第二話 共同課題と風呂
まあ普通に考えて娯楽の一つもない学校なんてみんな泊まりたいもんじゃないだろ。
「まあ教室は空いてるが、必要なものは全て持ってこられるのか?」
「モってこれます」
まあこいつだけ泊まるのは好きにしろ俺には一ミリも関係ないことだ。
「でも女子一人で学校に心配だな」
まあここで俺のめんどくさいこと避けたいセンサーが反応する訳ですよ。
「先生俺は言っときますが絶対に嫌ですよ」
「お前には頼もうとしてないぞ竹取。第一お前は男だろ。女子とお泊まりなんてお前ゲームとアニメ過剰摂取しすぎじゃないか?」
菊亭はニヤけながら言った。俺はもう狭衣タスキと蜻蛉ユキサのドン引きしている顔を見て俺は死にたくなった。
あと俺は過剰摂取どころじゃないぞあんまり舐めんなよ。
「狭衣お前泊まれるか?」
「私も習い事と部活あるけど大丈夫です!」
突然だが俺はここまでの会話である程度二人の性格がわかった。
狭衣タスキはうるさくて勢いで何でもするタイプのバカで、雰囲気的にクラスで友達多いタイプの女子だ、それで蜻蛉ユキサは教室の隅っこで読書してるタイプの女子だろう。
俺は人との深い関わりこそ少ないが、コンビニバイトで数多の人数を接客して第一印象でタバコを銘柄で言うか番号で言うかがわかる。
そんな俺が判断したんだからまあ間違ってないだろう。
「まあ二人とも校内宿泊に関して細かいことは後で話す。じゃあ本題に戻るぞ」
俺たち三人は手元に配られたプリントを見た。
プリントには
今回補講になった諸君には、次の定期テストで三人全員10番以内になってもらいたい。一人でも条件に満たされなければまた新たに生徒会としてこの学校と生徒が抱えている問題を君たちで解決してもらう。この夏の共同課題は自分たちのことを根本的に見直すための自己観察論文を書いてもらう。字数制限は1万字〜2万字である。
と書かれていた。
まあ普通に定期テストは納得できるが生徒会は全く関係ないだろ。絶対面倒ごと押し付けようとしてるな。
「せんせー!」
「これって2万字書く人いるんですか?」
狭衣そこじゃないだろ。俺は情報量が多すぎて何が自分の課題なのか分からなかった。しかもこれ共同課題なのか?自己感想文なんて一人で書けるじゃないか。
「まあ一応の指標ってやつだ。お前ら次の定期テストまで三ヶ月。ましてや共同課題もやるとなると休んでる暇はないぞ早速取り掛かれ!」
俺は早速教卓に置かれた原稿用紙を何枚か取って課題に取り掛かろうとしたが、
一夜漬けで頭が回ってないうえに、家に筆箱を置いてきてしまいあたふたしていると
「フデバコないの?シャーペン貸そうか?」
俺の真横からユキサが話しかけてくれた。
俺には自分から話しかける勇気がなかったから助かったぞユキサ!
そんなユキサが筆箱を漁って俺に申し訳なさそうに
「ごめんタッキュウくん。シャーペンなかったからエンピツでいい?」
まあ鉛筆でもいいかと一瞬思った、一瞬。
だがユキサが渡してきたのは何年前のかも分からない歯形のついた親指くらいの長さの鉛筆だった。しかも六角形の普通の鉛筆じゃない三角形の指が痛くなるほうだ。
あとタッキュウって呼ぶな。
「あ、ありがとう」
借りた側が文句を言うわけにもいかず、俺はコンビニバイトで身につけた営業スマイルでお礼を言った。
「でさ二人とも!これどうやって何を書くの!」
「自分を客観的に見ろってことじゃないか?」
まあ正直俺もこれは一人じゃ無理な課題だなとは思っていた。
「じゃあさみんなで自分のこと全部話そうよ!」
「ぜっ全部ってどのヘンまで?」
わかるぞユキサ怖いよなこういう陽キャ女子のテンション。
「んーでもある程度話さないと結局主観的なことになりそうじゃない?」
「まあ確かにそれも一理あるな。じゃあまずみんなどこ出身とかから話すか?」
と俺が言うといきなり狭衣が爆笑し始めた。
「ゎはははははっ!それ全然関係ないじゃん!タッキュウ結構見た目に反して面白いね。まあでもそういうことから話そー」
あこいつマジで殺そ。まあでもさっきから言ってることは筋が通ってるんだよな。
「んーじゃあ俺から。俺の地元はここ、ふじみ野。この学校のすぐそばのここから見えるあの五階建てのマンションに住んでる」
「えーもうほぼ学校住んでるじゃん。私は東京!」
言い忘れてたがこの学校は私立で、埼玉にあるけどスポーツとかが名門だから普通に東京とか神奈川からも来るやつはいる。
「んでユキっ、いや蜻蛉はどこなんだ?」
あぶねえ下の名前で呼ぶところだった。
「私はアキタ出身で今仕事の関係で新幹線で毎日通学してる」
「え秋田なの!すっごい肌白いし綺麗だからなんか納得しちゃうなー」
いや秋田っていくら何でもバイトでこっちに住むはないだろ。いや待てよ仕事ってなんでも遠すぎるだろ。
「秋田から来るって一体なんの仕事してんだ?」
「えっとソレは・・」
「こらタッキュウ女の子の私生活に足踏み入れないの!もしかして女子と喋るの初めて?」
おいニヤニヤすんな狭衣。
「はっ初めてじゃねえし?」
いや実際初めてではないぞ学校の事務のおばさんを女子と入れるかの問題だが。
「嘘だね!」
「うん、ウソだね」
おい二人ともそこで結託するなよ。
「でじゃあ次の質問行くか」
「あー話そらした!」
「そらしタね」
ああそうだよそらしたよなんか悪いかよ。そもそも俺は言う必要もないと思うが、童貞だ。そんな俺がこんな長い間会話してるのはもはや奇跡と言ってもいい。
「というかお前ら校内宿泊ってどうするんだよ。風呂とか」
「タッキュウのえっち!」
「おっおい!そういうことを言おうとしたんじゃない!ただ俺は純粋な疑問をお前らに投げかけただけだ!」
いや決してお前ら二人の風呂の入っている姿とかは一切想像していないぞ?したとしても泡で局部は隠れているから安心しろ。
「でも確かにお風呂とかは銭湯とか行くしかないのかな」
「俺はここ地元だからわかるけど全然銭湯とかないぞ」
本当にここには銭湯以外だったらほぼ全てあるが、銭湯は電車移動でもしない限りない。
「えっじゃあどうすればいいの〜〜」
「タッキュウそういえばさっきイエすぐそこって」
ユキサは呟いた。
「おいお前らさっき女子の私生活がどうとか言ってたくせに俺の家の風呂に入るのか?」
「でもお風呂は入れない方がタッキュウと夏休み中暮らすよりちょっときついかも」
狭衣タスキに聞きたい。俺はそんなに手出しそうで不潔で陰キャそうな見た目してるか?
「俺そんな見た目キモいか?」
「いやキモいってゆーか、なんか笑ったところ想像できないくらいネガティブ顔なんだよね」
まあお前らと喋ってると疲れるんだよこっちは。
「じゃあもう一度聞きます!久作お風呂貸して?」
こんな時だけ名前で呼ぶな。