結婚
桜佳が家に来てから一年、ようやく婚約が認められた。
怪我が治ってから、桜佳は相当な努力してくれた。
うちが手掛けている店で働くために、一から礼儀作法や店の経営学などを、とにかく学んでくれたのだ。
もちろん私は桜花のサポートや母の説得など、自分にできることを色々とやったが、婚約が認められたのは桜佳の努力のおかげだろう。
婚約が認められると、桜佳はうちの店で働き始めた。
接客など、人前に出ることは桜佳が怖がったので、基本は裏方だ。
桜佳が働いている店の人達は、最初こそ彼の容姿に慄いていたが、彼の有能さに気づくと掌を返して褒め称えた。全く、現金なことだ。
でも、桜佳が認められることは嬉しいことなので、素直に喜んでおこう。
今日は祝言をあげる。
この世界では珍しい婿を取る形なので、うちのような高い身分の家の娘がする輿入れの儀式はせず、三献の儀をして宴会をすることになっている。
白無垢に着替えて綿帽子を被った私は儀式をする部屋に案内された。
そこには紋付き袴を着こなした桜佳が粛々と上座に座っていた。
思わず見惚れてしまったが、お付きの侍女に声をかけられて、私はその隣に座る。
儀式は終始厳かな雰囲気で進んでいった。
まぁ、父の友人(取引先)とかも来てるから陽気な雰囲気にするわけには行かないのだろう。
私的にはもっと前世の結婚式のように友達などを呼んで賑やかに楽しくやりたかったのだけれど、そういうわけにもいかなかった。
宴会に入ってもずっと厳かだ。
父は若干取引のような会話をしているし、母はそんな父に付き従っている。
儀式に呼ばれた人たちの会話もほぼ取引だ。
何というか、胃がキリキリする。
こんな雰囲気では桜佳と話せない。
終始抜け出したいと思っていた結婚式だった。
――――――――――――
ようやく結婚式が終わり、寝室で二人きりになった時、どちらともなく大きなため息をついた。
「「はぁぁーーー」」
「疲れたね。桜佳お疲れ様。」
「千莉もな。」
お互い労い合う。
「あんなに重々しい雰囲気だとは思わなかったな……。」
「そうだね。ほんと、桜佳とは一言を喋ってないんじゃない?」
「そうかもしれないな。」
雑談していると、ふと思い出した。
今は初夜の時間なのじゃないかと。
夜が更けてきて、しかも一つの布団が敷かれた寝室に二人っきり。
明らかに『そういうこと』をする雰囲気じゃん!
「…………なぁ。」
考えに耽っていると、桜佳が声をかけてくる。
「ん?」
「これって…………、初夜って、ことだよな?」
「まぁそうだね。」
随分と狼狽えながら桜佳が聞いてくるので私は幾分か冷静になって、落ち着いて答える。
「…………なんかあっさりし過ぎてないか?」
少し不満げな桜佳。
「俺は……。その……。祝言の前に、初夜の時は、あー……、千莉を襲えと言われたんだが。」
「なるほど?」
「…………………どうしたらいいか、わからない。」
「……それは私も分からない。」
「そうか…………。」
私はさっきから気になっていたことを聞いてみた。
「桜佳。まだ不安?」
「あぁ…。」
「そっか。」
私は桜佳の手を引いて布団の方へ行った。
「全部受け入れたら、不安じゃなくなるのかなぁ。」
私は布団に寝転がって手を広げた。
桜佳は恐る恐る抱きついてきた。
「いいよ。」
そう言って、私は桜佳に優しいキスをした。