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二章一話:そして時は多少動き出す

エース「お願いします、王子珍道中最新巻買ってきてくださいマジで、ダイジェスト回だけどお願いしますマジで」

  <(_ _ )>L

エミリー「仕事しなくなるから、却下でございます」

  b(^ω^)9m

「なあ聞いたか?」

 王都から離れた観光地。人手も多く、古いダンジョンも含めて冒険者の入りは悪くない。そんな街の一角、現地の人々が集る場での噂話である。

「新しい勇者が選ばれたらしいぞ?」

「でも聖剣はエース様と共に……」

「ああ、それがだな。何でも、新たな勇者は黒の勇者の弟子だっていう話らしい」

「弟子? そんなの居たの?」

「眉唾かと思いきや、瓦版によれば確かに、エリザベート様が彼のことをそう言ったと書かれていたらしいぜ?」

 ちなみに活版印刷こそないものの、大抵の商人や役人は魔法が使えるので、こういった情報の電波もそれなりに早い。具体的には瓦版の設置される速度が速いということなのだが、世間ではそういうところに目をつけ商売する輩もいる。いち早く瓦版の内容を正確に書き写して瓦版が各地に設置される前に情報を売り歩く職業があったりもする。今回の場合も、そこが情報源のようだった。

「で、その勇者の名前は?」

「……えっと、何て書いてあるんだ?」

 ただしまあ、活版印刷でないからこそのトラブルも多いのであるが。


「セイラ様が……!」

 ここはある小さな村。エースたちによって救われた場所で、何気にセイラが古井戸を改造してポンプを設置していたりする村。

「セイラ様が……、亡くなられた?」

 村長と思われる老女が、よたよたと体のバランスを崩し倒れ掛かる。それを、息子と思われる大男が背中から支えた。

「しっかりして」

「これが、安心できるか……! あの水神器をおつくりになられたお方なのじゃぞ!」

「神器じゃない只の道具だって勇者様が言っていただろ」

 ちなみにこの村は、そもそも最初の情報伝達から上手くいっていなかったらしく、新たなる勇者選出と“黒の勇者”“吟遊詩人”死去の情報が来るのが遅すぎたようだ。

「聖女様の再来が……! こんなことが許されるのか、この世界は……!」

 筆者的には、なんだか当たらずも遠からずなことを言う老婆であるが、付き合わされる息子としては頭を抱える限りであるらしい。「さて、どう説明したものかな」と言いつつ、彼は村の瓦版に書くため羊皮紙を取り出した。


「アスター・リックスが――、新たなる勇者がマッドデーモンを打ち破ったぞ!」

 とある貿易都市。王国にある三つの貿易都市の一つ、魔族が暮らす場所から最も離れた対岸にあたる場所。他国との隣接部であり、経済の入り口でもある都市だ。

 その吉報を告げ、ある商人は大笑いした。

「これで、魔族と戦争になっても我等の未来は明るいさ!」

「そうは言うが会長、本当に大丈夫なのか? 黒の勇者の時は、全然駄目だったろ?」

「そりゃそうだろ。なにせやっこさんの時は、例え敵が凶暴なモンスターでも何でもかんでも、ある程度以上の消耗すらしなかったし、おまけに軍団くらい軽く蹴散らしたって聞くしな」

