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一章十四話: 混沌迷宮製作講座と書いてダンジョンメイクチュートリアルと読む(後)

しくみがわからなくても、電気があればゲーム機は動かせます。



 ダンジョンについておさらいしておこう。

 この世界では混沌迷宮と書いてダンジョンと読ませる。地下迷宮である必要はない。

 「破壊神の加護」を受けたものが、その空間操作魔法を極めることによって始めて使用が可能になる。竜王が研究に研究を重ね(大体五十年ほど)、ようやく完成させた魔法の一種だ。

 それを名づけるならば「亜空間創造魔法」。

 ダンジョンメイクと言う言葉でエースは誤魔化されているが、要するに魔法なのである。

 さて、ここで思い返してもらいたいことは、エースには魔法の才能が皆無であることだ。勇者時代の魔法は基本的に聖剣を媒介として使っていたものであり、彼自身が単独で魔法を使っていたわけではない。そんな彼が何故、「破壊神の加護」の究極系とも言える「亜空間創造魔法」なんてものを使うことが出来るのか。

 答えは簡単。

 既にダンジョンスイッチという方法が確立されているからだ。

 ダンジョンメイクの作業と言うのは、先ほど彼らが持っていたダンジョンスイッチを利用して行うものだ。スイッチの画面部分にダンジョンを構成するための数値を入力し、どういうモンスターを設置するかを設定し、ダンジョンの高さを考え、フロアごとのマップを構築していく。その中でクリアの条件、ダンジョンの難易度、総コスト数(ダンジョンを維持するために必要な魔力など)をふまえていくことになる。そして全ての記入が終われば、ダンジョン完成なのである。

 考えても見て欲しい。普通、建築物とかを建てるときに設計図を作りはしても、実際に建築行為をしないということが、果たしてありうるだろうか。――そう、それこそがダンジョンスイッチの特性だ。有体に言えば、エースや周囲の魔力を使って記録されたダンジョンを作り出す、超高性能の3Dプリンタのようなものなのだ。明らかに、この世界の理解を超えている。

 さて、そうは言っても当然、ダンジョンスイッチだけでダンジョンは作り出せない。それでも彼が作れるのは、エース自身が半精霊であることに由来する。精霊は、元々魔力と空間に干渉する能力がある。さきほど記述したように、エース自身は魔術の才能が出涸らしであるためそこまで強い干渉能力があるわけではないのだが、それでも、人間時代は存在しなかった、ある種の「感覚」がある。その感覚こそが、ダンジョンメイクに何より必要なものなのだ。

 まとめると、エース自身の能力不足を、ダンジョンスイッチが補う形でダンジョンメイクが可能となるのだ。

 その関係は、聖剣と、魔法が使えないエースとの関係に近いものがある。

 ちなみに竜王がエミリーを自身の後継者として推さなかった理由の一つに、彼女が精霊の要素を持たないため感覚的に「亜空間創造」の感覚をつかめなかったということもあるのだが、これは番外編でも書きそうにない情報なのでここに記載しておく。

 さて、そんなエースではあったが。

「何でスライムすら構築できないのでございますかッ!」

「し、仕方ないだろッ!」

 珍しく声を荒げているエミリーに、涙目だった。

 場所は変わらず簡易教室。現在エースの手にはダンジョンスイッチが握られている。そしてスイッチの上部には、半透明のホログラフィック的な画面が表示されていた。未来の技術ではなく魔法で再現されているものなのだが、いかんせん、ファンタジーな世界観におけるSFチックな光景であるため、どこかちぐはぐなものを感じる。

 その彼の目の前の机に、一体のモンスターが居た。形状はやはりスライムっぽいのだが、一つ目で、人間の耳のようなものがついており、そして体のどこかから何ともいえないテクノポップな音楽を流していた。

 エミリーはそんな生物を見ながら、頭を抱えて項垂れている。

 無表情がデフォルトの彼女からすると、かなり珍しい光景と言えた。

「……ありえないのでございます、ありえないのでございます。何で正しく作ったはずのダンジョンのモンスターが、こんなヘンテコな何かになるのでございます……?」

「あれから食事を挟んで七時間ぶっ続けで授業したりダンジョン作らされたりするとは思ってなかったけど、いくら何でもそれはないんじゃない? というか、長時間継続し続けてやったから変になったとか」

「そんな話しじゃないのでございます! 魔族が聖剣に選ばれるくらいありえない現象なのでございます! システム的に起こりえない事象なのでございます!」

「そうは言ってもなぁ……」

 絶叫するエミリーに苦笑いしながら、エースはダンジョンスイッチの半透明ウィンドウを操作する。表示されている画面は……う~ん、何と表現したらいいかな。はっきり言ってしまえば、ゲームとかパソコンの画面である。主に表のようになっているそれに「スライムの数:二」とか「ダンジョンサイズ:八百立方メートル」とか書かれている。エースはその画面、「スライムの数」の部分に触れてから、「試行」のボタンを押した。

