疑問:ここはどこ?
大まかに進めながら細かいことで追加していったりと
後からあれもこれもとなる事もありそうで
実際そんな事もないかもしれない。
そんな感じでただただ妄想・空想を書いてみてますので
あ。これ無理だわと思った場合には無理せず止めておきましょう。
体にあった小説をお選び下さい。
「はじめまして、梓さん。いえ、アリス・フォーラスさん。」
「アリス?」
「はい。あなたのお名前です。」
「いえ、私は山本梓と申しますが、あなたはどなたでしょうか?」
インターホン越しに宅配便だというから何も考えず通してしまった。
この時の私の判断はこれから起きる事が全く予測できないにしても、とても軽率だった。
何?この男?詐欺?
「すみません。部屋をお間違えでは?御用がないようでしたらお引き取り下さい。」
「失礼いたしました。早々にあなたにお会いしたいとおっしゃっている方がおりますので、お迎えに上がりました。」
なんて怪しすぎるんだろう。
見た目から黒いスーツ?一般的な仕事のスーツではなくイギリスの映画やドラマで出てくるようなかなりクラシックな服装で、現代の日本においては場違いにも程がある異質な恰好。
そうそう、昔のヨーロッパの執事服っぽい感じ。
男自身も明らかに日本人っぽくはない顔立ち、そして身長も165㎝の私がかなり見上げる程高い。この男。怪しさしかない。
最近のセールス詐欺にはこういうのもあるのだろうか?
「すみません。今忙しいのでお引き取り下さい。」
「左様ですか。残念ながらこちらもお時間があまりないので、少々手荒となってしまい申し訳ないのですが失礼いたします。」
そう言うと同時に男は玄関内に踏み込んできて、後ろ手で玄関のドアを閉めた。
「ちょっと!」
まさか入ってくるのか!?と焦り、とっさに男の脇をくぐる。
近づきたくはなかったけど、男をとにかく外に出す為に再び玄関を開けようと手を伸ばす。が、私の手は男にはねのけられた。
「!!」
体のサイズ差的にも勝ち目がないので、無理に押し込む事を諦めてはねのけられたと同時に室内の方に下がった。
なんなんだこの男は?
家に入ってこられては困るし、ひとまずは警察を呼ばなければ。
「こちらへ」
「は?」
てっきり男は室内へ入ってくるかと思ったが、男は自分が閉めた玄関のドアノブに改めて手をかけて玄関のドアを開く。
男が何をしようとしているか、予想がつかず更に一歩下がって様子を探る。
男からこちらに向かってくる様子はなく、男は静かに体を脇にずらしたので開いたドアの先の景色が目に入る。
それは本来であれば、マンションの廊下・・・のはずだった。
が、ソファとテーブルがありオフィスのような部屋がある。
景色自体は普通の室内の景色なのに、本来見える筈の景色からはかけ離れていて、ついさっきまでベッドで考えていた電車の時の事を連想させる。
「なっ何ですか?すみませんが帰ってください。警察を呼びますよ!」
「それは困りますね。お互いに」
この男が普通の警察でどうにかなるのかは分からないけれど、とにかくこの場を回避する方法として私にはそれしか思いつかなかったので、とにかくキツめに警告したつもりだったが、それに対しても男は焦るどころか私にもそれは困る事だと薄笑いをする。
どういう意味?
回避方法も思い当たらず、訳が分からない状況で更に訳が分からない事を言われ、不安が募っていく。
既に正常な判断ができず、ならば一先ず話だけでも聞くべきか?とすらつい悩んでしまったけど、それこそまさに詐欺にあっているような悪い方向にしか見えない。
唯一ギリギリ残っていた正常な判断に押しとどめられた。
でも、とにかくこの男を家から追い返したいのに、玄関の先が出口ではないとすると、私はこの男をどうやって帰らせればいいのだろうか。
途方に暮れ、結局押しとどめてくれた正常な判断に申し訳ないけれど
「もう、ここで要件だけ伺いますので、お願いですから帰っていただけませんか?」
「恐れ入りますが、私ではご説明出来かねますので、さぁこちらへ」
男はあくまで言葉や対応は丁寧だが、こちらの妥協案も含めたお願いについては全く聞く耳を持たない。
ここまで話が通じないとは、本当にどうすれば良いんだろうか。
意味不明続きの出来事に思考回避し始めたようで、電車の出来事をまた思い出してしまう。
きっと、同じ事が起きているんだと思う。それなら・・・
「分かりました。でもその前に電話をしてもいいですか?」
「かしこまりました。それではこちらのお部屋でおかけください。」
「いえ、部屋の方で電話をしてきますので少々ここでお待ちください。」
「あなたのお電話はこちらですね」
ふと、差し出された男の手にあるスマホ。
それはまさしく私のスマホだ。
何故、寝室の布団の上にあるはずの私のスマホがそこにあるのか!
