闇の隙間2 死霊妖怪列伝
第一話 クノッソスの迷宮
一
闇介イチロウ、高校一年生。たぐいまれなる美少年にして女装男子で、上は黒のセーラー服、ボブヘアーの頭の両側にピンクの花柄の髪留めをつけたその風貌は、その小柄さで一見中学生か下手すると小学五、六年生くらいにも見える。女装といっても下はズボンだから、喋れば男と分かりそうなものだが、十六になった今もまったく声変わりしておらず、そのやわらかい高音のせいで女と間違われることたびたび。だが本人は「まあ仕方ない」と気にしていない。きっと、この声は成人しても変わらないだろう、と思う。そもそも自分の体質自体がたぐいまれだから、声などは今さら。
闇介は、霊が寄ってくる霊媒体質である。そのせいで、朝、遅刻するのはしょっちゅうだ。通学の途中で、何かの嫌な予感がびびっと来るや、たちまちそっちへ方向転換し、もう学校のことは忘れる。この予感は百パーセント当たる確実なもので、現場に着けば、そこには必ず霊や妖怪のたぐいがいて誰かを脅かしている。彼はそれをなんとかするわけだが、何か武器があるでもなく、たいていはそのあやかしの前に出れば、放つ霊力で相手は逃げて終わり、というパターンだ。感謝されるが、商売じゃないので金は取らない。どうしてもと言われれば、小遣いにはなるからもらう。
無事にことが済んでから高校の門をくぐると、だいたい二時限目はとうに過ぎていて、酷いときは午後からか、もういいや、とさぼって帰る。両親は彼の特殊能力を知っていて、学校からも遅刻や生活態度についてたびたび言われるので、一応注意はするが、言ってもどうせその「予感」が来たら学業など確実にそっちのけになるので、もうあきらめている。
のんきだった昭和とちがい、この人目の厳しい時代に、この夫婦は珍しく気楽な性格で、息子のことはなんとかなると信じていた。見た目は壮絶なほどにかわいくても、中身は暗く辛気臭い一郎には、この両親との関係のバランスは実にちょうどよかった。
ちなみに彼の苗字は、本当は止透といい、闇介はそれのもじりで、芸名のようなものだった。といって学校ではそれで通っていたわけではない。過去にいろいろあって、友達を作るのはやめていたから、誰かが用事があるときにだけ、事務的に「止透くん」と呼ぶだけである。
そして今朝も、その予感で一日が始まった。
「また、あれ?」
「うん」
食堂で、顔ですぐ察した母の質問に息子がそう答えても、彼女はうなずくだけだ。心配ではある。が、今までに向こうから何も言ってきたことがないので、親としては信じるしかない。言えばできる限りのことはする。オカルトにはうといので、助けにはならないかもしれないが、それでも彼女には、胸に母としての確信があった。きっと大丈夫。
その時間には父はとうに家を出ていて、闇介も出ると、くるりと回って学校とは正反対の方向へ歩きだす。住宅地を抜け、イチョウ並木の歩道に挟まれた広い通りに出る。よくある車がろくに来ない大通りで、秋口のさわやかな日差しのなか、イチョウの葉が路面のそこらに落ちて積もり、通りを鮮やかに彩る。まさに憩いの場だが、彼には、進むほどに嫌な感じが強まっていく試練の場所。
車道をはさんで、左に広い公園、右には駐車場。その右の歩道にベンチがあり、その前に二十代半ばくらいの、白いカーディガンを着たOL風の女性がいて、異様な体勢になっている。そして朝からしている嫌な感じは、そこから強烈に放たれていた。
二
溜まっていた仕事が昨日で終わり、やっと休みを得た彼女だったが、といって疲れでどこかへ行く気にもならず、白いカーディガンをはおると、とりあえず散歩に出かけた。家から五分ほど歩くと広い通りに出る。左に広い公園があり、その向かい側の歩道を行くと右に駐車場がある。その金網の前に青いベンチがあったので、腰を下ろしてしばらくイチョウ並木をぼうっと眺めた。
そのうち、あることに気づいた。
さあぁぁぁ……。
足元から、かすかに流水音が聞こえてくる。
(なんだろう……)(ああ、この下に下水道があるんだ)
だが、足の先を見てもアスファルトばかりで、排水口のようなものは見当たらない。近くにマンホールもない。出口もないのに、よくここまで聞こえるもんだな、と不思議に思った。
そのまま何となく聞いていると、水の流れに混じって、妙なものが聞こえてきた。それは下から近づいてくるように、次第に大きくなってきたが、はっきりわかると、彼女は目を丸くした。それは完全に、女性のか細い声なのだ。
「たすけて……たすけて……たすけ……」
何かの聞き違いとかではない。水音のあいだから、弱弱しく、消え入りそうに繰り返される女の声。なぜこんなところから。
ぞっとしたが、すぐにはっとなった。
(きっと誰かが、どこからか下水に入り込んでしまったんだ……!)(それでいま、助けを呼んでいる……!)
大変だ。空気はあるかもしれないが、いつまでもそんなところにいたら、命にかかわるかもしれない。しかも助けを求めているということは、怪我でもしているかも。
彼女はベンチから腰をあげ、路面に膝をつくと、足の下にいる相手に呼びかけた。
「どうしたんです?! 大丈夫ですか?!」
聞こえない可能性も高いが、それでも叫んだ。すると、声がぐっと近くにきた。
「ここへ……ここへ……」
「な、なんです?! そっちですか?!」
彼女はあわてて四つん這いになり、声のする路面に顔を近づけようとした。
そのときだった。
彼女の脳裏に、下に埋まっているだろう土管の天井へ、イモリのように上向きに張り付いている不気味な女の姿が浮かんだのだ。
一気に背筋が凍りつき、立ち上がってベンチに飛び乗った。見ればアスファルトの路面から、二本の女の細い手がにゅっと突き出ていて、虚空を二三度かくと、下に引っ込んだ。
あとにはなんの痕跡もなかった。幻影だったかのようだ。下水の、さぁぁぁという流れすら聞こえなくなっていた。
とたんに悟った。今の女は、自分を近くにおびき寄せるために、わざと下水の音まで立てたのだ。
だが、なんのために?
あまりの気味悪さに、あわててその場を去った。
一部始終を見ていた闇介は、用がなかったとわかり、背を向けた。嫌な感じは消えていた。学校は二時間目から出られた。
三
闇介はその晩、自宅のパソコンでユーチューブを観ていた。基本怪談系しか観ないが、その日は例の予感が来て、夕飯もそこそこに部屋に戻り、ネットにつないだ。いつも観るチャンネルはスルーし、とりあえず右に出るオススメ欄を上にスクロールしていくと、それがあった。
「クノッソスの迷宮」というそのチャンネルは、サムネイルに白い女性と思しき顔がある不気味なもので、不快感はそこから強烈に発していた。クリックして画面が出ると、そのたたずまいの異様さにあっけにとられた。
クノッソス、と名乗るその女性は、新人の怪談系ユーチューバーらしいのだが、画面中央に映る細身の上半身、特に顔の個性が半端なかった。肩までのさらりとした髪のまんなかにある細面の顔は、上から下まで白い包帯でぐるぐる巻きのミイラ状態なのだ。着ているまっかなトレンチコートの襟を立て、上の部分しか見えないが、右手にこれも赤い色の傘を立てているようで、その状態でこっちに向かって話しかけてくる。どこかの薄暗い部屋で配信しているようだが、画面に普通はあるチャット欄のようなものが何もないのが、また不気味だった。
しかし闇介を最も驚かせたのは、彼女が話す怪談の内容が、今朝見た光景とほとんど一緒だったことである。ただ、結末はまったくちがっていた。
彼女が休みの日に公園のベンチに座っていると、足元の下水から流水音に混じって、女の「たすけて」という声がした、という。
「『どうしたんですか? そこに入ってしまわれたんですか?』って私、足元に向かって聞いたんです」
クノッソスは、そう語った。透明感のあるきれいで落ち着いた声だが、話の内容と包帯のせいか、どこか押し殺すような重さがある。
「でも、こんなところから届くわけないよね。すると下水の女性は、泣きながら言うんです。
『たすけて! たすけて! おねがい!』って。
私、あわててベンチから降りてその場にしゃがみこんで、地面にくっつきそうになって叫んだんです。
『聞こえる?! 大丈夫! わたし、ここに、いますよ! こ、こ、に!』
そしたらその女、私のすぐ下で、いきなり悪意丸出しに『うふふふふ……』って笑ったの。
そのあとは、意識が飛んで、なにも覚えてない。
気がついたら、病院にいました。
救急車を呼んでくれた男性の話によると、地面に叫んでる私を見ていたら、いきなり下から細い手がとび出して、私の顔をぎゅっとつかんだそうです。そして手は、そのまま顔を一気にべりっと引き剥がして、また地面に消えたんだって。私がそのままうつ伏せに倒れて、彼はあわてて119番したそうです。
