一章二十話:問答のごときカルチャーギャップ
“Imagine, It's easy if you try “、ただし諸刃の剣みたいなっ!
この作品はフィクションであり、実在の人物・団体・事件および遊園地などとは一切関係ありません。
「……どうしてこうなった、であります。魔王様」
「ノンノン、この『支配人』の腕章をつけてるときは、支配人とお呼びなさぁい。あと、これが今できる精一杯かな。どうだ笑え」
はっはっは、と笑うエースに、エミリーは引きつった笑みを浮かべた。
さて。
細かい説明なんざ ぱぱっと省いて、エミリーから半ば命令される形でエースが作ったダンジョンである。場所は竜王城から離れて、シャルパン付近のとある山。
ダンジョンスイッチのきちんとした動作確認もかねて、エースとエミリーは山の樹林、日本で言う富士の樹海的な扱いの場所に来ていた。
せっかくなら、ということで、エースが作ったダンジョンをミニ試行ではなく、ちゃんとしたサイズで動かしてみた結果。
木々が生茂る中、突如として現れたその白いアーチ。その綺麗なデザインは、向こうにダンジョンがあると思わせない。というか見た目だけならアーチ扉以外の物体はそこに存在していないのだが、その扉の向こうは無論、彼の作り出した亜空間が存在している。
それは、まあいい。普通のダンジョンは、亜空間に中身があるということ自体、そもそもそこにダンジョンがあるということ自体分かり難いため、実際に別な建物(あるいは遺跡)とダンジョンをリンクさせ、あたかもその建物こそがダンジョンであるかのように見せているにすぎない。だから、外から見て扉だけが存在していることは、幼い頃から父親のダンジョン作りを間近で見てきた彼女からすれば、別に、大したことではない。
たとえ、そのアーチ丈の扉の上部にポップな字体で何やら変な言葉が書かれた看板が掲げられていても、疑問を挟む必要はなかった。……いや、筆者的には既に色々ツッコミを入れたいところではあるが、エミリーは気にしていないらしい。
だがそれは、ゲートを潜り抜けた際に誤りであったと痛感させられた。
「……どうしてこうなった、であります」
施設をざっと観回った後、彼女が口走った一言がこれである。
「この地図でいうと、えー、この巨大なティーカップが描かれている場所は――」
「『コーヒーカップ』だね!」
「……はい? この、柱に括り付けれられている巨大な船――」
「『バイキング』だね!」
「……? この、池に直結しているトロッコみたいな――」
「『ウォータースライダー』だね!」
「……この建も――」
「『ホラーハウス』だ――」
「申し訳ありません、こちらに分かる言語で話してください、でございます」
母国語でない言語の学習方法に学ぶ言語だけで授業をするというものがあるが、流石にこれは、あんまりにもあんまりであった。該当語のない名詞を、説明なくそのまま言うんじゃありません。
最も魔族たちですら、大半がエスメラ語を話している世の中である。エミリーのリアクションは、この世界の大半のヒトが賛同できる意見であったことだろう。
もちろん日本語(カタカナ語?)の名称を話したところで、意味が通じないことくらいはエースもわかっている。仮にもここはフォースメラ大陸。日本列島ではないし、言語もエスメラ語であって日本語ではない。エミリーに「どういうことだってばよ? でございます」と返されるのは、至極当然の流れであった。
だから、彼はにっこにっこ笑いながら説明をする。
「コーヒーカップはねぇ、座った客の――」
「ストップ! でございます。客? えっと、客とは――」
「コーヒーカップは、」エース、エミリーをガン無視である。
「座った客に遠心力を味わわせる遊具だぜぃ! 基本的に乗っているだけでも回転するにはするけど、その真価は乗っている人間が中央のテーブルを回転させることにああぁる! それによって、通常の倍以上の回転速度をたたき出したり、また同時に逆方向への回転を可能としているッ! バイキングは両端についている柱と、上についている軸を中心に――」
エースがエミリーを洗脳するかのごとき勢いで、自分の作成したダンジョンの中身について無駄にハイテンションな説明を繰り広げる描写は、筆者の精神も病んでしまいそうなので、さらっと割愛させていただく。