「な!返してください!」
「もちろん、すぐにお返しいたしますので、こちらへご入室ください」
「勝手に人の物をとっておいて、部屋に入れってどういうつもりですか?!」
どうやったかどうかなんて知らないが、勝手に物を取られたという事をきっかけに感情が大きく揺さぶられる。
もはや丁寧な対応なんてする必要もない!
声を荒げて、男に怒鳴る。他の部屋の誰かが来る気配はない。
怒鳴る声とは逆に思考は落ち着きを取り戻したが、助けが来ないことに落胆し半ば諦めた。
この間のプラットフォームではないので、部屋へ入ろうとした瞬間に落ちる事は恐らく、きっと無いだろう。
だが、明らかに胡散臭いこの男についていくのは正直気が引ける。
前に進む気も起きず、気持ちとともに更に後ろに下げた素足からフローリングの冷たさを感じる。そうだ。
「あの、流石に私、今寝巻なので着替えてきてもいいですか?」
「おや、これは失礼。それではこちらで如何でしょうか?」
男がスマホを持った手とは逆の手をこちらへかざすと、上下スウェットだった服が何故か白いブラウスにベージュのカーディガン、そしてネイビーのロングスカートになった。
私の服ではない。
「え?は?ちょっと・・・」
「それではどうぞこちらへ」
あの。誰か他に選択肢を下さい。
私にはもう選択肢がなかった。
もうどうにでもなれ。
「スマホ返してください」
なにはともあれ、まずはそれだ。何事にも優先順位がある。
「どうぞ」
男の目的通りに私が部屋に入ったからなのか、男は躊躇うこともなくスマホを差し出す。
それを雑に受け取り、そそくさと男から距離を置く。
男から一番離れた部屋の奥にまで下がり立ち止まると、室内は私達二人分の音しかなかったようで、急に静けさが漂う。
玄関からも見えたやたら高級そうなソファがあるが、こんな状況で落ち着いて座る気も起きない。
一先ず今、男が立っている部屋のドアとは反対側にある窓際の方まで更に距離を置き、スマホから部下の電話番号を探す。
今思いつく唯一の連絡先。
必死に電話帳から「池田」を探す。苗字順に上の方なのですぐに見つかった。
「因みに、おかけしたい先へは恐らくお電話は繋がりませんよ。」
は!
男の声を聞いてスマホの右上を確認する。
・・・圏外になっている。
こ、この男。
最初の第一印象通りに詐欺師のようなうさん臭さが今改めて実証された。
暫く手が止まりこの先の対応について落ち着いて考えてみるが、なんだこれ?詰みじゃない?
