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友達

 風の強い日だった。

 風が窓をがたがと揺らす音で目を覚ましたわたしは窓から黒い雲が渦を巻きすごい速さで流れて行くのをぼんやりと見ているとルルが朝食を持って顔を出す。


「お召し替えのお手伝いをしましょうか?」


 部屋着のままのわたしを見てルルが申し出たのでどきりとする。曖昧に笑うわたしを見てルルも微笑み、クローゼットを開けて薄桃色のドレスを選んでくれる。

 あれは……大丈夫かしら?


「あら?」


 ドキドキしながら背中を止めてもらう段階で小さくルルが呟いた。

 ああ、やっぱり。


「す、すみません。なんだか最近太ったみたいで……」

「失礼します」

「うひゃ!」


 言うが早いかルルは後ろからわたしの胸をわしづかみにする。それからウエスト、腰、と移動し、


「ああ、やはりそうですわ。チルリットさまは太られたんじゃなく胸が成長されただけです。もしかして最近食事の量が減っておられたのはそれを気にされていたのですか。気付きませんで申しわけございません。早速新しい服をしたてさせます」

「そう…なんですか。シオン様に報告しないで勝手に服をつくっても大丈夫でしょうか」

「ええ、シオン様がお留守の間はわたくしにチルリットさまのことを頼まれていかれましたから大丈夫ですよ。それと心配されなくてもチルリットさまはまだ痩せすぎなので気にせずお召し上がりください」


 えええ。それならもう少し早くルルに相談していればよかった。ここ数日我慢していたお菓子が脳裏をよぎる。


「あと先程御館様からご連絡がありまして2,3日中に戻られるそうです」


 鼓動が跳ね上がる。


「それはシオン様もですか?」

「勿論です。ああ、これなら大丈夫そうですね」


 ルルが選んでくれたのは比較的胸元がふんわりしたドレスで無事着替えを済ませることができたわたしは急いで朝食を摂り防寒着をはおる。



「ヒリト!」


 庭に出て見慣れた顔を見つけわたしは息を切らし駆け寄る。

 堅苦しい言葉遣いはやめてくれというヒリトに合わせてわたしも随分気易い口調で話すようになっていた。


「おお、どうした。そんなに急いで」


 たまに顔を出すという彼は最近では毎日のように顔を見せている。あまりに毎日顔を見るので学校とやらへは行かなくていいのか聞いたら朝顔を出して少し手伝いをした後学校へ行っているということだった。そういう風に家業を手伝いながら学校へ通う子供が大半らしい。

 ヒリトの言うとおり会うのは早朝がほとんどで午後からは一度も会ったことがない。だから今日も早いうちに会っておかなければ、と思って駆けて来たのだ。


「お願いがあるの。冬果をいくつか取ってもらえないかしら?」

「ああ、いいけど今ほしいのか?」


 2,3日中に帰ってくるということは今日取ってもらうのは少し早いかもしれない。


「ううん。えーと、明日の朝欲しい。明日またこのくらいの時間にわたしが取りに来るから。いい?」

「分かった。じゃあ約束な」

「ありがとう」


 にっこり笑うわたしをどこか不思議そうに首をかしげて、


「何?なんかあった?帽子もかぶんないで寒くねえの?今日風強いし」

「あ、忘れてた」


 言われて初めて気付いたが走ってきたせいか寒いとも感じなかったが、ヒリトにこの髪を見せたのは初めてだったので反応が気になった。


「チルリット、目も変わってるけど髪の色も変わってるなー」

「う、生まれつきなの。変だよね」

「うーん、そうか?見たことない色だけどいいんじゃないか」

「…………」

 

 素直に嬉しかった。シオンがいないあいだ、ヒリトにいろんなことを教えてもらった。庭のことはもちろん、街での暮らしや学校のことも。友達が出来ることなんてわたしの人生にはないだろうなと諦めていたが、もしかしたらヒリトはわたしの初めての友達になってくれるのかもしれない。


「ヒリトって友達いっぱいいそうだよね」

「いっぱいかどうか分かんないけど普通にいるよ」


 普通……に友達がいる状況になったことがないので分からない。


「女の子の友達もいるの?」

「そうだなあ、服屋のベリーとか食堂やってるルリカとか?うーん、でもあいつら女の子って感じじゃないもんなー。すげー乱暴だし。グーで殴ってくるんだぜ。チルリットとかあいつらに殴られたら吹っ飛びそう」


 グーで殴られたことなら何度もあるが。


「そうなんだ」

「チルリットも学校来ればいいじゃん。シオン様のご学友とかなんだろう?ここにいるのって。頼んでみたら」

「ゴガクユウ?」

 

 ヒリトは基本的に何かを誤解していた。わたしのことをどこかのお嬢様だと勘違いしているようだ。綺麗な格好をさせてもらって一日中ふらふらと遊び暮らしているように見えているだろうから仕方がないが、何となくわたしは単なるシオンの所有物だということが言いだせずにいた。

 もしかしてヒリトがわたしに普通に接してくれているのは誤解ゆえのことかもしれないと思うと。


「わたしそろそろ行くね。じゃあ、明日」

「おう、またな」


 屈託のない笑顔を浮かべ、手を振るヒリトにわたしも笑みを浮かべて手を振った。


 


 

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