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一章十話:現状把握は普通、時間が掛かるものだと思います

ドールハウスとは、人形に合わせたサイズだからドールハウスと言うのです。

 少女の目の前には、無残な死体が置かれていた。

 日曜日の朝時あたりに放送していたアニメなら「見せられないよ!」と書かれたフリップを持つ謎キャラクターが現れそうなくらい……いや、もっと酷いなぁ。とにかく酷い有様だった。全身、普通にモザイクがかかるレベルである。顔面は一面ピンクモザイクをかけることになるだろうし、足の角度がヤバイ方向に行ったりしていた。

 薄暗い部屋。外界の光を完全にシャットアウトした空間に、蝋燭でつけられた火がともる。

 それらは地面に等間隔に配置されており、一言で言えば、そう、魔的。

 それもそのはず。これは、魔法陣なのだから。

「…………」

 その魔法陣の上に鎮座する死体を見つつ、少女は、何かを待っているようだ。

 セミロングの赤毛は、烈火のごとき鮮烈さと生命力を感じさせ。

 両方のこめかみから生えた太い角は、空に向けて起立している。

 そんな物騒なパーツを持つ少女は、これはまた美しい。

 年頃は十代中頃か後半であろうか。

 への字に結ばれた口元と感情を感じさせない瞳が、冷静な雰囲気に拍車をかける。

「…………」

 そう、容姿の雰囲気だけなら冷静そうなのだが。

 あきらかに、彼女はそわそわしていた。

 両手をすりすりとすり合わせたり、時々周囲を見回したり。

 魔法陣の周りをぐるぐる何周も歩き出したかと思えば、何処からともなく取り出した手鏡で身だしなみを整えてみたり。

 すこぶる落ち着きがない。

 これではまるで、クリスマスイブのちびっ子のようである。

「……」

 それを終始無表情でこなす姿は、なんだろう、独特の可愛らしさがあった。

 今か今かと、何かを待ちわびる少女。


 やがて、その願いが届く。


 魔法陣が閃光を放ち、中に置かれた死体が姿を変える。

 少女の赤毛と同色の何か――魔力で出来た繊維のようなものが、ずたずたに崩壊しかかっていた死体の、欠損箇所を埋め合わせていく。

 ある程度人型が復帰し、モザイクを外しても大丈夫なくらいに回復が終わった。

 否、回復どころではない。

 元々存在していた死体のパーツも、一瞬赤い繊維のように分解され、再構成される。

 その様は、何というか、その……、筆者的には気持ち悪い光景だった。

 筆舌に尽くしがたいものがある

 もしその場に居たら、あまり直視したくない類のものだ。

 しかし、それを少女はじぃっと眺めていた。

 両手を握り顔の前にかまえ、ぶりっ子しているようなポージングのまま。

 わずかにその体が震えているのは、恐怖からでは決してないであろう。

 印象こそ冷静ではあるが――その目に宿っている感情は、興奮。

 未だかつてない、見たことのないものを見た時の興奮である。

 そして再構成が全身レベルで終了すると、室内を満たしていた閃光が消失した。

 蝋燭の火は、いつの間にか全て消えている。

 床に大の字で寝転ぶ、復活した男。

 少女はまず部屋のカーテンを解放し、室内に明かりを取り入れた。

 そして男が目を開いた瞬間、頭を下げてこう言ったのだ。


「おはようでございます、魔王様」


 そこには、先ほどの興奮を全て覆い隠し、完璧な無表情で礼をする少女が居た。



※   ※    ※    ※



 さて、復活直後のエースである。

 まず復活した後、彼が最初に何をしたかであるが、

「……あ、これは夢だ。おやすみなさい」

 二度寝である。

 まあ、当然の行動かもしれない。

 宴の後に王様としゃべり、妹分を迎えに行ったら殺されて、竜王と破壊神によって復活した。

 もうそれだけで、色々と、彼のキャパシティを超越してしまったのだ。

 というか、主に中盤と後半のせいで、より現実感がない。

 しかも目覚めてみれば、見知らぬ少女が自分に頭を下げてきたのだ。

 魔王様と呼びながら。

 魔王? 何だそれは。魔族の王のことか? それなら竜王が居るじゃないか。あ、竜王は自分が殺したか。

 キャパーオーバーの頭でそんなことを考えた彼は、目の前の現実を認識するこが面倒くさくなり、色々拒否してひたすら眠ろうと行動したのだった。

 だが、しかし。

 目の前の現実はそんなに甘くない。

 愛とか、夢とか、希望とか、それを許容してくれる相手ばかりではないのだ。

「魔王様、二度寝は生活リズムを崩す原因でございます。悪でございます」

「ぎゃああああああああああああああアッー!」

 エースが復活して最初に受けたダメージは、魔族の少女による、力強い往復ビンタであった。

 さて、数十分後。

「……」

「魔王様、シチューにございます」

 晩餐会でも開けそうな巨大な部屋で、これまた巨大なテーブルに座り、エースはかちんこちんに固まっていた。

 原因は、自分の目の前にシチュー(!)を置いた少女である。

 何故、彼女に手料理なんかを振るわれているのかと言うと、

「まずは朝食を食べ欲しいでございます。食事を取れば、身体は無理やりにでも活性化するように出来ているのでございます。人間、亜人、魔族共通でございます」

「お、おっけぃ……」

