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一章十五話:さりとて深謀遠慮優柔不断は時に美徳(前)

城下町=王都=きらびやかさの欠片もない街並み。

 王国、とりわけ王都、城下町は何かと賑わっている昨今である。

 勇者の消滅、“吟遊詩人”の死亡につき、魔族側の様々な動きについて、憶測が多いに飛び交った。いわゆるゴシップのようなものである。ニュースのようなものがあるわけでもなく、一方的に押し付けられる瓦版があるばかり。活版印刷技術がまだまだ出来ていないこの世界、隣国のように家庭用映像通信装置 (廉価版テレビみたいなもの)があるわけでもなく、民衆に伝わる情報の正確さは、かなりあやしいものだった。

 なにしろ、王城内部でさえ色々とアレな状態である。

 女中達がひそひそ噂話を騒ぐ中、例のガリガリ国王は眉間に皺を寄せる。

 外交で外回りに出ている王妃が帰ってくるまで、当面の国内のごたごたは、法務大臣を中心に情報収集させている。これは事実を知らないからこその動きだった。法務大臣は、それだけ国王から信頼を勝ち得ているのである。

 国民に対する情報操作も、表と裏とで上手に――陰謀をめぐらせる側の方からすれば、上手に立ち回っている。

 他国に対しては、勇者たちは別件の任務に赴き王城に居ないと触れ回っている。特殊な魔術で、王妃に即効で情報を伝えた国王であった。そのため外向きは上手に立ち回ることが出来ている。

 だが、内向きはどうだろうか。ぎりぎり――そう、ぎりぎりであった。後一歩のところで戦争に至らない程度には、バランスを保っていた。それは例の八人の中でも、法務大臣が強い発言力を持っていたのが理由かもしれない。

 法務大臣が勇者暗殺を目的としたのは、彼が考える「国にとって毒となる思想」の芽を摘むことだ。そんな彼の考え方が実際に正しいか正しくないかは読者個人の良識と主観に任せたいところだが、それ以外の部分で彼は、むしろ国家の安定を考えることに従事している。戦争よりも、安定志向なのだ。

 そして意外に思われるかもしれないが、奇しくもそれは教育大臣にも共通した見解だった。教育大臣自身、計画とは別に何らかの陰謀というか、策謀めいたことを腹に抱えているが、それを前提にしていたとしても、アーレス・リックは大臣であり、国の役職を任されるだけの責任を果たせる人間だった。たとえ竜王が死んだといえど、現状での戦争傾倒が得策でないことくらい、彼にも理解は出来ている。実際のところ、軍務大臣と言い争っていたとき以上に、本来、頭が切れる人物なのだった。


 だが、そんなかりそめの平穏……少なくともバランスが取れているという意味での平穏は、長く続かない。

 勇者の亡骸を運んだ軍務大臣が、数日前に帰ってきて知らせた情報が、王国の首脳陣を震撼させた。

 その大元の原因が自分達にあるとは露とも知らず、教育大臣や法務大臣は頭を抱えることとなるのだった。



※   ※    ※    ※



 さて、そんな上層部とは打って変わって城下町。

 王国、特に王城付近は甘美な装飾が少ない。ひとえに国教でもある「エスメラ教」が質素、倹約を旨としているためでもあるが、そのぶん、強度や建築技術の上昇に努めている部分がある。ちょっとやそっと他国に攻められたりしたところで建物がビクともしないように、レンガ造りだったり鉄骨が使われていたり、まあ何かと強い建物が多いのだ。

 そして、そんな王国の首都たるこの都、かなり石材を使っている。石は熱を貯めやすいこともあり、やや温暖な気候である王国の体感温度の上昇に一役かっていた。

 ちなみにそれでも毎年熱中症者がほとんど出ないのは、各路地に水場が設置されていることや、教育大臣が推し進めた「公衆衛生」「健康保全」の教育が生きているためともいえる。

 エースが彼のことを苦手としていたのには、貴族として腐りかけているくせに、そういうところはきっちり締めているのも理由の一つに入るだろう。

 さて、そんなどうでもいい(?)内政の話はともかく。

 時刻はまだ朝方。朝日が昇ってから数時間は経過しているだろうか。

 そんな時間帯に、ちょっと治安がわるそーな路地裏を歩く少年が一人。別にホームレスとか乞食とかが居るわけではないのだが、店でたむろって居たりする輩が荒っぽいことが、街の雰囲気で察することができた。

