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一章十六話:さりとて深謀遠慮優柔不断は時に美徳(中)

エミリー「従者に四月馬鹿などない! でございます」

 

 

「えっと、レシピ本とかはここの写本屋で売っていると思います。市場はさっき話した通り。……王都は初めてですね。区画が直線的に整理されているので、ちょっと迷うとなかなか目的地にたどり着けないと思います。なので、充分注意してください」

「かたじけない、でございます」

 頭を深々下げる少女(どこか別な地域の領主仕えなメイドだろうと彼は判断した)に、少年は「いえいえ」と、爽やかに手をふって別れた。

 人で賑わう大通りから再び離れると、少年は再び、荒っぽそうなエリアに突入する。

 しばらく歩いていると、今度は目当ての人物を見つけることが出来た。

「……何をやってるんですか、レオウルさん」

「おう、来たなアスター、よくぞ見つけてくれた!」

 レオウル……前章の男達の言葉を借りるなら「何その化け物」な大男は、噴水の手前で水浴びをしていた。

 一家に一台、風呂を設置することができないこの国ではあったが、魔法道具関連の技術発展により、半永続的に水を精製させつづける術式が存在している。そのため、水のみ場の他に、こうして身を清めるための場も用意されていた。

 もっとも利用する大半は子供であり、大人は銭湯のような施設に行くのだが。

 だが、この半裸の大男の前では、そんな常識無意味らしい。

「いや~、ついさっき馬車に跳ねられてな! そのまま服が引っかかって引きずられて、気が付いたら知らない場所だし、服を弁償してくれるっていうからもらったは良いものの、方向音痴だから探しに行こうとも思えなくてな! で、少なくとも上半身が泥とかで酷い有様だったから、洗っていたところだ! お前もどうだ!」

「既に色々と流すに流せないような滅茶苦茶な話が飛び交っていますけど……、えっと、まあ方向音痴の自覚があるだけで、もう結構です」

 まるで「王子珍道中」の王子のようなトラブルメーカー具合と、本当に人間か疑わしほどの耐久力だと少年は嘆息した。

 筋肉もりもりマッチョメンの変態じみた筋肉が濡れる行水シーンを描写する趣味は、残念ながら(?)筆者にないので、とりあえず詳細はさらっと流す。

 ただし前述の通りの筋肉に、身長約二メートル、強面ではないものの威圧感のようなものを覚える濃い顔、何故か施されているそこそこ長めのツインテールの彼は、この荒くれ者が集っているだろう番地においても、ひたすらに異様で不気味だった。

 少年にせかされたわけではないが、そそくさと体を乾かし身支度を終える。

 歩き出す二人を、周囲はなんともいえない目で見ていた。

 こうして見ると、男は剣闘士(グラディエイター)らしく皮鎧姿である。鎧の下に着込んでいた布は、使い込まれたアーマーの色に反して妙に純白 (やや桃色がかっている?)で、非常に浮いていた。

 いや、もうはっきり言おう。本人に自覚はないのかもしれないが、不条理なまでに目立つ。

 レオウルとは、とにかく、一度見たら忘れられないインパクトを持っている男なのであった。

 そんな男の姿に頭を悩ませながらも少し眉間をつまみ、少年は思考を切り替えた。

「……えっと、僕の依頼、覚えていますよね? ちゃんと」

「おおとも! 『山の中腹に安置されている、マンドレイクの紋章をとってこい』だったな!」

「『僕と一緒に』が抜けていますよ。……だからその、あんまり時間をかけると拙いんですが」

「な~に、心配いらんさ! 焦ったって何にもならん、冷静になれ!」

「貴方に言われると、何故かこう、納得できない何かがあるのですが……」

「じゃあ、もっと現実的な話をするか? ……お前に与えられたその試練は、仲間をつのって協力することを除外していなかったこともあるが、早い者勝ちみたいな、時間制限だって付けられていなかっただろう?」

「まあ、それでも三日以内とは言われてますけど……」

「そこで考えろ? 何故三日なのか。そして三日も必要な試験に見えないのに、何故そう設定されてるのかということを」

「……? 他の人たちだと、特に貴族の子とかですが、僕みたいにすぐとりかかれない人が多いからじゃないですか? 大体は、こう、軍資金を集めたり――」

「いやいや、そうじゃないだろうよ。出題者は誰だったか……、法務大臣か? あの男だったら、そんな甘えた発想は斬り捨てて考えるに決まってる」

「甘えたって……」

「限られた時間できちんと条件をそろえるのも、“勇者の資質”ってやるだろ。ま、そういうわけだ。お前の装備をきちんと整えさせたのも、道具をきちんと持っていたのも、そういう事情からだ」