ひどいでしょ。そいつ、悪霊か妖怪だったと思う。私の顔、そのまま見つかってないの。今も下水の中を流れてるのかな。
そんなわけで、今まで、こんな状態で配信しなきゃならなかったんです。
といったって、信じてないでしょ? まあこんな話、ネタにしか思えないよね。
だから今、証拠をお見せします……」
そしてクノッソスは、顔の包帯を全て取り去った。輪郭の中は骨ごとぐるりと陥没して目も鼻も口もなく、ただ、まっかな肉だけが割れた頭蓋骨の皿にべったりと張り付いていた。
その直後に画面が暗転し、配信は終わった。
彼女は、それきりネット上から消えてしまった。
四
クノッソス宮殿は、ギリシアのクレタ島にある遺跡で、歴史は紀元前二千年までさかのぼる。ギリシャ神話のミノタウロスの迷宮のモデルとされるが、なぜ彼女がそんな名前にしたかのはわからない。単にかっこいいからってだけかもしれないが。
闇介は配信を観た晩、夢にそのおぞましい顔が現れてうなされた。だが配信を観た者が少なかったようで、後日、ネットではほとんど話題にならなかった。
「また、あれね」
「うん、あれ」
数日後の朝、母との会話のあとに家を出ると、くるりと回って学校と正反対の方向へ歩き出す。住宅地を抜け、イチョウ並木の歩道に挟まれた広い通りに出る。よくある車がろくに来ない大通り。
彼の予感は基本不穏さや不快感が多いが、たまに逆の場合がある。今朝もそれで、肩からすっと力が抜けるような安堵というか、リラックスの気分になった。だから食堂の母は、いつもとちがう柔い笑みを浮かべていた。
車道をはさんで左に広い公園、右には駐車場。その右の歩道にベンチがある。以前、下水にひそむ妖怪が現れた場所である。
ベンチの前まで来ると、配信で見た女がいた。おかしいのは、遠くからは無人に見えたのに、近づくといきなりベンチの裏から、ぬっと出てきたことだ。隠れる場所はない。
クノッソスはネットと同じまっかなトレンチコートに身を包み、右手に閉じた赤い傘を持って杖のように立てている。肩までの髪のあいだにのぞく細身の顔も、包帯でぐるぐる巻きのミイラである。彼女は闇介の前に来ると、しばらくじっと見つめるようにしていた。
やがて、つぶやくように言った。
「あなたも、闇の隙間に落ちたのね」
配信と同じ、きれいな透明の声。そして、顔をややかしいで聞いた。
「あなた……生きてるの? 死んでるの?」
「それは……」
口ごもると、彼女は周りを見まわすようにした。目はないはずだが、感じ取っているのかも。というか、そもそも口もないはずなのに声を発して話している自体がありえないのだが、言葉を音にして伝えるような特殊能力でもあるのか。このレベルの霊能者だと、そういう妖怪並みのこともできそうだが。
見まわしたあと、また彼を向き、身を乗り出すようにして、意味深に聞いた。
「ここに……引き寄せられた?」
「ああ」
「そう」と姿勢を正す。「感じるでしょう、ここに魔の者がいた。もういないけど」
これには驚いた。数日前の妖怪がいた痕跡がわかるとは。かなりの力である。
「なにも感じないよ」と闇介。「ここへ来たのは、君のせいだ。誰かに会う予感がした」
「あらそう」
「配信、観た」と闇介。
「じゃあ、話は早いわ」
言って脇に傘をはさみ、ポケットに両手を突っ込んで続ける。
「ここにいた奴は、下水から手を出して人の顔をはぐ妖怪。私は『顔とり』って呼んでるわ。私はそいつから顔を取り返したい。あなた、手伝ってもらえないかしら」
「取り返すって……そいつは人の顔をどうしてるの?」
「わからない。調べたけど出てこないのよ。新参の奴かも」
「じゃあ取り返したところで元のままかどうか。食べちゃったかもしれないよ?」
「それでもいいわ」と右手を出して傘を握る。「仕返しだけでもしたいの。このまま済ますのは嫌だから」
「でも、ぼくなんか……」
闇介は暗い目になり、かぶりを振った。
「じつはぼく、ここでそいつが人を襲いかけるのを見たんだ。路面に手が消えていったけど、かなり恐ろしい相手だとわかった。次に会っても、なにもできないと思う」
「ははあ、あなた霊力だけで武器がないのね」
また傘を脇にはさんで腕組みし、少し考えると、また聞いた。
「あなた、『根黒曼鎖』って知ってる? 古い魔術書なんだけど、呪術の方法とかがいろいろ書いてあるの。作者不詳で、あまりあてにならないけど」
「持ってるよ。通販で買った。たぶん偽物だよ」
「いいのよ、贋作でも書いてある中身は変わらないから。私も本物はないけど、それもインチキだらけでいい加減らしいわ。でも、それで死者が生き返ったって話はあるし、全部ダメってわけじゃない。
じゃあ、最後のページは読んだ?」
「いや」
「吹き矢の作り方が書いてあるわ。短い筒に矢を入れて吹いて飛ばす武器。矢に霊力をこめると麻酔になるの」と、また一べつする感じで、「あなたくらいなら、顔とりを眠らすくらいはわけないと思う」
「へえ、ありがとう。ためしてみるよ」
闇介は笑うと肩をそびやかし、両手を制服のポケットに突っ込んだ。
「これは、協力しないわけにはいかないね……あっ待てよ」
気づいて目を丸くする。
「麻酔で眠らせても、そのうち起きたら同じことじゃないか」
「えーとね、最後から二番目のページに、眠らせた霊を瓶に入れて封じる方法があったはずよ」
「これは、根黒さんを一から勉強しないと、だね」
「あなた、名前は?」
「ぼくは、闇介イチロウ。変な名前だろ?」
とたんに女は笑った。
「ふふふ、私が今さら名前くらいで驚くわけないでしょ」
闇介は納得した。
たしかに。クノッソスだもんね。
「なんでクノッソスって名前なの?」
「なんか、かっこいいじゃない」
それかよ。
ふと目について聞いた。
「その傘も武器なの?」
「まあ、いろいろと役に立つわよ」
「それで空を飛ぶとか?」
「ちがうわ。大昔にそういうミュージカルがあったらしいけど」
「ふうん」
そして、なんとなく秋空を眺めた。青々とすがすがしい。
「連絡方法とか――野暮だね」
「必要なら会えるわよ」
見ると、もういない。ちょっと目をそらしたすきに。まるでぼくだな、と親近感を持ち、背を向けた。が、急にはっと振り返る。たなびく白い雲の上、赤い光が真横にゆっくりと飛んでいくのが見える。
(なんだ、思いっきり飛んでんじゃん)
彼は苦笑した。
どこまでも、つかみどころのない女。まるでクノッソスの深い迷宮に足を踏み入れた気がした。
その日は、そのまま学校をさぼった。
第二話 お化けトンネル
A子とB子はその晩、A子の運転する車で国道を飛ばしていた。一泊二日の旅行帰りでテンションが上がっていた。まじめなA子とちがってお笑い系のB子は、茶色の紙袋を頭にかぶったりして、相方を笑わせていた。
ところがやっと袋を脱いだB子は、急に神妙な顔になって言った。
「この先、お化けトンネルだよー」
山道に入ってすぐ先に、骨壺トンネルという、そのまんまの名前の心霊トンネルがあった。何かのいわくがあるわけでもないので、おそらく名前のせいでそんなイメージがついただけだろうが、実際に幽霊の目撃談がいくつもある。が、どうせその先入観のせいでなんでもないことまで心霊現象に思えるだけで、ただの気のせいだろう、とA子は笑った。
「引き返したほうが、いいんじゃないかなぁー」
そう怖がるでもなく、のんきに言うB子に、「大丈夫よぉ」とA子はタバコをくわえた。
だが車がトンネルに入って暗い通路を進むや、B子がはっと後ろを振り向いた。どうしたかとちら見したA子の目に、信じられないものが映った。バックのガラスに外から人のてのひらがべったり張り付き、そのままじっとしている。誰かが後ろに飛び乗っているにしても、どこにもつかまるところはない。てのひらの下に手首が伸びているが、異様に長いのがまた不気味だった。とてもその下に誰か人間がいて手を出しているとは思えない。
それ以前に、二人は同時に直感していた。
(これは、人間じゃない……!)
だが、よそ見しているわけにはいかず、あわてて前を向いたA子は悲鳴をあげた。フロントガラスにもてのひらが、それも十個以上の数が、上から下から一面に蔦のようにびっしり張り付いているのだ。前がまるで見えず、車はせまい坑内で暴走した。
が、B子がとっさに足を延ばしてブレーキを踏んだ。車はキイイイと金切り声をあげてトンネルから飛び出し、横転して停まった。
気が付いて顔を上げたA子は、絶句してうめいた。車は横倒しだった。それでも奇跡的に、かすり傷と軽い打ち身で済んだ。
(うう、最悪の旅行だわ……!)
