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私が離れたくないから

桜佳side

千莉と気持ちが通じ合ってから数週間が経った。俺はまだ歩けないので、今日も布団の上で本を読んでいる。

千莉に文字を教えてもらったので、今なら平仮名も漢字も読める。

(今度は礼儀作法を教えて貰おうか)

そんな事を思っていると、襖が勝手に開いた。驚いてそちらをみると、千莉ではない人がいた。

「キャーー!」

彼女は悲鳴をあげながら廊下の方へ逃げていった。

嗚呼、そうだった。元はそういう反応だった。千莉と一緒いると、普通の人になった様に錯覚してしまう。

現実を突きつけられたように感じて、心細くなる。早く千莉が来てほしい。

(千莉といると俺は本当に女々しくなるな。)


――――――――――――


最近、使用人からコソコソと噂されるようになった。おそらく噂が広まったのは、桜佳のへやに使用人が間違って入ってしまった時からだろう。私はその使用人の噂話を聞いてしまったのだ。その噂話とは、「お嬢様が野蛮な男を連れ込んでいる」「お嬢様はその男に惚れ込んでいるらしい」と言った物だ。

二つ目の噂は好きに流し目もらっても良い。しかし、噂とは悪い尾ひれがついていく物。今は部屋の外には出れない桜佳だが、もしかしたら、彼が侮辱されている噂がいつかは彼の耳に入るかもしれない。警戒しておこう。


――――――――――――


あいつ……。やりやがったな。

ことの発端は、桜佳の部屋に入ったあの使用人が、父や母に桜佳の噂をつげ告げ口しやがったこと。それからというもの、母が桜佳を追い出せとうるさいのだ。

母は身分主義で、「身分の低い桜佳と一緒にいるのは嫌」と言っている。しかも使用人は、私が桜佳と恋仲だということも告げ口したらしく、それについて母は「家族になるのは嫌」とヒステリックに私に訴えた。

ちなみに、父は勉強熱心でどんどん学がついていく桜佳の頑張りを認めているらしく、桜佳の体が治ったら、うちの店で働かせようとしているらしい。

父を味方につけて母を説得するか……。


――――――――――――


ある日の夕方、いつもより遅れて桜佳の部屋に行くと、桜佳が青白い顔をしていた。心配して、桜佳が座っている布団の脇に座る。

「どうしたの?そんな青白い顔をして。」

「……。この部屋に、あんたの母親らしき人が来た。そいつは、俺に千莉と別れてこの屋敷を出ていくように言った。」

「え……。」

絶句した。そして後悔した。母は、身分の低い人が嫌いだと思う。だから、桜佳に近づかないと思っていたのだ。私のいない間にそんな酷いことを言われていたとは……。

「なぁ千莉。……俺はどうしたらいいんだ?千莉のことを思うなら確かに俺は千莉から離れるべきだ。でも……。でも、俺はあんたから離れたくない。離れるなんて、思い浮かべるだけで苦しくなる。……あんたを殺して俺も死にたくなる。おかしいよな。わかってる。」

桜佳はこちらが反論できないぐらい矢継ぎ早に言う。

「俺は……。俺は…………。」

桜佳はもう涙目になって、私の着物の胸元を掴み、縋りついていた。私は自分の着物から桜佳の手を離した。そして、私は彼の手を包み込むように握る。下を向いていた彼がこちらを向いたのを見て、私は話し始める。

「桜佳は何で私と離れるべきって思ってるの?」

「それは……。あいつに、言われて俺もそう思ったから……。」

「そっか。じゃあ何で桜佳は母に言われたことに同意してるの?」

桜佳は苦い顔をする。

「……俺は醜くて、身分なんてものはなくて、しかも罪人で、どうしようもない奴だから。」

「私は桜佳のことをかっこいいと思ってるし身分とか肩書きだし罪人は私が揉み消してるから大丈夫。」

「かっ、かっこいい?」

「そう、かっこいい。」

前世のことを言うつもりはない。なぜなら拒絶されたら怖いからだ。

「私、ちょっと感性が特殊なんだ。」

「……なるほど?」

桜佳は困惑で涙も止まったようだ。

「離れるべきなんて思わないでね。私が離れたくないから。」

「……っ!」

そう言われるとは思わなかったというように驚く。私、結構好きって言ってたはずなんだけどなー。

「あ、あと死なないでね。ついでに私も殺さないでね。」

「…………わかった。」

そういえば物騒なことを言っていたなと釘を刺しておいた。

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