 行くぞ、とレオウルはアスター少年に先行した。

 アスターは未熟ながらも、レオウルの言葉をきちんと受け止め考えた。



※   ※    ※    ※



 さて、森の中に入った彼らだったが、しばらくすると予想外の事態に襲われる。

 深い森、というわけではないのだが、人家からはそれなりに離れている。山奥というには人里近いが、モンスターが出てくるには充分な下地があるような、そんな場所だ。

 そこで、彼らは遭遇した。

「……」

「……誰だ、お前は」

 さて、彼ら二人の前に立ちふさがったその人間を、何と呼ぼうか……。うん、白仮面でいいや。

 顔面を覆う白い仮面。切りそろえられた髪に、どっかで見た覚えのある白い軽装アーマー。その上から、これまたちょっと見覚えのある(具体的には、一章二話あたりで誰かさんが着ていたのを見た覚えがある)黒いコートを纏っている。

 赤い線で描かれた白仮面の表情は、どこか物哀しそうなものだ。

 その人間は、コートの裏側から剣を一本抜いた。

「……どう見ても、普通の輩じゃないな。まあ普通の輩って何だってハナシだけど」

 レオウルも剣を抜き放つ。何と言うか、ちょっとダサいデザインの剣だった。アスターが「微妙に装飾過多」といった理由がここにある。鍔の部分に掘り込み、装飾が施されているのだが、元々の塗装がはげ落ちており、豪華なことには豪華だったが、何とも寂しさを感じさせる剣だった。

「さて、と。何か俺達に用事か?」

「……」

「おっと!」

 無言のまま切りかかってくる剣士。流れるような体捌き、足捌きからは殺気こそ感じなかったものの、呆けていれば一撃で戦闘不能に追い込まれていただろう身のこなしだった。

 剣士の一撃が腕に切りかかろうとしたのをギリギリで判断し、なんとか受け流すレオウル。

 続けざまに、剣士は左ひじを彼の顔面にぶつけようとする。レオウルも歴戦の戦士だ。こういった反撃には慣れっこである。頭を傾けてそれをかわし、隙の出来た胴体に剣の持ち手の底をぶつけようとした。

「……は?」

 だが、目の前の剣士は予想外の動きをする。

 レオウルの右腕が体に到達するより先に――突き出した肘とレオウルの肩を支点にし、胴体を腕力だけで持ち上げた!

 一体どれほどの鍛錬を積めば、そんな無茶苦茶な動きが出来るというのだろう。

 一瞬の動きに虚をつかれ、レオウルの思考が停止する。

 そんな彼の両腕と両足を、剣士は切り裂いた。

「なんだと……? ぐッ」

 ひざをつくレオウル。自分の手足を見て、愕然とした。

 傷一つないはずの手足であったが――肉体を動かすという動作を実行するための何かを、感知することが出来なかった。

「……安心しろ。数刻たてば戻る」

 白仮面はレオウルを一瞥することなく、一言だけ言った。

 剣士は、少年に向き直っていた。

「……ッ! おい、逃げろ! そいつにゃ勝てない!」

 レオウルの言葉に、少年は半笑いで首を左右に振る。

「レオウルさんがやられているのだから、どっちにしたって僕の足では逃げ切れませんよ」

 言いながら、少年は腰からナイフを取り出した。魔法陣が刻まれたそれは、使い手の身体能力を強化する効果がある。

 剣士は、さきほどレオウルに斬りかかったときとは異なる構えを見せた。相手の得物に合わせて闘い方を変えるそのスタイルに、少年は心当たりがあったが、何も言わず刃の先端を向けた。

 数秒の間の後。

 両者が、同時に駆け出す。

 剣士の動きとアスターの動きは、不思議とどこか似通った動きだ。

 それゆえ、どちらがどちらかの動きを上回ることはなかった。

 そして、両者の動きが止まる。

 剣士の刃は、少年の脇腹をかすめていた。

 だが、少年の刃は――。

「……とりあえず、合格点だな」

 剣士の仮面の、眉間に刺さっていたが。

 相手の剣戟はわずかに少年を上回っていた。

 ナイフの刃は、白仮面を殺すに至っていない。

 しかし、両者の勝負は決着したも同然だった。

 仮面に罅が入り、右半分がずり落ちる。

「……お久しぶりですね、カノンさん」

「ああ。半年ぶりくらいか? 私達が王都を発ってから」


 そこに居たのは、まぎれもなく勇者のパーティーが一人――女剣士、カノンであった。


レオウルのビジュアルは、イメージし難いならヒ○マン(日本的にはマスタ○ズ?)のアダムくらいインパクトがあるものと考えていただければ、わかりやすいかと思います。


次も一週間以内に更新できることを願う。

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