ただ時間にしてわずか三分弱であっても、巨竜である彼女の精神を疲弊させるだけの破壊力を誇ったコトダマであったことは、ここに記しておこう。
地面に手と膝をつきながら、色々とキャパオーバー気味なエミリー。
そんな彼女に、エースは更にハイテンションに語る。
「で、で、で、この周囲一帯に張り巡らされているレールなんだけどッ! これが――」
「一旦やめていただけると、ありがたい、でございます」
「俺の記憶の中にあった最っ強クラスの高さと長さを更新した「……というか止めて! ちょっと止めてもう止めて! やめてって言ってるんだから話しを遮られても解説続けないでッ!」
奥さん、エミリーちゃんの素が出てますよ、素が。
ごろごろと耳を塞いで地面を転がる彼女。エプロンドレスが土埃でよごれるのも気になっていないところを見るに、かなり重症であるらしい。
プロローグに続いて、拷問のごときカルチャーショックである。
救いがあるとすれば、彼女はどのダンジョン施設……、もといどのアトラクションにも乗っていないことだろう。
もはや取り繕う必要もない(というか描写的には最初から取り繕っていない)が、エースの作ったダンジョンは、ずばり、遊園地に他ならない。
遊園地である。
なんで遊園地なのかと言えば……もはやあまり多くを語るまい。ダンジョンモンスターが作れないとなると、必然、設備や道具だけしかいじれるものがない。そうなった時に、彼は天啓を得た。
『ジェットコースターとか作れたりしないかなぁ……』
その結果がこれである。
明らかに、やりすぎであった。
まだ塗装だとかテーマパークのようにキャラクターの絵だと描かれていないが、間違いなく出来上がったものは遊園地だった。軽い気持ちで試して、実際に出来ちゃったという話だ。無駄に完成度の高い素人は探せば結構いるものだが、そういうのに技術と時間を与えると、とんでもないものが出来上がる典型例である。
しかも何がアレかと言えば、この遊園地、当たり前のように誰もいないのだ。無人であるにもかかわらず、アトラクションだけはきちんと動くという仕様が、なんともいえない寂寥感と恐怖心をこちらに植えつけてくる。
いや、そんなことはどうでもいい。
エミリーが何故こんな風に地面を転げまわっているかと言えば、もちろんエースの無駄に熱のこもった解説が、彼女のデフォルトのメンタルからして拷問のごとき威力を誇っていたというのも理由の一つだが。
一番の理由は――そもそも、アトラクションについてである。
さとい読者の皆様は、もうお気づきだろう。
Q.ファンタジーの世界に遊園地が出来たら?
A.た だ の 拷 問 施 設。
我々の文化は、基本的に科学技術が前提で成り立っている。
特に大人にもなれば、当然それが価値観や判断基準の基盤になっているはずだ。
だからこそ分厚いカードみたいな物体から人間の声がしたり、まるで現実を切り取ったかのような絵がその装置で作られたとしても、なんら不思議を抱くことはない。空を飛んでも海を渡っても、陸路を高速で駆け巡っても同じである。
では、それがない人々からしたら、一体それはどう映ることか。
魔法は、程度の差こそあれ起きうる現象を術者が想定できるような技術である。
高速移動一つとっても、それによって加わる肉体負荷などは、本人にとってならまあ高が知れている。
ところが、そんな世界にコーヒーカップとかジェットコースターである。
既知の理解と知識を超えた、脅威以外の何ものでもない。
「……お父様、私、泣いてもいいよね?」
ましてや異世界の装置の解説を聞くのは、教養満点、想像力豊富な少女なのである。聞かされた解説をもとに脳内でくみ上げられたイメージは、さぞかし酷いものだろう。
「――だから! それを……って、何で泣いてるの。大丈夫?」
しかも何が酷いって、解説してる張本人、自分の言葉が芝刈り機みたいに彼女の心臓の毛を刈り取っていることに対して、全くの無自覚なのだ。
だって、彼からすれば遊園地は遊園地なのだから。
転生しても忘れることのなかった、ちょっとした心残りでしかないのだから。