 往復ビンタ直後、息も絶え絶えなエースに拒否権はなかった。

 そんなこんなでこの状況なわけだが、食事をしている彼の隣に立ちっぱなしの少女に、エースは微妙な居心地の悪さを感じていた。

 いや、少女だけではない。

 明らかに、彼が今居る場所は見覚えのある場所だった。

「あのさ、えっと……、君の名前は?」

「エミリーとでもお呼びくださいでございます」

 おおよそ、一般的な女中の名前である。

 偽名感バリバリである。

 だが、エースはそこを一旦スルーした。そんなことよりも、まず聞かなければならないことがあったのだ。

「えっと……、エミリーちゃん? 一つ聞きたいんだけど――」

 出来ればそうあって欲しくないなーというニュアンスを滲ませつつ、エースは彼女に確認をした。


「――ここって、竜王城?」


 竜王城、とは。

 もう名前からして予想はつくと思うが、竜王が住んでいた城である。

 王国や魔族の国家のある大陸から、やや離れた位置に聳え立つ島。

 島が聳え立つという表現はおかしな気もするが、しかしそうとしか表現できない。

 その陸は、何故か妙に縦長だった。

 そんなところの頂上に、この城は存在する。

 いわく、最上位の竜の一族でもなければ、侵入することすら叶わない地獄。

 内に荒れ狂う魔力すさまじく、並みの魔族ではその巨大な扉すら開けること叶わず。

 実際に一度、パーティーで進入したことのあるエースだからこそ、それが噂でも何でもなかったことをしっかり理解していた。

 ドラゴンサイズで構築された城は、まさしく巨大な要塞であった。

 ところが、だ。

「ええ、間違いないでございます」

 エースの言葉を肯定する少女だが、それならば、色々とおかしい。

 なぜならば現在、全体の部屋が以前侵入した時の十数分の一クラスになっているからだ。

 要するに、人間サイズに合わせられたものになっている。

 例えばこの広間にしたって、晩餐会が開ける(というより舞踏会が余裕で開ける大きさというニュアンスだが)と言ったが、以前はそれが竜王サイズで構築されていたのだ。

 少なくとも椅子一つ取ったところで、ここまで違いは出てくるわけがない。

「……何か、色々違うだろ。サイズ感だとか」

「それは、当然のことでございます。今現在、ここは貴方様の体格に合わせたサイズ設計が成されておりますでございます」

「ん~? よく分からない」

「ダンジョンとは、構築者の基本情報に依存するでございます。ここの城はお父様が、自分の体格に合わせて作られた城でございます。そのサイズは、お父様の体格を常時、繁栄したものでございます」

「……つまり?」

「今現在は、所有権を持つ貴方様に適応した構造となっているのでございます」

「……蘇ったはいいけど、なんだか色々面倒なことになってそうだっていうのは理解した」

 今の話しを考えると、要するに「この城」の所有者は、エースに設定されているらしい。

 おまけに、目の前の少女は竜王のことを「お父様」とのたまいやがった。

 ということは、つまり、そういうことである。

「……がきんちょにしか見えなかったんだけどなぁ、竜王。やることはやってたのか」

「いえ。私は拾われっ子でございます」

「あ、そうなんだ……」

「多少は『破壊神様の加護』を得ているので、一般的な魔族よりも身体的成長や能力的特長は異なりますが、それでも、直系という訳ではございません」

「いや、もうすでに色々突っ込みを入れたいフレーズが出てきてるんだけど……。というか、やっぱり竜だったのね、君も」

「無論、にございます」

 無表情ながらも、胸を張る少女。

 お察しの通り(?)、前々章の巨龍こそがエミリーの正体である。

 だが、流石にそんな正体があるとは想像できていないエースである。せいぜい一般的なサイズのドラゴンくらいだろうと、彼はタカをくくっていた。

 だが、それはともかく。

「……まあ、いいや。とりあえず、君も一緒に食べてくれない? 一人で食べていると、ちょっと、居心地が悪い」

「……?」

 無表情ながら、頭をかしげるエミリー。

「いや、何故そんな不思議そうな顔をしてんの?」

「いえ、でございます。一般的な『王』は、使用人と共に食事を取ることを拒否するものと存じ上げているでございます」

「いや、俺別に王様になった覚えなんてないから。というか、魔王、だっけ? それも君が勝手に呼んでいるだけだし。中身はごくごく普通の庶民ですよ~っと。まあそんな感じだから、可愛い女の子一人を立たせたまま食事しているのも、色々心苦しいというか、後ろ指さされそうというか、一人飯になるのも寂しいというか……」

「……よく分からない、でございます」

「さいですか……」

「でも、魔王様がそれを望むのならば、拒否する選択肢はないでございます」

 言いながら、一度彼女は礼をして室内を去った。

 おそらく、自分の分をとりに行ったのだろう。

「……何だか、やっぱり面倒くさいことになりそうだなぁ」

 再びこの部屋に彼女がやってくるまで、エースは現状把握するため、頭の中で色々情報を整理することにしたのだった。


破壊神「そういえば、ここがどういう空間なんだってことを勇者に説明するの、貴方忘れてない?」

竜王 「あっ」

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