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一章十七話:さりとて深謀遠慮優柔不断は時に美徳(後)

※カノンと戦った後、アスターとレオウルはきちんと試練を突破しています。

 

 

「竜王の後継者、じゃと?」

 軍務大臣が伝えた情報は、瞬く間に王城、ひいては周辺貴族の下へと伝播した。

 さて、軍務大臣が何をやっていたのか詳しい話は一章八話をご参照あれってことにして、彼が王国にどう証言したか。その情報を、整理して記述することにしよう。

 勇者と吟遊詩人が殺された当日――つまりは祭りの夜だが、憲兵が以前、竜王が殺されてから蛇人間の動きが少し不審だと話していたのを思い出した。竜王殺しを祝う宴なのだ、もしかしたら蛇人間の動きが起こるやも知れない。そう考えた軍務大臣は、祝いでほとんど出払っていた軍隊を率いず、一人で王都周辺を軽く警戒した。

 そしたら、案の定予想が当たった。

 蛇人間の魔術師が、王城周辺で何かことを起そうとしていた。それを大臣は妨害した。その後、逃げる蛇人間を馬で追いかけ、早数日。

 ここまでの筋書きは、実は以前の八人が話していた会議で決定されていたあらすじだった。この後、蛇人間に逃げられたと言い、そのまますぐ王都へ引き返してくれば、計画通りの動きということになったはずなのだ。若干、大臣と言う割りにはフットワークが軽すぎる気もしないではないが、この国一番の剣士であり、数々の独断専行で国の転覆を防いできた彼のことだ。今更誰も、どうこう言いはしなかった。

 それが狂ったのは、果たしてどのタイミングだったか。

 逃走しながら魔術を撃ってくる蛇人間。それと戦う軍務大臣。

 そんな彼らの攻防において、天空から飛来する巨大な竜が居た。

 その竜こそ、竜王の後継者を名乗る竜だった。

 竜は、軍務大臣に攻撃することはなかった。

 しかし、その登場は森を焼き、周囲の環境を変貌させた。

 両者が乗っていた馬は、恐怖のあまり森へと駆け出した。

 戦うには不利な状況の軍務大臣。そんな彼に、蛇人間は呪いをかけた。

 その呪いに膝を付き――結果、彼は蛇人間を取り逃がした。

 再び空へと飛び去る、竜王の後継者。

 去り際、蛇人間はこう言った。

『いずれ我等が新たな統率者が、王国に災厄を齎すだろう』と。

 事実は当然、色々違う。

 勇者の死体をエミリーが引き受けた後、両者は両者で色々困った。蛇人間の青年は、故郷に憎き勇者の死体を運ばなければならず、軍務大臣とて、竜王の血族、後継者が現れたという事実を黙っていられるわけはない。

 そこで両者は、話しを合わせたのだ。

 蛇人間の青年は、大臣に弱い呪いをかける。周囲一帯、見える範囲は竜の息吹で焼かれていたので特に何もしていないが、あとは、馬を蛇人間の青年が回収すればよいだけだった。もともと、二人が乗っていた馬は蛇人間の集落で飼育していた馬である。無事に死体を送り届けた後、竜王城から強奪していた「転移結晶」という道具を使い、戻ってくる算段だった。だが話し合わせの結果、それをすることが叶わなくなる。弱いといっても呪いは呪い。解呪に魔力をとられた軍務大臣は、結晶を使うことができなかったのだ。


