信じてしまう
家に着いた。
まあ、家と言っても、めちゃくちゃデカいお屋敷で、一つの町のようになってるんだけど、、、。
そんな我が家の中にある自室に彼を案内する。
まずは彼の傷の手当てをしなくては。
でもその前に、、、。
「私、詩条千莉。ねぇ、貴方名前はなにかしら?」
彼は、大層驚いたような顔をする。
「どうしてそんなに驚いているの?」
「俺なんかに、よく平然と喋りかけれるな。」
彼は、少し怒ったような顔をして言う。
「あたりまえじゃないかしら?」
彼は、豆鉄砲を喰らったような顔になった。そんな顔もイケメンなんだけど。
「それより、貴方の名前は?」
「、、、、、、ない。牢屋にいた時は、449番と呼ばれていた。」
「そう。じゃあ、なんて呼ばれたい?」
「なんとでも。」
「なら、私が決めていいかしら?」
「、、、、、、あぁ。」
「それじゃあ、、、。おうかってどうかしら?桜に佳って書いて、桜佳!」
「いいんじゃないか?」
彼はそっぽを向いて言う。
「ちょっとー!貴方の事なのよ!まぁいいわ。それより傷の手当てね。少し見せてくれるかしら。」
「は?」
彼はさっきの比じゃないぐらいの驚いた顔をする。どうしたのかと聞くと、こう返ってきた。
「こんな醜い身体、見たくねないだろ。」
「そう言う訳じゃないのだけど、、、。とりあえず、これ以上酷くなったら大変だから、傷、見せてちょうだい。」
「吐くなよ。」
「吐かないわよ。」
彼の傷は、思った以上に酷く、私じゃ手に負えなかったので、医者を呼び、手当してもらった。手当にきた医者は、顔色が悪く、しんどそうだったので、少し休暇を出す事にしよう。
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俺には親がいない。
家もない。
名前もない。
そんな俺は、生きるために一度だけ盗みを働いた。
だが、初めて盗みを働いた日に捕まった。
俺は思った。「処刑されるのかも知れない」と。でも、それもいいかも知れない。醜くて、産まれも卑しい。こんなクソみたいな人生、終わらせてもいいかも知れない。
「ハハッ、、、、、、。」
そう思うと、産まれて初めて笑えてしまった。
牢屋の中で一人、笑っている俺を、皆気味悪がる。それすらも面白くて、また笑う。そんな日が続いていた。
やっとだ!やっとだやっとだやっとだ!
やっと、処刑の日がきた!
これで俺はこの人生から解放される!
俺はこの日まで、必死に耐えた。
拷問も、折檻も、辛い事全て耐えてきた。
身体はもうボロボロ。支えられないと自分のこと足では立てない。
それでも、全てから解放されると思うと、なんとか耐え切れた。
そして、処刑人が俺を処刑しようと刀を抜こうとすると、一人の女が声をかけてきた。
なんと、俺を欲しいと言ってきた。処刑人もその言葉乗り気な様子で、俺を差し出した。
絶望した。目の前の女を憎んだ。もう解放されなくなってしまった。でも、罪人の俺が口出しできるはずもなく、そのまま連れて帰られる事になった。
近くに止めてあった、大きな輿のようなものまで、なぜか、女に支えられて歩いた。そして、輿に着いてからは、歩かされると思ったが、なんと輿に女と一緒に乗せられた。しかも、女の部屋と思われる場所に通されてからは、女は平然と俺に話しかけた。それから、名前を付けたいと言われ、なんだか身分の高そうな名前をつけられてしまった。しかも、医者を呼ばれ、手当てまでされた。そのあと、なぜか風呂にも入れられたし、上がった後に着る着物は、相当高そうな物だった。
なんでだ、、、。どうして俺なんかに優しくできる、、、。どうして俺なんかと話す時、楽しそうに笑うんだ、、、。なんで、、、。なんでなんだ、、、、、、。
俺はこんなこんなに信じやすかったのか、、、。
これでは、勘違いしてしまうじゃないか。こんな俺でも愛してくれるかもって。
そんなわけないし、そもそも身分が違う。それでも、そう、信じてしまっている。