一章終話:いつか誰かの尻拭い
(+,++,!,Eraweraw,uoY,iegnak,uruK“Ryu-ouLand”,〈〈〈 , 〉〈 ,〈〉)
※注意:この前書きはエスメラ語で書かれています。
――我輩に殺されたいのか? お前は――
――なんで、私はまだ生きているの?――
※ ※ ※ ※
「……久々に鬱だわぁ……、鬱でございます」
数日後。
場所は竜王城。
部屋の場所は、城あまりに広大であることと、一部の部屋を覗いて固定マップが存在しないこの場所の特性により詳細は省く。だがここの部屋の主は、一目で分かるものだ。
服の数の少ないクローゼット、帝王学と書かれた書物やら何やら、ちょっと大き目の机にスケッチブックとえんぴつ。
全体的に白い色調な部屋に差し込める朝日が照らすのは、赤毛の少女に他ならない。
「……鬱でございます」
もう一度同じことを言いながら、悪夢を振り払うように彼女は両頬を軽く叩いた。
「魔王様、朝でございます」
「少しはビンタ以外の起し方を検討しなさあああああああああああああああああアッー!」
もはや恒例行事となりつつある朝の習慣を経て、本日のエースとエミリー。エースの格好は農夫が着ていそうな作業着、エミリーは相変わらずのエプロンドレス姿だった。ただし後者は髪が青いロングヘアになっており、角の位置がいつもと違い額のあたりだった。よく見れば、エースもエースで腰にホルスターと何本かのナイフを装備していた。
彼らがそんな格好で何をするのかと言うと、
「さって、じゃあダンジョン攻略に行こうか」
こういうことである。
話しをさかのぼること、一昨日の朝食後のティータイム。
「魔王様、今日明日には既存のクエストダンジョンの攻略に向かうでございます」
「え、もうしばらく竜王の隠し財産で持つんじゃなかったの……?」
「嘘でございます」
「……ん?」
「あれは、私の個人資産でございます」
「つまり、どういうことだってばよ?」
つまり、こういうことである。
竜王の個人資産など、その殆どが転移結晶も含めて王国の騎士団に奪われている。そんな中、困ったエミリーは素姓を隠して、冒険者ギルド(魔族)に登録したのだった。そこで稼いだ銭が、主にエースと彼女の食費に当てられていた。
「確かに当分は持つ予定だったのでございますが……」
「ああ、ケティちゃんね」
この城では最近、エミリー以外のメイドの姿がみかけられる。
頭にウサミミをゆらしながら、おっかなびっくり設備の点検やら掃除やらをしている少女。ダンジョンが数人の男達を葬った(?)初日、エースらに助けられた少女だ。
労働条件はあまり良くはなかったが、エミリーの「竜王の娘」という肩書きによる懇願と、彼女が冒険者に襲われかけたという話しを聞いた最強格バニー先輩(メガネのお姉様風)により、転職を勧められた結果、そういう運びとなった。
ちなみにその際にあった一大スペクタクルについては、筆者が面倒がって書くことはないだろうことをここに明記しておく。
「支払い能力は、補わないといけないのでございます」
「まあ、遊園地の給料もそうしないと払えなくなるからねぇ……。最初の資本がないと、長くは設置できないし」
「早いところ、魔王様の能力向上を望むところでございます。……あとそれに、引篭もってダンジョン製作ばかりしていては体に悪いでございます」
「誰がさせてるんだと言ってやりたいけど、まあいいや。そういえば彼女、なんだか『素質あり、でございます』とか言ってつれて来たけど、実際どうなの?」
「モノマネが微妙に似ているのが頭にくる、でございます。……服のサイズのことについて何も言わなければ、上々でございます」
「ああ」
納得したように、エミリーの体の一部(どことは言わない)に視線を落とすエース。
瞬間、エミリーの右平手が炸裂した。
「魔王様の言葉を借りれば、セクハラ、でございます」
「…………何度聞いたかわからないけど、君、本当に従者?」
「信賞必罰。ケティも魔王様も、一回教えて分かれば何もしないでございます」
「と、スパルタメイドテレポーターはかく語りき、と」
「?」
意味がわからず、頭をかしげるエミリーだった。
入り口につくと、トラップが動いていれば地面に貼り付けにされているだろうケティが、エミリーと同じくエプロンドレス姿で待っていた。
「あ、魔王様、ししょー、おはようございま~す!」
「うん、おはよ……う? え、師匠?」
「一度、呼ばれてみたかったのでございます」
「ししょーはメイド師匠ですよ~、魔王様~」
「はぁ……」
エースの持つ異文化知識に毒されたのか、かなり元気なサムズアップをよこすケティだった。
「私達は仕事に行くので、屋敷の整備を忘れるな、でございます」
「うけたまわりました!」
「……あれ? この子、こんなに従順だったっけ。エミリー何かした?」
「……ふっ」
「その笑い止めろし」