 さて、そんな裏事情を知らない王様と、色々聞き及んで対策を練っている法務大臣である。

「何とも難しい話しじゃなあ。どうしたものかのぅ」

 国王の言葉に、法務大臣は即座に答えた。

「新たな勇者を選出されては?」

「……聖剣の所在も分からぬのに、か?」

「どうとでもなりましょう。なに、聖剣などなくとも、我等が国の勇者は強い。エース殿もお強かったですが、それ以上に強い人間とて、居ないわけではないでしょう?」

「理屈の上では、そうかもの。あやつとて、武術を極めていたわけではないからな」

 言いながら、国王はガリガリの顔で好々爺然とした法務大臣を見る。

 薄く微笑む大臣を一瞥し、こめかみをコンコンと指先でたたく。

「何か足りない気がするが、仕方ない。よかろう、ならばやってみせよ」

「かしこまりました。……な~に、いつもの国王が振る無茶に比べれば、たやすい、たやすい」

「……わし、そんなに無茶を任せてる覚えはないんじゃが」

「ご自身の胸に手を当ててみてはいかがかと。私や財務大臣が悲鳴を上げておられます」

「あー、あー、聞こえん聞こえん!」

 エースほどではないが、法務大臣と国王も、軽口が交わせるくらいには仲が良いのだった。


 そして、法務大臣が打ち出したものが一つ。

 次の勇者の選定のために、試験を行うと言ったのだ。

 おおわく、竜王の後継者が本当に現れたこと以外は、当初の計画通りの動きである。

 試験の内容は「吟遊詩人の日記帳」に書かれた、エースの武勇伝を簡略化したもの。

 国王がエースに言った通り、一応「記録媒体」としての機能もきちんと備わっているのだった。

 そして、集められた人々。平民が大人百名子供二十名。貴族が大人三十名、子供十名。

 それぞれ軍務大臣が一人ひとりの適正を見て、出来る限り素早く集めた人々だ。

 そんな中に、アスターも居た。

 そして三日後、試練の結果が出る。



※   ※    ※    ※



「全く、お前も物好きだな。何を好き好んでそんな、下賎な服を着ているのか」

「いえいえ、あまり値の張る服を普段から着用していては、いつ襲われるかもわかりませぬ。襲われれば、いくら高級な服と言えど、ひとたまりもありますまい。我等の生活が領民の血税で賄われている以上、そんな無駄遣いになりかねないことをしては、示しがつかないと僕は思います」

「私からすれば、我等はその身分を領民の税で誇示してこそ、その力を現すことができると考えているのだがな……。嘆かわしい。それでは、他の領主やその子息に安くみられるぞ?」

「それこそ、ご自由にといったところでございます。僕は、その身の清さを、その心根の正しさを、お父様、お母様、そして聖女エスメラ様が知っておられます。なればこそ僕があり、僕の魂があるのでございます。歯牙にもかける必要もない程度の瑣末な事柄など、無視いたしましょう」

