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敗北

 オアランドへ降り立った二人は、宮殿前で足を止めた。

「これまた…派手な建物だな。」

 レイドはその輝かしく、壮大な建物を見て目を丸くする。

「そうね。これぞ宮殿、といった感じね。」

 シリアも感心の言葉を出す。そこへ、一人の騎士が近づいて来た。

「レイド様に、シリア様ですね。お待ちしておりました。私は王女の護衛役、テイラスと申します。早速、王女の所へ案内いたします。」

「ああよろしく。それにしても王女だったのか?」

「前の王がグラゼン聖官って聞いていたから、てっきり同じような男だと思っていたわ。」

 二人共、王女と聞いて少し驚いていた。

「オアランドの王女、ジェシカ様はグラゼン様の妹ですから。」


 レイドとシリアは、テイラスに連れられ王室へと招かれる。

「ジェシカ様。レイド様とシリア様をお連れ致しました。」

「ありがとう、テイラス。」

 椅子に座っていた女性はゆっくりと二人に近寄る。それなりの歳はいっている筈だが、それよりも断然若々しい女性だ。

「初めまして。オアランドの王女をしていますジェシカです。よろしくね、レイド君、シリアさん。」

 かなりゆっくりと話すジェシカにレイドが早速質問をぶつける。 

「ではジェシカ様――」

「あら!兄と知り合いなんでしょ?ジェシカさんでいいわよ。」

 突然遮られ、そう言われたレイドは少し戸惑う。

「はぁ、そうですか。ではジェシカさん――」

「うん!それでいいわ。」

 変わらず遅いスピードで言葉を出し、笑顔を向けるジェシカに再び戸惑うレイド。

「……えっと、バージルーズについて、何か情報は入ってないですか?」

「それが何も入って来ないのよ。船艦もどっか行っちゃったみたいだし…。まあゆっくりしていってね。」

 レイドとシリアは苦笑いを浮かべる。

「それよりシリアさん?」

「はい。」

「レイド君って、普段どんな人?」

「はっ??」

 ジェシカの意外な質問に、突然名前を出されたレイドが疑問の声を上げた。

「そうですね。ここぞって時は頼りになりますけど、普段はマイペースですね。」

 ちゃっかり答えるシリア。それを聞いたジェシカは再び笑顔になる。

「やっぱり!なんか私と同じ感じがしたのよ。気が合いそうね、レイド君。」

「はぁ……。」

 顔を向けられ、ウインクまでしてくるジェシカに三度戸惑うレイド。

 それからも質問責めを受け続け、二人が解放されたのは、1時間後であった。 


「ハァァ〜。駄目だ!俺あの人苦手だ!」

 部屋に案内され、ベッドに倒れ込んでそう口に出した。

「あら、私は面白い王女だと思うわ。」

「大体、どこが同じ感じがした、だよ。マイペース過ぎるだろ!声を聴くだけで疲れる!」

「まあ確かにそうだけどね。」

 それからもシリアはレイドの愚痴を延々と聞いていたが、何やら宮殿内が騒がしくなった為、愚痴も終わりを遂げた。

「何かあったのか?」

「とりあえず、ジェシカさんの所へ行ってみましょう。」

 レイドは嫌そうな顔をしながら、渋々王室へ足を運んだ。


「ジェシカさん。何かあったんですか?」

 シリアが尋ねる。

「あっ、良いところに来てくれたわね。実はね、さっきこの宮殿の裏にある、聖なる神殿に二人の侵入者が入り込んだらしいのよ!」

 流石に、いつもより少し速いスピードで話すジェシカ。 

「聖なる神殿?そこには何があるんです?」

「そこにはね、昔からある水晶が祀られているの。私達はレッドクリスタルと呼んでいるわ。」 

「レッドクリスタル…。それは一体何ですか?」

「ん〜。ずっと前からある物だから正確には分からないけど、何でも、太古の強力なモンスターが命と引き換えに落とした、って言われているわ。」

「まあそれが何にしろ、行くしかないな。」

「そうね。バージルーズの奴らって可能性が高いから用心しましょ。」

 二人は、ジェシカに神殿のある場所を聞いた。

「この宮殿の裏にある通路を真っ直ぐ行った先よ。」

 それを聞き二人は移動しようとするが、ジェシカに止められる。

「ちょっと待って。神殿はこの宮殿並みに広いわ。テイラスを連れて行って。レッドクリスタルの場所を知っている人がいた方がいいと思うから。テイラス、いいかしら?」

 ジェシカは二人にそう言った後、テイラスに顔を向けた。

「承知しました。行きましょう!」

 レイドとシリアはテイラスの後に続き、神殿へ向かった。


 ジェシカの言った通り神殿はかなり広く、モンスターも住み着いている有り様であった。テイラスがいなければ、間違いなく迷っていただろう。

「テイラスは何でこの神殿の道を把握しているんだ?」

 迷うこと無く進むテイラスを見ていたレイドが疑問に思った事を口に出した。 

「時折、ここで修行するんですよ。モンスターがいるので相手に困る事は無いですからね。それを続けていたら自然と覚えてしまいました。」

