けしごむ戦記 (予告篇)
パピルス平原の広がる書の国、ビヴリオ。
今ここに、悪しき黒の手が迫ろうとしていた。
「―――――なぜだ」
変わり果てた友の姿に青年は問う。目の前に立つのは、見慣れた黒と青、そして白い衣服を纏いながらも、憤怒の表情でこちらを見やる白髪の男。
「なぜなんだ」
青年の声に男は答えず、ゆっくりと剣を構えた。たまらず青年は友に叫ぶ。
「答えてくれ、消しゴム!!」
楽園と称された王国ビヴリオ。彼の国に立ち込める暗雲を払うのは、一人の復讐に燃える男だった。
『けしごむ戦記』
「殿下、お赦しください」
騎士は頭を垂れたままそう告げた。
「駄目だ!早まるな!」
王子は我が身を犠牲にせんとする騎士に声を荒げる。
「そなたの、その身体で何ができると…!消えかかったその身体で!もはや押し出すこともできないではないか!!」
騎士はゆっくりと首を横に振る。そして顔を上げ、王子を見据えた。
「それでも、私は芯です。最後まで、芯でありたいのです」
決意を込めた声でそれだけ告げると、騎士は身を翻し走り出す。
「御無事で!殿下…!」
「待て!行くな!…っ…!」
己の無力さに王子はたまらず叫んだ。
「4B――――――――――――っ!!」
ビヴリオの王城内で、国王は頭を抱えていた。
「どうしてこんなことに…」
苦悶の表情を浮かべる主に、周りの家臣たちは何もできなかった。
「止めなければ…。シャープペンと、消しゴムを…!」
そして、両者は対峙する。かつては主従でありながら兄弟のような関係を築いた二人は今、剣を向け合っている。
「ビヴリオの騎士であったお前がなぜ…!私たちは親友では無かったのか?答えてくれ、モノ!!」
状況を理解できない王子はかつての騎士に問う。そして、消しゴムの騎士はようやく口を開いた。
「…笑わせるなよ」
「なに…?」
消しゴムの口元は嘲るように歪められている。その凄惨な笑みにシャープペンの王子は思わずたじろいだ。
「機械仕掛けの使い捨てがっ!振っても芯の出ぬお前になにが分かる!貴様のせいで虐げられた鉛筆のあの有様に、何の責も無いとほざくつもりか!?」
「鉛筆の…!ミツビシのことはっ…」
「…もういい。言い訳などいらぬ」
そう言って消しゴムの身体がゆらりと動く。氷のように冷たい顔で、消しゴムは剣を振りかざした。
「消えろ、シャープペン」
平原を見下ろす小高い丘の上で、黒衣の男が王城を見つめていた。
「我が手中で踊るがいい」
眼前にかざした手に王城が隠れると、男はそれを握りつぶした。
「ビヴリオは、私のものだ――――!」
「――――いいえ」
闇を切り裂くような声が男の背後であがる。振り向いてその姿を確認した男は嬉しそうに笑った。
「お久しゅうございます、ボールペン」
「これはこれは姫様。我が最大の敵にして最愛のお方。ここでお会いするとは、これも運命でしょうか」
男の演劇のような口調にその人物は反応しない。男もまた何も言わず、二人は互いを見つめ合う。
かくして運命は動き出した。
『彼』はまだ、己の真の敵を知らない。
かつての主の祈りも虚しく、憎悪の炎に身を焦がす。
そしてやがて、道は示される―――――――――。
これは、彼の物語。
いずれ書いてみたい話。
ギャグなのかシリアスなのか、それが問題だ。
登場人物たちはいたって真面目です。
固有名詞がばりばり飛び出すので、問題があるようでしたら下げます。




