二章三話:力を求む、決して戦いのみならず
焦らず着実に書いてきます。
想定外の展開というのは、おうおうにして沢山ある。
逆説的に言えばそれは、想定外ではない展開というのも、少なからず存在するということだ。
ただし目下、魔族たちに触れ回られた紙に書かれていた条件は、多くの者たちに勘違いされている。引き起こされるであろう未来は、なんとも明るいものではないだろう。
閑話休題。
「さって。こんなものでいいかな?」
言いながらどこぞのモニタールームにて、ダンジョンスイッチを操作するエース。
彼の足元に展開される小さなダンジョン(というか遊園地)は、多少なりともまともな仕上がりになっていた。何がまともかって、主にジェットコースターの長さとか、高さとか。
「まずはレベルを落として、慣れてもらわないとな~」
前章後半でエースが作ったジェットコースターであるが、それに乗ったメイド二人の評価をもとに、多少は普通のジェットコースターにしたらしい。もっとも最高高度を上げることも長くすることも、最高時速を天元突破させることも全く諦めている様子はないのだが。
要するに、作戦を練ったわけだ。
結果として、自分の作りたいジェットコースターを受け入れさせるための、土壌作りを優先したらしい。先にジェットコースター平均の高さに慣れさせて退屈したあたりで、限界突破して悲鳴を上げさせるという算段のようだった。
「これくらいなら、ケティも苦笑いはしないだろう、うん」
満足そうに頷いているエース。ちなみにエミリーがどう反応するかの予想がないのは、彼女がもしこの場に居れば「魔王というより悪魔王でございます」くらい言われそうなことをわかっているからだろう。
「しかし、入り口の方はどうなっているのかねぇ。シャルパン近くに集合ということにしてあったけど……」
未だエミリーから来ない連絡を待ちつつ、エースは「だったらもうちょっと改良しておこうかなぁ……」とか呟いたりしたんだとか何だとか。
※ ※ ※ ※
支払い能力が多少出来た。
切欠は、そこに由来する。
エミリー先生による連日連夜の猛特訓により、エースはようやく、多少まともなダンジョンが作れるようになったのだ。もっとモンスターとかまだまだ微妙な点も多いが、確実に作れるようになったものが一つ。
アイテムの類である。
アイテムといっても、ポーションなど最初から製作可能物に存在しているものもあるにはあったのだが、それと違いが二つある。
一つは、まともな植物の栽培が可能になったこと。
もう一つは、レアアイテムが作り出せるようになったことだ。
前者に関しては、竜王のダンジョン同様のものである。外部から持ち込んだ植物の種を植えるもよし、元々ダンジョン内にある植物を使うも良し。食用もあれば薬用もあり、というのが竜王時代のダンジョンが持つ植物栽培能力なのだが、ようやく、エースもそれに一歩届いたのだ。
もっとも、あくまでも第一歩でしかないのだが。エースのダンジョンでは、未だに小麦以外の栽培は不可能である。ちなみに当然、モンスターは未だサイケデリックそのものだ。
そして後者であるが、RPGに限らずゲーム経験がある人間ならば、説明不要であろう。
この世界においても、レアアイテムという概念は対して変わらない。特定のダンジョンを踏破しないと、なかなか得ることが出来ないアイテムの類。例えば、読者も存在を忘れかけているかもしれない“魔弾の狙撃手”ニアリー・コールの持つボウガン「キャストシューター」は、かつてエースがクリアしたダンジョンの最深部に眠っていた鉄を使用して作られている。またアスターのパーティーが一人、インパクト絶大男なレオウルの持つ装飾剣とて、クエストダンジョンのボスモンスターが持っていた武器「偽聖剣」というものだ。
こういったアイテムは使って上々、売ればなお上々というものである。ただし「希少」というわけでもないので(市場に出回る数は確かに希少なのだが、ダンジョンさえクリアすれば手に入るものが大半である)、あくまでレアアイテム。希少道具や希少資材などとは呼ばない。
