捨てないよ
あれから何事もなく生活していた。
本当に、何事もなく。
何事もなさすぎて、正直、怖い。
こんな俺が簡単に受け入れられるはずがない。
怖い。だから、試すことにした。
俺がこの家に害をなす存在だとしったら、おそらく追い出すだろうな。
どうやって試そうか。
そうだ。この際、俺の絶対に叶わないこの想いを伝えようか。
そうしたら、流石の千莉も俺を拒絶するだろう。
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「千莉、伝えたいことがある。」
そう怪我がある程度治り、歩けるようになった桜佳から言われて、私と桜佳は、桜佳の部屋に来ていた。
「伝えたいことって何?」
桜佳なんだか楽しそうだ。でも、どこか、なんと言うか、、、。影がある気がする。
「そうだな、、、。いや、俺には小難しいのは無理だな。」
独り言のように呟いて、桜佳は口を開く。
「俺は、千莉が好きだ。」
えっ、、、。
そう言われて、まずは何事か!と思った。だって、彼は私を好きになるはずがないと思っていたから。
次に、強烈な羞恥と嬉しさ。おそらく、今私は顔が真っ赤なのだろう。
だが、彼は何か別の意図があるのかも知れない。
「どうしたの?急に。それ、ほんとに?」
「あぁ。本当だ。」
「そっ、、、、かぁー。」
信じていいのかなぁ、、、。いやでも、この機会、、、逃してはならん!
「ほんとなんだね?」
「あぁ。」
彼は、なんだか諦めのついたような顔をしていた。
「実はね?私も桜佳が、、、好き、、、だよ?」
「、、、は?」
え、、、。ダメだった?えー。クッソ恥ずいじゃん、、、。
羞恥心に心を苛まれていると、桜佳が口を開く。
「俺なんかを、、、好き?」
「うん。ダメだった?」
もういいや!と割り切って話す。
私の精神はもう大人なのだ。
「いやいやいや。あんたのような、なんと言うか、、、たかねのはな?だったか?そんな奴が、俺なんかを好き?」
「高嶺の花は否定させてもらうけど、そうだよ、、、。悪い?」
「悪くはない、、、。、、、悪くはないが、あり得ないだろ、、、!」
「いやいやあり得るよ?全然あり得る。と言うか、人の好きって気持ちを否定しちゃダメだよ?」
「そうか、、、。でも、、、。いや、、、。」
彼はなんだかとても困惑していた。信じられないと言ったように。
「なんでそんなに困惑してるの?桜佳から告白してきたじゃない。」
「、、、、、、。」
沈黙が訪れる。
「、、、怖かった。俺がこんなに受け入れられたのは初めてだったから。試してやろうと思って。」
桜佳は静かに涙をこぼす。
「あんたは本来、俺なんかと関わらなかったはずの高い身分の奴だ。だから、こんな奴に好かれたと思ったら、俺を捨ててくれると思って。、、、捨てて欲しかったわけじゃない。むしろ、これから捨てられるのが怖いぐらいだ。
、、、ごめん。試すなんかして。ほんと、ごめん。俺は多分、相当捻くれてんだ。」
私は無言で彼を抱きしめ、口を開く。
「大丈夫。捨てないよ。」
彼の背中を優しく撫でる。大丈夫大丈夫、と以前言った言葉を繰り返し言う。
彼の涙がおさまった頃、私の背中に回った彼の腕が、縋るように力が強くなった。
「捨てるなよ。」
「捨てないよ。」