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神様の馬鹿野郎

―――ここは…どこだ?

 目が開くと、そこには見慣れない天井が映る。

 処刑前にされた目隠しはなく、なぜか縄をまかれた首ではなく全身に痛みが走る。

 顔を横に動かせばそこには大勢の人が横たわっており、死人なのか呼吸の音が全くしない。

 なるほど、ここは処刑された者の死体安置所であり、私は奇跡的に蘇生したのだろう。

 しかしおかしい、あの時に処刑にされたのは私含め三人のはず。

 それも絞首刑だ。

 しかし周りの死体の数は明らかに十を超えており、体のあちこちから血を流している。

 その様は逃亡兵に行われる銃殺刑を想起させる。

 何とか体を起こし、自分の体を見る。

 死に装束なのだろうか?

 囚人服から茶色い衣服に着替えさせられており、あちこちに汚れや焦げたような跡がついている。

「なんだこの服は…」

 侯爵令嬢であった私は当然ながら処刑された者のその後の処理を知らない。

 しかし、いくらなんでもこれは雑すぎるのではないだろうか?

 廃墟のような部屋の、それも床に置かれた上に死に装束は中古品のようにボロい。

「一言文句を言ってやる!」

 蘇生したとしても最早逃げ場はない。

 ならばせめて丁重に弔えと無理やり体を立たせて扉を開けようとした途端、大きな帽子をかぶった男と鉢合わせる。

「――――――!!!??」

 目を丸くし、驚いた表情で声を上げる男。

 無理もない、死んだと思っていた女が生きていたのだ。

 すると、奥から白衣を着た二人が慌てて駆け寄る。

 今度こそ殺されるのだろうと思い、覚悟を決めるが彼らが取り出したのは武器ではなく包帯。

 出血箇所の上から包帯を巻き、急いで止血している。

「こっちへ来るんだウルリラ、早く!」

「あ、ああ…」

 困惑しながらも医務室へと連れられ、そのまま本格的な治療に移る。

「驚いたよ、ウルリラ。まさか君が生きていたとはね」

 寝台に載せられたままの私に先ほどの男が口を開く。

「あなたは、一体?」

「?もしかして記憶がないのか?」 

 私の問いかけに不安そうに返す男。

 衣服には国から軍人に贈られる勲章のようなものが付けられ、高位の者のように見える。

「そうか、まあ無理もない。なにせド―――」

 ドゴオォォォォォォォォォン―――――― 

 彼が何かを言いかけた途端、爆発音が轟くと同時に建物が大きく震撼する。

 直後に外からババババババッと破裂音のようなものが絶え間なく鳴り響く。

「くそ、来やがったか!総員応戦せよ!」

 高位の男が怒声を上げながら戦闘を指示。

 どうやら仮死状態の間に王都が戦場と化しているらしい。

「ウルリラ、祖国のために再び戦えるか?」

 男の問いに、頷いて応える。

 正直な話、私を貶めた王国の為に命を懸けるつもりはない。

 だが再び生きられるのであれば、私は武器を取る。

「よし、これを使え。モシンナガンだ」

 男から渡された『もしんながん』と呼ばれる武器。

 形自体は特殊部隊の持っていた魔法銃に似ており、使ったことがないはずなのに何故か操作方法が分かる。

「体は覚えているようだな。よし、ドイツ野郎を追い払うぞ。ソビエトの為に!」

―――待て、今なんて言った?

 ドイツ?ソビエト!?

「まて、ここはアイレル王国じゃないのか!?」

「何言ってるんだ、ここはソビエト連邦の都市、スターリングラードだぞ!そんなことも忘れちまったのか!?」

 窓から銃を撃ちながら、そう答える男。 

 ふと、処刑直前の記憶がよみがえる。


 ―――来世があるのならば、今度こそ穏やかに生きてみたいものだ


 まさか・・これが私の来世だというのか!?

 絶え間ない銃声、止まない爆発音。

 穏やかさの欠片の無い、地獄のような光景。

 往生際の願いが一ミリも叶っていないことに愕然とする。

 直後、先ほどの男が額から血を吹いて倒れる。

 同時に崩れ出す建物。

 私の治療をしてくれた白衣の男二人が治療室から飛び出し、私に脱出するように促す。

 直後、天井の崩落に巻き込まれて男の片方が押しつぶされ、もう一人は左へ向かおうとして爆炎に消えた。

 ガラガラと音を立てて倒壊する中、何とか虫の息で脱出。

 スターリングラードと呼ばれる瓦礫まみれの市街地。

 あまりにもひどい来世に私はスカイグレーの空に向けてこう呟いた。

「神様の馬鹿野郎」

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