表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/18

父の日記

 レイドとシリアは、街の奥にある一軒の家の前で足を止めた。

「ここよ、私の家は。」

「良いところに住んでたんだなぁ。」

 周りには他に家は無く、裏は青く続いた海が広がっている。

「ええ。私と父の…思い出の場所よ。入りましょう。」

 家の中は二年間空き家だった事もあり少し埃っぽかったが、当時の生活が解るかのように片付いていた。

「お父さんの部屋は?」

「その前に、そこに座って。傷の治療してあげる。」

 レイドをリビングのソファーに座らせると、シリアは救急箱を取り出し、簡単な治療をしていった。

「綺麗に片付いてるな。」

「私は綺麗好きなの!」

「見た目そんな感じだもんな。本当に手掛かりは何もなかったのか?」

「ええ。それなりに家中探したけどね。はい、これでいいわ。」

「サンキューな。」

「父の部屋はこっちよ。」

 部屋に入ると、シリアはビッシリ詰まった本棚。レイドはタンスの中や、机の引き出しを中心に調べ始めた。

 調べ始めて1時間。これといった手掛かりは無く、シリアの周りには調べ済みの本が大量に積み上げられていた。これほど調べても、本棚の半分程だ。

「なんもねぇーな。」

 レイドも本棚の本をパラパラ捲っている。 

「少し休憩しましょう。お茶を入れるわ。」

「そうだな!」

 二人は立ち上がり、部屋を出ようとする。が、レイドの踏んだ床が僅かに音を鳴らす。

「ん!?」

 レイドがその場所を2、3度踏みつけると、ギィィ、ギィィ、と音が出る。

「シリア、なんかあるぞ。」

「え?」

 レイドはその場所を調べた。すると、ガコッ、とスライドし、その場所の板が外れた。

「本?」

 レイドはその本を手に取ると、汚れを払い、シリアに渡した。シリアはそっと表紙を捲った。

――10月24日――


「10月24日っていったら、父がいなくなる2日前だわ!」 

 それは父の残した日記だった。シリアは次ね頁を捲る。

 そこにはこう書かれていた。


――私の娘、シリアへ――

 本当は、これを私がジェルラードへ伝えるのが一番だろうが、それが出来ない為、ここに記す。

 シリア。私がいなくなればお前は必死で捜そうとするだろう。だが、シリアには幸せになって欲しい。だから、直ぐにでもこれをジェルラードへ持って行ってくれ。絶対に独りで何とかしようなどと思うな。それだけが心配だ。

 私はバージルーズの研究員だった。研究所はグザリスの海底に存在する。東の海岸にある洞窟と繋がっている。何故そんな場所にあるかは、研究が失敗した時、街に被害を出さない為、と教えられていた。でもそれは違った。

 私が研究していたのは、モンスターの細胞を調べ、人々の病気を治すための実験をしていた。いや、その為の実験をしていた筈だった、と言った方がいいだろう。私はある時、偶然にも極秘実験の様子を目撃してしまった。そこでは、人とモンスターの力を融合し、人造生命体を造っていた。そのモンスターの力は、間違いなく私が完成させたものであった。

 私の理論から言うと、モンスターの力との融合は極限られた人物しか合わない。逆に言えば、合う人物が現れた時、人並み外れた力を持つ最強の人造生命体が出来上がる。感情や痛みは無いが言葉を喋る事はでき、命令を忠実にこなす生物兵器だ。

 既に、私には止めることさえ出来ない。だから私は、研究員を辞めることを決心した。しかし、奴らがそう簡単に辞めさせてくれるとは思えない。今日記を読んでいるということが物語っているだろう。

 最後にシリア。お前は私にとって唯一の宝物だ。私の分まで幸せに生き続けて欲しい。

    ヤマト・マグレーナ


 シリアは涙を流し、本を閉じた。予想はしていた。だが、感情には勝てなかった。レイドもただ俯くだけ。

 しばらく沈黙が続くが、シリアが口を開く。

「ごめんなさい。出発は明日でいいかしら?気持ちの整理をつけたいの。」

 レイドに背を向けたまま、そう口に出す。

「ああ。でもシリア。ヴァルログも言っていた。君のお父さんはまだ生きてるって。…だから、可能性はゼロじゃない。」

「そうね。……でも、ヴァルログが本当の事を言うとは思えないわ。」 

 そう言ってシリアは自分の部屋に駆け込んだ。

 重い空気が支配する中、ゆっくりと夜は更けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