その入ってきたドアを開けば元の家に戻れるだろうか。
それはあまりに楽観的な気がする。
「電話をかけたいんですが」
「おかけしたい先へは、このお部屋からは恐らくおかけになれません。」
「それなら、帰らせてください。」
「今、旦那様がいらっしゃいますので、今暫くおかけになってお待ち下さい。」
「私は電話をしてからにして欲しいと伝えました。」
「はい、ですからお電話はして頂いてもかまいません。」
「・・・・」
うんともすんとも進まない会話に言葉が止まる。
この帰れるかどうかも怪しい状況でつい逃げ場を探しに窓の外を見る。
普通の外の景色のようだ。
天気は曇りのようでやや薄暗い、見えている景色が自宅のマンションからの景色ではない事は確かだ。
何故なら海が見えるし私の自宅は1階なのに、ここからは3階か4階以上の高さなのか少し離れた先に別の建物のレンガ屋根も見える。
「ここはどこですか?」
「旦那様がお客様をお迎えするためのお部屋です。」
答えになっとらん。
「その旦那様とやらはいつ頃いらっしゃるんですか?」
もう早く会って、早く帰りたい。溜息まじりに一応聞いておく。
「現在、こちらへ向かっていらっしゃいます。」
いちいち曖昧な答えしか寄こさない男だ。
男は入ってきたドアの前から一歩も動かず、返事だけは返してくれるが正直こんな怪しい状況で「旦那様」とやらに会いたくない。
だが、会わないと帰れないということだろうから、会わずに帰る為には無理にでもここを出ていくしかない。
その為には少なくとも男がドアから離れてくれないと、ドアから出る事はできなさそうだ。
となると、最後の方法はこの窓から飛び出す以外に思いつかない。
静かな部屋の中、何も考えずにいる事も出来ないので、勝手に沸き上がってくる色々な疑問の中でも、この先の事を考えると気になる疑問がある。
Q.「旦那様は何者か?」
仮説①:長靴をはいた猫
仮説②:知らないおじさん
仮説③:詐欺師のボス
適当に仮説を上げてみたものの、仮説③の可能性しか見えない・・・。
ここが仮に前回の電車のような場所だとしたら、逃げた所でその後に無事帰れるかどうかも分からない。
少なくとも現時点では、この詐欺師っぽい男は乱暴的な事も胡散臭い売り込みもお金を振り込めとかも言ってきてはいない(嘘は言っているが)。
本当に旦那様とやらに会って、何事もなく家に帰してくれるだろうか?
いやいや、そこまで脳みそお花畑じゃないぞ。私は!
–コンコン
「!!!???」
えええええ!?これは来た?来たの?旦那様?来ちゃった感じ?
無意識に後ずさり、窓に近づく。
ドアに立っていた詐欺師の男はすぐにドアノブに手をかけ扉を開く。
ゴクリ・・・
その様子をソファ越しに見守る。
そういえば、窓にカギがかかっているかどうかの逃げ道について確認してない・・・今更ドアから視線を外す事も出来ない・・・悔みながら見守っていると
「だん・・・。」
男は少しだけドアを開いて、何やらドアの向こうにいる誰かと話しをし始めた。
恐らく扉の先に居る相手は『旦那様』ではないようだ。
一先ず一安心(?)。
「・・・が?・・・・。それでは、ユ・・では?」
「しかし、・・・が、・・・・・でして」
会話はさっぱり聞こえないがそれを聞くために近寄りたくはない。
とにかく旦那様とやらではない様子なので、多少緊張は続くものの少し動けそうな体で視線をドアから外し、さっき確認できなかった窓際を観察する。
鍵はついていなさそう。
ついでに逃げる時の為に外の様子も再度確認してみるが、やはり4階ぐらいの高さがありそう。正直飛び降りるのはかなり危険そう。
しかも、どこからどう見ても知っている景色ではない。それどころか日本かどうかも怪しい。
ん?あれは鳥?なんかデカくない?海の方に飛んでいる生き物がいるが、距離の問題なのかサイズがかなり・・・
「アリス様」
いや、やっぱり相当大きい!あれは小型飛行機ぐらいはありそうな・・・
「アリス様」
「!!」
声に驚き、振り返る。
つい大きすぎる鳥に集中してしまっていた!
詐欺師の男が部屋の中央まで近づいてきていることに全く気がつかなかったよ!
というか『アリス』と呼ばれても反応できない。本当に誰なの『アリス』さん。
そんな不思議の国に住んでいた覚えはありません!
「な、何か?」
「場所を変えましょう。」
「へ?」
男は再びドアの方に向かい、ドアを開いて私に外に出るよう促す。
嫌がったところでこの部屋に居続ける訳にもいかない。仕方がない。促されるままに廊下に出た。
先ほどこの男と話をしていたであろう人物は既に見当たらない。
詐欺師の男は私の後から部屋を出てきて部屋のドアを閉じる。廊下には窓が全くなかったので、ドアが閉まった途端に急に廊下はズンと暗くなってしまった。
そして、更に暗い廊下の先へ進む詐欺師の男の後ろを嫌々とついていく。
場所を変えるというからには外に出るのだろうか?