「だったら今回も駄目だろ」

「いや、それがなぁ。ちょっと王国の知り合いから聞いた話なんだが」

 にやりと笑うと、その恰幅の良い商人は、酷いだみ声で黒い笑みを浮かべる。

「瓦版は覚えているだろ? つまり、聖剣を持っていないんだ今度の勇者は」

「それがどうしたって?」

「馬鹿。つまりだな、以前の勇者ほど強くないってことだ。そうすれば必然、敵が軍団ならこっちも軍団として戦わなきゃいけないし、道具も武器も必要になるってことだ」

「ああ、なるほど。つまり需要が生まれると」

「そういうことだ! わかったら、いつでも声かけられるように手配しておけ! お偉いさんの話が正しけりゃ、持ってあと一年くらいだ。……荒れるぞ? この国は!」

「……会長は本当、しゃべったりしなきゃ歴戦の商人らしいのになぁ」

 ハイテンションに銭の話を語る男は、勝てば官軍負けたら知らんを地で行くような素振りを示していた。


「トトラント来たら、やっぱりここに来ないと駄目ですよねぇ。黒の勇者と、四天王最初の邂逅場所ですし」

 王城近くのとある村。魔角のような光沢を放つ慰霊碑の前に立つ、パーカーのようなものを纏っている女性が、そう呟く。

「……いや最近なら、数ヶ月前にアスター・リックスが来ていましたっけ。さほど興味はありませんが。まだしも、最近色々なダンジョンに出没する“白黒の涙仮面”の方が興味そそられますねぇ」

 言いながら、彼女は小さな水晶を取り出した。

 その水晶に、ふらりと何かの映像が映る。この国では流通規制が掛けられている映像通信装置などではない。それは、一章から読んでもらっていれば必ずどこかで見覚えのあるはずの水晶(具体的には一章十二話あたり)であった。

 そこに映るは、一人の少年と一人の巨漢、そして一人の少女。

「……レオウルさん、前に取材させてもらった時より酷くなってない? 特に髪型」

 記憶の中の三つ編みお下げ姿の筋肉だるまを思い出しつつ、女性はちょっと震えた。

「……いっか。じゃあ取材もしたし、続き書かなきゃね。じゃないと新巻が間に合わないし、王様からのファンレターで催促されそうだし」

 そう言いつつ、彼女は人差し指を軽く弾く。

 風が一瞬吹き荒れ、彼女の姿はどこへともなく消えた。



※   ※    ※    ※



 王国。

 大陸の中でも中くらいよりちょっと大きいくらいのこの国。大陸北方、極寒結界地帯手前を中心として暮らす多くの魔族とは異なり、王城を中心とした多くの人々が暮らしている。

 もっとも場所はそこに限定されては居ない。魔族でも変温動物的な性質を持つものは当たり前のように暖かいところに暮らしているし、人間でもダンジョンジャンキーな人間の冒険者たちは、魔族だの何だの関係なく北を目指す。

 無論小さな衝突もあるにはあるのだが、そういった小競り合いがバタフライエフェクトを起さないよう、調整するのが仕事の人々(あるいは魔族)も居たりする。お陰で、そこまで大事には至らないのだ。

 例えばそう――部族の族長、指導者などがである。

「獣王、不届き者などこの私が成敗して――」

「止めて置け。お前でも話にはなるまい」

 獣人族(ライカノイド)の指導者は、そう言うと部下の獣人の頭をポンポン叩いた。

 ハーフトロールたる獣王の身長は猛々しいライオンの獣人である近衛よりも普通に大きく、画的には大人とちょっと大きくなった子供のようですらあった。

「……流石は、聖剣がなくとも勇者と呼ばれるだけあるということか」

 さて、場所はとある山頂の砦。

 力鬼族(トロール)の生息域にもほど近いこの場所。しかし現在の獣王は、そちらの指導者たる雷帝と親戚関係にあり、局所的な政治ではあるがその位置における均衡状態は上手いこと保たれていた。

 少なくとも、急場にトロール兵士たちが駆けつけて戦ってくれるくらいには。

『死ねぇいッ!』

 いくつもの声が重なり、沢山の槍が三人の人間に襲い掛かる。

 それを、三者三様の方法でそれらは躱された。

 一人は金色に輝く剣で受け流し。

 もう一人は、装飾の多い巨剣で槍を叩き潰し。

 もう一人は、ひら~りと器用に全ての一撃に対して体をそらし。

「レオウルさん、受けお願いします!」

「おうよ!」

「セノは、えっと、一緒に来て!」

「了解きゅん☆ アスターちん」

 ちょっと長めの三つ編みツインテールを振り回し、それ以上に勢いよく剣を振り回し、レオウルはトロールの兵士たちに襲い掛かった。普通人間が魔族に向かって攻撃するのを襲い掛かったと表現はしないのだが、レオウルのビジュアルを前にすると、どうにもトロールであるといえど恐ろしさが半減以下になってしまう。それは彼らも理解しているのか、巨体に反して無駄に俊敏な動きで迫ってくる男に、全員が引きつった笑みを浮かべていた。後日夢で、濃い顔の巨漢に迫られないことを祈っておこう。

