空っぽの青を待つ
「世界が終わればいいのに」と、一度でも願ったことのあるあなたへ。
これは、破壊にも再生にも至らなかった、ある放課後の小さな記録です。
美しい夕焼けが、時として毒のように感じられる瞬間の温度を閉じ込めました。
短い物語ですが、一瞬の火花を感じていただければ幸いです。
「空っぽの青を待つ」
「世界を壊したかった」なんて、そんな大層な動機じゃない。
ただ、夕暮れがあまりに美しすぎるのが、僕には耐えられなかった。
放課後の理科室。僕は、机の上に並べた空き缶と、くすねた薬品を眺めていた。窓の外では、オレンジ色の光が校庭を、街を、そして僕の嫌いな「普通」の生活を塗りつぶしていく。
あの日、君は言った。
「ねえ、死ぬのと何もしないのって、何が違うのかな」
その言葉が、僕の胸に刺さったまま抜けない。君はいつだって、この窮屈な世界から抜け出すための出口を探しているようだった。
僕は導火線に火をつけたい。
ドカンと一発、全部を台無しにしてしまいたい。
テストの点数も、将来の不安も、言えなかった本音も、君が流した涙も、全部まとめて空の塵にしてしまえばいい。
「何してるの?」
背後から声がした。
振り返ると、そこには君が立っていた。
逆光で顔は見えないけれど、君が少しだけ笑っているのがわかった。
「……世界を、爆発させようと思って」
「いいよ、それ。私も手伝う」
君は隣に座ると、細い指で火薬の詰まった缶に触れた。
僕たちの爆弾は、きっと誰にも見えない。
物理的な炎を上げることもないだろう。
けれど、この夕焼けの静寂を切り裂くような、僕たちだけの叫びを形にしたかった。
「ねえ、爆発したら、何が残ると思う?」
君の問いに、僕は少し考えてから答えた。
「……たぶん、空っぽの青い空だけだよ」
君は「それは綺麗そうね」と呟き、ライターを手に取った。
親指でカチリと石を弾く。
小さな火花が散る。
爆ぜろ。変わりゆく季節も、いつか色褪せる思い出も、最高に美しいこの夕映えさえも。
全部まとめて、壊れてしまえ。
僕たちは、爆弾魔だ。
この退屈な日々という牢獄に、唯一の穴をあけるための。
火がつくまでの数秒間、僕たちは初めて、この世界で息をしている実感がした。
カチ、という音。
一瞬の静寂の後。
僕たちの目の前で、真っ白な光が弾けた。
結局、世界は一ミリも揺らぎはしなくて、ただ僕の指先だけが、火薬の匂いと冷たい静寂に震えていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
結局、何も変わらない日常に戻っていく。
その「絶望」こそが、いつか「救い」になることもあるのではないかと思い、この筆を執りました。
火薬の匂いと冷たい静寂が、読後感として少しでも心に残れば嬉しいです。あなたの今日が、どうか静かでありますように。




