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日常を求めて(前)

 モニターでは見ていたが、やはり実際の目で見ると酷い現状であった。

 全ての建物は崩れ落ち、美しかった街並みが何一つ残っていない。あちらこちらで倒れている人も既に動かない。生き残りは半壊したステーションの中で見たが極僅かだ。何度か足を運んだことがある二人も、今何処の辺りを歩いているのか把握出来ないでいた。それだけ周りの景色が一緒なのだ。

 1つ違うのは、崩れ去ってしまった街中に、堂々とそびえ立っている黒く、歪な建物。

 今の技術力ならば間違いなく最高レベルの建物、と言っていいだろう。

 砂漠以外に有名な物は無いここヴァイラに、平和な街の風景と引き換えに新たなシンボルが出来上がっている。それは誰一人と望んでいなかった物。街の人達には何一つ得ることが無い物。

 その皮肉な建物を目指すレイドとシリアはひたすら廃墟と化した道を歩いていた。

「……レイド、気付いてる?」

「ああ。何もしてこないから、ほっとくと思ったんだけど。」

「そろそろウザくなってきたわ。」

 そんな会話をしつつ、二人は立ち止まり後ろを振り返る。

「もう出て来たらどう?」

 二人は少し前から視線を感じていた。何かを仕掛けて来る訳ではなかったので、気付かぬ振りをしていたが、シリアのイライラは我慢出来なかったようだ。

 そして、シリアの声で崩れた建物の陰から一人の少年が出て来る。

「やっぱり来たんだね…。」

 その俯いている少年にレイドは見覚えがあった。

「久し振りだな、少年!」

「知ってるの!?」

 少し驚いているシリアにレイドは頷く。

「最初に襲われた宇宙船の中で、幻影装置を操作していた少年だ。」

 シリアもその時を思い出す。

「あぁ、あの時の…。やっぱりバージルーズの一員だったのね。」

「二人とも、ヴァルログを止めに来たんだよね。」

 未だに俯き、力無い声で話す少年。最初に会った時と明らかに態度が違う少年に、レイドは少し疑問を持つ。

「……ああ、そうだ。」

「もう無理だよ。……完全体も完成間近。鉄壁の城も出来た。もう誰にも止められない。」

「止めてみせるさ。俺達が…。」

「無理だよ……。ヴァルログは絶対の存在なんだ……。」

「じゃあ……何故あなたは泣いているの?」

 少年は俯いたままだった。しかし、地面にはポタポタと水滴が落ちていた。

「僕は…こんな事まで望んでいなかった。ただ、僕を捨てた両親を…ただ……見返してやりたかっただけだったんだ!」 

 それは初めて少年が打ち明けた心の叫びだった。少年の願い、苦しみ、罪悪感、などの感情が二人には痛いほど伝わって来た。

「少年…。もう充分苦しんだだろ。後は俺達に任せて、幸せになれる道を探すんだ。」

「たった二人じゃ何も変わらないよ…。そして、ヴァルログを裏切れば僕は殺される。僕は死にたくないんだよぉ!!」

 そう言って、少年は仮想物体を出す。

「僕の生き残る道は…二人を止める事なんだ!」

 少年の出した仮想物体のモンスターは一気に二人に襲って来た。いち早く動いたレイドは、そのモンスターを素通りすると、少年の目の前に立つ。慌ててナイフを出そうとする少年だったが、レイドの手の方が早かった。

 首筋を打たれた少年は、薄れゆく意識の中で、悲しそうな笑みを浮かべているレイドが目に入る。

(ごめんなさい……。)