目をこすって脇を見たが、B子がいない。あいたドアから這い上がって外に出ると、そこはトンネルの脇の空き地のような空間で、ただ一本の街灯がぼうっとあたりを白く照らしている。見回してもB子の姿はない。呼んでも返事がない。
(い、いったい、どこへ……)
恐怖に襲われた。ああ、B子の言うように引き返して道を変えればよかった。
後悔で頭がいっぱいになったとき、林の陰から誰かがふらりと出てきた。
「B子?! ああ、よかっ――」
一瞬安堵しかけて、固まった。どう見てもそれはB子なのだが、なんとさっき車内でやったように、頭に茶色の紙袋をかぶって突っ立っていた。
A子はキレかかった。
「ちょっと、なにやってるのよ、こんなときに! あ、あんた、大丈夫なの?! 怪我は――」
「お化けトンネルだよー」
いきなりの言葉に、またかっとなる。
「ふざけてる場合じゃないでしょ! さっさと、そんなの取りなさいよ! ほら、取って……」
はっとなった。
最初は頭に血が昇って気づかなかったが、B子の声がおかしい。トーンとかではない。
彼女が、また喋る。
「お化けトンネルだよー」
そして、見つめるように言う。
「この先、お化けトンネルだよー」
A子は思わず後ろを振り返った。
やはりそうだ。
B子は目の前に立っているのだが、その発する声は、確実に数メートル後ろに離れた茂みの中から聞こえている。むろん、そんなことはありえない。自分の前方にいる人間の、声だけが背後からするはずがない。なのに今、そのあり得ないことが現実に起きている。
ふと、頬に何かがぽとりと垂れてぎょっとなり、上を見た。長い線が横に通っている。街灯でぎらぎらと黒く光っていて、今のこれは、あそこから滴ってきたものだ。触って見て、ぎょっとした。まっかな血だった。電柱の上から、地面まで斜めに伸びているむき出しの鉄線に、血がべったりとついている。
A子はぞっとして後ずさった。するとB子も、ふらっと前に出る。
「この先、お化けトンネルだよー」
また口調も声色もなにも変わらず、そう言った。そういえば、さっきから同じことだけを繰り返している。まるで壊れた機械のように。彼女が、もはや人間ではないかのように。
A子は、恐ろしい事実を知った。さっき車がトンネルから出て横転したとき、B子がドアから外に投げ出されて空中を飛び、あそこの鉄線で首をすぱっと切断された。そして体はここへ、首は後ろの茂みに落ちた。
だから今、彼女の体はこっちだが、その首は茂みの中にいて、さっきからこっちに話しかけているのだ。つまり、いま目の前にいるこのB子には、首が――
「お化けトンネルだよおおー」
また後ろで声がして、B子の体はずざざっ、と足を引きずって、こっちへぐっと近づいた。紙袋が目と鼻の先に迫り、A子は凍り付いた。
背後でガサガサと音がして、「お化けトンネルだよおおおー」と、声が大きくなる。もう振り向けない、動けない。いま「あれ」が、茂みから出てきたのだ。後ろからこっちへ、地面をずるずると這って近づいてくる音がする。
そのとき、B子の手が不意に上がってA子の手首をぐっとつかみ、すぐ後ろの足元あたりで、B子がこう言った。
「引き返したほうが、いいんじゃないかなぁぁぁー」
「ぎゃああああー!」
A子はあまりの恐怖に絶叫し、思わず右手で紙袋を叩き落した。
そこに首はなかった。
肩の上には、血を吹いた無残な切り株しかなかった。
「ひいいいいー!」
叫んで四つん這いで逃げ出すA子の背に、B子がのしかかって抱きついてきた。体温のまるでない冷たい死肉の感触に、全身が粟を生じて、A子は「いやあああー!」と泣き叫んだ。
このまま自分もあの世へ連れていかれる、と思ったとき、目の前にB子の顔があった。顔じゅうが血に染まり、なんの感情もない真っ黒な瞳で、氷のように、ただ彼女をじっと見つめた。
気が遠くなりかけた、そのときだった。
「はい、もう終わりよ」
頭上で女性の声がし、背中がひょいと軽くなった。目の前にB子の顔もない。
おそるおそる振り向くと、顔じゅうが白い包帯でぐるぐる巻きの異様な女が立っていた。右手はB子の襟首をつかみ、その背に、左手で握ったまっかな傘を突き刺している。B子の生首は、彼女の後ろに転がっていた。ありがたいと言っていいのか、顔は向こうをむいている。
その女性はトレンチコートを着ていたが、それも傘と同じく色が血のようにまっかだった。
なにがなんだかわからず、ただ混乱するA子へ、彼女は不意に言った。
「この子にとり憑いていた霊は、傘の中に入ったから、もう大丈夫」
透明感のある優しく温かい響きに安心し、どっと涙があふれた。「B子、B子はどうなるんですか」としゃくりあげると、包帯女は気の毒そうに「申し訳ないけど、お亡くなりです」と言った。
「警察には、事故として証言なさい」
どこからかサイレンが近づいてくると、彼女は諭すように言った。
「霊のせいだと言っても、信じないだろうから」
パトカーが来たとき、包帯女は消えていた。出てきた警官たちは、惨死死体が転がる凄惨な事故現場と、一人のうずくまる生存者を見た。
xxxxxx
「また先を越されたね」
トンネルの向こう側から出たクノッソスに、闇介イチロウは苦笑して言った。
「あら、この前はあなたの手柄だったじゃない。五分五分でしょ?」
二人は、おのおのの霊の予感により現場に駆け付ける。親しいわけではないが、ひょんなことで出会って以来、いつしか事件解決を競うライバルのようになっている。
「まあ、ぼくは君を師匠と思ってるから」
山道を歩きながら闇介が言うと、クノッソスは肩をすくめた。
「やめてよ、弟子なんか取るほどの身分じゃないわ」
「だって、この道の大先輩だし」と、トンネルを振り返って笑う。「今だって、君のほうが一匹多かったじゃない?」
「数えてたの? 律儀ねえ」
彼女も振り返り、二人でしばらく、ぽっかりとあいた暗い入口を見つめた。中を通過がてら、二人で無数の霊たちを根こそぎ封印してきたのである。
第三話 廃屋の貝殻
一
「心霊スポット探索?」
「う、うん」
昼休み、下駄箱の置手紙で校舎裏に呼び出された闇介は、そのワードを聞くや一気に不快モードになった。眉をひそめ目を細め、口は横一文字に伸びて、いかにも嫌そうに相手を見た。彼を呼び出したこの平井和夫は、低身長のやせた猫背で頬はこけ、目じりが下がったさえない見た目で、小学校でのあだ名が「げっ歯類」だったクラス一の陰キャである。
そして、いま彼を前にしている闇介イチロウは完全に真逆の容姿で、男でありながら、その丸顔は鼻立ちといい、ぱっちりした瞳といい、目の覚めるような美少女そのものの愛くるしさ、平井と同じく小柄なうえ、高一にして声変わりしていない女っぽい声色のせいで、よく女生徒と間違われる。
だが、そもそも日常的に女装していたから仕方がない。下こそ黒ズボンだが、上は黒のセーラー服で襟に赤いリボンを締め、こめかみにはピンクの花柄のかわいい髪留めをした男の娘である。ちなみに闇介イチロウは彼が勝手に名乗っている芸名のようなもので、本名は止透一郎という。
「そのう、八王子の高尾山駅の先にある洋館に出るらしいんだけど」
平井がコミュ障を押して一生懸命に言うと、闇介はますます顔をしかめた。
「そんな山奥に家なんかあると思えないよ。ガセでしょ」
「い、今は廃屋でも、明治時代に華族が住んでたらしいから」とスマホで写真を見せると、木々のあいだに顔を出す白塗りの壁をした西洋風の屋敷だった。蔦だらけで黒ずんだ壁は確かに廃屋で、ページの下に霊の目撃談がいくつか載っていた。先住の華族さん一家が出るという。だが闇介は写真を見ても、特になにも感じなかった。
彼はかなり霊感の強い霊能者で、日々、たびたび来る予感に従って現場に向かい、霊的な事件を解決している。平井は以前、妖怪のたぐいに襲われて彼に助けられたことがあった。でなければ、こんな風に話しかけることは永久になかったろう。
闇介は確かに愛くるしい美少年だが、その雰囲気は暗く怖く、教室ではいつもむすっと机に座ってあごを引き、常に「うかつに話しかけんなオーラ」を全身からびんびんに発している。だから基本、誰も近寄らないが、見た目が壮絶にかわいいことには変わりないので、実は女生徒にひそかに人気があるらしく、たまに休み時間などに、教室のドアの陰から彼をのぞき見する子もちらほらいる。
クラスは違えど平井も孤立していたが、ただ陰気くさいから喋りかけてもどうせつまらんだろう、という別の意味でだった。ただし、例外もいた。
「で、ぼくに一緒に来てくれ、って言うの?」
「そ、そうなんだけど……」
変わらず半目で聞かれ、おずおずと言う平井。
「なんで?」
「ぼく、悪霊とかを引き寄せやすいじゃない。だから、その……」
「なんかあったら、ぼくになんとかしてもらおう、と」
「そ、そんな図々しい気はなくて」
あわてて言う平井を見て、闇介は(それ以外に、なにがあんねん!)と心で突っ込んだ。が、少し考えた。
写真を見ても霊的なものは皆無だが、現場に行ってみないとわからない。もし悪い霊のたぐいで人に害を及ぼしているなら、このまま無視して放置するのも、どうかと思う。
それに頼りにされるのは悪い気はしない。友達はおらず、それっぽいのはこの平井くらいだし、日ごろはガン無視している学校のために貢献するいい機会だ。というか、そもそも生きていて誰かとお出かけする自体が、ほぼない。たまにはいいだろう。彼のほかに数人が同行するらしいから、気苦労はあるが。
「はあ、わかったよ」
闇介は、ため息を吐いて言った。
「いつ行くの?」
「あ、ありがとう!」
大喜びで手を握られてぶんぶん振られ、誰かに触れるのも久しぶりで、なにか照れた。