 目の前に、別なスライムもどきが召還される。先のスライムとは違った音域のサウンドを鳴らして、綺麗にハモった。

「……まあ確かに、普通はこうならないだろうっていうのは俺も思うけどなぁ。まだしも、最初からスライム作ったらこうなるっていう感じかと思ってたし」

「もう、どうしたら良いでございますか……」

 項垂れるエミリーの背中には「哀愁」の二文字が踊っていた。

「……おかしいのでございます。この世界のあまねく生命体なら、その魂にダンジョンモンスターの元となる要素が刻み込まれているとお父様がおっしゃられていたのに……」

 ぼそっとつぶいたエミリーの言葉に、エースは一瞬ぎょっとした。

 幸いにも彼女はエースに背を向けていたため、彼のそんな挙動を見ることはなかったのだが。

 そこで、エースは一つの結論に思い至る。ダンジョンモンスターを作るためには、その元となる要素が魂になければならないらしい、それは、この世界で生きるすべてのものに共通するものだとか何だとか。

 ということは――そう、お忘れだとは思わないが、われらが主人公、転生者である。異世界の少年だった魂を持つ男だ。必然、この世界の魂とは違っていることだろう。

 その違う部分が影響して誕生したモンスターが、あれなのである。

「……何だろう、この世界でいうスライムって、ラジカセみたいなものなのか?」

 無論そんなことはないのだが、思わず呟いてしまったエースだ。

 そして、手近に置いてあった「破壊神の加護の使い方研究書」を手に取り、該当ページを探し出した。

『――そこで作り上げたのが、ダンジョンスイッチだ。我輩、長時間こんなダンジョン製作にエネルギーとられたくない。だから、既にいくらかモンスターのタイプだとか、ダンジョン構築の際に必要となる術式をまとめた装置を考えた。――』

「元々、竜王仕様にチューンナップされた道具だってことか、これは。んー、となると、ダンジョンスイッチから新しく作り直さないといけないってことなのかな?」

 だが正直な話、そんな面倒なことをエースは避けたかった……というより、避けるしかなかった。

 何故ならば、何度も言うがエースに魔法関連の才能はないのだ。

 それをアシストツールから作り直すって、どういうことなのって話しだ。

「まあ、正直に何で駄目なのか言う訳にもいかないし……」

 彼のこの台詞を耳にした相手はいない。幸いなことに、うずくまっているエミリーは、ぶつぶつ言って自分の世界に入っていた。

 エースが転生者――自分の魂が別世界由来だと誰にも明かさないのには、いくつか理由がある。

 一つは、「頭大丈夫?」と言われないため。

 一つは、言ったところで結局何ともならないため。

 そして一番重要な理由が――言いたくとも、言えないのだ。

 言おうとすると、必ずと言っていいほど偶然が重なり会話が中断される。

 カノンには一応明かしたのだが、それだって、結局一年近くトライし続けて、たまたま成功したというくらいなのだ。誰が好き好んで、そんな面倒ごと請け負うのか。そんなわけで、エースは自分の本来の出自を話すことを諦めていた。

 どうしたものかとエースが考えていると、エミリーが立ち上がった。

「魔王様! ダンジョンを起動なさってくださいでございます!」

「え、でもここで動かしたら城が――」

「一番上の右にある『ミニ試行』というのを推すのでございます!」

 言われてみると、確かにそこには「ミニ試行」というボタンが存在した。タッチでスクロールさせながら、そのボタンを押す。

 机の上のスライムが消失し、ミニチュアのようなサイズのダンジョンが形成された。

 形は、とりあえず立方体。四角形の全体は、壁が透けて内部が見える。

 その内部は――。

「…………」

「大丈夫? エミリー」

「…………気絶しそうでございます」

「俺の方が気絶しそうだけどな……。七時間もぶっ通しで、ダンジョン製作のコツとか叩き込まれたはずなのにこれだよ?」

 シュールレアリスムの世界へようこそ、という感じだった。

 超・現実的、現実を超越した何か、悪趣味の産物、抽象表現ここに極まれり、カートゥンでジブリをやってもここまで目に痛くはならないだろうといった有様だ。いらっしゃいませビートルジュースの動く城。

 さっきのスライムもどきがまだマシに思える。例えばモンスター一つとっても、ワーウルフっぽい何かは、その全身に悪趣味なタトゥーがしてあり、腕が左右でバランス違い、武器もダウジングに使ってそうなやつで、黄色い牙の隙間から紫色のよだれをたらし、目がイっちゃっている。なまじアニメの世界でないぶん、そのきつさは色々とアレだった。

