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EX:鎖の迷宮

年内最後の更新です。記念すべき? 百話ということでちょっと特別編。

 

 

 道端で、青年が倒れていた。

 死んでいるような目をした青年だった。


 

「生きていればそのうち良いことはある。だからそんな目をするな、でぃん☆ こっちの気分が悪くなってくる」

 褐色の小さな少女は、年齢にそぐわないニヒルな笑みを浮かべる。



「立ちなさい? 貴方は――私の友達なんだから。勝手に死なせないわよ? ×××」

 倒れる彼に、長身の美青年は盾に収められた剣を手渡した。



「アンタが勇者でよかった……。アンタみたいなヒトが勇者で、本当に良かった……っ」

 小さな少女は太陽のような金髪をゆらし、青年の足元で涙を流した



「私はカノンだ。まあ適当に覚えて置け」

 長い黒装束の彼女は、ふふっと友好的な笑みを浮かべる。



「そんな暴虐を平然と行うならば、君は畜生よ。畜生以下よ。破壊神すら受け取りを拒否するほどに」

 黒い短髪をゆらしながら叫ぶ彼女の目は、怒りに燃えていた。



「前を見て歩けば、障害物くらいわかるでしょ? そうやって生きれば良いじゃないですか」

 青年の両手をとる修道女は、何ということもないように振舞う。



「すがるものなど最初からどこにもないのさ」

 言い聞かせる青年の目には、なんら感情もともっていなかった。



「――純粋であれ、信じた道を往け」

 褐色の男はそう言いながら、青年と同時に足を踏み出した。



「なんでそんなに君は――」

 商人の青年の困惑に、青年は無表情をつらぬく。


「ゾートだ。自分が殺される相手の名前くらい覚えておけ!」

 白い虎のような顔をもつ大男は、魔法で両手に巨大な爪をつくりだし、彼に牙をむいた。



「×××は――必要とされる何者かに、なりたかったんだね」

 青年の頭を撫でる彼女の言葉に、返答はない。



「あなたが、勇者……? 私、これからどうなるのですか?」

 角をかくしながら、小さな少女は黒い服の青年に怯えた目を向ける。



「ご武運を、でございます」

 青毛の少女は、そう言って火打石をかちかちと打ち鳴らした。



「見ぃつけた――うふふ♪」

 黒々とした気配をたちのぼらせ、彼女は彼に一直線、まっしぐらに突撃する。



「どうしょもないじゃない、こんなのっ!」

 叫び声をあげつつも、少女の目に諦めは浮かんで居ない。



「神を殺さなければならないなら、殺すよ。×××のためにそれが必要なら殺すよぉ?」

 個室の浴場にて、体に布を一枚巻いた彼女は、青年を前から抱き閉めて言う。



「武勇の光よ、ここに!」

 大男が、装飾の多い剣をかかげながら、叫ぶ。



「大魔術が……、消えた?」

 鎧でごてごてした騎士が、冷や汗を浮かべた。



「あははははははははは、本気でやったの、すごいじゃなぁい?」

 赤い毛の空族ロングノースの少女は、けらけらと崩壊した戦場を嘲笑う。



「あの人のためなら、今でも――」

 不定形の黒い老人に、幼い少女は困惑を覚える。



「やあ、勇者。我輩が――」

 青年は仮面をつけて、目の前の彼に言う。



御主人様(マスター)たちのために、強くなりたいんです! 強くならないといけないんです!」

 懇願する少女は、悲壮感以上に根気と執念に燃えた目を向けながら、頼み続ける。



「仇をとりたい。あいつらの」

 スキンヘッドの男の酔いは、その一言を語った瞬間完全に覚めた。



「殺すよ、殺すよ? 頭ぶった斬って胴体真ん中から割いて顔面ぐしゃぐしゃに蹴飛ばして燃やしてすりつぶして爆発させるよぉ?」

 燃える光景の中、彼女は凄惨に微笑みながら刀を二本抜刀した。



「必要があるなら叩く。それが軍人だ」

 鎧姿の魔族の男は、なんら感慨もなさそうに言う。



「頼む×××よ、娘を――」

 年の離れた大いなる友人に、黒服の青年はただただ困惑するほかなかった。



「えっと、生きて帰ってきてください。×××さん」

 少年の言葉に、青年は「善処はするが?」と肩をすくめた。



「誰かに支えられるのが恐くても、誰かを支えることくらいはできるだろ? お前でもな」

 月を見上げながら、黒服の青年とスキンヘッドの男は語り合う。



験担げんかつぎだ。なに、指輪はまだ早いって?」

 困惑する彼と、意味を理解していないような彼女がある意味好対照だった。



