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三章三十話:まだ行かない

ひ、久々にちょっと余裕がとれたので・・・



 新たなるダンジョンの出現により、動揺する国民達。竜王の後継者が、ついに我等を攻め落さんとしているのかと、やっきにもなる。突然出現したそれらに、多くの国民たちが各所で戸惑い、逃げ出そうとしたヒトビトもいた。

 だがそんな中にあって、ダンジョン出現という事実に今か今かとボルテージを上げ、高揚し、いざ挑まんとしている者達がいた。

 冒険者たちである。

 ダンジョン探索者とモンスターハンターをかけあわせたような職業者たる彼等であるからして、新規のダンジョンというのは、それだけで金のなる木だ。

 未知のダンジョンともなれば、新たなモンスターもいるだろうし、すなわち新たなドロップアイテムやレアアイテムを入手することもできるかもしれない。

 ニアリー・コールが持つキャストシューター、レオウルが持つ偽聖剣に関わらず、ダンジョンから出たレアアイテムにより作られた武器は、精霊武器にはややグレードが下がるが、それでも強力無比。

 並の冒険者が持てば圧倒的な戦績をたたき出す。

 それ以前に、そういった武器を持っていると言うこと自体既に箔がついているようなもの。

 また、未踏破のダンジョンのトラップを突破しようと躍起になる人間も多くいるし、バトルジャンキーは未知のモンスターと戦ってみたいという願望にかられる。

 なんにしても、冒険者たちにとって「新たなダンジョンが出る」というその事実は、大きく彼等をゆさぶるものである。

 それゆえに、王城がダンジョンについての簡易調査を終えるのを、今か、今かと待ち続けているわけだ。

 特に今は、“新たなる勇者”がカースモンスター討伐関係で動けないらしい。民衆にはどうしてアスターが動けないのか、という細かい部分については触れ回られておらず、それゆえに本職の冒険者たちは、今こそ稼ぎ時、と肩をふるわせていた。

 さて。

 そんな中、一週間ほど後だろうか。

 王城から触れ回られた瓦版は、ダンジョンの出現した街に関しては圧倒的な速度で張りかえられた。ギルドは全体に連絡を回し、ともかく早い所国全体に情報が出回るよう、王城は徹底した。

 商会連も、これに乗じて様々な探索用アイテムを、低下よりちょっと割引にしたセットで販売。食料や探索用ロープ、フック、目印、証明具、簡易テントなど様々である。

 とにもかくにも、この一大イベント。人間側にとっては不謹慎極まりない言い回しだが、この大きなイベントに冒険者たちは湧き立ち、挑みかかろうとする。

 無論、相手側のダンジョンが強大な、竜王の後継者たるものの手が回されていると考えて。

 だが、しかし――。

 新たなダンジョンたちが、別にそれだけではないダンジョンである、というのに彼等が気づくのは、もう少し先のことであった。

 彼等もまた、壮絶なカルチャーギャップを体験する事となるだろう。

 すなわち――相手が何を考えて、どう行動した結果があれらのダンジョンとなったのかということに。





「どりゃっ!」

「わっしょい!」

 奥外の光と魔灯(マジックランプ)により照らされる地下。通気が良化されているのかある程度綺麗な空気をすいつつ、二人の男が模擬剣を持ち、戦っていた。双方共に動き易そうな簡素な服であったが、圧倒的に体格や、戦闘スタイルが異なっていた。

 片方は、栗色の毛を持つ少年。

 片方は、ツインおだんご頭の大男。

 剣が激突すると、体格の関係で少年の方が弾き飛ばされる。だがそれと同時に、「背後に向かって元素を射出」し、弾き飛ばされた姿勢のまま蹴りの体勢をとり突撃。たまらず驚き、大男は剣でそんな彼の足を叩き落とす。

 少年も少年で剣を足先に構えて威力を落し、今度は逆方向に元素を排出して離脱。

「……その気味の悪い動き、どうにかできねーのかアスター」

「えっと、あはは……」

 お察しの通り、剣闘士(グラディエイター)レオウルと、“新たなる勇者”アスター・リックスそのヒトである。

 ここは、冒険者ギルドの地下。かつて“黒の勇者”エース・バイナリーにアスターが、技術を鍛えてもらっていた地下訓練場である。

 いつもならば多くの冒険者が居るだろうこの場所は、どうしてか今日に限りがらんがらんだった。ヒトが圧倒的に居ない。

 否、多少はいるがあくまで多少だ。

「アスター君も成長いたしましたねー」

 そういうギルドの受付娘。彼女に話しをふられて、「きゅんきゅんは以前のアスターちんんことは、知らないから何とも言えないきゅん☆」とか言うセノ。そしてアスターのその動きを、不思議そうに眺めているエリザベートだった。おそらくは、さきほどから続けられているアスターの謎の動きについて興味があるのだろう。

「じゃあ、行きますよ――」

「嗚呼来い――、だらぁっ!」

 レオウルの全身の筋肉が踊る。ひねった腰、支える足。打ち出される上半身のうねりによる一撃は、投げられる事のない人間投石器のようなものだ。打ち下ろされる剣は、重量こそ模擬剣ゆえ軽いだろうに、おそらく相当なダメージを起すだろう。

 アスターは、それを交わす。ただエースのようにちょっと自分の体を使い、上手い事かわすことは出来なかった。

 そんな時、ここ最近続けている例の、奇妙な移動が行われる。

「わっしょい!」

 振り下ろされる右腕に対して、左側に避けたアスター。レオウルからすれば半身後ろにあたるため、死角に入る。「なめるなよ!」というレオウルの言葉と同時に、アスターは模擬剣を切り上げる。