ニヤリと笑うエミリーに苦笑しつつ、エースは扉の外に出た。
「では、飛ぶでございますから、舌をかまないようにご注意でございます」
「って、ちょっと待っていきなりす――」
目の前でびゅっと消える二人に、ケティはにこにこと頭を下げた。
シャルパン近くの某山奥にて、エースは膝を付いて倒れていた。
「……いいかげん、なれてくださいでございます」
「いや、これジェットコースターよりキツいよ……」
「慣れろ、でございます。確かにあの乗り物、思っていたよりも楽だったでございますが」
「それは、エミリーが空間操作系の能力を使い慣れてるからってことなのかな? まあ、そういう考察は俺の担当じゃないから止めるけど」
そういう考察は本来セイラ担当だったと思い直して、エースは立ち上がった。
「……そうか、そいえば、案外結構時間たつんだよなぁ……」
そんな彼の顔を見て、エミリーは頭をかしげた。
「何でございます? その変な笑いは」
「…………ん、笑ってる?」
「まるで、人生を諦めたかのような笑いでございます」
「………………………………………………………………まあ、ね」
山からシャルパンを見下ろしつつ、エースは苦笑い。
「王城まで凱旋して、殺されて、セイラが死んで、俺復活して、遊園地作って、そろそろ半月くらいなのかな? んで、何というか……、何だろうな、本当」
セイラのことを皮切りにして、あまりにも、それまでのエースの周辺と状況が一変した。
「ツナナギに後を任せて、ニアリーと別れて、セイラ殺されて、……まあ、カノンとこんなに長く離れ離れになっているということ自体が、久々すぎるってのもあるかもしれないけど。ここまで何ともいえない感じになるのって、村追い出された時とか、竜王殺した時くらいかも」
エースの言葉を聞いたエミリーは、しばらく黙った。
そして、ふとつぶやく。
「……悪夢もたまには役立つ、でございます」
そして、彼女はエースに向き直った。
「とりあえず、私からアドバイスでございます」
「……何?」
「目的をつくれ、でございます」
「目的?」
エミリーは首肯する。
「それがあれば、当面は生きるのに困らないのでございます。そしてそれがあれば、自分が何をしたら良いかも見えてくる、でございます」
エースは知らない。
その言葉が、竜王と最初に出会った時に彼女が言われた言葉であることを。竜王に捧げられた生贄の、死にたがりの少女に言い放たれた言葉であったことを。
だが、それでもエースには思うところがあったようだ
「……エンタメ普及? 忙しくて忘れてたけど、そういえばそうだったっけ」
自分の目的を思い出しつつ、エースは少し楽しそうに笑った。
「竜王を殺したのは、俺なんだし――」
ふと、彼もここで一つ思い出した。
竜王の、今際の一言である。
『どうか――全てのヒトが、楽しく暮らせる世界にしてくれ』
「なら、当面は遊園地でも運営しておこうかな? せっかく作ったんだし」
「アミューズメントダンジョンでございますね」
「そういう名前つけていたっけ? まあ当然、カノンとかの捜索も続けないといけないし、そう考えたらやること一杯だぞぃ! さて、じゃあとりあえずは――」
「でも先に言っておくと、魔王様からの話しを聞いた限り、貴方様に組織運営系の才能はないと思う、でございます」
「何このメイドテレポーターッ! 言う前に人の希望潰すなし!」
「運営者陣については、こちらでも心当たりを頼ってみるでございます。なので、あまり心配しなくとも大丈夫でございます」
「おうふ……、了解」
見事な飴と鞭に翻弄されつつ、エースは肩を落した。
それを見て、エミリーはふっと微笑んだ。
「じゃ、今日はとりあえずバリバリ稼ぎますか……。この装備で出歩くのも久々かな、そういえば」
ベルトのナイフを引き抜いて確認しながら、町まで先行するエース。
エミリーはその後ろで歩きつつ、ふと、唐突に思い出した。
彼女がエースのつくったダンジョンに入ったときのこと。
そのダンジョンゲートのアーチには、何やらポップな文字が躍っていた。
そこに書かれていた文字――気にもとめていなかったが、そこにはこう書かれていたのだ。
『りゅーおーらんど へ ようこそ!』
「……ダサッ、でございます。……ふふっ」
彼女はくすっと微笑むと、やがて堰を切ったように、その声は大きくなっていく。
前方のエースが不審がるも、その笑い声はシャルパンの検問所近くに行くまで、留まることはなかった。
――第一章:了――
エース「え、嘘、マジ? これで一章終わりかよおおおおおおおっ!?」
エミリー「何一つ問題が解決していない、でございます」
筆者「まあ、どうせ一週間以内には二章始まるし? ジェットコースター作ったりは、次やればいいんじゃないかな? 次の章で(出来ればの話だけど)」
あ、あと夜にもう一話(?)更新あります。