 そして、落ち込むエミリーを励まそうとエースが口走った何かが、決定的に彼女のスイッチを入れる。

「ま、まあ、ダンジョンといっても竜王が運用していたものだけが全てじゃないし、俺には向いていないんだと思う、うん」

「……」

「それにほら、このー、何、『非破壊物質』だっけ? こういうのを使うと、もっと別なタイプのダンジョンとか作れるんじゃないかって思うよ? うん」

「……それでは結局、新しいダンジョンが作れないのでございます」

「それを言い出すと、そもそもダンジョンって、そういう風な使い方じゃないような気がするし」


「――それは、どういうことよッ!」


 びっくりしたエース。

 誰の台詞だと思う読者も多いと思うが、叫んだのはエミリーだ。

 作った丁寧口調を忘れ、全力で叫んだエミリー。その言葉には、色々な感情が含まれていた。

 竜王がダンジョンを作るために色々四苦八苦していたことや、ダンジョンを設置することを拒否する魔族たちとの交渉。人間が攻めてきたときにダンジョンでどう対応するカなど考えに考えたりした過去。

 そういった事情が全く読み取れるわけではなかったが、それでも、何も知らないエースを黙らせるだけの迫力が彼女の言葉にはあった。

 しばらく沈黙が漂う。涙目気味だったエミリーは、はっとして目元を拭い、すぐさま無表情に戻った。立ち上がり、頭を下げる。

「申し訳ないでございます」

「……いや、何か逆鱗があったかな? 竜だけに。別にいいさ。こっちが悪いんだろうし」

「……ありがとうございます」

「それは別にいいんだけどね。でも、さっきの方が地の口調? 正直、その変な丁寧語よりは、砕けている方が気持ち、楽なんだけど」

 エースの言葉に、エミリーはしばし黙った。そして首を左右に振る。

「……私は、従者(エミリー)でございます」

「……そう」

 よく分からなかったものの、こだわりがあるならそれ以上、エースは追及しなかった。

 ここで事情をつまびらかにすると何かのフラグが立ちそうなものなのだが、そういうのは綺麗にへし折る我等が主人公である。

 ただし、

「でも、俺は謝らない。思ったことは事実なわけだし」

 それは、エースが現代日本の知識のなかで覚えている数少ない事柄の一つ、ゲーム知識から来ている発想だった。一般的なダンジョンは、竜王が意図していた家畜小屋より、人間側の考えるような決戦施設としての意味合いが強い。その上ゲームなら、ダンジョンの中にはひたすら戦い、己の戦闘技術を上げる闘技場めいたものまであるくらいだ。むしろ竜王の着眼点の方が、特殊だったと思ってしまうのは、現代人ならでわの発想かもしれない。

 しかし、この世界において竜王の導き出した結論は、必要性にかられての結果だったのだ。そもそも両者の本質的立場が似ていたといっても、発想の根本が異なるわけである。

 そして、それを知らないエミリーにとってエースの言葉は、確かに地雷の一つであった。

 だが、それと同時に――。

「……ならば、その別な使い道というものを、提示してみろ、でございます」

 口調は多少乱暴さが残っていたが、しかし、表情は不思議と怒りの感情はない。

 むしろ、筆者の目が間違っていなければ、興味の方が勝っているように見えた。

「私の教えたことを無視してもかまわないでございます。特に指示もしないでございます。その代わり、絶対に貴方のダンジョンを仕上げてくださいでございます」

「くださいでござ……何、その気持ちの悪い言い回し」

「仕上げろ、でございます」

「命令形になったか……」

「自由に作ってみろ、でございます。私のド肝を抜いてみやがれ、でございます」

「ねえ君、その丁寧口調、相当無茶して使っていない?」

 エースの言葉に答えず、エミリーは、ふふっと微笑んだ。

 可憐な表情だったが、紡がれた言葉はスパルタンの一言につきる。

「では、一週間以内に一つ作ってみやがれ、でございます」

「一週間!? いや、ちょ、それは――」

「問答無用、でございます。作れなければ、再度みっちり夜通しで授業(ごほうし)にございます」

「何故だろう、女の子が夜通し付きっきりで居てくれるっていっても、ちっとも嬉しくない……」

「むしろ快楽を覚えろ、でございます」

「……君、もしかして加虐趣味?」

「信賞必罰なだけでございます。……食べ物、材料でも仕入れてくるでございます。何か食べたいものがあれば、言ってくださいでございます」

「あー、じゃあ、王都の料理が食べたいかな? あんまり豪華じゃなくていいけど、野菜多めで」

「畏まり、でございます。明日の朝までには帰ってくるでございます」

 頭を下げると、エミリーは瞬間移動で入り口まで転移した。

 二階からそれを見下ろすエース。そして、彼は思い出した。


「あ、ならついでに、王城付近の本屋で、もう発売されてるはずの『王子珍道中』の最新刊を――」

「読むのに時間をとられるから、却下でございます」


 微笑んで拒否するエミリーに、エースは悲痛なため息をついた。



3DSのハードでGBAソフトは動かせない的な感じの話しです。


エース単体の時系列では、番外其ノ一へ続きます。


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