ともかくその結果。
一つの結論として、エースは遊園地を本格始動させることにしたのだった。
エミリーが無表情ながらため息をつき、ケティがよく分かってなさそうに頭をかしげたのは、言うまでもないことだろう。
それは丁度、新たなる勇者が二人目の仲間を得た頃……、一章十七話より、ちょっと経ったくらいの話だったりする。
※ ※ ※ ※
「整列、でございます」
さて、ここはシャルパンの集会場が一つ。
本来なら大規模な競売などで使われる場所なのだが、今回は貸切である。なにせ竜王の娘の言葉である上に、我々の感覚で言うなら宝くじ三等くらいのアイテムをいくらか提供してもらえるという話なのだ。そんな数日ちょっとくらいでケチケチしたりはしなかった。
競売の売上げの方がエミリーの出す総額よりも高いのは当然なのだが、街の一角を借りる金額にしては、破格であることに違いはない。
それでもエミリーがこの場所を選んだのは――。
『統率者たるもの、多少は見栄くらいはれ、と教わったのでございます』
要するに、竜王の趣味ということであった。
さて、その集会場。一言で言えば大規模ホールのようなものだ。座席なし、屋根と壁あり、照明は簡素なものが大量に。足元は温度を一定に保つ魔術のかけられた石材でつくられており、商人やら猟師やらといった人々が、血眼になって戦うに不足ない場所である。
だが、それはあくまでその用途に限った話。
「……何だか落ち着かないぞ、ゴブリンの剣士よ」
「だよなー空族の。足場と空気がなんか、まだるっこしいというか……」
集められた戦いの精鋭たちにとっては、いささか居心地が悪い場所であるようだった。
様々な種族がごった返す中、二人の青年が会話を交わす。一人は鬼族の青年。ひょろ長い外見と悪くもない見てくれをしている。背中には、長い曲刀を背負っており、身のこなしは素早そうだ。もう一人は空族の青年。口元を隠す眼光は鋭く、重心が安定している。独特な形状をした剣を腰に巻いていた。
ゴブリンの青年は、周囲を見回して肩をすくめる。
「軍隊として動かすにしちゃ、随分とまとまりがないとは思わないかい?」
「それは俺も思う。だが……どうだろうな。精鋭ばかりが来てるかと思えば、案外そうでもないのではないか?」
空族の魔法剣士は、この場を誘導している冒険者たちを指差した。
「あの狼の獣人などはそこそこの手誰かもしれないが、周囲にいる奴等はそうでもないだろ」
「あん? ゴブリンにケンカ売ってるのか?」
「そういう訳ではないが……。あのハーフトロールのような奴に居たっては、未だ成人すらしていないと思うが、どうだ?」
「わかんねぇな、ゴブリンのハーフは外見から年わかり辛いし」
軽い調子で会話しているが、彼らは全体の実力を見定めているのだろう。
全体を見回す二人の視線は、会話の内容ほど軽い様子ではなく真剣なものであった。
「……これが、精一杯の実力者だってのか?」
「いや、そうじゃねーだろ。一応竜王の娘様の署名はされていたけど、あの紙の真偽だって定かじゃないんだし。もしかしたら、性質の悪い人間の罠かもしれないだろ? だから、一部は温存してあるんじゃねぇのか?」
「流石にそれは飛躍のしすぎではないか? だが、真偽不明という部分には私も納得する」
さて、彼らの審美眼(?)の精度についてとやかく言うのも面倒くさいが、ここで事実を交えながら、今回この場に集っているヒトビトについて記述しよう。
まず、集っているものの大半は男である。これは戦争は男のものだとかそういう発想からではなく、種族全体の傾向として、男の魔族の方が魔法の威力が強いためだ。もちろんあくまで傾向というだけであり、個々人全てにあてはまるわけではない。竜王四天王に女性がいたのも、その象徴の一つであろう。