それなら逃げる機会はありそうだ。と思いながら進んでいたが、男は階段に向かう事もなく廊下の突き当りにあるドアを開いた。
「こちらへ」
場所を変えるって部屋を変えるって事?
てっきり外に出るもんだと・・・あ。外だわ。もうこんな事では今更、驚かない。
ドアを出て振り返るとさっきの部屋があった場所は、目の前の建物と多分同じっぽい。
まぁ確認のしようがないのだけど、折角外に出たのであたりを見渡してみる。
やや湿度があるようでじめっとした肌触りの悪い風が頬をなでる。あたりは人っ気がない。
歩行者用道路と自動車用道路があり、かなり道が広く見晴らしは良いのに、どこまで見渡しても何故か車も人も鳥などの生き物さえ見つからない。
他の建物の窓にも誰かがいる様子はなく、外に出たというのに心地悪い寒さを感じる以外、先ほどの部屋にいる静けさとまるで変わらない事に違和感を感じる。
–カツカツ
「こちらへ」
唯一はっきり聞こえる男の足音が静かすぎてやたら耳につく。引き続き諦め半分に黙って男の後ろを追おうとした。
「こんにちは」
「!?」
後ろから手を掴まれた?と思うと、耳元からする女の子の声に驚き振り返る。
その瞬間に景色が一変した。
「どうぞ、お掛けください」
先ほど耳元でした声と同じ女の子?の声が聞こえるがその姿は見えない。
今度もヨーロッパっぽいバラが飾ってある庭園の中にいるようだ。
もはや驚く事にも疲れて、反応もできない。どこでもいいけど家に帰りたい。
白い机と椅子が目の前にある。
さっきまでずっと立ち続けていた事や警戒する事もやや疲れてしまってたので黙って座る。
そういえば、風景が変わったと同様に草の音、風の音が聞こえる。改めて、さっきまでがどれだけ静かだったか意識させられる。あっちの方が違和感は強かったけど、結局ここも意味不明な場所ってことには変わりはないんだけどね。
「直接お会いできず残念ですが、それはまた次の機会の楽しみにとっておきますね。
急にこんな形で申し訳ないのですが、はじめまして、梓さん。
彼が来るまでにあと1分というところなので、挨拶は早々に短めにお伝えさせてください。」
一方的に話し始める声。
声のする向かいの席を見つめるが、姿が見えないので視界には向こう側の庭の景色が広がる。
恐らく、庭の中央にいるようでそれこそどこを見渡しても草木とバラのみの不思議な場所。
本当に不思議の国に来てしまったのだろうか・・・
「あいつは聡いから概ね答えを掴んでくると思うけど、多分決め手には至らないと思う。」
こちらの反応や返事など気にする気もないようで、全く話にはついていけない。彼やらあいつやら一体なんの話をしているのだろう。
一応は正面の椅子から聞こえる声に耳を傾けるけど、この後どうなるんだろう。
雰囲気的にはここの方が安全そうだけど、家からはどんどん離れて行ってしまっている気がする。
「だけどもうこのままで居るのも嫌・・・。それがダメな事も分かってる、でももし戻ってきたらって、整理がつかないまま長い時間を過ごしたわ。自分ではどうしても決められない。」
彼女が一人話し続けるのを黙って聞くけど、何か悩んでいるようですがお答えできそうにはありません。
相手に相談する時には前提条件をはっきりお互いで確認してから
「だから、あなたに賭けさせて。」
「へ??」
「”覆水盆に返らず””It is no use crying over spilt milk.”」
もはや聞くだけに徹していたけど、急に私向きになったようで声のトーンが変わる。
彼女の最後の二つの言葉がそれまでの言葉に比べてやけに耳に響いた。
一度こぼれたものは元には戻らないという意味だったはずの諺。英語の方も多分同じ事をいっているのかな?
