現れた人造生命体
エルリールに降りた三人は、宇宙航空ステーションの一階ロビーに集まる。
「じゃあフラン。ここでお別れだな。」
「ああ。俺は警備部隊の迎えが来るまで、ここで待たなくてはいけないからな!お前等はスラム街へ行くんだろ?シリアを護ってやれよ!」
フランはレイドに目をやった。
「分かってるよ。お姫様には指一本触れさせないよ。」
「レイド!それでこそ男だ!」 よく言った!というようにフランはレイドの肩を叩く。その二人の妙な展開の中、
「ハイハイ。行くわよ。」
シリアは呆れたような口調でレイドを促した。
レイドとシリアはフランと別れ、ステーションから外へ出る。そこは、真っ白な雪が積もり、今もなお空を舞っている。このエルリールは、年中冬の極寒の惑星。雪が止む事はあるが、全部溶けることはない。
「やっぱり、寒いわね。」
シリアは両手に息を吹きかける。
「じゃあ、急いで行きますか。」
「スラム街ってどこにあるの?」
「ここから二つ街を抜けたところにあるリディエラの中だ」
レイドとシリアは、街と街を繋げるタイムゲートでリディエラへ向かった。
傍から見れば、スラム街があるような感じでは無いほど静かな街であったが、その街の奥には確かに存在した。ボロボロの服で座り込んでいる老人もいれば、ゴロツキも多々歩いている。人の多いテトランスでさえ、こんな光景を見ることはない。その中を歩いていると、案の定、ゴロツキ共に囲まれ、シリアが標的にされる。
「そこの美人なお姉さん!俺達と一緒に遊ぼうぜ!」
「…悪いけど、遠慮しとくわ。」
シリアは冷めた目でゴロツキを見る。
「そんな頼りなさそうな男より、俺達の方が役に立つぜぇ!」
「どうかしら?あなた達じゃ役不足に見えるけど…。」
口元を緩めながら男達に言った。シリアの態度に、男達は見る見る顔つきが変わっていく。
「いい度胸じゃねぇか!少し痛い目にあって貰うぜ!!」
シリアに殴りかかって来る一人の男を、レイドが困惑した顔で蹴り飛ばす。
「うちのお姫様を怒らせないで貰えるかな?」
「テメェェ!!」
残りの奴らが一斉にレイドに向かって来る。しかし、レイドの敵ではなかった。短時間で全てのゴロツキ共はレイドの前に倒れ込んでいった。
「バカなやつらね。」
「行こう!店はすぐそこだ。」
レイドとシリアは少し先の古びた家へと入る。
「外が騒がしいと思ったら、やっぱりお前か…レイド。」
部屋の中にいた無精髭の男がレイドに声を掛けた。
「少しは学習して欲しいよ。それよりグリン!頼んでいた物、出来てるか?」
「ああ。少し待ってろ!」
そう言って男は奥の部屋へ姿を消した。
「本当にここで剣が手に入るの?」
シリアは何もない部屋を見回してからレイドに尋ねる。
「ああ。あいつはグリン。最高の武器職人だ。武器が表に出回る事は無いけどな。」
すると、グリンが一本の剣を持って戻ってきた。
「ホラ!前みたいに簡単に折れる事はないぜ。」
それを受け取ると、鞘から剣を抜いた。その剣は、輝かしい程の白銀の刀身であった。
「想像以上だ。有り難く使わせて貰うよ!」
「今度来るときは、手土産の一つでも持ってきて貰いたいね!」
「ハハハ。そうするよ。じゃあまたな!」
二人は、グリンの家から出る。
「とりあえず今日は、最初の街で一泊しましょ。」
「そうだな。」
空は既に暗くなってきていたので、二人は最初の街で宿屋を探しに戻った。
街で宿屋を探している時、
「レイドさーん!」
その声に二人は振り返る。そこには一人の少年が息を切らして走ってきていた。
「ルイか!お前もフランと一緒にモンスター退治に呼ばれたのか?」
「ええ…。フランさんからレイドさんがエルリールに来ているって聞きましたから!」
