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一章二十一話:求めすぎは誰かを滅ぼす

エミリー「デデドン!(絶望)でございます」


『『『『『ぎゃあああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』』』』』

「ひゃっはー! やっぱりジェットコースターのリアクションはこうでないと!」


 とあるダンジョンの中空、雲に隠れた施設である。

 テレビの中継車に毛が生えたくらいのサイズなこの一室にて、非常に胡散臭い格好をしたエースは歓声を上げていた。

「でもまだまだ調整が足りないかな? せっかく『非破壊物質』を使って、物理的に既存のものでは(?)ありえないくらいの加重をかけることに成功したけど、逆にそれだとスリルってレベルを突破しちゃったみたいだなぁ……。う~ん、流石に気絶させるまで調整したつもりはなかったんだけど、それは多少、今後のテスト次第かな?」

 しかしすぐさま冷静な分析を始める辺り、この男、真面目である。

 ちなみに彼が言う「既存のジェットコースターではありえない加重」というのは、彼の最後に乗ったジェットコースターが当時の基準で最高のものだったからというのに他ならない。速度の高さにともない、自身の経験を鑑みて安全性だけには真面目に取り組み、絶対の自信持てるよう作り上げたのだった。

 真面目になる点が色々と、そりゃもう色々と間違っているような気もしないではないが、筆者がいくら声を荒げたところで、それが反映されることはない。もはや約束された未来だ。

 その場で呆然と立ち尽くしているエミリーとて、それは同じ心境であったことだろう。

 わずかに自分を取り戻した彼女は、無表情にコホンと一回咳払い。

「魔王様、拷問を見て楽しむのはいささか趣味が悪いかと思うでございます」

「しゃらっ~っぷ! 支配人と呼びなさいッ! ……って、ちょ、何が拷問だしッ! 世にある数多くのアミューズメントパーク最大の、人気ナンバーワンアトラクションだってのッ!」

 しかし瞬間的に落ち着いたテンションからハイになるあたり、エースも多少演技が混じっているのかもしれなかった。道化なのか真性なのかで、色々と思うところはある。

 だが、二人はひたすらに忘れていた。

 この場には、もう一人ヒトが居ることに。

「あ、あうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……」

 部屋の隅っこで少女は、頭のウサミミを激しく震わせながら軽く半泣きだった。

 考えてもみてほしい。集団に乱暴されかかったと思ったら、突如、竜王の娘とその使者が現れ、気が付けば訳の分からない高度の場所まで拉致られていたのだ。おまけに目の前のいくつもの大型水晶(?)を加工したような物体――映像通信装置を巨大化したようなその装置に映るものは、恐怖としかいいようのない乗り物と、それにより大打撃を受けている男達の姿に他ならない。

 第三者視点からすれば色々とカオス極まりない状況であるが、当人にとっては、色々と安心できない状況であった。

 普段の場慣れしたケティならば文句の一つでも言いそうなところだが、生憎と相手の性質が全く読めないので、そういったことを軽々しく出来る精神状況ではなかった。

 まあ要するに、いくらケンカ腰で気の強い威圧的な人間であっても、世界ヤクザ王決定戦優勝者とかが目の前に居たら、ゾウリムシのように畏縮するだろうということだ。うん、ちょっと何を言ってるか筆者自身わからない。


 話しとしては要するに……。

 エースの作ったアトラクションに異議(というか疑問と混乱しかない)のあるエミリーが、実際にどういうものなのかを自分に証明してみせろと言ったのがことの発端だ。

 ダンジョンという名の遊園地製作そのものを止めさせることが、もはや困難であると確信した彼女は、竜王の娘というだけあって流石の慧眼である。もっとも問題は、その彼女をして制御することが不可能っぽい誰かさんに他ならないのだが。