声からの印象ではあるけど、恐らく15歳ぐらいであろう女の子の声で聞くと少し怖い感じ。
とはいえ、それをどう返していいか分からず、再度話はじめるのを待とうとした
–ぶわっ
正面から強い風が吹き、つい瞬きをしてしまう。
そして、目を開いた時には再び景色が変わり、今度はどこかの喫茶店のカフェテラスのような場所に座っていた。移動の多いことで。
一応周りを見渡すと再度静かすぎる事と街の雰囲気的にひとつ前の場所に戻ってきたようだ。
ヨーロッパ風な外観を見渡し、一周したところで改めて正面を見る。
いつのまにか男が座っていた。
「・・・・・・・・こんにちは」
「こんにちは、無事にまた会えて嬉しいよ。アリス」
やはりその名前は私の事を指しているようだけど、一先ず訂正しておきたい。
「いえ、私はアリスではありません。」
「そうだね。僕はブライアン。」
「山本梓と言います。あなたが・・・旦那様ですね。」
なんとなくそう感じた。旦那様というからには初老のイケオジをイメージしていたのだが、詐欺師の男の恰好や街の様子と同じヨーロッパ風の貴族が着る格好をした20代後半の好青年。青い瞳に、金髪。まさにドラマや映画からそのまま出てきたような男性が、目の前の椅子に座りいつの間にかあった紅茶を口にしている。
「なんでそう思うんだい?」
「それ以外に該当する男の人が居ない事とそれっぽいからです。」
「ふふ。そうだね。確かに」
微笑んだその顔はどこかで似た顔を昔に見たことがある気がするが、こんなイケメン知らない。見た目や話し方からは嫌な部分がないというのに、さっきの詐欺師の男とは違ったうさん臭さを感じる。
「で、御用は何でしょうか?」
「話が早いね。僕としては本当は君ともっとゆっくり話を進めていきたいんだけれど。
確かに早めに切り上げないと迎えが来てしまうね。」
迎え?ここに連れてきた胡散臭い詐欺師の男だろうか?
正直分からない事だらけで疑問だけは山のようにあるが、だからといってここでこの男からゆっくり聞きたいとも思わないし、何ならこの男がもし答えてくれたとしてもそれを私が信じられるかも微妙なところだ。
それなら、本来の目的をさっさと済ませて帰らせてもらうに限る。
「それでは御用をどうぞ」
「ふむ」
男は紅茶をテーブルに置き、こちらを見る。
「簡単に言うと、やっとの事で見つけだした君を迎えに来たんだけど、その見つけられたきっかけが少々面倒でね。今君を連れて帰ってしまうと、後々面倒ごとが残ってしまいそうなんだ。だけど、このまま連れ帰るのを止めてしまうと、恐らく君は彼女の下に置かれてしまって今後手が出しずらくなる。」
「はぁ」
「なので、どうしたものかまだ考えているんだけど、これがなかなか良い方法が見つからなくてね。」
「つまり?」
「今僕が選べる方法は二つ。一つはやっぱりこのまま連れて帰って、頑張って君の事を隠す。」
それはつまるところ私は家に帰れないという事ですね。ご遠慮頂きたい。
「もう一つは?」
「君をここで消してしまう」
町中のカフェテラスという場所にも関わらず、やはり二人の声しか聞こえない状況で男が口にしたその言葉を最後に時間が止まったような錯覚を覚えた。
呼吸をしているのか分からないぐらい静かすぎる事が、詐欺師の男と居たあの部屋の中に居た時以上に恐怖心を煽り、目の前の男から視線を外せずにテーブルの下にある両手に力が入る。
「そ、それは私を殺すということになるのでしょうか?」
いや、それを確認してどうするの。でも何が起こっているかも分からないこの場所で、普段の仕事中に生かせるこの頭は仕事を放棄してしまった。
「うーん。それはちょっと違うかな。正確には君を誰にも認知されないようにしようかな。」
「そ、それは。実質死んでいるのと同じように感じられますが、」
両手の力が入りすぎて、手のひらに爪が食い込む。手が冷たい。
ほんの少し前の庭園にあった風の音や葉のこすれる音に比べて、静かなこの場所と目の前で微笑んでいるだけの男に、具体的な理由が分からない異常を感じる。恐怖心だけが心を満たしていく。
ここには 何もない
自分の呼吸音。男が喋る声。自分の服がこすれる音だけがこの耳がちゃんと機能していることを知らせてくれる。
「受け止め方は人それぞれかもね。いずれにしても今思いつくのはこの二つだけだ。」
男が喋っているというのに、言葉は頭に入ってこない。
何を言っているんだろう。
「君はどっちが良い?」
このまま攫われてしまうのだろうか。それとも・・・。どっちが良い?そんな選択肢を選べるわけがない。このまま黙り続けるのは怖いというのに声が出ない。音がない。
何が起こっているのか分からない事が怖い。
何が起こるか予想できない事が怖い。
ここがどこか分からない事が怖い。
手の感覚がないことが怖い。
誰もいない事が怖い。
この男が怖い。
怖い。
怖い。
怖い
怖い
怖
怖
怖
・
・
「はっ、わ、わ・・・わたし、私は帰りたいんですけど」
恐怖心でいっぱいになった時。口から勝手に先日あの部下に言った言葉をそのまま紡ぐ。
「ふむ、どこへ?」
どこへ?どこに?私の帰る場所に?
