動き出した組織、刃向かう力
ジェルラードへと戻ったレイドとシリア。二人は四聖官にオアランドでの出来事を話した。
「そうか…、レッドクリスタルが狙いだったか。」
グラゼンが苦々しく声を出した。以前はオアランドの王だった彼は勿論レッドクリスタルを知っていたので、奪われた事は良く思えないが、妹、ジェシカが無事と知り、安堵の表情にも見える。
しかし、二人が負けたとなれば、ジェルラードとしても選択肢は少ない。
「でも、そこまでの戦力を持っているなんて…。五大惑星の部隊を集結させて全面的に戦うしかないのかしら?」
「そうじゃのう…。最悪の場合、相当の死者が出るが、それも仕方ない事なのかもしれん。」
ダミアに続き、ジーマの頭の中もそれしか思い浮かばない。ここまでこればバージルーズとの全面戦争しかない。そうなれば、多大な被害が出ることは確実だった。
「大変です!聖官!!」
いきなり一人の女性が慌ただしく部屋に入ってきた。髪も乱れ、息も切れている。その様子から相当な事であると想像できた。そして、全員の目線がその女性に集まった。
「何事じゃ!?ザナリス。」
ジーマが先程入ってきた五大惑星通信管理者の一人、ザナリスに声をかける。
「テトランス、エルリール、グザリス、オアランドの4惑星の都市部に数多くの人造生命体が現れました!」
「なんだと!?」
「今それぞれの警備部隊が鎮圧に向かっていますが、一向に目処がたちません!既に怪我人も多く出ています!」
そんな大量な数という事は恐らく失敗作だろうと予想が出来た。グザリスの研究所は潰したものの、他の惑星にも研究所が有ってもおかしくはない。
そして、こんな事をし始めたということは、間違いなくバージルーズが本格的に動き始めた証拠だった。
「ヴァイラには現れなかったの?」
シリアは唯一人造生命体の現れなかった惑星、ヴァイラを疑問に思っていた。
「そうなんです。ヴァイラに現れたという情報は入っていません!」
ザナリスが言い終わった直後、再び一人の男が慌ただしく入って来る。
「大変です!聖官!」
「今度はなんじゃ!?」
ジーマも動揺が隠せない為、自然と強い口調になっていた。
「ジェルラードの通信、及び惑星防御システムが乗っ取られました!!」
「!!!!」
その言葉で、一瞬部屋の中が凍り付いた。四聖官全員は度肝を抜かれている状態だ。
五大惑星のシステムは全てジェルラードが管理している。その為、防御システムが乗っ取られた以上、惑星に防御シールドを張る事が出来ず、簡単にメテオカノンで破壊出来る事を意味していた。
その時、その報告を待っていたかのようなタイミングで部屋にモニターが現れ、ヴァルログからの通信が入った。
「これはこれは。楽しんで頂けましたか?四聖官の諸君。」
通信システムを奪った為、バージルーズはどこでもモニターを現し、会話をする事が可能となる。そして、早速ヴァルログが通信をしてきた、ということだ。
全てが自分の思い通りに動いているのか、ヴァルログは楽しそうにしている。勿論、ヴァルログ側にもこちらの映像が映っているので、どんな顔をしているのかはすぐに分かるから、というのも有るだろう。
「ヴァルログ!貴様、五大惑星の人達を全滅させる気か!?」
その顔を見たグラゼンがいきり立つ。
「そんな事をしたら私が王に成ったという証が無くなるだろ、グラゼン。全ての人にバージルーズという組織の恐ろしさを見せる為だよ。この映像は全惑星にも届いているからな!」
ヴァルログの言う通り、ほぼ全員がこの映像を見ていた。
一般人にとってはここで初めてバージルーズという組織の存在を知ることになった。
「今日は皆さんに見て貰いたい物があってな。」
そう言うと、画面はどこかの街の風景に変わった。
「ここは……ヴァイラの街だ!」
レイドには見覚えがあった。街の後ろに僅かに見える砂地。そこはヴァイラにある砂漠地帯。レイドも一度、モンスター退治の為この砂漠を延々と歩いたことがあったのだ。
そして突然、地震のような激しい揺れが起こったと思うと、街の中央、地面の中から巨大な建物が姿を現す。その空まで届くかのような黒く歪な建物は、正に、王者のようにそびえ立っていた。
その建物付近にあった綺麗な街並みは、無惨な姿へと変貌を遂げた。
その後、画面はヴァルログへと変わる。
「どうかね?我々が長年地下で作り続けたこのバージルーズ城は!?防御シールドも張ることができ、メテオカノンも装備してある。これぞ最強鉄壁の要塞だ。」
