死刑宣告
「被告人、ウルリラ・バーンレイヌを絞首刑に処す」
王都に置かれたヴァルマン裁判所、大法廷の間。
髭の立派な裁判長の口から判決理由が五時間に及んで述べられ、私への刑が言い渡された。
クーデター未遂、外患誘致、魔法石の密売、人身売買―――
全く身に覚えのないこれらの罪と、明らかに捏造された証拠。
弁護人自体は用意されたもののその知識は素人以下であり、法廷に召喚された証人の方々はどれも面識の無い者たちばかり。
あまりにも雑すぎる冤罪劇。
なんという茶番。
この国の司法はここまで堕落したのかという失望感と神聖なはずの司法の場を私を貶めるための政略の道具として使われた事に静かな怒りを覚える。
「被告人、最後に言い残すことはないか?」
裁判長に促されて、静かに口を開く。
「これらの罪は全て私の命令で行われたものです。すべての責任は私にあり、願わくば関係者の減刑を嘆願いたします」
先述したとおり、私は潔白。
しかしもうどうにもならない以上、せめて私以外の『茶番』の被害者を抑えるべく嘆願する。
家族は最悪の場合は連座で私と同じく公開処刑。
助命されたとしても、もう元の暮らしには戻れない。
冤罪とはそういうもの。
たった一つの冤罪でこれまでの積み重ねが消え去ってしまう。
「行くぞ」
刑務官に促されて退廷。
入廷したときのように手錠をかけられ、頑丈な腰縄がまかれる。
法廷から死刑囚の牢へ移動する途中、廊下の窓から外の様子が見えた。
傍聴権を得られなかった大勢の国民が入り口に集まっており、判決結果の報告を今か今かと待ちわびている。
当然、彼らはこの裁判が茶番ということを知らない。
魔法灯で照らされた地下通路を通り、隣接された拘置所に移送される。
無数の死刑囚が収容された監房を横目に、無機質な廊下を歩く。
奥に用意された特級犯罪者を収容するための特別監房。
扉は四重に設置され、刑務官のほかに武装した兵士が10人いる。
それも黒色の鎧にフルフェイスの兜を付けた帯剣した特殊部隊の兵士。
黒塗りの魔法銃を持ち、兜の隙間から眼光が時折もれる。
ガシャンと扉が閉じられ、カギがかけられる。
刑務官曰く食事は扉に付けられた専用の小さな入り口から運ばれる。
入浴こそは認められるものの、監視付きな上に月に一度だけ。
排せつ時以外でプライバシーはない。
もちろん脱走を試みれば即座に射殺され、火葬炉へと運ばれる。
そんな生活が処刑の日まで続くのだ、正気を保てるとは到底思えない。