ルイは、呼吸を整えながら話す。どうやらルイもハンターのようだ。
「何かあったの?」
シリアが慌てていた理由を聞く。
「実は、最初のうちは只のモンスターだったんですけど、突然見たこともない化け物が現れたんです!」
「化け物…?」
「そうです!もう刃物は効かないし、銃も効かないし、身体はイカツいし、人間のような感じなんですけど顔はもう人間の顔じゃないし――」
「とりあえず、落ち着いてみようか。ルイ。」
慌てふためいているルイの肩に手を置くレイド。
「とりあえず、そこに行ってみましょう。」
レイドとシリアはルイに案内され、その場所へ向かった。
その場所は辺り一面真っ白な草原であった。その中央で、フランと警備部隊の人間が戦っていた。その相手は人間をベースにしたような2メートルはある怪物。身体はどす黒く、筋肉は半端なものではなかった。
「なるほど…。確かに化け物だな。」
相手を見て、ルイの言葉に納得した。レイドとシリアの姿が目に入ったフランは二人に駆け寄る。
「悪いな、二人とも!」
「別にいいわよ。それより、何なの?アイツ。」
「それが分かれば苦労はしない。並大抵の力ではないうえに、あの筋肉で刃物も銃も通用しない!人間のようで人間じゃない。あんな化け物初めてみるぞ。」
確かに化け物を見ると、かすり傷は有るものの、致命傷となる傷が全く無い。
「しょうがねえ!ここは俺が説得しよう。」
そう言ってレイドは化け物に近づいていった。
「……説得って…?バカでしょ!?アイツ。」
シリアは呆れた表情で呟く。一方のフランも呆れていた。
「……それはシリアの方がよく知ってるだろう。」
二人は静かにレイドを見守った。
レイドは化け物の前に立つと、
「あ〜。君は完全に包囲されている!大人しく降参――うわっ!」
レイドの説得虚しく、化け物は攻撃をしてくるが、それを瞬時にかわす。レイドの立っていた場所は、怪物の攻撃で大きなクレーターが出来ていた。
「コイツは処刑だな。」
レイドは貰ったばかりの剣で斬りつけるが、その剣でも致命傷を与えることは出来ない。未だ戦い続けているレイドを見て、フランが口を開く。
「何か弱点でもあればいいんだが…。」
「弱点かどうかはわからないけど、やってみるわ。」
シリアは、銃のエネルギーパックを外し、新たに違う種類の物を装着する。
「レイド!下がって!」
レイドはその声を聞き、化け物から距離をとると、シリアは銃を撃つ。それが命中すると、化け物は全身炎に包まれた。
「火炎性エネルギーか!?」
「ええ。でも、さっきのでエネルギー切れね。次は無理よ。」
シリアはそれを捨てると、いつものエネルギーパックに変え、銃を戻した。
化け物が倒れたのを確認したレイドは、シリアの方へ戻っていった。
「そんなんあるなら言ってくれよ。」
「言う前にレイドが向かって行ったのよ!私のせいじゃないわ。それよりレイド、あれについて考えられる事は?」
「人造生命体…だな。」
「人造生命体だと!?」
フランが驚く。人造生命体は人間とモンスターの力を融合したものだ。その危険度から全ての惑星で製造を禁止されている技術である。
「まあ何にしろ、これでジェルラードも動くだろうな。」
レイド達は、その場を警備部隊に任せ、街へ戻って行った。
「デロンが殺られたか…。あまり使えなかったな。」
茂みの中で先程の化け物を見ていた三人の人物。その中の一人が呟いた。
「お前の任務を邪魔したのは奴らか?」
「そうだよ。」
少年が答える。
「…次はお前の任務だったなラーグ。奴らが来るかもしれない。お前の力を見せつけてやれ!」
ラーグと呼ばれた人物は頷く。
「メテオカノンを手に入れれば、ヴァルログ様の計画も完璧に近づく。」
そう言い残し、三人の人物は暗闇の中へ姿を消していった。