「いやでも、あの絶叫は久々に聞いたなぁ……」

 なにやら感慨深そうに呟いている元凶である。

 元の世界のことを思い出しているのかもしれないが、ちょっと待て、この場における絶叫の性質が違うことに留意しろ。普通の遊園地でジェットコースターに乗るのは、大半がそのスリルだの浮遊感だの娯楽目的の人々だ。対して彼が連れ込んだのは、生活のためにモンスターと戦うプロフェッショナルであり、目的は高所から全体を俯瞰することだけだ。

 他業種、他分野、心持の違いなども鑑みて、あんまりにもあんまりな仕打ちであった。

 童心にかえっているのは結構であるが、多少は大人の理性を取り戻してもらいたいところだ。

「ここまでいい絶叫を聞かせてくれたんだ。このまま入場料とって帰すだけっていうのも可哀そうかな?」

 というかそれ以前に、遊園地で遊ぶだけ遊んだら、そのまま帰ってもらう心積もりだったらしい。遊園地で、というところがポイントだ。主語は彼らではなくエースである。

「加虐趣味というより、鬼畜の所業にございます」

 無表情でありながらもエミリーですら、ジェットコースターに蹂躙されている冒険者達に同情の意を示した。いやまあ、ジェットコースターに蹂躙っていう文章自体かなりアレなのだが、この際それは仕方ない。筆者も諦めてキーパンチを続けよう。

「鬼畜と言われるのは嫌な所かな。実際、俺以上にもっと酷いことやるヤツもいるし」

「これは魔王様の中では酷いことにカウントされないのでございます?」

「支配人だっての。別に一生残る心の傷とかを植えつけてるわけじゃないからなぁ……。エミリー、小さいころ食べられない食べ物とかなかったの?」

「……そんなことを言っていられなかった、でございます」

「……俺より年上みたいだし、そこは戦時中だったろうからね。ごめん。でもまあ、そういうレベルの話のつもりだよ。これは。小さい頃は無理でも、大人になれば大丈夫ってヤツ」

「まだしも、飲酒で例えられたほうが分かりやすいでございます」

「俺、未だに酒駄目なんだよね~」

 なんというか、やっぱり会話はズレズレであった。

 後ろのケティも混乱の極みであることだろう。エミリーはエースと話すのを一度打ち切り、小動物らしく震えている彼女に目線を合わせた。

「大丈夫、でございます?」

「え、ええ、大丈夫えす」

 噛んだらしい。

「……大丈夫です」

「それは良かった、でございます」

「…………あの、差し出がましいことかもしれませんが、何故貴女はこんなことを? オエり――」

「私の名前は、エミリー、でございます」

「え? いや、でも貴女様は――」

「エミリーと呼べ」

「ア、ハイ」

 世の中、権力者が意固地だと大変である。

「……エミリー様は、何故そのような格好で、何故シャルベスター様? と一緒に居るのです?」

「ああ、あの男はシャルベスターではないでございます。それは、冒険者たちを説得するための方便だったのでございます」

「へ? ではあの人は――」

「魔王様、でございます。私の――私達の、魔王様でございます」

「……はい?」

 これで説明充分だろ、と胸を張るエミリーに、ケティはひたすら疑問符を浮かべるばかりだった。

 このあと、エースがモニターを見るのを止めて、勇者だの蘇りだのを省いた身の上話をさっくりするまで、彼女の疑問が晴れることはない。

 今はただ。


「『りゅーおーくん』、しゅっつげ~き☆」


 そんな謎の言葉を放ち、手元のダンジョンスイッチを押した男の背中を、ただ見るばかりなのであった。



※   ※    ※    ※



「「「「「………………」」」」」


 憔悴しきった冒険者五人は、ジェットコースターの入り口手前で真っ白に燃え尽きていた。

 拷問のごときカルチャーショックにさらされた彼らが、ブレイクスルーなりコペルニクス的転換なりを経て新たな境地に至るかは数日待つことにして、この直後の彼らの動向を、ちょっと覗いてみよう。