「全く、口ばかり回るようになりおって……。お主も来年で成人じゃし、そろそろ一人前というところか」

「いえいえ。まだまだ僕も、お父様のような先達には遠く及びませぬ」

 さあ、ここである意味、衝撃の事実である。

 例のボロい格好で王宮の一室に居るのはアスターに他ならないが、そのアスターに慈愛の目を向けている巨体は、もう、間違いなく、教育大臣だった。

「まあ、今日からお前も勇者だ。私としては誇り高い。……だからこそ、その身が我等『リックス』の家を背負っていることを忘れるでないぞ?」

「ええ。『その身を、一つの剣たれ』、でございますね」

 丁度その会話の後、扉がノックされる。「では、行ってきます。――お父様」

 アスターがメイドの後に続いて部屋を出る。それを見守る父親の目は、エースの顔面を粉々に蹴り砕いた男のものではない。ただの、一人の親バカの顔だった。


 謁見の間へ向かう途中、アスターはカノンとの会話を思い出す。

 剣の腕がどれほど上達したか、その試練もかねて襲い掛かってきた女性。

 久々に会った女剣士――勇者ともども、自分に剣術の稽古をつけてくれた片割れである彼女は、神妙な顔でこう言った。

『注意しろ』

『何を注意しろというのですか?』

『きな臭い。エースとセイラが殺されてからの、王城内の動きがどうも手回しが良すぎる気がする』

 カノン自身、王城の中にはいないものの、時折瓦版を見て情報収集をしていたらしい。その内容を見た範囲で、何かこう、言い知れぬ気持ち悪さを感じたとのことだ。

『もちろん、勘ではないですよね?』

『当たり前だ。……詳細は語れない。でも、竜王はエースに呪いをかけてはいない』

 痛恨のミスをした、といった表情で語るカノン。左腕のグローブ、そこに埋め込まれているように見える魔法石をなでながら、彼女は下唇をかんだ。

 当日、彼女は肝心な時に酔いつぶれてエースと一緒に居なかったのだ。その結果、引き起こされた事件に感じているのだろう。

 自分が居れば回避できたかもしれない事件。

 愛するものを守れなかったその心中は、察して余りあるものだった。

 それと同時に、彼女は少なからず「竜王」と「勇者」の本当の関係性を知っている。だからこそ、死後に竜王がエースを害する呪いをかけるはずがないことも知っているのだった。

 だがしかし、彼女はその詳細を語らなかった。

『エースが殺された後、セイラの精霊化の前に、私も襲われたからな』

『……誰に、ですか?』

『流れの暗殺集団か、はたまたどこぞの貴族直轄の部隊か何かか……。全員、そこで転がっている剛剣士と同じような処置をして逃げたが、そのことについて、何一つ王城は触れていないだろ?』

 確かに、その通りである。

 というか、そんな話、影もかすみも出てきていない。

『だから注意しろ。何か、別な思惑が動いている気がする』

『わかりました。……そういえば、こう言っては変ですけど、カノンさん、あだ討ちとかはしないのですね。前に話しを聞いたときには、怒り狂いそうなものだったのに。本当の仇なのか、怪しくても、疑わしければ』

『死んでないからな』

『……え?』

『ほら、これを見ろ』

 カノンが、髪に隠れていた左耳を見せる。そこには、黒と白の宝石が埋め込まれたイヤリングがつけられてた。

『これは、エースと私の魔力で作った宝石のイヤリングだ。エースも同じものを持っている』

 ちなみにエースは「耳が鬱陶しい」といって、持ってはいるけどつけていない。

『どちらかに何かあれば、これが破損する仕掛けになっているらしい。でも、今のところこれは無傷だ。だから、何かに巻き込まれて瀕死にはなったのかもしれないが、エースは死んでいない。私は、そう考える』

 ちなみにロマンチズムもへったくれもない事実を記述すると、このイヤリングを作った張本人は、一章二話で存在だけ匂わされている錬金術師である。

 そして彼が作ったそのイヤリングは、カノンが思っているような魔法道具ではなく、要するにエンゲージリングめいた何かだ。記念品のようなものであり、死が二人を別つまでとか、そういう験担ぎがあるだけなのだった。

 この場合、乙女カノンを騙した錬金術師の商売上手さを批難すべきか、はたまたそのお陰で王国が守られた事実を讃えるべきか。

 結局、国の外れの魔境で当のエース本人は現在ぴんぴんしているので、それを考えるのは詮のない話であろう。

 もっとも、そんなことをカノンもアスターも知りえないのだが。

「おう、アスター」

「……あ、レオウルさん」

 謁見の間、扉の前で待機させられるアスターだったが、背後から、同様につれてこられたレオウルが声を掛けた。

「先日は、どうもありがとうございました」

「よせいやい。……あの剣士のねーちゃんに勝てなかったわけだし」

「いえいえ、えっと、その後、きっちり試練のクリアにも協力してくださいましたし。術式で作られたスモールゴブリンを、千切っては投げ千切っては投げ」

「そうは言うがな。結局、あのねーちゃんがもしお前の師匠じゃなかったら。もし、魔族の刺客か何かだったら。結局、あの場で倒したのはお前だ」

「……だから、辞退したんですか?」

「……さあな。でもそれに、俺よりはお前の方が、性格的に勇者って柄だろ?」

 無言になるアスターの背を叩き、レオウルは小声で笑う。

「お前は、たしかにまだ俺より弱い。あのねーちゃんも、手加減していただろうしな。でも、それでもお前は伸びる。闘技場で幾千、幾万の戦士を見た俺が言うんだ。自信持て!」