話によると、探索は平井が言い出したことではなく、彼のクラスの鳳が誘ったらしい。鳳はひょろっと背が高いオカルト好きの眼鏡男子で、ひょんなことから平井が霊の話を振られて口を滑らせたことで同志だと知り、以来ちょくちょく話す程度の間柄になった。それで彼が今回、次の週末に自分の兄に車を出してもらい、その心霊スポットである白い洋館の探索を計画したのである。
平井はもとは心霊マニアでもなんでもなかったが、自分が恐怖体験をしてから興味を持ち、いろいろ調べるうちに、今ではマニアそのものになってしまっていた。
二
深夜、奥多摩の細い山道を、シルバーのミニバンが行く。鳳の兄が運転手、以下メンバーは彼の隣に鳳、後ろの席に個性的な女子二人、その後ろに陰キャ男子二人が座っている。ちなみに鳳と女子たちは、最近できたばかりの「オカルト研究会」の会員である。
「本当に出るのかしら」
はねた前髪で吊り目女子の夏目が、鼻を鳴らさんばかりに言った。オカルト懐疑派で、ただ事実を確かめたいという興味と、ひねくれた性格のせいでこの会に入ったという曲者だった。
「ろくに証言もないし。行く意味ないんじゃない?」
「で、でも探索の動画もあるし」
隣の吉川がおずおずと言い、スマホを見せた。こちらは純粋な怖いもの好きで会員になった、おとなしい三つ編み眼鏡っ子である。
だが、夏目はちら見しただけで肩をすくめた。
「それ知ってるわ。物音で大騒ぎして逃げるだけのやつでしょ。心霊ものって、みんなそうよね」
「まあ、そう言うなって」
前で鳳が振り返って笑った。彼はこのオカルト研究会の言いだしっぺの設立者であり、会長である。
「これから、それを調べに行くんだ。特に今日は専門家がいるし」
「止透君、霊感あるんですって?」
不意に夏目が後ろを向くと、その「専門家」に、にやにやと言った。
「まあね」
「じゃあ、やばい悪霊がいるって分かったら、自分だけ先に逃げる、とかできるの?」
「おい」
鳳がたしなめようとすると、闇介が口をひらいた。
「先には逃げないけど……嫌な奴に憑依させる、くらいはできるかな」と薄笑い。
夏目はむっとして前を向き、それきり話さなかった。
こんな風に和気あいあい(?)と進んだが、森が深まり道路が砂利道になったころ、困った事態になった。いきなり車がエンストし、それ以上進まなくなった。こんな山奥は、ほかの車も通らない。鳳兄がサービスを呼ぼうとしたが、どういうわけかスマホが県外で繋がらない。仕方なく一行が外に出て懐中電灯で周囲を照らすと、木々の中にそびえる壁が現れた。
「華族の洋館か?!」と鳳兄。
「いや、ちがう」と鳳。「壁が白くないし、ただの廃屋だよ」
「まあ、こんなところに人が住んでるはずないしな」
戸はまだしっかりしていて、横に引くとあいた。二階屋のようだが、玄関先の床は板張りで、朽ちておらず、驚くほどきれいだった。
「なにこれ。誰か住んでるんじゃないの?」と気味悪がる夏目。
「誰かが手入れしたばかりなのかもよ」と闇介。
「いったん休憩しよう。動いても迷うだけだし」
兄の提案で、全員が奥の間に入って腰を下ろした。弁当をあけ、ちょっとした遠足ぽくなった。
結局、今夜はここに泊まり、明るくなってから帰り道を探そう、というさえない結果になった。もう心霊スポット探索どころではない。兄は車のことをみんなに謝ったが、別に彼のせいでもなしと、気を悪くする者はなかった。夏目さえ文句は垂れず、むしろ面白がっている風だった。
全員が自分のカバンやリュックを枕に川の字になって、車に積んであった毛布をかぶって横になったが、壁際にいた平井が妙なものを見つけ、隣の闇介に見せた。彼は眉をひそめて言った。
「……貝殻だ」
てのひら大の白い巻貝だった。見れば、ほかにも二枚貝などが、壁際のあちこちに転がっている。海からはるか遠く離れたこんな山奥には、全く不似合いの代物だ。
だが闇介は気にせず、背を向けて転がった。
「住んでた人が集めてたんじゃない? おやすみ」
平井も寝たが、貝のことが気になって、どうにも眠れなかった。海にあるはずのものが、なぜここに?
しかし、そのうち疲れのせいで、うとうとしはじめた。
三
だが眠りに落ちる寸前、はっと目が覚めた。目の前に顔がある。隣の闇介が、いつの間にかこっちを向いているのだが、目が見開き、口は半開きのまま固まって、平井をじっと見つめている。尋常でない雰囲気に、もしや死んだのかとさえ思ったが、瞬きした。
だがすぐに彼も気づいた。周りが静かにゆっくりと前後に揺れている。そしてギイギイと木のきしむ音、外から聞こえるザザーッという、かすかな響きは波だ。
(貝殻――!)
彼と同時に全員ががばっと起きた。直後、揺れが大きくなりよろけそうになった。闇介がドアをあけて飛び出すと、平井も続いた。そして、あまりのことに動けなくなった。
そこは船の甲板で、周りは四方が海だった。たちこめる潮のにおい、大洋のど真ん中に浮かぶ船舶――そう大きくはなく漁船のように見える――の上に六人がいて、昼のようだが空はどんよりした暗雲がふさいで辺りは暗い。すぐにぽつぽつと雨が降り出し、小降りになって甲板と彼らを洗いだした。
この事態に、一人を除き全員がく然となったが、平井はその一人に「これはいったい」と聞いた。その一人は、うねる海原をにらんだまま言った。
「どうもあの家が、この船とつながっていたみたいだ」
とたん、船の右側から無数の手が出て、いっせいに船べりをつかんだ。青白い手が船の縁にずらりと並ぶ気味の悪い光景に、吉川が悲鳴をあげた。
「船幽霊だ」と闇介。「海で死んだ人の怨霊が集まった奴だ。やばいかもしれない」
「それ聞いたことある」と平井。「ひしゃくをよこせ、って言うから、渡すと水を入れられて船を沈められるっていう」
「今はバケツとかだろう。言われてもガン無視しよう」
ところが、霊たちはドス低い声で、予想外のことを叫びだした。
「ひ、とおおお! ひ、と、おおおお!」
「人?!」と平井。
「おかしい。人なんかいったい――」
闇介が首をかしげたとき、いきなりデッキが右に大きく傾いたので、みんなあわててそのへんにつかまった。どう見ても右にある霊の無数の手が引っ張って、船体を傾けているとしか思えない。
鳳の目が光った。
「そうか、そういうことか!」
叫ぶや、隣にいた吉川をわきに抱えるや右の縁に走り、なんと彼女を海に投げ込んだのである。
「お、お前、なんてことを?!」と怒鳴る兄。「気は確かか?!」
だが鳳は眼鏡を外して袖で拭くとかけ直し、まるで気にもしない様子で言った。
「奴らは人を欲しがってた。これで満足するはずだ」
「バカヤロウ!」と殴ろうとしたが、筋トレと格闘技で鍛えた弟に勝てるはずもなく、のされて倒れた。直後、船の反対側の縁に同じように無数の手が現れ、同じくがっしと船べりをつかんだ。引かれて船は左に傾き、左右の平衡を保った。
「見ろ、やっぱりだ!」
誇らしげに言う鳳を見て、平井も夏目も凍り付いた。たしかに彼の言うとおりに助かりはしたが、とても安堵などできない。特に平井は飛び出そうな目で見た。まさかこいつが、こんなヤバい奴だとは知らなかった。闇介は真顔だった。
ところが、床が不意にガクンと下がり、みんなよろめいた。船の両側をつかむ手が、いっせいに船体を下へ引っ張りだしたのだ。船を沈めるつもりなのは明らかだった。
しりもちをついて「やっぱ、ダメじゃんよ!」と叫ぶ夏目。周りからは変らず「ひとおおお! ひ、と、おおおお!」と求めるおぞましい声が響く。
「くそう、足りんのか!」と歯噛みする鳳。「それなら――」
いきなり闇介の小柄な体を高らかに持ち上げ、船べりに持っていく。「やめろ!」と足にすがる平井を蹴とばし、投げようとすると、闇介は薄笑いで言った。
「こんなことしても、ろくなことにならないよ?」
「うるせえ! 女子にひそかに人気がありやがって! 死ね!」
怒鳴る男に「うわっ、ほんとクズだこいつ!」とドン引く夏目。クズはかまわず闇介も放り込んだが、下降がいっこうに止まらない。
そこで「まだかよ!」と夏目のところに走った。「来るなああ!」とよけられて船べりに突っ込むと、数本の手が彼の肩と首をぐっとつかみ、海に引き込んだ。
残った二人は船室に逃げたが、船はそのままざぶんと水没した。海中をどんどん沈み、ドアの隙間から水がざばざばと入り込むと、平井と夏目は自分たちの死を覚悟した。
四
平井はそこで意識がなくなり、目が覚めると、元の廃屋の部屋に倒れていた。見回せば夏目と鳳兄も倒れていたが、弟の方は見当たらなかった。驚いたのは、そいつに海に投げ込まれた吉川も同じように横たわっていたことだ。そういえば闇介もいない。
「平井くん……?」
夏目がうめくように言って起き上がると、彼も立った。体が全く濡れていないのに気づいた。海の真ん中で揺れる船の上にいて雨に打たれていたはずなのに、寝た時と変らず乾いたままだ。服から潮のにおいもしない。
「変な夢みたわ」とドアを指す夏目。「その向こうが海で、私たちみんな船の上にいて」
「ぼくも見た」
「……わ、私も……」
いつの間にか起きていた吉川が言った。さっきのことを思い出して泣き出した。
「私、死んだと思った……夢でよかった……」
「みんなで同じ夢を?」と平井。
「そういうこともあるんじゃない?」と夏目。「まさか、本当に海に行ってたわけないし。それならびしょびしょのはずでしょ」
「じゃあ鳳はどこに? 闇介くんも」
「なんで吉川だけいるの」と、ふと気づいて「ていうか、誰よ闇介って」
「あ、それは……止透君の……」
そこで、みんなが一斉にドアを見た。外から足音が近づいてくる。彼らは本能的に身を引いて固まった。三人の前で、ドアはギイッとあき、隙間から見慣れた顔が覗いて、平井はほっとした。