「……ここにも居ないですか」

 そんな中を歩く少年は、何と言うか、こう、真面目そうな少年だった。

 栗色の髪に、まだまだ幼さの強い顔立ち。年は十代前半くらいだろうか。容姿だけ見れば結構身分が高そうなものだが、ボロボロのすすけた灰色の服を着ているあたり、そうではないと周囲の人間は判断することだろう。実際、その挙動の端々からも、この年の貴族の子供にありがちなワガママさめいたものが見受けられなかった。

 少年は、何かを探しながら歩いていた。

 周囲を見回しつつ、話しを聞いたり、路地裏にも目を配りながら歩いていく。

「全く、どこに行ったというのですかあの人は……」

 嘆息する少年からは、何と言うかこう、苦労人っぽさがあふれ出ていた。

 さて、そんな彼の耳に、妙な声が聞こえる。

「姉ちゃん、何か探しものなら、俺達がエスコートしてやるぜ? へっへっへ……」

 荒っぽそうな数人の男達が、エプロンドレス姿の少女を囲っていた。

 まあ何と言うか、あまり良い予感のしない光景である。

 エースならば即座に「あ、これ路地裏に連れ込まれて乱暴される流れだ」と現代的アニメ、漫画知識を動員して結論をはじき出しそうなものだが、そんな知識とかなくとも、そういう予想は立てられるものである。

 そこで、少年がとった行動はと言えば。

「あの~、すみません」

 普通に声をかけることだった。

 エースだったらば「デートの待ち合わせをしていた相手」のふりとかして乱入しそうなものだが(無論、アニメとか漫画知識由来である)、そういう意味で両者の行動はある種、対極なものだと言えた。

 明らかに剣呑な反応を返す男達。

 それに対して、少年はこう聞く。

「人を探してるんです。えっと、身の丈が2ルラ(約2メートル)くらいあって、ものすごく筋肉質で、何故かちょっとツインテールで、妙に濃い顔立ちの男の人を知りませんか?」

「何だ、その、無駄に印象だけ強く残りそうな男は……」

「で、微妙に装飾過多な剣を持っていて、無駄に俊敏な人なのですが……」

「知らねぇよ、そんな奴。……というか何だよ、その化け物。ちょっと興味が湧くぞ?」

 何故か、あやしい雲行きだったのが見事にブレイクされた。

 意図せず、状況を煙に巻いた少年である。

 だが、そんな少年の言葉を聞き、震え上がる男が一人。少年は不思議そうに聞く。

「……? どうされました?」

「い、いや、何でもねぇ……。おいボウズ、そいつって、今ここら辺り居るのか?」

「たぶん、そうだと思います。あの人の方向音痴具合は、僕も重々承知ですから」

「ボウズは、一体そいつと、どういう関係だ?」

「う~ん……、仲間? なのかな、よく分かりません」

 その一言を聞いた瞬間、話していた男が逃げ出した。

「お、おい! 何逃げてるんだお前!」

「馬鹿、知らねぇのかお前等、あの(ヽヽ)レオウルがここに来てるんだぞ! あの(ヽヽ)レオウルが!」

「は? ……え、ちょっと待て?」「おいおい」「マジかよ」「レオウルって、あの闘技場のアレだろ?」

 男達がざわざわと話し始めた。そんな彼らに、少年が一言。

「別に止めはしませんけど、レオウルさんにそう(ヽヽ)いう(ヽヽ)こと(ヽヽ)をやっているのが見つかったら…………、えっと、あまりオススメはしませんよ?」

「お、おう。分かった」「ボウズ、サンキューな」

 口々に、少女を囲っていたときの威勢の良さを消失させ感謝の言葉を述べながら、男達はその場から退散した。

 一難去ったのを確認して、少年はほっと息をついた。

「……やれやれ。えっと、大丈夫ですか? 乱暴とかされていません?」

 少年が尋ねると、少女……といっても彼よりは年上っぽい娘であったが、彼女はこう応えた。


「……貴方でも良いので、王都で一番大きい市場がどこにあるか答えてください、でございます」


 そこには、なんだか聞き覚えがある口調に、何だか見覚えのある赤毛を持つ……、何だか見覚えしかないエプロンドレス姿の少女が居た。



ちなみにあの教育大臣は、一応平民の教育にも(歴代貴族の中では)力を入れている方だったりします。


そんなわけで、これから何話か「一方その頃」が続く感じです。続きは一週間以内に投稿できると、えっと、嬉しいと思います。

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