その圧倒的なバージルーズ城を見た四聖官は出す言葉さえ見つからないでいた。四聖官の様子にヴァルログも満足そうな顔をする。
「どうだ!?レイドにシリア。まだ我々に敵対するなら此処を貴様等の墓場にしてやろうと思っているのだがな。」
突如名前を出されたレイドとシリアだったが、二人は冷静そのものであった。そして、シリアが苦笑いを浮かべる。
「そんな場所を?それならもう少し飾り気が欲しいわ。」
「フッ。ラーグに負けた割には強気な発言だな。いいか!全人類の諸君よ!我々に逆らうとこうなる事を頭に叩き込め!!」
ヴァルログは何かのボタンを押す。すると、次々にヴァイラの街に光状の物が降り注ぎ、一瞬にしてヴァイラの街、その近辺を攻撃していった。メテオカノンではないものの、その威力はかなりのものだ。
「なんてことを……。」
「ヴァイラの街が……。」
ヴァイラの街が壊滅される様子を見ていることしか出来なかった四聖官から、次々とぼやき声が出てくる。その部屋にいた数人のバージルーズ部隊員は立っている力も無く、床に座り込む始末だ。
「これがバージルーズの力だ!まだ刃向かう気かな?お二人さん。」
最高の笑みで話しかけるヴァルログ。
「……逆に刃向かう気が強まったわ!」
「このままお前の思い通りになると思うなよ!」
レイドもシリアも、怒りを抑えるように言葉を出した。
「ハッハッハ!では君達を私のパーティーに招待してやろう。来るがいい!このバージルーズ城へ!!
でも、時間は無いぞ。明日の夜明けにテトランスの一部を攻撃する。このヴァイラのようにな!」
レイドはその言葉に驚愕する。
「お前の願いは人々に力を見せる事だろ!!その人達を殺してどうする!?」
「多少の犠牲は付き物だ。それに、街は沢山ある。1つくらいどうってことはない。」
「お前は…死ぬべきじゃ。」 ジーマが俯き、震えながら言葉を絞り出した。
「ふん!じじい。お前達四聖官に何が出来る?警備部隊も失敗作の人造生命体だけで精一杯。ジェルラード部隊も同じだ!平和呆けした連中には何も出来ないんだよ!!」
確かにその通りであった。四聖官は所詮五大惑星を見守っているにしか過ぎない存在だ。こういう敵が現れた場合、成す術は何も無い。
ジーマも、他の三人もヴァルログに対し何も言えなかった。
その四聖官とは思えない小さくなった背中を見たレイドとシリアはヴァルログを睨む。
「待っていろよ、ヴァルログ!必ずパーティーに参加してやるよ!!」
「あなたにプレゼントを持って行くから、受け取るといいわ!」
「それは楽しみだよ。」
そこで通信は切れた。
依然、四聖官はうなだれたままである。自分達には何も出来ないという心の傷は思ったよりも深いものであった。
「あなた達がそんなんでは、この戦い、負けるわよ。」
見るに見かねたシリアが四聖官に声をかける。
「……しかし、我々には何も……。」
「まだ出来る事はあるでしょ!」
大きい声で言うシリアに、四聖官の顔が上がる。それを見たレイドが口を開く。
「まずは、メテオカノンを完成させて下さい。それから、ジェルラード部隊も各惑星の警備部隊の援護。テトランス住民の非難。
まだ、バージルーズに負けた訳じゃ無い。あなた達にもやらなければいけない事があるんだ!」
レイドの言葉に、四聖官だけでなく、座り込んでいた部隊員も立ち上がった。
そして、第三部隊長スティーブが行動に移る。
「四聖官!我々は各惑星の援護に向かいます。」
そう言って仲間を連れ、勢い良く走っていった。それを見た四聖官にも活気が戻る。
「私はメテオカノンを急いで完成させるわ!ダミア、手伝って貰える?」
「勿論よ!!」
ハーリーとダミアも部屋を出て行く。
最後の追い上げ、と言わんばかりの騒々しさがジェルラードを包んでいった。レイドとシリアも自然と顔を合わせ、笑みを浮かべる。
「君達はこれからどうするつもりなんじゃ?」
「俺達はこれからエルリールへ向かいます。武器がないと何も出来ませんからね。」
「分かった。我々も出来る事をしていく。」
「お願いします。行こう、シリア。」
シリアは一度頷き、レイドと共にその場を後にした。
レイドもシリアも、心の中では不安があった。一度ラーグに負けている。武器は効かなかった。普通の武器を手に入れても結果は同じ。
それでも、二人に残されている道は、刃向かう事だけであった。