「闇介くん……」
ため息まじりに呼ばれ、学校一かわいい少年は微笑んだ。
「この家の元の持ち主は、船乗りだったみたいでね」
闇介はみんなが落ち着くと、種明かしのように言った。
「海で殺されて、船幽霊の仲間になったんだけど、犯人が家族だった。最愛の人たちに裏切られたうえに、そいつらが捕まらなかったせいで、恨みがもう半端なくて、今では幽霊たちのボスみたいになっていた。海を越えて山奥まで達するほどの凄まじい怨念だ」
「まさか、それでこの家と船がつながったと?」
目を丸くして言う平井にうなずき、続ける闇介。
「普通の船幽霊はバケツなんかを欲しがるのに、あいつらは人間をよこせと言った。もう船を沈めるとかいうレベルじゃなくて、ただぼくらを殺して仲間にする気でしかなかったんだ。
ところがさ。
ぼくらの中に一人、とんでもない極悪人がいた。あいつのおぞましい利己主義と非人間性は、本当に飛びぬけていたろ? 悪霊たちの、ふくれ上がった憎悪と恨みの念をさらに増やして強化させるためには、鳳ひとりの穢れきった魂だけで充分だった。だから、彼だけ連れていった。ぼくと吉川さんは、まあ失格だったんで戻されたわけさ」
「お、鳳さんは、」
吉川が、おびえながら聞いた。
「そんなに嫌われた、ってこと……?」
「ちがうよ」
闇介は薄笑いを浮かべて言った。
「気に入られたんだよ。格別にね」
五
「納得いかないわ」
話が終わると、夏目が吊り目をさらに吊り上げていらいらと言った。
「いくら怨念が強いからって、ここが海のまんなかとつながるとか、ありえないでしょ。夢だったのよ、絶対」
「確かに、服も濡れてないし」と吉川。「みんなで同じ夢を見たとしか思えない」
「魂だけ移動したのかもよ」
闇介が真顔で言うや、夏目がにらんだ。
「黙ってて。あんたの話聞いてると、頭おかしくなる」
「それじゃ、鳳はどこに?」と平井。
「先に帰ったんでしょ。だいたい、このドアから向こうが海で、なんやかやあって彼だけが海に落ちたとか、バカバカしい」
そして、後ろにいた鳳兄を向いて、気遣うように微笑した。
「大丈夫ですよ、彼はきっとお宅に帰ってます」
しかし兄は泣きそうな顔になってうつむいた。
「……夢だったらいいが。実はあいつは昔、ああいうところが多少はあったんだ。だがまさか、あそこまでするとは思わなかった。思い出すと、夢とは思えないほど生々しくてぞっとする」
「すみません、面白がるような言い方をして」
闇介が頭を下げると、兄は苦笑して手を振った。
「いや、こっちこそ、夢の中とはいえ、弟が大迷惑をかけた。申し訳ない」
なにか変なので女子から笑いが起き、場がなごんだ。
もう夜明け間近だった。スマホがつながったので業者が来て車は直ったが、依然として鳳の姿はどこにもなく、連絡も取れなかった。家にも戻っておらず、警察の捜索でも見付からなかった。
それから一週間後、ある恐ろしいニュースが学校中を席巻した。行方不明だった鳳の水死体が、東京から南へ290キロ離れた某島で発見されたという。奥多摩の山中にいた彼が、どうやって太平洋のまんなかから孤島へ流れ着いたかは不明だが、闇介が学校の階段の踊り場で平井と夏目、吉川に言ったのは、「やはりあのとき、全員が海に呼ばれて、鳳の魂だけが海底に沈んで霊たちのお仲間になった。肉体はいらないので、そのまま流された」という異常な説だった。
むろん夏目はキレかかった。
「だから、海にいたなら、誰も濡れてなかったのはおかしいじゃない!」
「戻ってくるときに乾いた、としたら?」
これには、あきれ果てた目をした。
「何がなんでも心霊現象にしないと気が済まないようね。ほんと自称霊能者とは会話になんないわ」
「じゃあ、本当のところは、なんなの?」と吉川。
「鳳さんは、なんか用事が出来て海に行って、そこで誰かに殺されて流された。それ以外に考えられないわ」
「殺されたって、どうやって?」と平井。「絞殺? 刺殺? 外傷は?」
「そ、それは……」とバツ悪そうな目で、「警察に聞かなきゃ、わからない」
そこで闇介がスマホを出して、動画を再生させた。ニュースの映像で、アナウンサーが今回の鳳事件を報道していた。
「警察によれば、被害者の少年は溺死とのことですが……ひとつ、不可解な点があるそうです。彼の脇腹には、一本の小さな矢が突き刺さっていた、というのです」
平井が「あっ」となった。闇介がいつも霊に使っている武器は吹き矢なのだ。
「あいつがぼくを持ち上げたとき、」と闇介。「持ってた吹き矢が、あいつのシャツの襟首から背中に入っちゃったんだが、あいつは夢中で気づかなかった。矢はそのまま背中にあって、霊たちに海へ引き込まれたときにずれて、脇腹に刺さったんだろう。それが、あとで死体から見つかったわけさ」
「じゃ、じゃあ、本当に私たち……」と目を丸くする吉川。「海に行ってたの……?!」
「う――ウソだああ!」
叫んで頭を抱える夏目。
「そんなこと、絶対ありえない!」
そして闇介をきっと指さすと、啖呵を切った。
「見てなさい、必ず科学的に証明してやるから!」
そして弾丸のように階段を駆け降りていった。苦笑して目を閉じる闇介を、平井は熱い視線で見ていた。ぼくは、ぼくだけは、誰がなんと言おうと、絶対に君を信じるよ、と。
第四話 こっくりさん
一
その日の放課後、誰もいない視聴覚室で、机を囲んでこっくりさんをしていた、ラン・クーウォン、群上あかり、阿波根キャンの三人。こっくりさんに、好きな男子のことを聞いていたが、そのうちケンカになってしまった。
「なんで闇之先生が好きじゃいけないんデスか! そりゃ年寄りだけど、キュートで優しいおじいさんじゃないデスか!」
眉を吊り上げて、あかりを怒鳴るラン。チャイニーズらしい両サイドお団子頭で丸顔の、花のようなぱっちり目をした留学生である。
「あの先生、ネットで男の娘のひっどいホラー小説を載せてる変態爺さんだって噂よ」と白い目で言うあかり。「関わんないほうがいいわ」
彼女は長髪パツキンの派手な外見で、切れ上がった吊り目でヤンキーぽかったが、家は裕福でお嬢様である。
「あくまで噂でショ!」とラン。「それに本当だとしても、高齢者にそういう趣味があるのは、とってもイイことデスっ!」
「見た人の話だと、話もキャラも完全に頭おかしいうえに、救いが全くない最悪の鬱小説だっていうのよ。そんなおぞましい人、近寄るだけで異常が移るわ」と眉をひそめる。それはますます親友を増長させてしまった。
「ふん、パツキンヤンキーには、ダンディの魅力は到底分からないデス! あーもー、やめやめ! バッカらしい、くっだらないデース!」
叫んで机のこっくりさんの紙を両手でひっつかみ、ばーっと放り上げた。飛んだ数枚のコインが、チャリーン、と音を立てて床に飛び散る。
それを見て、キャンは蒼くなった。
「だ、ダメっすよ! ちゃんと終わらせてお帰りになってもらわなきゃ、こっくりさんがお怒りになるっす!」
などと頭を抱えて叫ぶ。沖縄出身の彼女は褐色肌でしめ縄のようなお下げをした、ぱっちり目のそばかす女子で、心配性で生真面目なキョロ充である。
「キャンちゃん、まさか、本気でやってたのデスかぁ?」
椅子から立ち上がり、あざけりの目を向けるラン。
「こんなの、ただの都市伝説デショ。まあまあ面白そうだからやってみただけデスが、こんなことなら、しなきゃよかったデスネ」
「ちょっと、キャンも悪気で誘ったわけじゃないんだから」
あかりも立ち上がり、キッと対峙して怒る。
「あやまんなさいよ!」
「ハーイハーイ、キャンちゃん、悪うござんしたネー」
肩をすくめていい加減に謝るので、あかりは完全にブチ切れた。
「なによ! その態度はないんじゃない?!」
「や、やめて、二人とも!」
キャンもあわてて立ってなだめたが、一度火がついた二人はもう止められそうにない。
「るっさいデスね! パツキンは南米に帰るとイイデスっ!」
「ふん、なにかと言うとパツキンって、それしか言えないの? ボキャブラリー、ゼロね」
「パツキンがあるから、ゼロじゃありませーン! 算数も出来ないのデスか?!」
「揚げ足とるんじゃないわよ!」
これはもう、自分では無理とさとったキャンは、大急ぎで教室を出て、誰かを呼びに行った。
しかし、ほかにランたちを止められそうな知りあいは思いつかず、結局は、また視聴覚室に戻ってきた。いっそ闇之先生でも連れてきたろか、と思ったが、事態がさらに悪化しそうなのでやめた。
だが教室に入っても、誰もいない。二人とも帰ったのかと思ったが、キャンは妙な胸騒ぎがして、教室じゅうを探した。奥に物置部屋があり、ドアをあけて入ると、右の壁際の棚に、たくさんの使われていないPCモニターが置いてある。
ふと、一台に強烈に嫌な感じを持ったキャンは、恐る恐る近づいて、見てみた。ふつうのモニターで、とくに怪しいところはない。電源が入ってないからあたりまえだが、画面にはなにもなく、まっくらだ。
ところが、急に背筋がぞーっとなった。
あわてて両腕でモニターを抱え、うんせと後ろ向きにした。後ろには無数の深い空気穴があいていて、おぞましさは、そこから発せられている。
しかし、まだなにが気持ち悪いのか分からない。上下、左右と、角度を変えて眺めてみた。
そして、真後ろへ来たとき、思わず息をのんだ。
無数の黒い穴の向こうに、一人の女の顔が見えたのだ。派手な金色の髪をした美女。あかりの顔だった。真顔で目に生気はなく、瞬きひとつせずに、ただじっとこっちを見ている。しかしキャンを見ているようでもなく、気づいていないのかもしれない。
もちろん、人間がそんなところに入れるはずもない。
(ただの写真なのでは……?)