 剣を構え、慣れた手つきでモンスターを倒しながら答える。

「警備部隊に見習って欲しいわね。」

 それを聞いたテイラスは笑顔で言葉を返す。

「私はジェシカ様の護衛役ですから。それなりに強くないと務まりません。」

 レイドも向かって来るモンスターを倒し、テイラスを見た。

「テイラスって何歳なんだ?」

「19歳になりました。」

「……俺よりしっかりしてんな。」

 一目見た時から若いとは思っていたが、まさか年下だとは思っていなかった。

「でも、お二人もしっかりしてますし、僕より強いですから。動きを見ていれば分かります。僕の見習うべき人達ですよ。」

「嬉しいこと言ってくれるねぇ。今度優秀な武器職人を紹介してやるよ。」

「それは楽しみです。それより、あの扉の中の部屋にレッドクリスタルがあります。」

 テイラスが指した扉を開けると、赤く輝いているレッドクリスタルを持ったダインとラーグが立っていた。

「!…何処までも邪魔をしようとする奴らだ。」

 ダインがレイドとシリアを見て小さく呟いた。 

「やっぱりあなた達だったのね!」

「とりあえず、その水晶は返して貰います!」

 斬り掛かろうとするテイラスをレイドが止める。

「待て!奴らはそう簡単にはいかない。それを何に使うつもりだ!?ダイン!」

 テイラスを止めたあと、ダインに問う。

「これは完全体の最後の材料となる筈の物だ。」

「そんな物必要ないわ!あなた達は此処で止める。」

 ダインは不適な笑みを浮かべ、シリアを見る。

「ヤマトの死を乗り切ったか。あそこで終わりだと思っていたがな。」

「……父の為にも、あなた達を殺すわ!」

「気付かないのか!?この音が。」

 ダインの言葉で、三人は耳を澄ます。すると、僅かだが外から音が聴こえてきた。

「この音は……船艦!?」

「ご名答!我々は忙しいのでな。お前達に構っている暇はない、と言いたいとこだが、少しは自分達の愚かさを思い知るがいい。ラーグ。5分間こいつらと遊んでやれ!」

 そう言うと、ダインはレッドクリスタルと一緒に転送された。


 残されたラーグと戦う三人であったが、ラーグの力は想像以上だった。シリアは狙いを定め銃を撃つが殆どかわされ、当たると思った攻撃も手のひら一つで止められた。

「銃が…効かない!?」

 シリアの攻撃は完全に無効であった。そして、テイラスも深手を負い倒れ込む。

 レイドは、テイラスにとどめを刺そうとするラーグの後ろを取り、力一杯剣を振り下ろす。が、それに反応したラーグの攻撃で剣を真っ二つに折られてしまう。

「……マジかよ。」

 レイドは一旦シリアの隣まで下がる。完全になす術の無い三人であったが、ラーグは動こうとはしなかった。

「5分経った。」

 そう呟き、ラーグもその場から消えていった。

「はっきり言って、助かったな。」

 レイドがシリアに声をかける。

「ええ。これは考え物ね。」

 シリアは深刻な顔で頷く。その後レイドが倒れているテイラスに近付く。

「テイラス!大丈夫か?」

「奴らは……?」

 テイラスは顔をしかめながら声を出した。

「逃げていった。というか俺達が助けられた感じだけどな。立てるか?」

 テイラスはレイドの手を借り立ち上がる。しかし、思ったより傷は深い。早く治療をしないと危ない状況だった。

「急いで戻りましょ!」

 テイラスはレイドとシリアに支えられる状態で、宮殿へ戻って行った。


 宮殿へ戻ったレイドとシリアはテイラスを医療班に任せ、ジェシカのいる王室へと足を運んだ。

「すみません、ジェシカさん。私達がいながらレッドクリスタルをみすみす奪われてしまいました。」

 シリアがジェシカに頭を下げる。それにジェシカは笑みを浮かべて言葉を出す。

「いいのよ、シリアさん。あなた達がいなかったらテイラスは助からなかったのだから。逆に感謝してるわ。」

 シリアは頭を上げるが、笑顔は無かった。一方のレイドも渋い表情だった。

「しかし、俺達はラーグを、バージルーズを甘く見ていた。今思えば、フランが気をつけろ、と言ったのも分かる。」

「そうね。私達の攻撃が何一つ通じなかった。何か対策を考えないと…。」

 考え込む二人に、ジェシカが声をかける。

「でも、その状況でもあなた達は怪我さえしていないわ。武器さえ良ければ勝てると思うのだけど。」

「確かに相手の攻撃は見切れたわね。」

「問題はその武器をどうするか、だな。……グリンに頼んでみるか。」 

「その前に、ジェルラードに戻って聖官に会いましょう。」

 レイドはそれに頷き、ジェシカを見る。

「ジェシカさん。俺達はジェルラードに戻ります。」

「ええ。また来てね!」

 レイドはその言葉で苦笑いを浮かべた。


 二人はマッドと連絡を取り、グリンピアに乗り込みオアランドを離れた。

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