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三章十五話:デー……

書いてた時期はクリスマスです(白目)



 王城、エリザベートの書斎。

 国王ほどではないが結構写本の多いこの部屋には、エリザベート、セノ、アスターの三人が居た。

「良いですか? アスター。まず基本的な原理として、“理の手”――すなわち魔力ですが、これを用いての元素の融合には、その融合する元素の原理を理解していないと、難しいのです」

「原理?」

「例えばお父様の使う雷属性ですが、大本は火と風ですね? この二つの現象だけで、本来雷という現象は引き起こらないでしょう?」

 エリークの簡易教室は机を挟んでマンツーマン。エリークのある意味本職にちなんだ形態の授業だったが、エリザベートは彼の隣にすわり、結構ぐいぐい距離を詰めていた。

 彼女から漂う、森林浴でもしてるような香りを、アスターは極力無視している。しかしあくまで極力であり、色々と思う部分はセノに視線でぶつけていた。

 ちなみにそれは、「きゅん☆?」という感じに頭を傾げた、可愛らしい微笑で返されていた。とんだスットボケである。

「この現象を引き起こすために、火と風の元素をどう組み合わせればそれが起こるか、というお話ですが――。アスター、如何しました?」

「へ? いえ、えっと、何でもありません」

 本当は何でもあるに決まっている。

 そりゃ自分の好きな異性が、肩とか鎖骨とかが見えるようなワンピースを着て居たり、一呼吸、一呼吸が間近で聞き取れるような距離に居たり、肘と肘がぶつかったり、もー色々と毒だ。死に至る毒ではないが、毒ったら毒である。詳細な描写をすればするほど筆者がレベルの高い変態に思われるだろうから、ざっくりこの辺りで詳らかに記述するのを切り上げるとして。

 ともかく、視線をそらすアスターの顔がほんのり赤いのは、そんな思春期特有の異性意識からであるのは、傍目から見て疑いようもないだろう。

 それを自覚しているのかいないのか、エリザベートは彼の頬を手でなぜた。

「ひゃっ!」飛び上がるアスター。逆効果である。

「アスター。まだやはり体調がすぐれないのでは? ここ一週間、ずっと“縛鎖の勇者”様の手ほどきを受けていますが」

「いや、えっと、そっちではないので大丈夫です。あはは……」

 直接指摘しようにも、自分の中の理性と本能とがイーブンで攻め合っている状態ゆえ、離れてくれとか言うに言えないあたり、アスターもまだまだ少年である。もっとも確信犯で言わない人間も大人と言えば大人なので、やっぱりアスターはまだまだお子様といえた。

 ちなみに、セノはセノで傍観を決め込んでいるらしく、挙動不審なアスターを見てにまにま笑っている。

「本当に大丈夫ですか?」

「ええ。あっちも――そろそろ何かが、見えてきそうなので」

 そう言うアスターは遠い目をする。

 彼がエリークの元でどのような試練を受けているかは、誰にも話して居ない。セノあたりは知っていておかしくはないものの、彼女も他言するような性格でないため、やはり知る人間は限られている。

 毎日毎日、延々と精神を鬱状態に冒すような精神ドラッグまがいのメンタル訓練を受けてるなど、知る良しもないだろう。

 しかしさすがは日和見主義というべきか、その状況に対する適応は案外早かった。具体的には、試練の最中にその状況を俯瞰し、『鎖の迷宮の中限定で自分が持っている知識や経験』を俯瞰したりすることが出来る程度には、彼も余裕が出てきていた。

 しかし、それでも最後は決まっている。

 自分があの、黒い男の首を刎ねる映像だ。

「あの状況をどうにかしなければならない、ということなのか……? うん」

「何の話しです? アスター」

「えっと、こっちの話です。エリザベート様には、あまり関係のないことかと」

 彼のその言葉に、むすっと膨れるエリザベート。

 ちょっとリスっぽくて可愛い感じである。

「セノさん、どういう話でしょう」

「きゅんきゅんから言えることは、あんまりないきゅん☆ エリークが何も語らないというのなら、私は何もいわないきゅん☆ ただ、アスターちんもアスターちんなりに考えて行動してるというのは、理解してあげようきゅん☆」

「何に悩んでいるのか皆目見当もつなかいから、私は心配なんですよ」

 ちらりとアスターにも目を向けるエリザベート。お前に向けても言っているのだと言うそのメッセージは、しかし正しく解釈されない。

「えっと、大丈夫ですよ。なんだかんだで僕、死んでいませんし」

「……」

 一瞬、エリザベートの顔に影が挿す。

 おや、と思う。彼女がそんな表情を見せるのは、マッドデーモンを討伐した時や、獣人の部族長“獣王”と決闘し瀕死になった時くらいだったはずだ。どちらともどちらともに、それなりにダメージを負った上での反応だったはずだというのに、今現在ぴんぴんしている自分に、何故そんな目を向けるのだろう。

