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三章二十八話:いざ、再来の遊園地へ!



 その日、一人の王が決を下した。

『いよし、準備おっけー?』

 黒い礼服と半透明のサングラスにオールバック姿という、おおよそ剣と魔法の世界に似つかわしくない、胡散臭い格好の男。その背後には緑に光る鎧騎士と、山伏もかくやと言わんばかりな長身カラス天狗のような護衛が並び立つ。

 彼の言葉は、眼前にあるこれまたファンタジーらしからぬビデオカメラによって、各地に伝播される。

 広間、ダンスパーティーでもはじめられそうなその場所にて、王は、両腕を広げ、カメラの向こうに確認をとるように声をかけた。

 果たしてその場に響き渡る声は、どこからもたらされたものだろう。――カメラの後ろに設置されたスピーカーからだ。ただし、それらは効果音としてのものではない。今日の日のイベントのために、王がわざわざ各所の「拠点」に設置したカメラと集音マイクによりとらえられた音声だ。

 映像は映像で、カメラの後ろに居る赤毛のメイドによって逐次チェックされており、適切なものが王や護衛の背後にある、複数の画面に映されていた。

「……本当にみんなこのノリで乗った、でございます」

 映像処理に頭を痛める少女は、十代後半ほどだろうか、和風メイドと形容できるロングスカートのエプロンドレス姿。どこか蠱惑的な赤毛に、金色の角を両のこめかみから生やした美少女である。平坦な声音の無表情だが、しかしどこか、その声には驚きと呆れのようなものが滲んでいた。

 椅子に座り、主のカメラ映りにカンペで指示を出す少女に、主たる男は、サムズアップで答えた。

『さて、じゃあ今更確認するまでもないと思うけど、今日から従業員キャスト一同、君等の新しいお客ゲストは――壮絶だ。おそらく、オルバニアが成立してから初となるほどの大きな混乱と軋轢が発生することだろう』

 しん、とマイクから変えてくる声が静まり返る。しかし、彼はにやりと不敵に笑う。

『だが、安心するといい。どう足掻いても、彼等に逃げ場はない。どう足掻いても彼等とて、こちらという存在そのものに対するうまみを無視できるような状況にさえない。

 あとは我々の態度のみだ。だが恐れることなかれ、既に我々は大陸の、他の商業施設に追随を許さないほどの接客性能を獲得している! これに慢心せず、あとは突き進むのみだ!

 そして我々における、アミューズメントの基本は顧客意識とキャラクターの適切なごり押しだ! さあ、困った時はリピートアフターミー!

 “りゅーおーくん”ヤッター!』

『『『“りゅーおーくん”ヤッター! “りゅーおーくん”ヤッター!』』』

 わきたつ各所の拠点。集音された謎の絶叫が城内に響き渡る。

 まるで軍隊における鼓舞のようであるが、叫んでいるのは大将の名前でも国の名前でも何でもなく、彼等が職場のマスコットキャラである。どう考えても異常極まりないそれは、だいぶ頭の痛い光景であった。

 そしてその声に答えるように、王の背後にずんぐりむっくりした、和服を着たデフォルメされた竜のキグルミが出現する。かのマスコットの胸元にはぜっけんで「りゅーおーくん」と書かれており、口に手を突っ込み、取り出したフリップには「みんな がんばろ」とそこそこ綺麗な字で書かれていた。

『“りゅーおーくん”もこう言っている! さあ行くぞ、“りゅーおーらんど”の同志たちよ! 接客の心得第一条!』

『『『お客様は最愛である!』』』

『第二条!』

『『『接客とは対話である! 客の不満は己の乱れと知れ!』』』

『第三条!』

『『『誠実な対応と多数の安全と、そして目前のケアを怠るな!』』』

『第四条――』

 何だこのノリ。

 忘れるといけないので言及しておくと、これが行われているのはファンタジーきわまりない巨大な城の、階段やテラスのある大広間だ。

 様々な角度からもはやツッコむのも野暮といった有様であり、部屋の照明を担当しているメイドの一人、ウサミミが頭におどるグラマラスな少女が「まーいつも通りですよねー」といった顔をしていた。悟りの境地である。

「……ふむ、竜王様が居たら何と言ったものだろうかなぁ」

 城のとある真っ暗な部屋では、ダンディな伯爵がその光景をテレビで見ながら、感慨深そうに呟く。

「――よし、冒険者を片っ端から斬ろう!」

「馬鹿野郎、再生結晶の準備してからにしろ!」

 とある拠点の管理人室では、空族(ロングノース)の男が己の角をなでながらそう呟き、付き合いの長そうな鬼族(ゴブリン)の男に頭をひっぱたかれていた。

「サテ、国内に向けテ私と魔王サマの味は受け入れられるだろうカ」

 工場(!)でベルトコンベアに乗って流れる食品を確認しつつ、道化師のような姿のエルフが、うずうずといった様子でテレビを見つつ。

「……見てるか、(けい)伊織(いおり)は、なんだかんだ頑張っているぞ」

 ダンディな男のすぐ隣で、疲れたような壮年の男性が、グラスに白ワインをそそぎながら、震えた声で映像を見ていた。

 そして――。

「――泣いても笑っても、これで、私の仕事もまもなく、最後でございますか」

 誰にも聞こえないような小さな声で、映像をいじりながら赤毛の少女が呟いた。

 その声は、肝心の王の耳には届かない。

 王たる彼は、ただ拳を握り、天高く突き上げた!


