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【エピローグ】新境地

 現実世界に戻った俺――大塚潤斗が、例の『みーてぃんぐいべんと』以降、初めて小松田遼把に出会ったのは、国際展示場こくさいてんじじょうの広大なスペースの一角だった。


 リアルJC制服姿の遼把は、重い段ボール箱を抱え、机と机で挟まれた道を通って現れた。


 そして、その重い段ボール箱を、長机の上に置く。


 その長机の隣の長机には、俺が先ほど置いたばかりの段ボール箱が置かれている。その箱の中には、印刷所から届いたばかりの本がぎゅうぎゅうに詰まっている。


 ふぅと息を吐きながら顔を上げた遼把と、俺の目が合う。

 

「げげ、潤斗、なんで〈ここ〉にいるんだよ?」


「遼把の方こそ、〈ここ〉は場違いだろ? 」


 今日は『夏空ふぃっしんぐ!』オンリーの同人誌イベントの日である。

 

 出店者として入場した二人が、まさか隣同士で机を並べることになるとは、俺も遼把も思いもしなかったのだ。


 それは、もう『ここ』――『夏空ふぃっしんぐ!』二次創作界隈から、相手は縁を切ったはずだ、と互いに考えていたからである。


 転生世界での半年で、二人は、『夏空ふぃっしんぐ!』のあまりにも美しくない〈現実〉を見てしまったのだ。

 当然、『夏空ふぃっしんぐ!』に幻滅げんめつし、他の界隈へと移動すべきなのだ。


 しかし、なぜだか、俺も遼把も、未だに『夏ふぃ』オンリーイベントに出店している。



 それだけではない――。


 二人が言うところの、二人がいるべきではない『ここ』というフレーズには、『夏ふぃ』界隈という意味と、もう一つの意味が込められていた。


 俺は、遼把に向かって叫ぶ。


「どうして遼把も〈理雨・理栄ペア〉界隈にいるんだよ!!」


 俺と遼把の机があったのは、これまで俺と遼把がしのぎをけずっていた〈凪・花蓮ペア〉の島ではなく、〈理雨・理栄ペア〉の島だったのである。


 遼把は、ふんと鼻を鳴らす。


「俺は、実際に『夏空ふぃっしんぐ!』の世界に転生してみて知ったんだよ。男にかまけている凪と花蓮とは違い、能古木理雨と能古木理栄はともに純潔じゅんけつなんだ。もちろん、サイコキラーでもない。能古木姉妹には、美しい百合の調しらべをかなでる資格がある」


 俺は、躍起やっきになって反論する。


「何ふざけたことを言ってるんだ! 能古木姉妹が純潔なのはたしかだよ。それは俺も転生生活の中で確認したからな。だけど、その純潔を恋愛で穢してどうするんだ! 能古木姉妹の美しい〈友情〉。双子のチームワークであらゆる困難を乗り越える姿こそが至高だろうが!」


 俺と遼把は、自らが書いた同人誌の詰まった段ボール箱を抱えながら、ぐぬぬと互いに歯を食い縛る。


 遼把が、宣戦布告をする。


「……じゃあ、大塚潤斗、ここで決着をつけよう。俺の書いた〈能古木姉妹の恋愛物語〉かお前の書いた〈能古木姉妹の友情物語〉か。どっちがより多く売れるか。勝負だ!」


「望むところだ! 俺の解釈が正しいことを世間に示してやるぜ!」


                        


(おわり)




 本作『日常系アニメの世界で禁断の猟奇殺人が起きたので、双子のお姉ちゃんと力を合わせて隠蔽します』をお読みいただきありがとうございました。


 最近は『新生ミステリ研究会』の副会長として、本格ミステリを中心とした執筆・研究活動に時間を割いていますので、このサイトにはだいぶ不義理をしていました。


 『新生ミステリ研究会』での活動を経て成長した姿を見せたいと思って投稿した作品が、こんなユルイ作品であることに関しては、自責の念を抱いております。


 逆説的ですが、ミステリに専念して取り組んだ結果、ミステリ以外の要素の扱いの方が上達したような気がしています。

 菱川の最大の弱点は〈登場人物のビジュアル描写が雑〉というものだったのですが、本作では〈少し雑〉くらいにとどまっていないでしょうか。


 さて、本作について解説します。


 本作の最初の構想は、『新生ミステリ研究会』のメンバーと、創元ミステリ短編賞に何か出そうという話が出た際に、真っ先に思いついた〈日常系アニメ世界で殺人を隠蔽する話〉です。