まあそうは言っても、明らかに様子がおかしなエミリーの姿に、久々(おそらく生まれてこのかた国王と最初に読書歴について語り合ったとき以来)のハイテンションっぷりを、なんとか押さえ込んだ。
「……体調不良か。だったら、試運転がてら全アトラクション制覇とかは無理そうかな?」
びくっと震えたエミリーを攻められるものは、誰も居ないことだろう。
彼女からすれば分からない単語が多少はあったものの、下手すれば酷い目にあっていたことだけは確定的に明らかだったのだから。
話しを止めたエースが手を差し伸べると、表情は無表情に戻っていたものの、震えながら手を掴んだエミリーであった。
「で、どう? このダンジョン」
「加虐趣味は魔王様の方だったということが理解できた、でございます」
「支配人と呼びなさいって言ってるじゃん。……て、ちょ、どういうことだし! さっき言ったじゃん、これ全部遊具だっての! ゆ、う、ぐ!」
訝しげな目で、ダンジョンの全域を見回すエミリー。「……正直、ここまで予想の斜め上を飛びこして来たのは、衝撃だったでございます。なるほど確かに、こういう罠だらけの施設ならば、罠に挑むこと自体が目的の施設とするならば、モンスターが居なくても問題ないかもしれないでございます。でも、クリア条件とかが全く理解できないのでございますが……」
「ないよ?」
「…………………………は?」
「だから、クリア条件なんてないよ。遊園地だもの」
時が止まってしまったように静止したエミリーに、エースはさも当然のように言った。
「遊園地ってのはね、娯楽施設なのさ。様々な高等技術を盛り込んだ遊具が点在する、色んな人の笑顔を作り出すための――そのために、全身全霊を込めてこしらえられた、夢の国なんだよ!」
一体お前はどこの業者の回し者だ。
影ながらツッコミを入れる筆者だったが、無論二人には聞こえているはずもない。
「本当だったら、従業員雇ったり、イメージキャラクターとか作ったり……いや、今作ってるかそれは、まあそのキャラクターに施設内を歩き回らせたり、売店出したり、食事できるようにしたり、パレードしたり、イベント開催したり、ヒーローショーやったり、あとは……、ああもう、とにかく、そういう場所なんだハハッ!」
「……ちょっと何言ってるか分からない、でございます」
ぐらんぐらん上半身を前後に揺らすエミリー。キャパオーバーであるにも拘らず気絶したりしないだけ、多少はさっきの状態から回復できているようだった。
そして数十秒の間をおいて、ようやく彼女は口に出来た。
「…………つまり、このダンジョンの目的は?」
「娯楽さ☆」
言いながら変身でもしそうな感じに、変なポーズをするエースであった。
「…………これの、どこが、娯楽で、ございますかッ!」
そして、言わずにはいられなかっただろうエミリーの怒鳴り声であった。
全身から魔力を放出して「圧」をかけてきているあたり、本気の威嚇である。
だが、エースは全く怯まない。どころか、押さえ込んでいたテンションが復活したらしい。
「いや、娯楽だ! 確かにエミリーの反応を見る限り、今すぐ受け入れられる文化ではないとは思うけど! でも、慣れればなんとかなる! リピーターがつく! そして入場料と施設の売上げで固定収入も入る!」
「意味がわからないでございますッ!」
状況は混迷を極める。
あと最後、ものすごく不純な動機だった。
エミリーの叫びに対して、エースはにやにや笑うばかり。
「ふっふっふ、そんなビビリのエミリーちゃんには、こんな言葉を教えてあげよう」
「誰がビビリでございますか、誰が。……何でございます?」
そして、エースはまるで賢者の古老が道迷える若者に新たな光を指し示すかのごとく、荘厳な雰囲気を作った。
「『恐怖を乗り越えたなら――後に待つのは幸せだけである』」
「……魔族に対して、エスメラ聖書から引用するな、でございます」
もう何を言ったって無駄だと、エミリーは頭を左右に振った。
ちなみにエースの作った遊園地は、非破壊物質以外で構築すると実に七割のアトラクションがぶっ壊れます(搭乗者含む)。
次回は一週間以内に投稿できると嬉しいです・・・が、ちょっと遅れるかもです(二章なかなか書き進まない・・・)