 叫ぶと同時に身体を左側にひねり、無理やり剣の腹をアスターに当てるレオウル。

 両者の一撃が再び交叉し、今度は、アスターの模擬剣が跳ね飛ばされた。

「う~ん……。えっと、今回はいけたと思ったんですけどねぇ」

「いや、いい線行ってたと思うぜ? 予想外の動きをしてたところはエースらしいし、無理やりかわして死角から一撃っていうのも、カノンのようだったし」

「それだけじゃ駄目なんですよねぇ……」

「お前は一体どこを目指してんだ? ……ってか、あの変な動きについていい加減話してくれよ」

「私も気になりますよ、アスター」

「ひゃっ!」

 レオウルと軽い反省会を行っていると、突如背後に現れたエリザベート。アスターは当然飛び退く。汗臭い、というのも理由の一つだが、何より耳下にエリザベートの息がかかったのがやばい。やばいったらやばい。戦闘の反省どころではなくなってしまう。

 まあともかく、彼はやや照れながら二人に笑った。

「簡単に言うと、“雷咆(らいほう)”を部分的に使ってるんです」

 頭を傾げる二人に、アスターは雷咆の原理を砕いて話す。

 雷咆は、眼前の空間にある元素を武器で撃ち放つ技だが、その際に自身の身体の一部も、初動の際に同様の原理で打ち出し、高速移動させる。これにより一撃の速度と飛距離を上昇させているのだ。宇宙空間における、二段階人間ロケットと言えば良いか。AとBという二人の人間が前後の位置におり、Aが壁を蹴って、Bが壁側の相手を蹴ると、Aの蹴ったパワーをそのまま上乗せして、Bはより遠くへ向かうことができる。そういった原理が働き、攻撃力が増すのだ。

 そしてアスターは雷咆の初動のそれを、全身にかけて使っている。ノーモーションでどんな姿勢からでも瞬時に移動できるのは、まさにこういうことだ。当然空気抵抗やら何やらで負担もそれなりだが、意表をついて動けること、何があっても自分の座標を瞬時に転換できることなどから、今はそれを特訓してみている。

「あー、カノンからは言われたのか? それ」

「いえ、えっと、僕が見つけました」

 レオウルに答えるアスターだが、これは半分嘘である。確かにカノンから教わったやり方ではない。雷咆の原理説明の際、自分を打ち出した威力に対して前方に雷咆を撃つことで体への負担を半減させている、という説明はされたが、それだけなのは事実だ。だが完全に彼のオリジナルかといえば、それもまた違う。

 アスターのその戦法は、“鎖の迷宮”から得た知識だ。

 その場に居る彼の視点。エリークの手を借りて、独房から開放された後も三度挑戦し、確信を得る。あの場にいるのは、他者の視点ではなく間違いなく己の視点であるということに。だが、そうすると色々とわけがわからない。王都が焼かれ、エリザベートに少し似た男性がおり、そして「黒い魔王」と対峙している己というその光景が、理解できない。

 だが、その詳細を理解するよりも先に、アスターの頭にはその場にいる成長したアスターが体得している、いくつかの戦闘方法が記憶されていた。

「アスター、どうしました?」

「……えっと、何でもありません。それより、レオウルさんどうでしたか?」

「変な動きを除いての助言というなら、やっぱりアスターは決定力に欠けるな。見切れない動きに対して、相手が予想できない動きをするのは構わないんだが、その後が続いていない。続かないからタイミングを逃すし、決定打が打てない。例えばカノンなら、避けると同時に足斬ってくるだろ」

「あ、あはは……」

 薄い曖昧な笑み。どうやら覚えがあるらしい。そんなアスターの反応に「か、カノン……」と何とも言えない顔をするエリザベート。彼女も彼女で心中は複雑であるらしく、セノが「若いって難しいきゅん☆」と年よりくさい事を呟いたとか何とか。

 と、そんな中。ギルドの地下室の階段が、三人のヒトが降りてきた。ややぽっちゃりとしたそのシルエットに、アスターは少し驚く。

「……何をやってるんだ、アスター・リックス。新に発見されたダンジョンへの探査依頼は、もう国から出ているぞ?」

「いえ、そういう貴方こそ……。ともあれ、おはようございます、ドリドフさん」

 頭を下げるアスターに、ドリドフ・トージェンスはややばつが悪そうに応じた。エリザベートがむっとした表情で両者の間に立ったのを見て、更に慌てる。

「で、何のご用ですか? 無体をするなら私もそれなりの方法で応じますが」

「あ、いえ、えっと――」

「エリザベート様、大丈夫ですから。」

 突然の事態にかちんこちんになって動けなくなってしまったドリドフ。普段なら挨拶も賛辞の言葉も投げかけられるだろうが、それだけ王女の敵意MAXな表情と言うのは、かなり立場的に応えるものがあるのだった。

 さらっとそれを察知して回避してやるアスターは、彼自身も何か覚えがあるのかもしれない。

「それでえっと、どうされました?」

「……こう言うと少し問題があるかもしれないが、頼みがある」

「えっと頼みですか?」

「まだ出て居ないというのなら、好都合か。前のような無体なことには、ならないと思う……。思いたい。その節は済まなかった」

「えっと、いえいえ。ダグナさんが色々あの後も手を回したみたいでしたし」

 それはそうと、とアスターは発言を促す。ドリドフは背後を見て、ため息をついてからアスターを一度見て、頭を下げた。


「まだ行かない、というのなら――私とマーチとを、一緒に探査の際に連れていってはくれまいか」


 思案する事二秒。

「えっと、構いませんが」

 日和見主義者は、あんまり深く考えてなさそうな半笑いで答えた。



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