いや、そんな感じはまるでしない。雰囲気からして、どう見ても生身の人間の顔にしか思えない。
すごくいやな考えが起きた。
(まさか、首だけ?)
「あ……あかりさん……?」
呼びかけてみた。口元がわずかに、もごっと動いた。とたん、キャンは恐怖に駆られて部屋から飛び出した。頭を抱えてしゃがんだまま、震えおののく。
(こっくりさんの呪いだ呪いだ呪いだ!!)
そう思うしかなかった。
なにがおきたのか、まるで分からない。
だが、ただひとつ、確信があった。
あかりは、あのモニターの中に閉じ込められてしまったのだ。
二
次にキャンはそれを見て、さらに凍りついた。
ずらりとこっちを向いて並ぶ無数の机たち。それは彼女から見て、ちょうどそのまんなかあたりにある、ひとつの机だった。その右側が、机と机のあいだの空間で、長い通路になっている。
そこには誰かが座っているが、顔は見えない。かわりに制服の青い背中だけが見えている。椅子に腰掛けたまま、背をかがめて、物入れの中を覗いている感じ。しかし、そのまま全く動かずにじっとしている。その雰囲気は、あまりに不自然で不気味だった。
ふと、そこから耳障りな嫌な音がしているのに気づいた。
ぽたっ……ぽたっ……ぽたっ……。
通路に入ってよく見ると、そいつのだらりと垂れた左腕の下にさがる、つかみかけたような指先から、なにやら赤い液体がしたたっている。それは足元の床に溜まり、ぬめっとした池になっている。聞こえているのは、そこに液がしたたり落ちている音。
背筋が凍りついた。
血だった。
恐ろしすぎて、これ以上見たくなかった。が、すぐに逃げられず、ただ憑かれたように、ゆっくりと通路の中を進んでいった。相手の状態を知らねばならない、誰なのか確信を持ちたい、いや絶対にそうする義務があるのだ、とでもいうように。
なぜなら、認めたくないが、それがもう誰なのか、とうに当たりがついていた。というか、ほぼ確信していた。
さっき、あかりさんがあんなことになっていた。となれば。
いま見えているあれは、あのときここにいた、自分を除いた残りのひとり。彼女しかいない。
並ぶ机の左側、向こうから近づいてくる小山のような背中を見て、キャンを猛烈な絶望が襲った。
すぐ右まで来て驚いた。かがんでいる女の頭の部分が、全く見えないのだ。襟が机の物入れの口にくっ付いて、首がそこで終わっている。おびただしい血は、どうも物入れの中からあふれているらしい。
(首がなくなったのか……?)
(いや――)
(ちがう……!!)
それを知ったとき、キャンの全身の血は残らず凍りついた。
物入れの脇から、血で濡れそぼる髪が垂れている。それは明らかに中から出ていた。つまり――
「首から頭部が消えた」のではなく――
頭部はいま、
「物入れの中にある」のである!
だが、そんなことはありえない。こんな狭いところに人間の頭が入るはずがない。無理に入れようとしても口にぶつかるだけだし、もしも手間をかけて物入れを外し、そこに頭を置いて、また物入れで挟んだとしても、そうとう力を入れないと無理だし、そもそも入るサイズではないのだから、頭を押し潰すのがオチだろう。
なんにしろ、机の物入れの中に人の頭を突っ込むなんてことは、現実には絶対に不可能なはずだ。
なのに、それが今、目の前で起きている。
キャンはガタガタ震えだした。
こんなのは、人間の仕業じゃない。
さっきと同じだ。
物置のあかりさんも、こんなありえないことに――。
もしや、これも帰してもらえなかったこっくりさんの呪いなのだろうか? だとすると――
さっきはあかり。これはラン。それなら次は――
どう考えても、自分の番だ。
キャンは完全に固まってしまった。
だが、そんな場合ではなかった。
突然、その異常現象はおきた。
ずるっ……ずるっ……ずるっ……!
ランの背が急にゆっくりと後ろへ動き出し、物入れの中に納まる自分の頭を、外へ引き出しはじめたのである。
三
箱の中に収まっていた髪が、ぽんと出て血がまわりに飛び散り、端からあまりにも末広がった白い肉のようなものが見えてきたとき、キャンは悲鳴をあげて、後ろに駆け出した。視聴覚室のドアを飛び出し、すっかり暗くなった廊下を、死に物狂いで走る。
その後ろから、気味の悪い足音が追ってきた。
ぺたっ……ぺたっ……ぺたっ……!
見たくないのに、あっと後ろを振り向いてしまった。明かりが非常灯しかなく、周りが暗くて、そいつのシルエットしか分からなかったのが救いだった。
廊下を走ってくるそれは、頭が座布団のように四角くて平べったく、もとのランとはまるで様変わりした、ふくれ上がった頭を持つ、身の毛もよだつ化け物になり果てていた。
それはそうだ。今まで机の物入れの中に突っ込んでいた頭を引きずり出したのだから、上下からの圧迫で、頭が潰れていて当然である。きっと鼻もつぶれて折れ曲がり、頭蓋骨は砕け、肉も皮膚もつぶれて、ぐちゃぐちゃのはずだ。口も砕け、目玉など、どこかへ埋まってしまったか、取れて落ちてしまったろう。
そんな見るもおぞましい怪物が、キャンを追って暗い廊下を追ってくる。と、不意に驚くような速さになった。血に濡れそぼる足音が廊下に響く。
――ぺたぺたぺたぺた!!
「きゃああああ――!!」
悲鳴をあげて近くのトイレに飛び込み、個室にこもって、生きた心地もなく震える。
ふと、うえを見上げたとき。
どんっ――!!
衝撃にびくっとした。相手が、この個室のドアに両手をついたのだ。そして――
べたっ……べたっ……べたっ……。
這い上がる音がして、ドアの上を何本ものきゃしゃな指がわっしとつかみ、その向こうから、幅三十センチはあろう、広大な黒い肉の壁が、ゆっくりと現れた。上には血で濡れそぼってぐちゃぐちゃの髪が、荒れ放題の草のようにうねり、むせ返る鉄のにおいを放っている。ここまで追いかけてきたランが、ついに向こうから、この個室を覗こうとしているのだ。
(ひいいいいっ――! こっくりさあああん! どうかお帰りください!! お帰りくださああ――い!!)