 そしてレオウルの背後から、少年と少女が一人ずつ。

 騎士の鎧と剣闘士の革鎧を足して二で割った様な、動きやすい服に身を包むは、新勇者アスター。手に握られるは、彼の父親が見たら大興奮しそうなくらい、金色に輝く精霊剣である。

 彼の数歩後ろを歩くは、白衣装に身を包んだ踊り子の少女セノ。服の袖に沢山とりつけられている帯のようなものには、かなりの数の魔法陣が刻印されている。

 少女は黒い髪を振り乱しつつ、彼と等距離を保ちながら舞を舞う。

 二人を襲う、獣人の魔法。四大元素それぞれに対応した、矢のような一撃。

「カルテナ、きゅん☆」

 少女の一声により、全ての矢のベクトルが微妙に彼らの位置からずらされた。

 驚愕する獣人たち。ライオンの近衛は、獣王のもとを離れてアスターへ襲い掛かる。

「貴様等、何用だ!」

「えっと、最初に言ったと思うんですけど……」

 豪腕から練られたハンマーの一撃を受けながらも、アスターは苦笑いで返す。相手の一撃に打ち負けないでいられるのは、彼自身が数ヶ月で身につけた力か、はたまた精霊剣を使った肉体強化魔法の効果か。

 そんなアスターに、再び残りの獣人たちが魔法矢を射ろうとするが、

「リガッチャ、きゅん☆」

 両手を挙げ足を揃え、くるくるフィギアスケートのごとく回転するセノの一言で、魔法矢は放たれる前に、それぞれ六人の手元で爆発した。

「えっと……、雷咆(らいほう)!」

「何? ――がっ」

 一方。ライオン近衛の一撃を押し返すと、アスターは剣を低く構え、尋常ならざる速さで目の前を切りつけた。お互いの間の空間に、黄金の色が踊る。そして次の瞬間、雷を引き裂く「大海の魔獣」の咆哮がごとき衝撃波が、近衛を襲った。

 獣王の椅子近くまで斬り飛ばされた近衛を見やり、アスターは一言。

「……実戦で成功させたの初めてですよ、カノンさん」

 技を教えた相手のことを、ついつい思い出してしまったらしい。

 舐めプレイとまではいかないが、ある程度の余裕が彼にはあるらしかった。

 もっとも、それは相手を殺すまで闘いきっていないからかもしれないが。

「……ふむ、ここまでやるとなると、私も本気にならねばならないか」

 そう言いつつ、獣王が王座のような椅子から立ち上がる。

「新たなる勇者、アスター・リックス。お前は何を望んで、城に強襲してきた?」

「えっと、別に襲いにきた訳じゃないんですけど……」

「隠密行動を重ねてこの部屋に入るまで存在を気付かせない手腕は、暗殺者としても名高くいけるところだろう。かの“黒の勇者”に負けず劣らずだ」

「エースさんを比較に出されても困るといいますか……。えっと、さっきも言いましたけど話、聞いてくれません?」

「何を話すつもりかは知らぬが、いいだろう。ただし――その力で、私を負かせてからにしてもらうがな」

 獣王は、白虎の獣人らしく牙をむき出さんとするほどの唸り声を上げて、戦闘体勢をとる。

 それを見つつリックは、

「……こんな展開、エースさんに見せられた本に書いてあったような……」

 王子珍道中の迷作「賭博学園編」が収録されている十一巻を思い出しつつ、アスターは剣を構えた。



※   ※    ※    ※



 時は進む。

 それはどの場所においても同様であり、新たなる勇者の物語も同様である。

 しかし、決して忘れてはいけない。

 本作の主人公はエースであり、本作のジャンルがコメディであることを。

 例えカオスなことになっていたとしても、残念ながら本編はあっちなのである。


セノ「へ、きゅんきゅんの出番、今回これだけきゅん☆!?」

???「生 き て 出 ら れ た だ け 有 り が た く 思 え」

セノ「あ、ハイ……きゅん☆ 再登場の時は、もっと目立とうきゅん☆」


次回も一週間以内投稿をめざすきゅん☆

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