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期待と協力

 

「レイド…?これはどういう事かしら?」

「俺に聞かれてもなぁ…。」

 レイドはシリアの問いに困惑しながら答える。

 エルリールの宇宙航空ステーションの1階ロビーで足を止めるレイドとシリア。

 そこのロビーには沢山の人が集まっていた。

人造生命体が街に現れた事で、ステーションの中に非難しているのか…。いや、ならばこの二人を見た周りの反応がおかしい。歓声とも思える声が聴こえれば、何やら見たこともない鉱物や武器のパーツを運んで来る。それに、皆の表情はひと仕事終わったように疲れていた。中には全身泥だらけの奴や、傷だらけの奴もいる。只の避難民だとは思えない。

「よう、お二人さん!」

 二人の前に現れたのは、武器職人のグリンであった。

「グリン…これは一体……。」

「四聖官様から連絡が入ってな!なんでもお前達の武器が効かなかったらしいじゃねーか!?」

「あ、ああ。それで今からグリンに会いに行くとこだったんだが…。」

「そのぐらいの事は分かってたよ!だから、俺達武器職人が集まって今から最強の武器を作ってやる。」

 グリンがそう言うと、数人の武器職人が前に出る。恐らく、全員が腕に自信を持っているのだろう。その顔にはかなりの意気込みが感じられる。

「グリン!最後の材料、手に入れてきたぞ!!」

 人混みをスルリと抜けて声を出した男の手には、よく分からない機械が握られている。

「感謝しろよ!俺達が協力してグリンに言われた材料を調達して来たんだからな!」

 そう声を出したのはレイドが返り討ちにしたゴロツキ共だった。

「お前ら…、まさか俺達の為に…?」

 レイドの反応に、ゴロツキ達は照れたように顔を逸らす。

「バッ、ちげーよ。このままあの変な奴の思い通りになるのが嫌だったんだよ!お前達の為じゃねぇ!!」

 そう言って人混みの中へと下がって行った。

「まあ、そういう事にしとくか。」

「だが、皆の協力が無かったらこんな短時間でここまで集まらなかったからな。」

「分かってるわよ、グリン。それで?完成までどの位かかるの?」

「三時間で作る。それまで休憩でもしといてくれ。」

 グリンは二人にそう言うと、職人仲間の方に顔を向ける。

「よし、お前ら!全力で取り掛かるぞ!!」

 勢いのある掛け声と共に、グリン達は鉱物やパーツを持ってステーションの中にある武器工房へと消えていった。

 あれほどのメンバー、あれほどの威勢があれば、相当な武器が出来上がる。そして、これだけの人が協力している。レイド達は感謝の気持ちで一杯だった。

 二人は暫く集まった人達のやり遂げた表情を眺めていた。それを見ているだけで、自然と二人の顔も綻んでくる。

「レイド君、シリア君、聞こえるか?」

 シリアの持っている通信機からジーマの声が耳に入る。

「ええ。聞こえるわ。でも、通信システムは乗っ取られた筈じゃ…?」

「これは緊急時の別回線じゃ。それより、グザリスとオアランドの人造生命体はある程度片付いた。その二つの惑星はもう大丈夫であろう。テトランスの住民の非難も終わった。メテオカノンももうすぐ完成じゃ!」

「分かったわ!エルリールは私達がなんとかする。メテオカノンが完成したらまた連絡を頂戴ね。」

「了解じゃ!」

 そう言って通信を切る。

 それを聴いていた周りの人達は、何故だか驚きの顔や、笑顔の顔でシリアを見ている。その理由が分かっていないのは当の本人だけであった。

「なんか私、変なこと言った?」

 その視線に気付いたシリアはレイドに尋ねる。そのレイドも笑いながら答える。

「さっきの会話だよ!皆からしてみれば四聖官なんて会うことも出来ないお偉い様なんだぞ。そのお偉い様がシリアの前じゃちっぽけな存在に見えてるんだよ。」

 レイドの言う通り、四聖官は一般人にしてみれば偉大な人物だ。ヴァルログでさえ、以前はそう思われていたのだが。

そしてその人物にシリアは殆ど敬語を使うことが無い。ましてや、先程のやり取りではシリアの方が主導権を握っている。レイドは前から気付いていたが、ここで聴いていた人達は少なからずこの事実に驚いていた。

 もっとも、シリア自身はそんな事考えてはいなかっただろうが…。


 そして、その和やかなムードを人造生命体によって遮られる。

 突然悲鳴が上がり、ステーションの中にいた人達は勢い良く奥へ非難する。二人の前の視界が露わになった時、50体近くの人造生命体の大群がステーションの中に入って来ていた。