私はどこに帰る?どこが私の帰る場所?
この男は何を言っているのだろうか?
–ブブブ
「!」
私のスカートのポケットから振動と共に振動音が聞こえる。同時に息を吸い込んだ。
「おや、時間切れか」
「申し訳ございません。旦那様。急いで移動致しましょう。」
気が付けば、座った男の後ろから詐欺師の男が現れる。
「残念だけど、ここでお別れのようだ。」
「旦那様」
「でも、やっと会えて嬉しかったのは本当だ。」
「こちらに」
男は詐欺師の男が急かす声も気にせず、再び紅茶に口をつける。
「でも、また会えると感じているから。次までに良ければ考えておいてくれるかな。」
「お急ぎください。」
「はいはい。」
何も考えられずに黙っている私を気にすることなく、男は紅茶を静かにテーブルに戻して立ち上がる。
–カラン
木が響く音だ。
「旦那様。お下がりください。」
男と詐欺師の男の二人は私の背後に視線を向ける。
「おや、今回はだいぶ可愛らしいね。僕の趣味だよ。」
「それは残念。言い残すことは?」
「彼女は兄の遺産だ。丁重に扱うように。」
「知らん」
–ぶわっ
何度目かも分からない、風の瞬きと共に二人の男は目の前から消えさった。
ざわざわ。あはは。きゃーはは。
コンコン。カンカーン。
ブーン。ブロロロロ・・・・
と同時に、急に耳が本当に機能し始めたかのように色々な音が聞こえてきた。
「お疲れ様です。先輩」
部下は私の背後から周り、先ほどイケメン男が座っていた椅子に座る。
部下。
正直この部下も何者か分からないけれど、一先ずは安心できる状態であることに違いない。今まで、息をするのを忘れていたかのように深呼吸する。
「はぁぁぁぁ・・・疲れた」
「お疲れ様です。ですが、もうひと踏ん張りしましょう。」
鬼か?部下は無表情に言い放つ。
「ここに居続けるのはあまり宜しくありません。残念ながらお送り先はご自宅ではありませんが、先日の場所へ移動しましょう。すぐに迎えが来ます。」
「あー。あのー出来れば・・・何か食べたいです。」
「それじゃ、用意してもらいましょう。」
今日は朝から何も食べていない。緊張し続けたお腹もやっといつも通り機能し始めたようで、空腹だったことに気がつく。
そんな普通の会話に、改めて体の力が抜ける。
色々な生活音につられて、さっきも見渡したのにもう一度辺りを見渡す。
歩いている人。走っている車。飛んでいる鳥。さっきまでと同じ場所にいるのに、全く違うその光景はさっきまでが実は夢で、今夢から目が覚めたような感覚。
「?」
と思ったのもつかの間。何か透明人間のようなものが歩いてるのが見える。しかも、一人だけじゃない普通の歩いている人に混ざって、同じぐらいの数いやそれ以上居る。
結局まだ、夢のままでここは現実とは違うのだろうか?再び現実逃避に向かう思考。
「ここは先輩からするとお隣さんという感じです。」
部下の返答と共に私は考える事をやめた。
もしもお時間があるようでしたら
一文二文、はたまた評価頂けたら
ちょっと凹んだり、めっちゃ喜んだりします。




