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一章プロローグ:拷問のごときカルチャーショック

初投稿、エタるフラグそこそこ有りですが、頑張って完結目指していくんでよろしくお願いします!

 どうしてこうなった。

 今現在、リックの脳内を占める感想は間違いなくそれだ。

 鉄で出来たトロッコのような乗り物の上で、彼は思わず頭を抱えた。

 嗚呼、本当にどうしてこうなった。

 思えば、今日は最初からついていない日だった。

 魔族だろうが人間だろうが、賭け事を好むものは多い。

 彼も他聞にもれず、賭け事が大好きだった。

 当然、汚い真似はしない。

 神聖なる賭け事には、真摯な姿勢で臨むべしというのが彼の信条だったのだ。

 だからいつも、平均するとあまり稼ぎはよくない。

 しかし彼にとっては、あのサイコロの目を予想するときの緊張感がたまらなく快感だった。

 周囲の奴等の表情も引き締まり、まるで戦争でもおっ始めようかというほどに張り詰めた空気。

 その中で、己の直感と幸運に身をゆだねることが、至上の快楽だった。

 ハーフトロールの彼からすれば、戦の中での緊張状態こそが、最もリラックスできる精神状態なのだ。

 これはトロール種族の傾向でもあるのだが、実際に傷を付け合ったりすることなく、同種の快楽を得られる辺りは彼個人の趣向に他ならない。

 だからこそ、あまり賭け事の結果に頓着はしていなかった。

 だからこそ、今日の出目の悪さも「こんな日もあるか」という程度にしか考えていなかった。

 いつものように仲間同士でチップを賭けあった後、本職である冒険者としてダンジョンモンスター退治に出向こうとした。

 その途中で彼らの色情を刺激するような美少女の魔族を見ても、いつものように絡みに行っただけにすぎない。

 そういった行為は狩りに似ており、賭け事とは別種の緊張感が伴う娯楽であった。

 もし運よく狩れれば、一時的でも男五人の快楽が満たされる。

 狩れずとも、それなりに楽しめるのだ。

 そう、そんな時に「彼ら」は現れたのである。

 天高くそびえる線路の上で、リックは再度思う。

 嗚呼、どうしてこうなった。

 「彼ら」の誘いにさえ乗らなければ、自分は今、こんな状況になっていない。

 まるで塔のように聳え立つ線路にそって、鉄のトロッコは上昇していく。

 その線路は、地面の上にあるものではない。

 金属で作られた、立体的な線路である。

 そんな線路が、上向きにのびている。

 それを、トロッコは天に向かって走っているのだ。

 何台か連結したトロッコは、まるで意志でも持っているかのように上り続ける。

 彼の常識ではまずありえない現象であったが、ダンジョンならば何でもありだ。

 低いところから高いところへ、ひとりでにトロッコが上昇していたところで、違和感を覚えはしない。

 車体から感じる魔力からして、そういう仕掛けなのだろうと納得する。

 問題は、そう、そこではない。

 高すぎるのだ。

 あまりに高すぎるのだ。

 リックは元々、片親が山出身である。

 そのため実家でもある山奥に時折顔を出すのだが、この線路の向かう頂上は明らかにその高さよりも上だ。

 ダンジョンの中だから分からないだけで、ひょっとすると雲すら突っ切っているのかもしれない。

 そんな頂上に向かうトロッコから、彼は地面を見下ろす。

 はるか彼方にある地表。

 決して彼は高いところが苦手というわけではないのだが、未知の標高に漠然とした不安感を抱く。

 こんな高さから振り落とされたら、まず自分は助からないだろう。

 幸運なことにトロッコに備え付けられていた固定具で、身体は車体から離れないようにされてはいたが、それでもこの高さは恐ろしさを覚える。

 薄緑色の肌が、こころなしか青くなっている気さえする。

 自分だけではない、他の仲間の顔もどこか青い。

 冷静沈着なリーダー格の獣人でさえ、いつも以上に口数が少ない。