「なにみんな心中するみたいな顔してるのよっ。私は――生きるわよ。生きるために立ち向かうのよっ!」

 克を、彼女は入れる。金髪を振り乱しながら、彼等を激励する。


「『すまない……、オリバー』」

 黒い煤の抜ける少女は、そう呟きながらやがて動かなくなった。


「血で血を洗うが闘争の連鎖だ。――だが、俺は引かん!」

 幼女を肩にかかえつつ、男はボウガンを構える。


『カノンさん、×××様のこと、たのみます、よ? ……幸せに、なって、く――』

 うちふるえる鎧は、何を思って居ることだろうか。内に響く声に、ただただ頷くほかなかった。


「悲しいなぁ、×××よ。我輩も、悲しいぞ」

 それでも巨竜は、黒い青年を見下ろして笑う。


『ダメだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!』

 こだまする絶叫は、確実に青年の耳に届いた――。


「それでも、カノンに死んで欲しくないんだよっ! もう、俺は!」

 彼女は、ここではじめて彼の顔を見た。


『どうか――全てのヒトが、楽しく暮らせる世界にしてくれ』

 抱きしめられながら、彼は――その言葉に、答えることはできなかった。



「それでも、ありがとうございました。×××さま」

 頭を下げる少女に、彼は、少しでも笑おうと努力をした。



「×××は、がんばったよ。だから私がそばにいてあげる。いつも言ってるじゃないか。私は、君にすべてを――」

 浅い眠りと深い眠りの狭間、彼の心はようやく――。



※   ※    ※    ※



「――っ、は、は、は、」

 アスターリックスは、医務室のベッドから飛び起きた。

 目を見開き、月光でもわかるほどに土色の顔をして、肩を揺らす。息も絶え絶え、震える手はズボンを握り、全身の汗腺という汗腺が開いていた。

「はっ、はっ、はあっ、はあっ、はあ……」

 周囲に誰もいないのを確認しつつ、彼は魔法石の入った棚の下を開け、エイトラインの柄を取り出す。

「……えっと、今のは何だろう?」

 不確かな記憶。混濁する意識の中で、忘れ始めている夢。

 しかしそれでも、その夢は彼にとって重要な意味を持つ何かであるはずだ。

 だが、何であるかという正体については見当がつかない。

 いや、わかろうとしているのだ。しかしそれでも――肝心な思考に至ろうとした瞬間、何かがそれを理解することを拒絶するのだった。

「……これは?」


『”鎖の迷宮”に、踏み込みすぎたのね』


 突如、声が聞こえた。

 ひゃっと飛び刎ねて周囲を見回す。が、それらしい影は一つも見当たらない。

 困惑するアスターに、声はやさしく続けた。

『混乱してるでしょうけど、気にしなくても大丈夫。じきその混乱は収まるから』

「……誰?」

『うふふ。いずれわかるわ? ()()()()()の子はみんな気難しいけど、貴方が今挑んでいる子は、まだ優しい方だから』

 その声も、起きている現象も何一つ理解できないアスター。

 だが、声は優しく続ける。

『”第三の災厄”は、シュナとあの子の選択によって回避されたけど、少なくとも貴方の魂は、一度その流れに乗ったことがあるの。だから、貴方の至る絶望の果ては、結局そこに行きついてしまう。今回はその更に奥の、あの子が見てきたものにぶつかっちゃっただけ』

「……あの、もしかして貴女は――」

 言ってることは何一つ理解していないまでも、しかしその声に、ひょっとしてという心当たりの出来たアスター。

 だが、声はふふっと微笑んでそれには答えない。

『とりあえず、一日三十回はやりすぎ。いくらメラちゃんでも、精神限界に挑戦されることまでは想定してないから。心が魂から離れて、迷宮の方に引っ張られちゃったのよ』

「あ、はい……? とりあえず回数控えろと」

『よろしい。じゃあ、()()()によろしくね~♪』

 その言葉を最後に、声は聞こえなくなる。

 アスターはエイトラインを見つめつつ、思わず呟いた。


「……えっと、運命の女神様? ノリ軽かったなぁ」


 女神の声が聞こえた、という事実が何を示してるのか。今のアスターはまだ理解していなかったが……述べられた感想だけは、酷く妥当なものだった。

 

 

どの台詞が誰の台詞なのか。ちなみにカノンさん、結構しゃべってます。


それでは良い年末をノシ



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