「さて、武器が出来上がるまでの三時間。私達も少しは働きましょう!」

 銃を構えるシリアとは別に、レイドは近くにいた警備部隊の人に声をかける。

「ちょっと武器を借りるよ。その代わり休んでていいから。」

 レイドは剣を手に取ると、シリアと共に50はいる人造生命体の大群に向かって行った。


「凄い……。」

「やっぱ強いな…。」

 二人の戦いを初めて見た人達からは、その様な声が飛び交っていた。50の人造生命体は二人の前にものの数分でひれ伏していた。

 二人が出会ってからまだ数日しか経っていないにもかかわらず、シリアがどれに標準を合わせているか、レイドがどういう動きをするかなど、自然と分かるようになっていた。だから無駄のない攻撃が出来る。それだけ二人の相性が良いという事だ。

 倒れ込んだ人造生命体の中に立つ二人の姿は、恐らく、ここにいる全ての人の脳裏に焼き付ける事が出来るだけのオーラはあっただろう。


「さて、もう少し倒しに行きますか。」

「そうね。これだけじゃ満足出来ないわ。」

 余裕の表情で互いに頷いた二人は、ゆっくりと街の方へ消えていった。



  2時間半後――

 二人は、傷一つ無い状態で街の中で会った警備部隊と一緒にステーションの中へ戻って来た。

「多分もう人造生命体はいないわ。街に戻っても大丈夫よ。」

 その言葉でステーションの中にいた人達から歓声が上がる。

「あと30分。俺達は休憩しますか。」

「ここの店、入ってもいい?」

 人造生命体が現れた騒ぎで、あきらかに閉まっている店の前で、シリアは集まっていた人達に向かって声を出す。

 その声に反応した数人の店の店員が慌ただしく駆け寄って来る。

「ど、どうぞ!」

 一人の女性が緊張した面持ちで店を開ける。それを苦笑いをしながら二人は店の中に入る。

 コーヒーを2つ頼むと、レイドは溜め息を一つだす。

「有名になっちゃったよ…俺達。」

「悪くないんじゃない?」

「まあ、悪くはないが…。シリアと会った時はこんな事になるとは思っても見なかったよ。」

「それは私も一緒よ。」

 レイドは少し間を空けた後、小さい声で呟いた。

「……勝てると思うか?奴らに……。」

「……勝たないといけないわ。……ていうか、何!?いつになく弱気ね!レイドは負けるつもり!?」

「んなわけないだろ!俺が負けると思うか!?」

「思ってないわ。それでこそレイドよ!」

 シリアはコーヒーを一口飲む。

レイドは笑みを浮かべた。シリアのその一言でレイドの心の片隅にあった不安感を消し去ってくれたように思えていた。

「シリアはこれが終わったらどうするんだ?グザリスに戻るのか?」

 とっさに質問されたシリアは暫く考える。

「レイドは?私といてくれる、って言ったのは本当?」

「ああ。シリアが望むなら。」

「じゃあ一つ、考えている事があるわ!」

 その後、シリアはその考えている事をレイドに話した。その要望にレイドも、楽しそうだ!と言って了承した。

 それは平穏な幸せでは無いかもしれない。でも、レイドとシリアだからこそ出来る事なのかもしれない。

 それを今知る術は無い。


 3時間を少し過ぎた時、グリンが二人のいる場所にやって来た。

「ふぅ。少し遅れたが完成したぞ!レイドはこれだ。」

 グリンは一本の剣をレイドに渡した。一見、なんの変哲もない剣だが、持った瞬間に違いが分かった。

「軽いな。」

「軽いだけじゃなく強度も最高レベルだ。スラム街でもなかなか手に入らない一番硬いと言われている鉱物を使ったからな!それから、シリアはこれだ!」 銃を受け取ったシリアも、軽い、と口に出した。

「それが一番手間取ったぜ。ジェルラードからメテオカノンって奴に使われるエネルギーの生成技術を教えて貰い、それをちょいと改良して銃で撃てるようにした。本体のパーツもレイドの剣と同じ鉱物だ。エネルギーは今はその中に入っている分だけだが、1日はずっとぶっぱなせるだけは有る。どちらもちょっとやそっとじゃ壊れない。間違いなく最強の剣と銃だ!」

「ありがとな、グリン!」

「その代わり、それで勝てなかったらぶん殴るぞ!」

「これが効かなかったら恨むわよ!」

「それは大丈夫…だと思う。

それから、その剣は《夢双爛》、銃は《エレメールガン》だ!」

「……名前まで付けてたのか?」

「何だ!その呆れた顔は!俺達にとって武器は子供の――」

「じゃあ、行きましょう。レイド。」

 話が長くなると感じたシリアはグリンの話を遮りレイドを促す。

「じゃあ、行ってくるよ。」


 二人は四聖官に連絡を入れ、エルリールの人達の後押しを受けヴァイラへと向かった。

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