「いざ、再来の遊園地へ!

 さぁはじめようじゃないか、俺たちの――平和的文化ってやつをよ!」

『『『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!』』』


 彼の声に唱和するよう、各所拠点の絶叫が、城を含めて巨大なうねりのごとく、こだました。



※   ※    ※    ※



 首筋にびりっとした痛みをわずかに感じ、アスター・リックスは目を覚ました。

「……おお、目覚めたかの」

「……? ――はっ、こ、国王様!?」

 独房で二日明かしたアスター。王女を危険にさらし、あまつさえ守れず傷をつけてしまったという事実から、彼は精霊剣取り上げと、三日間の謹慎処分を下されていた。

 それゆえに「まあ立場上処刑とかもないでしょうし、王城の牢獄って相当堅牢だから暗殺の心配もないし、むしろ今の内に休んで体力回復させちゃいなさいん?」とオネェな騎士団長から言われていたアスターである。以前王女に言われていたのあり、当然そちらに日和って二日間ほど駄目人間街道まっしぐらだった十四歳だが、しかし、今はそんな状態でいられはしない。

 彼の眼前に居るのは、オルバニア国王たるセラスト・オルバニア。

 彼の想い人たるエリザベートの父親であり、暴君により荒廃していた国を建て直し、アスターの父を含む様々な才人を集めた偉人である。

 やや色を取り戻した髪は茶系。目元はどこか死んだ魚の目のような雰囲気だが、顔立ちなどは以前のガリガリ具合からのギャップもあってか、若く見える。東洋人のような顔立ちというのも、その原因の一端かもしれない。頭の上に乗せた王冠をとり、手元でくるくると回す王。両手首には魔法石を埋め込まれたブレスレットが装着されており、さきほどの痛みはそれらが原因だろう。

 そんなセラスト王を前に、アスターは独房のベッドから飛び起き、平伏しようとする。だが「スピアレ」という王の一言と共に放たれた雷の一線が、彼の頭を霞めた。

「とりあえず、頭を下げんでも良い。命令じゃ」

「えっと……」

 周囲を見回して誰も居ないのを確認した後、アスターは壁に背を預ける形で、ベッドに腰掛けた。

「あの……、えっと、国王様? 本日は一体――」

「案ずるな。手回しとかも終わったから、その報告と気分転換じゃよ」

 セラスト王は、笑いながら足を組む。良く見れば、どこからか持ってきたのか木の椅子に座っていた。

 王によれば、アスターとエリザベートは「第一級カースモンスター」の討伐に出向いた、ということになったらしい。詳細な設定はまだ積めてはいないが、実際問題カースモンスターをアスターたちが倒した、ということで、彼の過失分は相殺ということになったそうな。

 実際のところはエリークとニアリー・コール、アンジュリリー・プロテス(エリザベートからその素姓を聞き驚愕したアスターである)に加え、謎の白い青年。アスターらは彼が別な国の魔王であることまでは知り得ないが、しかしそれぞれの事情でそれを伏せて置くことになったのだろう。その細部調整はエリークとエリザベートがしたはずである。

「まあカースモンスターが出てきたので、後日聖騎士たちが送られてくるが、そこは別な部分であるとしての」

「えっと……、僕個人には、お咎めなしということですか?」

「まあ、事情はそれとなく踊り子から聞きだしたしの。エースに聞いていたお主の性格なら、断れまいとて。状況としては、アレじゃ。お主をこうして拘束しておくのは、むしろエリザベートに対する罰のような面が強い」

「エリザベート様への?」

「あやつは周りが見えてるくせ、最終的に自分の思いを周囲にどんなタイミングでも強要する悪癖があるからの。そういう意味で、お主とあやつは悪くない相性なんじゃろうて」

 マグノリアの悪い面が受け継がれたのかのぉ、とぼやくセラスト王の言ってる意味が、アスターにはよくわからない。王妃たる彼女がセラストと二人きりの時に、書類仕事中だろうが何だろうが普段の鉄仮面を脱ぎ捨て超デレデレであることなど、他者にはわかりようもないのだった。

「幾分人生の先輩としては、お主も含めて色々言いたいこともあるが、一つにしぼってまとめておおう。『あまり深く考えすぎるな』。そして、『後悔せず、踏み出せるのなら何度でも踏み出せ』、じゃな」

「は、はぁ……?」

 国王たる彼の言葉ゆえ、大概の貴族なら平伏すること必須であろうが、しかし、アスターは逆にそんな感覚を覚えなかった。セラストが意図してそうしたのかもしれないが、それはどこか、近所のおじさんが小さい頃から見ている親戚の子供に対するそれのようで――。

「こ、国王様!」

「ん、何じゃ?」

 しかし、独房に駆けてくる兵士の姿を見た瞬間、その雰囲気は一変する。笑顔を引っ込め、真剣な表情で衛兵を見る王。そこには先ほどの親しみは見られない。

「ほ、報告致します!」

 そして、その兵士がもたらした情報は、アスターをして驚愕せしめるものであった。


「国内で数箇所、同時に新たなダンジョンが確認されました――!」



久々すぎてエースたちの口調忘れそうな自分がいますェ・・・ そしてカイネたち再登場フラグ;


次回の投稿は、番外編とかを先にやってからになりますのでちょっと間開きます。に、二週間以内には何とか・・・

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