 レオウルの言葉にアスターが何か言おうとすると、内側から彼らの名前が呼ばれる。

「……行きましょう」「おう」

 謁見の間、王座には国王が座っていた。

 やせ細ったその体躯からは、王女がさらわれる以前の威厳が感じられない。ただ、そんな王であってもまなざしは変わらず強く、両者はその目の前で膝を付く。

「手身近に済ませよう。アスター・リックス。ただいまより、お主はエース・バイナリーの後を継ぎ、新たなる勇者となった。剣闘士レオウルは、本人の希望でお主と共に旅をしてもらう。よいな?」

「「はっ」」

「ついては、わが娘から剣を受け取れ。聖剣までとはいかずとも、それなりの力を持つ武器に違いはない。……出来ることなれば、おぬしがその力を正しく使えることを願っておるぞ」

 再度、深く頭を下げるアスター。

 そして、王と彼らの間に、一人の少女が現れる。

「勇者アスター。顔を、上げてください」

 言葉に従い、アスターは顔を上げる。

 年はアスターより一つ下の十三歳。

 美しい金髪と、森に愛された深い緑の瞳。

 芯の強さと、心根の清らかさを感じられる優しいまなざし。

 質素なドレスを纏う身から漂う気品は、アスターの記憶にあるエリザベート王女に相違ない。

「お変わりありませんね。以前と」

「……」

「気は使わなくて宜しいのです。なにせ、私は貴方をフった女なのです。その上、自分の復讐に貴方を利用しようとしているのですから」

 アスターを見つめる目には、優しさや自嘲と共に、何か、力強さのようなものがあった。

「そう。復讐です。私は――私の愛すべき友達と、愛しい憧れの君を失いました。私をかどわかした者の、最後の力によって」

「……」

「その後継者が居るのだとすれば。我等に牙を向くその者がいるのだとすれば――私は、剣を持ち戦いに向かいたいのです。しかし、残念ながらこの身は、それを許された立場ではありません」

「……」

「一介の小娘の言葉です。お忘れになってくださっても宜しいです。しかし……。もし、貴方がわずかばかりでも未だ私のことを愛してくださっているのなら。僅かばかりでも私がそれに縋って良いのなら――私に、力を、お貸しください」

 アスターは、思考する。

 カノンからは、エースが生きているかもしれないことについて口止めされている。王城における不穏な動きが、その情報により大きく変動するかもしれないからだ。

 だからこそ、彼は何も言わない。

 カノンの言葉の真実も追求しない。

 そして、エリザベートにも語らない。

 そして受け取った剣を持ち、立ち上がる。

 周囲の衛兵がざっと動き、アスターに刃を向けようとした。しかし、それに意味はなかった。

 アスター・リックス――新たなる勇者アスターは、その剣を天に掲げ、王女に背を向けた。

「この身に貴女が望むのならば――僕は、只一つの剣でありましょう」

 その一言に、少年の動きを警戒していた兵士達が刃を下ろした。同時に、小さな拍手が起こる。やがてそれは大きなうねりとなり、謁見の間を埋め尽くす響となった。

 そしてそれを聞きながら、法務大臣は満足げに頷いた。


 時は進む。

 こうして、二代目勇者の宣誓はなされた。

 竜王の後継者の存在と共に、その情報は王国を駆け巡る。

 そして、やがて来るべき魔族との決戦を、王国の民は覚悟するのだった。


 だが、そんな未来は起こりえないのだと、この時は誰も知る良しもない。

 王城の何処かでアスターの宣誓を聞いていた、()()()()()()()()でさえ、その事実に思い至ることはなかったのだ。



錬金術師のオッチャン、マジ英雄。ちなみにレオウルとカノンは、試合ならレオウルが僅差で勝ち、殺し合いならカノンが圧勝です。武器や状況、相性で結果が変わる感じです。


次回は一週間以内に投稿できると安心、でございます。

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