 それが、少年がこの絶望の中で感じる最後の思いであった。

 レイドは倒れる少年を受け止め、手に持っていた幻影装置を壊した。その後、少年を抱え、大きな瓦礫の上へ寝かせた。


「今は、ゆっくり休め。次起きた時に見る景色は、平和な日常だ。」

「ええ、そうね。その時は、あなたを縛る物なんて、何も無くなっている筈よ。」 

 二人は、寝ている少年にそう言った後、静かに離れて行った。



 そびえ立つ建物の中へ入った二人が最初に目にしたのは、その通路を埋め尽くす程の人造生命体だった。

「ようこそ!お二人さん。囁かながら、それは私からのプレゼントだ。私は頂上で待っているぞ!充分に楽しんでくれ!」

 その場所に響き渡るヴァルログの声。そして、着々と二人に近付くプレゼント集団。

 二人は早速、新しい武器を構える。

「さて、レイド。パーティーの始まりよ。それなりに楽しませてくれそうよ!」

「そうだな。俺達のプレゼントも受け取って貰わないとな!」

 二人は一気に敵の中へ突っ込んで行った。



「凄いわ、この銃!」

「これが終わったら、かなりのお礼をしないとな!」

 二人は次々と人造生命体を倒していく。その速さはエルリールで50体倒した時の比ではない。

 そして、1階にいる敵を全て倒し、奥まで進むと上へ繋がっているであろうタイムゲートが設置してあった。

「これで最上階まで行けたらな…。」

「無理な願いね。多分…。」

 少し期待していたシリアの思いも虚しく、上へ移動した直後に目にしたのは、これまたかなりの数の人造生命体であった。 

「こんなに沢山プレゼントは貰えないわ。」

「処分あるのみ!!」

 二人は再び敵に向かって行く。

 二人が入ったのは夕方。

 それから2時間はたった頃にやっと中枢近くまで来ていた。



―――その頃、最上階では―――


「ヴァルログ様。二人が中枢区画まで到達しました。」

 ダインがヴァルログに近付く。そのヴァルログの後ろには、研究所で見たようなカプセル型の機械が置いてあった。その中には、ラーグと同じような人物が繋がれている。

「そうか、早いな!やはり使えん失敗作共だ!」

 強い口調で言いつつ、ヴァルログの表情は穏やかなものだった。そしてその目線は、ダインからもう一人の人物に移る。

「ラーグ。そろそろお前の出番だ!今度は時間はたっぷり有る。楽しんでこい。」

 ラーグは返事をすることなく、いつもと変わらない無表情でその部屋を出て行った。

 それを満足そうに見つめた後、ヴァルログはカプセルに手を付ける。

「この完全体が出来上がれば、私の計画は成功したも同然だ。」

「ヴァルログ様。私とラーグで事足りると思いますが…。」

「何だ、ダイン。お前は完全体を動かす事に反対だったか?」

「反対という訳ではありません。しかし、それが暴走した場合、私でも止める事は出来ません。リスクが大きいかと……。」

「心配するな。こいつを動かすのはもっと先だ!今はお前達だけで事足りる。……久々に戦ってみたいか?ダイン。」

 ヴァルログはダインに笑みを浮かべた顔を向ける。

「……ラーグがやられれば、そうなるでしょう。」

 ダインの言葉に、ヴァルログは大きな声で笑い飛ばす。

「それは無いだろう!奴らは一度、ラーグに負けている。何回やっても結果は変わらん!」

 ヴァルログはカプセルに入った完全体を見ながら笑い続けていた。



「ふう。うじゃうじゃと歓迎してくれるわね!」

「毎回同じ歓迎されても、楽しさが無くなるってもんだ!」

「もう中枢まで来たと思うんだけど、どう思う?」

「窓がないから分からん。ずっとここにいたら時間が麻痺するな!」

「同感ね!…あったわ。次のタイムゲート!」

 二人は入って、何十個目かのタイムゲートに乗った。

 そして、この階も順調にタイムゲートの場所まで行き着いた。しかし、そこには一人の人物が待ち構えていた。

「おっと、メインイベントの始まりだ!」

「あの時の借りは返させて貰うわよ!ラーグ!!」

 ラーグはいつも通りに剣を構えた。 

「お前達では、勝てない。」

「あの時の俺達だと思うなよ!」

「もしそう思っていると、痛い目見るわよ!」

「……来い。」

 ラーグのその声で、まずはレイドが向かって行った。

「お前には、剣を折られたな。お返ししてやるよ。受け取れ!」

 レイドは思いっ切り剣を振るった。それを無難に剣で受け止めようとするラーグだったが、レイドの宣言通り、その剣は真っ二つに折れる。

「次は私の番ね!」

 シリアは銃を放つ。こちらも左手でガードするラーグだが、その威力は前とは桁違いのものだった。

 ラーグの左腕は肩から千切れ、壁にぶつかる。その自分の腕を無表情で見つめているラーグはレイドの一撃によって倒れ込んだ。

「だから言ったろ。前と同じだと思うなって。」

「痛い目見るわよって。」

 レイドとシリアはラーグの横を通り抜け、タイムゲートで上へと上がった。

 そして、残されたラーグはゆっくりと目を閉じた。

 結局、最後までラーグの表情は変わることはなかった。




「ヴァルログ様。」

「なんだ、ダイン?奴らを仕留めたのか?」

「いえ……、ラーグが殺られました。」

「!!!!」

 椅子に座っていたヴァルログは物凄い勢いで立ち上がる。その座っていた椅子はバタン、と床に倒れる。未だに声を出すことが出来ない様子だったが、無理矢理絞り出す。

「今、……なんと……?」

 やっとの思いで出した声は、聞き取る事が困難なほどガラガラだった。

「ラーグが殺られました。……一瞬で。」

「バカな!!そんな筈は無いだろう!なんの冗談だ!ダイン!!」

 しかし、ヴァルログの言葉にダインは首を横に振る。

「ヴァルログ様。我々は、最も危険な奴らを招いてしまった、と言うことです。」

 ダインの対応に冗談というものは無かった。それはダインの表情をみれば一目瞭然であった。

「そんな……、私は…どうすれば……?」

 既に、これ以上無い程同様しているヴァルログに、ダインは静かに声をかける。

「……私が行きます。ヴァルログ様はもう、完全体を動かすしかありません。それだけが、あなたの生き残る手段です。」

 ダインのその言葉は何を意味しているのか、ヴァルログにも感じる事が出来た。

 そして、ダインはゆっくりとヴァルログに背を向けた。

「ダイン!!」

 ヴァルログの呼び掛けに、背を向けたまま立ち止まる。

「お前は、私の右腕だ!……必ず戻ってこい。」

「………ヴァルログ様。………ありがとう、ございました。」

 振り向く事無くそれだけ言い残し、ダインはヴァルログの元を後にした。

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