だがその全体の内訳を見ると、どうだろうか。歴戦の猛者とされる者たちは、黒の勇者たちの手によって討伐されたものも居れば、未だ英気を養っている達人も多く居る。その全てが一同に会しているかと聞かれれば、そんなことはないようである。
「……私は、かの“雷帝”に会えるかと期待していたのだがな」
「仕方ないんじゃねぇの? 族長ともなれば忙しいだろうし」
落胆する空族の青年に、ゴブリンの青年は軽く笑った。
と、そんな二人に声が掛けられる。
「すいにゃ~せん?」
二人が振り返ると、そこには獣人族の愛くるしい少女がいた。
魔角紋 (獣人族は魔角がなく、変わりに顔に模様がある)は猫のひげの様になっており、頭の耳も含めて、非常に猫である。猫々しいという形容詞を作ってもいいくらいには猫である。毛並みは白く、体も小さい。動きやすいよう体に密着した服装には、防御の魔法陣が刻まれていた。
一見してものすごくやんちゃっぽい印象を受ける少女である。
そんな彼女が、空族の青年の手を握った。
「ど、どうしたのだ?」
「あにゃた、もしや“にゃーど”……、失礼、“ナード”様ですか? 魔法剣士の」
「そうだが……、あまり触れ回らないでくれ」
「にゃあ~~~~~~~! 有名人だにゃった~~~~~~! 握手してください、大ファンにゃんです!」
小声で叫ぶという、器用なことをする少女であった。
来る日も来る日も修行にあけくれ、様々な種族の戦士と戦い更に修行にあけくれる、いわゆる「修行マニア」、魔法剣士ナードは女子人気が高い。その真面目さと紳士さ、そして主に顔のよさ。あと口元を覆い隠せば正体がバレないだろうと本気で考えているような微妙な天然ボケっぷりが、魔族の女性たちに人気であるらしい。いわゆるギャップ萌というやつだろう。
ただしイケメンに限るが。
ひとしきり彼の隣のゴブリンに目もくれず、手をぶんぶんした少女。丁寧に頭を下げて、彼らの元からスキップで離れていった。
「まさかこうもあっさり正体がバレるとはな。何故だ?」
「いや、アンタさん本気で言ってるんなら俺は何も言わねぇけど……」
「……どうした? ゴブリンの。顔色が悪いぞ?」
そう言われて、ゴブリンの剣士は少女の去っていったほうを見る。
「……アレは、色々とまずいぜ」
「何がだ?」
「アンタさんは魔法剣士だから何も感じなかったのかもしれないけど……。アレは、おかしい。重心が安定しすぎてる。俺も熟練とは言えないが、一目見てあそこまで不気味な安定っぷりを見たのは、二人目だぜ」
「……その一人目というのは誰だ?」
「今、前の方で色々やってる、あのお嬢様だよ」
そちらを見るまでもなく、ナードはその相手を理解した。
ちなみに前方では、メイド服姿のエミリーが、部下のウサミミメイドを引きつれ人数の確認に当たっていた。その足は、確かに良く見れば大木のごとく安定した立ち姿である。エースあたりがそれに気付かないのは、別に彼がその道の達人ではないからだ。
「まったく……。最強って訳じゃないかもしれないが、結構ヤバいみたいだな。どいつもこいつも」
本気で肝を冷やしているらしい男の言葉を、ナードは真摯に受け止めた。
「……なるほど。では、私も楽しめそうかな」
周囲を再度見回し、青年は獰猛な笑みを浮かべた。
だがしかし、彼ら二人は全く気付いて居ない。
この場に集っている者たちが、この後どういう処遇を受けるのかと。
残念ながら、色々と残念なことに、これは赤札による召集などではないのだ。
「……なあリーダー。俺達、何やってるんだろ」
「……騒ぐなリック。これが終わったら、“向上の麦酒”を振舞ってもらえるらしい」
「「「「酒はもうこりごりですよ」」」」
「そう言うな。……言ってると、本当に何をやってるのかわかんなくなるから」
区画整理まがいのことをしている冒険者五人は、そろって微妙な顔でため息をついた。
集ったヒトビトはこの先生き残れるか。
次回も一週間以内投稿を目指す、でございます。