「……今の、何だったんだ?」

「……さあ、な。リーダー、意見を」

「……以前、四天王だったミリリガン様に率いられた時の話しなのだが、一度だけ、本当に一度だけ聞いたことがある。シャルベスター様の拷問部屋の話しを」

「「「「ッ!」」」」

 シャルベスターの拷問部屋、とは。

 シャルベスターという存在の扱いがニンジャのようなものとは言ったが、方向性としてはアイエエエエ! とかぶっ飛んだ方向だけではなく、もっと現実的な仕事の内容も一部では語られていたんだってばよ。

 ニンジャ(というか忍者)の仕事は、本来はアクティブな諜報員、スパイのようなものである。むしろ彼らが捕まったりして拷問される側なのではないかと疑問を持つかもしれないが、汚れ仕事は汚れに任せるというのが世の常。情報戦のため結果的に、彼らが拷問をする当事者にされることも少なくはなかったろう。

 むしろ拷問の訓練を受けている以上、拷問については知り尽くしていると見て良いかもしれない。

 良い選手がよい監督になるかは別だが、一方で良い選手が良い監督になる例もあるという話だ。

 さて、そんなシャルベスター達(?)の名を冠する拷問部屋である。

 曲がりなりにも「竜王」直轄だった情報部の、拷問部屋である。

 これの意味するところは、語らずとも仲間の冒険者一同を震え上がらせた。

「……ひょっとしてだがなぁ、ここは、その拷問部屋に類する施設なんじゃないのか?」

「いや、でも部屋って感じじゃ……」「結果は酷いもんだけどなぁ」「リーダーの言うことも一理あると思う」

 五人の会話は、割と理性的な方向で話しをしていたかもしれない。

 ある一人を除いては、という但し書きがつくが。

「……どうした? リック」

 ハーフトロールたるリックは、先ほどから黙っているばかり。

 五人の中で一番地力の強い男の様子に、残り全員が注目する。

 彼は突然立ち上がり――。


「もういやだあああああああああああああああああああッ! 逃げたああああああああいッ!」


 子供のように絶叫をした。

「……お、おい、落ち着けッ」

「逃げたい! 逃げたい! もうこんなところいたくない! 逃走したい! というか壊したい! そうだこわそう! 今すぐこわそう!」

「り、リーダー、駄目だ話し聞いちゃいない」

 軽く錯乱状態のリック。ゴブリン三人に獣人一人では、どうしがみついてもその行動を振りほどけるはずがない。

 かくして、目の血走ったリックは、ジェットコースターのレールに魔法で強化した肉体を使って突進する。

 並のダンジョンなら、これで壁に罅が入る威力である。ただの鉄にしか思えない(乗る直前、触ったり叩いたりした)レールなど、ひとたまりもないだろう。

 そう高をくくっていたのが間違いだった。

「いってぇええええええええぇぇッ!」

 こういう予想は往々にして外れるというのがセオリーなのだが、残念ながらリックは読書嫌いであった。

「だ、大丈夫かリック……大丈夫そうだな」

「いや、痛いですよリーダーッ!」

 右肩を押さえて転がるリックだったが、見た目、打撲も骨折も内出血も、かすり傷一つない。

 これが、ダンジョン特性の一つ「非破壊物質」。

 名前の通り、破壊することのできない物質だ。

 通常のダンジョンでは、厳重に何かを管理するための部屋くらいにしか使われない物質だ。普通、施設内で危険な目にあった際、脱出するための最終手段(ダンジョンの壁破壊など)のことを考えて、この物質は使われない。逆に言えば、壊されたりすると困るものに使われる。ダンジョン外部に持ち出しが出来ない物質でもあり、まさにこの空間における絶対強度を誇る物質でもあった。

 その物質の特性は、ただひとつ。「物理的な破壊の消失」である。

 よってその破壊力を消滅させられたため、リックの体にも被害は出ていないのだ。

 彼の体に痛みが走っているのは、別な理由である。


『==エマージェンシー! エマージェンシー!==』


 どこからともなく鳴り響く警報。聞きなれないサイレンの音に、男達は唖然とする。

「お、おい、リックお前、何やったんだ?」

「し、知らなねぇよ……、もう……」

 ちなみにここの入り口には「手引書」と書かれた園内マップ、そしていくつかの注意事項が設置してあったのだが、ダンジョン内でそんなものを配布しているわけがないと考えた五人は一人も手に取らなかったのだ。