 当時のLINEを遡ると、こう書いてありました。


…………

ゆる百合アニメの世界で、殺人事件が起きて、アニメの世界観を守るためにそれをみんなで隠蔽する話にするわ(適当)

…………


 マジで適当ですが、ほぼそのまま本作の内容となっています。


 最初はもうちょっとメタっぽい話(凪が自らを創作のヒロインだと考えた上でモブを殺すなど)を構想していたのですが、イマイチしっくりきませんでした。


 そこで、アニメ世界とか転生とかは使いつつも、あまり特殊設定を生かさない方向で考えました。


 まず浮かんだのは、〈ゴムボート〉の動機でした。カナヅチな子が自らの浮き具にするために人を殺すって可愛くないですか(作者の性癖)。

 せっかくそれをやるんだったら死体全身(手脚生首)を有効活用したいなと思い、こんな感じのストーリーになりました。


 後半の展開(〈例のキスシーン〉を巡る展開)は、正直に告白すると、書き始めた段階では考えてませんでした。

 ただ、やっぱり転生するのには理由が要りますし、ミステリとして〈日常系アニメ〉を扱うのであれば、〈日常系アニメ〉周辺に渦巻いている人間の情念を拾わなければならないなと思い、何か仕掛けを入れられないかなということは、書きながら考えていました。


 冒頭の前書きでもあるとおり、ちょうど『ゆるゆり』(恋愛あり)と『ごちうさ』(基本的には友情のみ)を同時に見ていました。ゆえに、この二派の争いに焦点を絞ろうと思いました。


 途中の後書きでも書きましたが、ミステリとしてはなかなか特殊な構造で、中盤でモチーフが変わる(日常を守るための死体隠蔽→ポリシーを守るためのキス阻止)というのはどうかなとも思いましたが、展開が断続的な四コマ漫画っぽくて良いかなと思い、採用しました。

 個人的には上手くハマったかなと感じていて、今後も別作品でこの形を使っていきたいなと思っています。



 さて、作品語りはこのあたりにしておきましょうか。


 菱川は元々はなろう生まれのなろう育ちなのですが、現在の執筆人生の比重は『新生ミステリ研究会』の方に置かれてしまっています。

 この作品も、当初は公募に出そうと思って書き始めたものであり、なろうっぽい作品かなとは思っていますが、なろうのニーズと一致しているのかはよく分かりません。


 なろうでミステリを書いて売れるということは今ではほぼ不可能だと諦めている中で、こうしてなろうに作品を掲載する目的としては、不特定多数の方に読んでもらう、というよりは、わずかでも波長の合う方がいらっしゃらないかなと探るという点にあります。


 もし、菱川の作品や『新生ミステリ研究会』、もしくはミステリというジャンルに興味を持ってくださる方がいましたら、感想欄等で教えていただけると嬉しいです。Xでご連絡をいただいても嬉しいです。

 きらら風の絵が描ける方がいれば、本作の表紙が欲しいです(文フリで売ります。相応の費用はお支払いします)


 なお、実は今月末に新潮ミステリ大賞に出そうかなと考えている十二万字の長編(未出、完結済み)も、テーマ(超シリアスな魔法少女)的に、受賞を逃し次第なろうにアップしたいなとは思ってますので、次にお会いするのは比較的すぐかもしれません。


 重ねてになりますが、最後までお読みいただきありがとうございました!


 

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― 新着の感想 ―
これはすごい……何って、発想がすごい。 犯人にもその理由にも、正直度肝を抜かれましたし…… 舞台設定にも『そのはっそうはなかった!』と驚きました。 そしてこのエンディング。好きです^^ ほぼほぼ一気読…
ホントはね、この小説のレビュー……『漁師宿くらし!~非日常系女子達はここにいます~』な感じにしようかなーと思いましたが、うん、変えます(`・ω・´) そして……どうやらお二人は気付いていないようです…
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