 やがて線路の先がダンジョンの天井のみとなった時、彼らは一様に安堵を覚えた。

 ようやく地表に帰ることが出来るのか、この高さとオサラバすることが出来るのか、と。


 だが、彼らは、まだ知らない。

 行きがゆっくりだったため、彼らは根本的に勘違いをしているのであった。

 このトロッコ――もとい、ジェットコースターの真の恐ろしさを。


 もし彼らの中に三半規管の強い魔族が居れば、多少はこの後の展開はマシなことになったかもしれない。

 しかし残念ながら、時の運は彼らに味方しない。

 頂上まで達したコースターは、やや停滞した速度で頂上の線路を進む。

 地面と並行になっているレールを、ゆっくりと走る。

 嵐の前の静けさなのだが……彼らは暢気にも、頂上から地表にあるダンジョンのトラップを見下ろしていた。

 最初に異変に気付いたのは、当然リックである。

 先頭車両に居た彼は、メンバーの中で最初に、線路が地面に急降下しているのを目撃した。

 しかし速度が変わらないと錯覚していた彼は、気にも留めなかったのだ。

 そして、その時がくる。

 車体が傾いた瞬間、トロッコを動かしていた魔力が消失したのを彼らは感じた。

 それに「おや?」と思う彼らだったが、そんな違和感はすぐに消滅した。

 そして、車体は道なりに前進し――。


 一瞬の空隙の直後。

 時速百七十キロの衝撃が、彼らを襲った。


「「「「「ぎゃあああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」」」」」


 頬の肉がえぐられるような感覚の中で、仲間共々、喉が枯れるほどに野太く絶叫する。

 そこからの時間は、彼らにとってあまりにも未知の苦痛であり、あまりにも未知の拷問であった。

 全身の血液が頭に集り、爆発しそうな感覚の中で、彼は思わず考える。

 嗚呼、本当にどうしてこうなった。

 リックだけではなく、他のメンバーも大体同意見である。

 そして朦朧とする感覚と体感したことのない気持ち悪さに、リックは自らが意識を手放した。

 こうして今日は、彼らの間で最も恐ろしい出来事があった日として刻まれた。



※   ※    ※    ※



 そんな魔族の冒険者たちを、遠方から観察している人が二人。

 場所は、一言で言えばモニタールームである。

 おおよそ魔法が技術の基本であるこの世界からして、あまりにも不釣合いなほどの科学的技術力が凝縮された場所だ。

 薄暗い部屋の中にある数多のテレビ画面には、ジェットコースター各所に設置されたカメラの映像が写されている。

 そんな場所でモニターを覗きながら、黒いスーツ姿の青年は歓喜の声を上げた。

「ひゃっはー! やっぱりジェットコースターのリアクションはこうでないと!」

 顔立ちは柔和で優しそうな印象を受けるが、半透明なサングラスとオールバックな黒髪のせいで妙な胡散臭さが漂う。

 左腕には「支配人」と書かれた腕章。

 嬉しそうに身もだえする青年は、まるで悪戯が成功した少年のようですらある。

 そんな彼の見た目は完全に人間であり、魔族の特徴のようなものは見当たらなかった。

 彼の背後ろには、エプロンドレス姿の少女が一人。

 赤毛に無表情の美人である。

 両方のこめかみの辺りから、金色の角が生えている。

 メイドは喜び勇む主人に、一度咳払いしてからこう注意した。

「魔王様、拷問を見て楽しむのはいささか趣味が悪いかと思うでございます」

「しゃらっ~っぷ! 支配人と呼びなさいッ! ……って、ちょ、何が拷問だしッ! 世にある数多くのアミューズメントパーク最大の、人気ナンバーワンアトラクションだってのッ!」

 譲れない何かがあるのか、青年は力強くメイドの言葉に反論した。


 これは、ひょんなことから一人の青年が、異世界に遊園地を作るようなお話。

 たぶん合ってる。

 大体合ってると思う。


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