 それが、文字通り災いした。

 禁止事項の一つに、アトラクションを破壊しようとする行為も含まれていたのである。


 そして、彼らは戦慄した。

 自分達の背後に現れた、謎の魔力の圧に。

 それはまるで、全身を串刺しにされたかのような。

 百数十の獣に、肉という肉を抉り取られたかのような。

 あまりにも理不尽な、あまりにも不条理なほどの魔力の圧。

 エミリーの放ったそれとは、比較にならないほどの――――――!

「こ、これは、竜王様……?」

 遠目ではあるが唯一竜王の姿を見たことのあるリーダーが、戦慄しながらも後ろを振り向く。

 一目見て、更に彼は目を見開く。


 そこに居たのは、非常に形容が難しいものであった。

 竜の頭――東洋のとも西洋のとも言いにくいデザイン。そこには、ライオンのような鬣が追加されている。魔角は竜らしく力強いもので、口は大きく開けられている。今にもその奥から炎が飛び出てきそうな、そんな迫力が、本来はあるかもしれない。

 だが、その頭はどうしようもなくデフォルメされていた。

 かっこいいというより、可愛いとか、間抜けだとか言われそうである。

 頭だけではない。その頭のくっ付いている肉体も、和服っぽい格好をしているが、極端にずんぐりむっくりしている。体のバランス比だけで言えば、子供のそれだ。

 だがしかし、それは大きかった。

 文字通り、リックの頭よりちょっと大きいくらいに。

 絵で見てしまえば、ゆるキャラとかキグルミとか言われてしまいそうだ。しかしここは異世界。当然のように、ある程度高度な加工技術をもって作られたキグルミや、そんなものがダンジョンに居るという道理はない。

 しかも、全身から異様な力を放っている。

 男達の恐怖心が、その姿で取り除かれるわけはない。現代の感覚でいえば「キグルミの登場に恐怖を抱き、腰を抜かす大人の男五人」という絵面はあまりに酷いものがあったが、そのことに気付いて笑うのは、この場においてエースくらいなもので放っておこう。

 もっとも、そのエースが一番、彼らが恐怖する理由を知っている一人なのだが。

『…………』

 竜王の気配を放つそのニコニコした目のキグルミ――胸元にゼッケンで「りゅーおーくん」と書かれているが、それは自分の右腕を口の中に突っ込んだ。運がよければテーマパークとかで、口をあけているマスコットを相手に拝めるかもしれない夢のような(夢をぶち壊す)光景であるが、ここにおいてそれは、男達の恐怖心を煽る以外のなにものでもない光景だった。

 がさごそとしばらくいじると、「りゅーおーくん」はその中から、明らかに口のサイズとあっていないフリップを取り出した。


『アトラクション こわす だめ ぜったい』


 そんなことの書かれたフリップに対して、男達は反射的に首肯した。

 その反応を見て納得すると、「りゅーおーくん」の持つフリップの文字が、一瞬にして切り替わる。


『でぐち あなた ついてくる 、 おみやげ あげる』


 ダンジョン攻略に来た彼らからすれば、あんまりにもあんまりな……まあ、そこはもう今更すぎるか。

 ちなみに彼らが得たものは、「りゅーおーらんど一年間フリーパス」。

 竜王の魔力と同質のそれを漂わせる謎の紙切れを、彼らはなぜか捨てることが出来なかった。

 報酬としてはあまりにもあんまりだったが、将来的にそれがとんでもない価値を持つことになるとは、今のところ彼らは知る良しもない。


『また きて』


「「「「「……」」」」」

 当分は飲酒を控えようと、一同、心に誓うばかりだった。


エース「さ、じゃあみんなも一緒に乗ってみようか!」

エミリー&ケティ「「・・・へっ?」」


いよいよ次で一章終了。一週間以内に投稿できると幸いです。

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