恐怖におののき、今さら心で必死に祈った。
そのとき、外でくぐもった声が聞こえた。口が潰れてひしゃげているせいか、男のような低い声になっている。だが、その響きに、どこか彼女の面影が感じられた。
それは悪意むき出しに笑っていた。無力なキャンを嘲笑していた。
「ひっひっひ……帰らない……! 帰らないデスよ……! キャンちゃああん!」
そして、背後の小窓から差し込む白い月明かりの照らしだす、憎悪にぎらつく真っ赤なランの目玉を、キャンは見た。
「きゃああああっ――!!」
あらん限り絶叫し頭を抱えてうずくまったとき、気配がすっと消えた。おそるおそる顔を上げると、ドアの上にはなにもない。あけて出てみると、床のそこらに血溜まりがあるが、誰もいないようだった。
ほっとしたとき、入口に誰かが立っているのが見えた。彼が壁のスイッチを押して明かりをつけたので、顔がわかった。よそのクラスのわりと有名人である、超絶美少年の男の娘、闇介イチロウである。
「お帰りになってもらったから、もう大丈夫」
彼はうっすら笑って言った。
「こっくりさんの中でもかなり上位の強力な奴で、しかも気難しくて意地悪ときてたから大変だったけど、なんとか説得できたよ」
言われて一気に腰が抜け、座り込む。(も、もういないのか……!)と思うと安堵はしたが、今も脳裏にさっきのおぞましすぎるビジュアルがちらついて、恐怖で全身が凍り付き、心臓がバクバクしている。助けてくれたお礼を言う気力もない。
「あの二人は、行方不明ってことになるかな」
闇介はそう言って出ていき際に、ふと振り向くと、座ったまま足元を見つめるキャンに、微笑して言った。
「まあ、これからはこっくりさんをするときには、ちゃんとお帰りになってもらうことだね」
第五話 赤子時計
一
それは赤子時計と呼ばれ、歴史の中に葬られた、あまりにおぞましく、また悲しい記憶であった。
明治時代末の東京。さる華族の娘が使用人と許されざる恋をし、生まれた子供は死産だった。未来に絶望した二人は心中することにし、ある懇意の時計屋に息子のなきがらをあずけ、ある奇妙なお願いをした。二人がこの世で契りを結んだ証しとして、この子の頭蓋骨をくりぬいて中に機械を埋め、置時計にしてくれ、というのである。あまりの依頼であったが、娘の幼少から親しくしていた時計屋は二人の想いを無下にできず、了解した。
彼は切断した赤子の骸骨の顔面を割って、中にぜんまいやら歯車などの機械を入れ、表面に秒針、分針、時針の三本の針のついた時計の文字盤をはめた。そしてその上にガラスをはめ込んで窓にし、両手に収まるほどの大きさの小さな置時計にした。全体を赤茶色に塗られた「赤子時計」なる奇っ怪な品は、こうして誕生した。むろん売り物にはせず、店頭に飾り続けるつもりだった。
ところが、後ろのぜんまいのネジを巻いて動かしてみた時計屋は、腰を抜かした。普通ならねじを巻けば秒針が動き出して、コチコチと無機質な音を立てるはずなのだが、この赤子時計は、針が動きだすや、中から甲高い「ケケケケケ!」という声が発されたのだ。それは完全に赤ん坊の泣き声だった。
あまりの恐ろしさに「これは祟りだ」と真っ蒼になり、蔵にしまいこんで二度と触るまいとした。いくら娘さんの頼みでも、赤ん坊のむくろを時計にするなどという冒涜をすれば、呪われるのは当然。あの二人は自分たちのためとはいえ、悪意だったわけではなく、むしろこの子の供養になろうという気遣いで自分に託したのだが、天のことわりはこれを許さなかったのだ。といって、二人はもうこの世にいないので、彼らに返すわけにもいかない。
さようなわけでこの時計屋は、この恐ろしい時計を自宅の奥にしまい、ないふりをした。
だがその後、店は不審火により全焼し、時計屋は家族と共に焼死体で発見された。商品もあらかた黒焦げになり、赤子時計も炭と化して消えたはずだった。
ところが、時を経て二十一世紀から二十五年以上たつ今も、その赤茶けた時計が、東京都心にまだ存在するという。
「……で、それを我々は探しに、ここへ来たわけだが――」
いつもの背広姿の霧島譲葉が、眉間にしわを寄せて流し目を送りつつ言うと、その先には目にする誰もが思わずガン見せざるを得ないほどの超絶ビジュアルがいた。譲葉もかなりのイケメンだが、これの破壊力の前には月とスッポン、富豪と無職、神と悪魔ほどの違いである。
彼がさっき黒の軽自動車で路肩に乗りつけたところを、その相棒たる少年が待ってましたと現れたのだが、遠巻きでも驚いたのに、降りてまじまじと見た彼は、ますます言葉を失った次第。それでもやっとひり出た言葉は、
「闇介、なんだその格好は」
彼の相棒たる闇介イチロウは、ピンクの花びらがそこかしこにひらきまくった薄ピンクの浴衣に身を包み、腹にはこれも濃いピンクの帯をしめ、足元は白い鼻緒のつっかけ、という完全なお祭り気分。さらに小柄で顔が壮絶にかわいいせいで、たったいま空から降りてきた、ものすごい美天女様にしか見えない。頭にはいつものピンクの花柄の髪留めをしていて、そのたたずまいは、通る者は誰もが振り返らざるを得ない超激萌えルックである。
さきほど「月とスッポン」とか言ったが、地味な背広で大人クール系の譲葉のルックスの良さとは種類が違うので、実は比べるのは無意味と言える。また見慣れているのもあって、彼は萌えよりはむしろ、「なんじゃそりゃ感」の方が強く出てしまった。
闇介は時代劇の町娘のように袖をきゃいきゃいと振りつつ、渋い顔の相棒にはしゃぎながら言った。
「だって浅草だよ?! 観光しなきゃ嘘じゃん! 雷門とかさぁ。あとなんかおいしいもの食べて、あ、スカイツリーも見たいなぁ」
「遊びに来たんじゃないんだぞ」
「わかってるって!」と横から肩をぽんと叩いて笑う。「仕事終わってからだよ、当然じゃん。あー楽しみだなぁ」
連れまわす気満々のようで、譲葉は眉間に指をあててため息をついたが、「まあ終わってからなら、いいか」と思いなおした。このあと他に仕事があるでもなし、彼はなんだかんだでこの美少年のことは好きだったから、付き合うのはむしろ歓迎である。キレかけたのは、てっきり先に遊んでから仕事のつもりかと思ったからだが、相棒の男の娘は思った以上にプロフェッショナルだった。
しかし、彼も高校生だから立派なティーンなわけだが、ここまで子供っぽい姿は初めてだ。普段は冷静で何事にも斜に構えているふうなのに、町の雰囲気が祭りっぽいというだけで(今日なにか祭りとかイベントがあるわけではない)、こうもぶっ壊れてしまうとは。浅草おそるべし。
だが、確かに浅草は地元でもない限り、普段はまず来ない場所である。目指すはにぎやかな表通りではなく、裏路地の奥。その一軒に、あの伝説の赤子時計があるとの情報がある。もし見つけて有害であれば封印する、というのが今回のミッションである。
二人はひょんなことで出会ってから、いつの間にかコンビで霊的事件を解決するフリーの社員みたいになっているが、霊能力があるのは高校生の闇介だけで、社会人の霧島譲葉は自分の車で現場へ連れて行く運転手のような役目だった。しかし、これがかなり便利で、相方に重宝されている。
疑惑の家は笑うほどあっさり見つかった。といっても完全に廃屋だが、周囲が竹林で人通りがなく、勝手に入るのは簡単そうだ。竹林の前に車を停めて降りた。
入る前からはしゃぐ闇介。
「あー、とっととなんにもないとわかって、遊びに行きたいなぁ」
「思ってても言うなよ……」
などと、また額をおさえたが、譲葉はふと、会ったころには自分のほうが彼に激メロだったのを思い出し、笑みがこぼれた。それが付き合ううちに慣れてしまい、今では相手が甘えん坊の弟で、自分が小うるさい兄みたいになっているが、「最初は本当に惚れていたなぁ」と感慨深く思った。
それに気づいた闇介が、「なんだ、譲葉も遊ぶ気満面の笑みじゃないか」と白い歯をむいて笑った。「遊ぶ気満々」に引っかけたんだろうが、「遊ぶ気満面」ってなんだよ。
しかし突っ込む間もなく、開け放しの入り口から勝手に入られたので、あわててあとを追うしかなかった。
木造平屋で元は店だったような感じだが、そんなに経っているように見えない。情報では明治時代からあるらしいのだが、こんなボロ家が持つとも思えない。床も壁も朽ちて赤茶けてはいるが、どう見ても築二、三十年はそこらだ。壁に茶だんすと思しき出っ張りがほこりだらけでデンと突き出ていて、当時は商品が乗っていたのだろうが、当然ながら今はなにもない。
そう広くない部屋をあらかた調べて、譲葉は「こりゃハズレだな」と言ったが、相棒のうれしがる声がしないので不審に思った。遊べるのに「やったー!」とか言わないということは、まだ仕事が終わりじゃない、ということだ。
見れば、彼は奥の壁際の床を四つん這いで調べていた。汚れるからか、すそを腰までたくし上げ、むき出しの太ももがガラスのない窓からの陽をうけて、きらきらと光っている。譲葉は、ふとえらくきれいだと思った。
「なんだ、どうした?」
譲葉が近づくいて聞くと、闇介は彼を振り返り、薄笑いで言った。
「あるよ……地下室」
二
床板は簡単に外れ、大人一人が入れるほどの穴が現れた。懐中電灯で照らすと、中は石の階段が降りている。闇介から先頭に入ったが、それは譲葉は大人とはいえ霊能者ではないので、彼のほうが急な事態にも対応できるからだった。いつものことである。
それでも大人としては、未成年を行かすのは内心不服だったが、仕方がない。彼は、ただの会社員。お化けが襲い掛かっても、相方のように吹き矢で倒すようなわけにはいかない。
長いこと誰も入っていないのか、空気は重くよどんでいた。深さは一階ぶんのようで、すぐ地階についた。トンネルを掘って作った感じで、天井は高く、広さは二部屋ぶん程度のようだった。地下室にはちがいなかったが、床は土間で周りの壁も岩と泥でしかなく、部屋というより、ただの洞窟である。