 当惑するアスターだが、日和ろうにもエリザベートが何を求めているのかがよくわからない。

 しばしの沈黙。

 そして、彼女ははっと何かを思い付いたように立ち上がった。


「アスター。町を出歩きましょう」

「……はい?」


「きゅん☆ あ、これデー……」

「ともかく出かけますよ!」

 無駄に元気に声を張り上げ、セノの言葉を遮るエリザベート。

 どうやら何かクリスマス的イベントがあるというわけでもないのに、デートのような話が上がってきたようだ。

 もっともそこら辺は次回にお預けだが。



※   ※    ※    ※



 そんな王城とほぼ同時刻。

 王都マグノリリスの地下にある、冒険者ギルドの地下訓練場。

 今日も今日とて、ひよっこも荒くれも入り乱れて木刀を打ちあったりしている今日このごろ。むわっとした空気の悪い中に、一人の男が現れた。

「邪魔するぜ。……全く、本当どうにかしろよこの空気は。――ヴェンティル・フリド」

「あん、冬場はギルドのこの暑苦しい空気がいいんじゃねえか。寒くねえんだぞ、お陰で。だというのにイチャもんつけるのは誰だ――おお!?」

 侵入者たる男の魔法にて、あっという間に寒気されるギルド。外気をどこから取り入れているかと言えば、当然地上に向けて儲けられた寒気口からである。

 しかし普通外気と交換すれば室内は冷えると言うもの。誰一人として、ギルドの中でそれを実行しようという輩はいなかった。

 だというのに、侵入者たるスキンヘッドの男は、飄々として行うではないか!

 しかもその結果、予想されていた冷気などどこからも入ってきていないときている。

 驚愕するオールバックの、生意気そうな少年ギルド職員に、男は肩をすくめて教えた。

「ここはかつて“彩雲(さいうん)(あめ)(ゆみ)”ってギルドが作った地下訓練場だ。設置されてる換気の魔法具も、ギルド名にそったものだぞ。風と水の元素を流して、火と土の元素を滞留させ熱量を大きく変化させず、新鮮な空気を流しこむってな。空気溜め込めるほどここの地下は広くないから、それくらいやらないとぶっ倒れるの出てくるだろ。一応教えておいたはずなんだが……」

「いえ、そんな話聞いた覚えは……」

 生意気そうだった態度を途端に改める職員。

 男の上げた名前が持つ威力に、身を引いたのだ。

 彩雲の雨弓。

 かつて、オルバニア王国における最大規模だった冒険者ギルドの名前だ。

 いわく、色とりどりのごとき個性派揃いの冒険者たちが、雨の粒を数えるのが難しいように、それだけの数を抱えていたと。

 一時は軍と騎士団の合計すら上回っていたという噂すらあるほどである。

 彼等が動けば経済が動く、とま揶揄されたほど、多くの冒険者を自国、他国関係なく抱え込んでいたのだ。

 現在では一部の施設と数少ないギルドハウスを残すばかりとなっているが、その伝説的な名前は、ギルド崩壊後三十年近くたつ今においても変わらずである。

 そしてその名前を挙げ、なおかつこの場所の使い方を知っているとすれば、必然その素姓が窺い知れる。

 数少ない“彩雲の雨弓”が生き残り、というだけで、ある意味歴史の生証人みたいな扱いなのだ。

 さてともかく、地下の冒険者たちも内部の環境改善に徐々に気付き始める。生意気だった職員と同じくらいの少女たちが、換気をしたことを説明した。

 新鮮な空気で、なおかつ冬場の寒さをしのげる暑さ。

 騒ぎとまではいかないものの、ちょっとした盛り上がりを見せ再び戦い合う冒険者たち。

 そんな光景を見つつ、男は自分のスキンヘッドをばしばし叩いた。

「……冒険者ってのはもっと頭を使う仕事だと思ったんだが、ここまで殴りあうことしか頭にないのが多いって、大丈夫なのか?」

「さ、さぁ……」

「ステイツの冒険者学校つくろうっていう話、案外馬鹿にできねーか? これだと……。

 まあ良いか。とりあえず教えたぞ。そこの壁に向かって風の元素だ。呪文は普通に換気。そうすれば魔法石経由で、寒気口にある魔導具に干渉して空気の入れ替えが起こる。

 大体一回起せば一刻は動き続けるから、そのつもりでな」

「あ、はい! ありがとうございました」

 頭を下げる少年に手を振りつつ、男は階段を登る。

「さて、イシュリーたちはどこに行ったものか……」

 そんな彼の背には、それなりに大きなボウガンが背負われていた。



風車 からからから

????「あ、『ててん』さんだ!」

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