

『この格好を見て予想していなかったのでございます? メイド服は――従者の服でございます』

 彼女の一言で、場内は言葉を失った。

 唯一事情を察しているケティは「えー、ここで言っちゃうの、予定と違うんじゃないですか~?」みたいな顔をしているが、それは置いておく。

 セィーブも一瞬呆然とした、誰より早く我に帰り、そして言葉をつむいだ。

『……でも、竜王の後継者は――』

『私ではない、でございます』

 沈黙が決壊し、やがてその場には混乱が訪れる。

『そんな……、貴女以外に居るとでも? 竜王の考えを知り、竜王の力に匹敵し、貴女がその後継者だと認めるものが』

『認めたのは全てお父様でございます。ふむ、そろそろ丁度でございますね』

 そう言って、エミリーは何事か聞こえない声量ほどでぼそぼそと言い、一歩その場から下がる。


 すると彼女の立っていた場所に――白い巨大な楕円の穴が出現した。


 人一人が通れるほどの大きさの穴。先の見えない異空の溝。それが空間制御魔術により作り出されたものだと、知るものは少ない。

 その出現と同時に、場の混乱は音を顰める。

 そして、その向こうからは一人の青年が現れた。

『だ、誰だ?』

 見覚えのない風体の男に、セィーブはそう尋ねた。

 その言葉を受けて、青年は――。


「ん~? ま、とりあえず今は支配人だね」


 いつもの調子で、けっこう適当に名乗った。

 静まり返っていた場内に、その声は結構響いたそうな。

 そのせいで、自分が遊園地の支配人ではなく、「シハイニン」という名前の男だと誤解されたことに、エース・バイナリーはまだ気付いていない。



エミリー「そういえば、この冒険者証明書の『イオリ』という偽名、由来は何でございます?」

エース「特にはないかな。まあ、なんとなく引っかかる響きというか」

エミリー「ふぅん……? でございます」


次はちょっと遅れるかもしれません・・・具体的には、ある話の進行が遅い感じです。まあそれでも、一週間以内を目指します。

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