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空っぽの青を待つ

作者: 君と誰そ彼
掲載日:2026/02/25

「世界が終わればいいのに」と、一度でも願ったことのあるあなたへ。

これは、破壊にも再生にも至らなかった、ある放課後の小さな記録です。

美しい夕焼けが、時として毒のように感じられる瞬間の温度を閉じ込めました。

短い物語ですが、一瞬の火花を感じていただければ幸いです。

「空っぽの青を待つ」



「世界を壊したかった」なんて、そんな大層な動機じゃない。


 ただ、夕暮れがあまりに美しすぎるのが、僕には耐えられなかった。


 放課後の理科室。僕は、机の上に並べた空き缶と、くすねた薬品を眺めていた。窓の外では、オレンジ色の光が校庭を、街を、そして僕の嫌いな「普通」の生活を塗りつぶしていく。


 あの日、君は言った。

「ねえ、死ぬのと何もしないのって、何が違うのかな」


 その言葉が、僕の胸に刺さったまま抜けない。君はいつだって、この窮屈な世界から抜け出すための出口を探しているようだった。


 僕は導火線に火をつけたい。

 ドカンと一発、全部を台無しにしてしまいたい。


 テストの点数も、将来の不安も、言えなかった本音も、君が流した涙も、全部まとめて空の塵にしてしまえばいい。


「何してるの?」


 背後から声がした。

 振り返ると、そこには君が立っていた。


 逆光で顔は見えないけれど、君が少しだけ笑っているのがわかった。


「……世界を、爆発させようと思って」

「いいよ、それ。私も手伝う」


 君は隣に座ると、細い指で火薬の詰まった缶に触れた。


 僕たちの爆弾は、きっと誰にも見えない。

 物理的な炎を上げることもないだろう。


 けれど、この夕焼けの静寂を切り裂くような、僕たちだけの叫びを形にしたかった。


「ねえ、爆発したら、何が残ると思う?」


 君の問いに、僕は少し考えてから答えた。


「……たぶん、空っぽの青い空だけだよ」


 君は「それは綺麗そうね」と呟き、ライターを手に取った。


 親指でカチリと石を弾く。

 小さな火花が散る。


 爆ぜろ。変わりゆく季節も、いつか色褪せる思い出も、最高に美しいこの夕映えさえも。

全部まとめて、壊れてしまえ。


 僕たちは、爆弾魔だ。

 この退屈な日々という牢獄に、唯一の穴をあけるための。


 火がつくまでの数秒間、僕たちは初めて、この世界で息をしている実感がした。


 カチ、という音。


 一瞬の静寂の後。

 僕たちの目の前で、真っ白な光が弾けた。









 結局、世界は一ミリも揺らぎはしなくて、ただ僕の指先だけが、火薬の匂いと冷たい静寂に震えていた。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

結局、何も変わらない日常に戻っていく。

その「絶望」こそが、いつか「救い」になることもあるのではないかと思い、この筆を執りました。

火薬の匂いと冷たい静寂が、読後感として少しでも心に残れば嬉しいです。あなたの今日が、どうか静かでありますように。

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― 新着の感想 ―
物語のように大きな結末は起きずに、絶望の日常に戻っていくことがどこか救いに感じられてとても良い読後感でした。 投稿されている二作とも読みましたが、貴方の作風、というか作品の持つ雰囲気が好きです。これか…
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