「どうも、急いで作って、すぐふさいだ感じだね」
奥まで照らしながら闇介がつぶやくと、隣で譲葉も周りを照らしつつ言った。
「こんなところが明治時代からあるとは思えん。やっぱりハズレじゃないか?」
「ずっと見つからなかったんだよ。封印されてたんだ」
「えっそれじゃ、さっき見つけたとき、封印を解いたのか?」
闇介はうなずき、さらに進んで最奥を照らすと、岩の壁際に四角い棚のようなものがあった。幅はざっと一メートル四方、高さは学校机くらいで全体が黒ずんでおり、かなりの年季もののようだ。だが、二人の目はその真ん中に乗っているものに集中した。両手に収まるほどのサイズの丸い置時計。赤茶色で丸いガラスの中に、それぞれがてんでを向いた三つの針があり、なんの音もせず、動いてはいないようだった。
「赤子時計か?!」と叫ぶ譲葉。「まさか、本当に?!」
「……」
興奮する相方と逆に、闇介はただ眉をひそめ、時計をじっと見つめていた。
ふと出会ったときのことを思い出した。
あのときは、譲葉が少女の霊に操られてマンションの屋上から飛び降りようとしたが、すんでのところで阻止できた。予感のおかげで先回りできていたからだった。
だが、今回はまるで違う事態になった。完全に不意打ちだった。
譲葉はあっという間に走り出し、時計をひっつかむと、後ろのネジをぐるぐる巻いた。
「あっ、よせ!」
闇介が叫んだ直後、時計は甲高い声をあげだした。
「ケケケケケケケ!」
まがまがしい赤子の泣き声が、部屋じゅうに響き渡った。
譲葉は左手に時計をつかんだまま、うつぶせに倒れた。時計から黒煙が噴き出し、むくむくと黒い人型になって浮かんだ。電灯を地面に置き、闇介はその揺らめく影をにらんだ。頭と胴体だけのそれは、放たれる濃厚な邪気からして、明らかに何十年もの長きにわたり怨念をため込んできた大悪霊だった。
「動くと、こいつがどうなるか分かってるな?」
低くよどんではいるが、明らかに子供の声で影が言った。
「言わなくてもわかるか。おまえは普通の人間じゃないようだし」
相方は、いつ取り出したのか、右手に握る鋭いナイフを自分の首筋にあてて気絶している。
「君は時計に憑いている……」 と言いかける闇介。「にしては、少々おかしいな」
「ガキの霊能者にしちゃ、鋭いな」と笑うように言う。「そう、その時計にされた奴は、とうに極楽浄土へ行っている。母の愛を受け、時計が墓標となり、めでたく供養されてな。
だが――」
子供の霊の声は、いっそう低く気味悪い響きになった。
「もう一方の奴は、成仏などできなかった。俺は、そいつが母から引き出されたとき、一緒に死んだ胎児だ。ほとんど双子だが、数時間先に生まれたから、そいつの兄だ。
俺は出産のとき、そいつの裏に張り付いていたんだが、気づかれずにはがれ、テーブルの後ろの闇に落ちて、そこで苦しみながらゴミとして死んだ。本当なら、とうに死んでいたそいつのかわりに、俺が生きるはずだった。それを不用意な親たちのせいで無残に殺されたのだ。
だから、この時計にとり憑いた。関わる全てのものたちを呪い殺して地獄へ送り、ついにはここへ封印されたわけだ。
感謝するよ、お前らのおかげで、こうして再びよみがえることができた」
「それは……」
一瞬言葉を失い、闇介は悲し気に眉を寄せた。
「さぞ、つらかったろうね……」
「それがなんだ。おまえなんぞに何がわかる」と、あざけるように、「俺はこの恨みをどこまでも背負い、俺を捨てて愛する者と安らかに死にやがった母と同じく、安楽にこの世に生きていやがる全ての者どもを、永劫に呪い続けてやるのだ」
「時計の中にいたって、なにもできないんじゃないの?」
「そうだ。だからこの男の体を乗っ取る。魂を食って入れ替われば、俺は時計をもって自由に動けるようになる。
だが、お前は特殊な能力があるだろう? 邪魔しないで帰れば、お前のことは見逃す。だが、手出しするなら、この男を殺してお前もやる」
「待ってくれ。そいつよりぼくのほうが若いから、君と波長が合うはずだ。それに霊能者だから、君の力も増大するよ。彼は見逃して、ぼくを殺してくれないか?」
「そんなことを言って、なにかする気だろう」
「ぼくの小細工なんて、全部お見通しなんでしょ? 明治からいる大悪霊の君なら」
悪霊は、ふふんと笑うように言った。
「確かに、魂を取るなら、お前のほうが良さそうだな。よし、この男は見逃してやろう。こっちへ来い。何かしたら、こいつを殺すからな」
「良かった」
だが前に出ようとするその肩を、後ろからきゃしゃな指が押さえた。見れば、顔じゅう包帯でぐるぐる巻きの女。
「君は、いいところに出てくるね」
「やめなさい」とクノッソス。「なにか策があるはずよ。なにも犠牲になることなんか――」
「だって、譲葉が死ぬんだよ?」とうっすら笑う。「ぼくが代わりになって当然じゃないか」
すると、相手は珍しくイラついた口調になった。
「彼が起きてあなたが死んでたら、どう思うかしら? 自分のせいだと知ったら? 絶望して死ぬわよ」
「君が説得して。そのくらいやってよ。友達じゃん」
「と……」
顔はないが、困惑しているのが明らかに分かった。
「大丈夫、譲葉はそんなに弱くないよ」と闇介。「それに、ぼくのことを思ってくれるから、自分を粗末になんか絶対にしない。それは、ぼくが一番嫌がることだから」
手が弱まったので前を向き、歩き出す。目の前まで来ると、影は嬉しそうに言った。
「入るから、口をあけろ」
だが、あんぐりあいたそこから覗くあるものに気づき、後ずさった。
「なっ――?!」
叫ぶや、闇介の口から吹き矢がひゅんと飛び、影の頭のど真ん中に命中した。たちまち溶解し、崩れ落ちていくさなか、彼はあることを知ってうめいた。
「お、おまえ――人間じゃ……!」
そして黒い塗料のような小さな塊になって棚の上に落ちた。闇介は、ただちに譲葉の手から時計とナイフををもぎ取り、彼を棚から引き離した。
「まあ、なんかやらかすとは思ってたわ」
そう肩をすくめるクノッソスに、少年は笑って言った。
「本気でビビってたくせに」
三
譲葉が気づくと、あおむけに寝ている彼の顔を、淡いピンクの浴衣姿の美少年がしゃがんで見ていた。あわてて起き上がると額が痛み、触るとあざがある。
「転んで顔を打って気絶したんだよ」と闇介。
「いてて、ダサいなこりゃ」と顔をしかめ、「あっ、赤子時計は?!」
「これ」と渡され、ネジを巻こうとしたが、さびきってまるで動かず、あきらめた。
「そりゃダメだよな、年代物すぎる」
だが、言ってとんと棚に置いたとたん、歯車が動き出し、「ギッ、ギッ」と鈍い音を立てて秒針が動いた。もちろん赤子の泣き声ではない。針はすぐに止まり、それきりだった。
「巻かれてあったのが動いたんだね」と闇介。「最後の一声だったんだね、きっと」
妙に感慨深く言ったが、譲葉は気づかず頭をかいた。
「やれやれ、やっぱり完全に外れだったな」
「霊気のかけらもないしね」
クノッソスはとうに姿を消していた。悪霊を閉じ込めたビンを持って行ったが、譲葉への説明がめんどくさいからと、闇介が彼女の手柄にしてやったのである。だが実は、ほかにも理由があった。ビンの納品だのとうだうだやって、これからの楽しい時間に水を差されたくない。
「さあ、仕事終わりだから、遊びに行こうよ!」
闇介が嬉しそうに言って手を引くと、譲葉はあきれと困惑の混じった顔で、
「おまえ、相棒が怪我してるのに、少しは心配とかなぁ」
「かすり傷以下じゃん。それに、つまずいて倒れた君の自業自得じゃないかなぁ?」
意地の悪い笑みで言うので、観念した。
「わかったわかった、これから行こう」
「やったあ!」
時計はそのままにし、地下室の入り口も元通り封印した。廃屋を出て、竹林の前に停めてある車に向かって歩き出しかけた闇介の足が、ふと止まった。
「……なんだ、どうした?」
譲葉が聞くと、浴衣美少年は彼のほうを見ずに、ぽつりと言った。
「さっき一瞬、譲葉が死んだと思った」
「なにをバカな」と苦笑し、「俺が死んでも、おまえならどうせ、あの世まで追いかけてくるだろ?」
「まあね。
でも、逆だったら、どう?」
真顔で彼を向き、続ける。
「もし、ぼくが死んだとしても、譲葉がぼくを追うのは無理だよね? 普通の人間だし」
すると譲葉は、いきなりしゃがんで彼の肩に腕をまわすと、微笑して言った。
「なに言ってんだ。普通だろうがなんだろうが、どんな手を使ってでも、おまえをこの世に連れ戻すよ。俺の人生に、お前がいなくてどうする。闇介あっての霧島譲葉だ」
言われたとたんに体温が上がり、顔がかーっと赤くなった。
「なに、それ。なんか怖いよ?」
横目で照れ隠しに言うと、男はさらににんまりした。
「闇介だって、そうとう怖いぞ?」
「お互いさま、ってことだね」
言って彼も笑った。
そうだ。
マンションで初めて会ったあのときに、譲葉も自分と同じ、闇の隙間に落ちたのだ。今の彼は、ぼくを失わないためなら、きっとどんなことでもする。それが確たる証拠だ。
確かにきっかけはぼくだが、ぼくのせいだと言えば、彼は否定するだろう。これは彼自身が選んだ道なんだと。
そうだ。今や彼もぼくと同じ、闇の住人なのだ……。
決して良いことではないとわかっていながら、そう思うと、胸がぽかぽかと幸せいっぱいになってしまう。
闇介は彼から離れて、一歩ジャンプするとこっちを向き、両腕を広げて満面の笑みで言った。
「じゃあ怖いもの同志、二人で今から、華やかな浅草の街をビビらせに行こう! 平和ボケしたこのニッポンを、肝胆寒からしめに!」
「盗賊が荒らすんじゃないんだぞ?」
「似たようなもんだよ」
言って闇介が腕につかまると、譲葉は笑い、「そうだな」と青い空を見上げた。
裏通りを行く二人の足取りは軽かった。二人には、この道が、このまま永遠に果てしなく続いていくように思われた。(終)




