Episode1 異世界転生と魔眼
「田中!例の件の資料は?」
「こちらです!」
「・・・よし、大丈夫そうだな。とりあえず部長にもチェックしてもらうから、部長のデスクに置いといてくれ」
「はい!」
オレは、田中誠。商社勤務の28歳独身、どこにでもいる凡人営業マンだ。
入社して6年目になるが、成績は中の上くらいをキープしており、本当にそれなりの営業マンだ。
唯一の強みは、世渡りがうまいことだ。昔から他人の感情がぼんやり分かるというかオーラを感じることができ、危ない橋を渡らずにうまく生きてこれている。
父親に聞いたところ、祖母が霊媒師をやっていた影響じゃないかと言われたが、
特に幽霊が見えたこともなく、スピリチュアルなものを信じないオレにはピンときていない。
まぁとにかく忙しい毎日を危なげなく過ごしていることもあり、不便は感じていない。
(とりあえず部長のデスクにこの書類を置きにいくか・・・)
「あんまり行ったことないけど部長の部屋は、2つ上の階だったはずだからエレベーターで行くか」
誠は、営業課の部屋を出てエレベーターに向かう。
上に行くボタンを押し、待っているとすぐにエレベーターがやってきた。
珍しく誰も乗っていないようだったので、スタスタと中に入り、5階のボタンを押し扉が閉まる。
その瞬間、なんとも言えない悪寒が走った。誠はその感覚に覚えがあった。
子供の頃、自転車に乗っている時に信号無視の車に引かれたことがあり、その際も事故の前に同じ悪寒があったのだ。
少しの不安を感じながらも、自分はエレベーターの中なので事故には遭わないだろうと考え、
いつもどおりの平常心に戻ろうとしていた時、とてつもなく大きな破裂音がした。
そして、その数秒後には誠の体は一瞬だけ宙に浮いたかと思うと、次の瞬間にはエレベーターの床に押し付けられ、全身を鈍器で殴られたかのような痛みが襲い、気を失った。
そして、耳元でかすかに聞こえる声に気づいて目を開けると、なんとも神々しい老人が目の前にいた。
「ようやく気づいたようじゃな。いや〜突然のことで混乱しているかもしれないが、気を強く持つんじゃよ」
「???、いったいなんのことですか?僕は部長のデスクへ行こうとしたら、急に気を失って・・・」
その老人は、誠の言葉に少し戸惑ったが、意を決したように答えた。
「おぬしは気を失ったのではなく死んだのじゃ。今回は想定外の運命じゃったから、神であるわしらも驚いておってな。それで新しい命を与えるためにおぬしが目覚めるのを待っておったのじゃ」
その言葉に誠も驚きを隠せない様子だったが、
「そっかー、死んじゃったのかー。まぁ仕方ないですね、次はどんな人生になる予定ですか?」
「おぬし、切り替え早いのぅ。さすがのわしもちょっとビックリしたわい」
「いやーなんか、おじいちゃんのオーラすごいから神様っていうのもなんとなく分かるし、前の人生はそれなりに楽しかったんで後悔はあまりないというか。そんな感じです!強いて言えば・・・(童貞捨ててから召されたかった!)いや何もないです笑」
「さすが営業マンというところかの。話が早くて助かるのう」
「さて、このままではわし達も申し訳ないので、誠くんには全く別の異世界で第二の人生を生きてもらおうと思う」
「ありがとうございます!異世界ってどんなところなんですか?」
「色々あるのじゃが、選ばしてやることはできず。誠くんが行く世界は魔眼に支配された世界じゃ」
「魔眼?!魔法があるってことですか?(楽しそ〜〜)」
「厳密にいうと魔法を使えるものもいる。ひとまず簡単に説明するとじゃな・・・
これから誠くんが行く世界では誰もが等しく何かしらの能力がある魔眼を持って生まれてくる。見つめたものを動かす魔眼。精霊が見える魔眼。ちょっと危ないやつだと、人を操る魔眼とかもあるのぅ、レアじゃけど」
「(操るって危なすぎでしょ・・・)」
「まぁ、そんな世界で誠くんには生きてもらう。とりあえず、街の教会に転送するから、そこからは自分で調べたりして自由に生きてもらっていい。あと、魔眼の種類はランダムじゃから、教会で自分の能力を調べるように。では頑張ってくれ!」
「えっ?神様、それだけ?!ちょっと待って・・・(ヒュイン)」誠は半強制的に転送された。
「大丈夫ですか?私の声は聞こえますか?」
視界がボヤっとしていて分かりにくいが、清楚系な感じの女の子がオレに話しかけていた。
「んっ・・・ここはどこだ?」
「ここはオクルスの教会です。街の前で倒れていたあなたを門番さんが連れてきてくれて。どこか痛むところはないですか?」
「いや、大丈夫みたいです。ありがとうございます。」
「よかったです。でも、なぜあんなところで倒れていたんですか?」
「えっとそれは・・・」誠が言葉に困っていると、頭の中で神様の声が聞こえた。
「そういえば、おぬしは名前以外を覚えておらぬ記憶喪失者という設定じゃから、うまくやってほしい」
「(記憶喪失?!それは無理があるだろ)あの爺さんテキトーだなぁ、ったく」
「爺さん?誰のことですか?」彼女が不思議そうに見つめながら聞いてきた。
「いや、こっちの話。とりあえず名前以外のことを覚えてないみたいで・・・どうしよう・・・」
「そんな!記憶がないなんて・・・これも何かの縁です。私からシスターに説明してくるのでお待ちください!」
そう言って彼女は勢いよく部屋を出ていった。
数分後に少し年配の女性を連れて戻ってきた、おそらくシスターという人だろ。
「私はこの教会の管理を任されているシスターのモリスといいます。記憶がないということでお名前に以外に覚えていることはないですか?出身とか、職業とか、魔眼の能力とか」
「いや〜全然覚えてないみたいで。怪我はないんで動けそうではありますが。魔眼の力ってどこかで調べられますか?」
「・・・・・それなら教会で可能です。それすらも覚えていないなんて、あなたに何があったのか。とりあえず魔眼の力を調べにいきましょう。この国で生きていくヒントになりますから」
そこからオレはモリスさんに連れられて、魔眼の力を調べられる祈りの間に向かいつつ、この世界の話を聞いた。
どうやら、人々は生まれてすぐに教会へ行き、魔眼に込められた力や潜在的に持ち合わせているスキルを調べるらしい。そして、その力に合わせた生き方や職業を選び、才能に合わせた暮らし方をしているようだ。
「着きましたよ。さあ、あの水晶の前に立ち、水晶に軽く触れてください」
誠はシスターから言われるがままに水晶に手を触れると、ぼんやりと光に包まれた。
そして、次の瞬間にモリスが声にならない声で「鑑定眼だなんて・・・」と呟いた。
「鑑定眼?それっていいの?珍しい?」嬉しそうに誠がモリスに聞く。
「そうですね・・・かなり珍しいです。魔眼には種類ごとにランクがあり、最も希少で有益なものはSS、そこから能力別に分けられていきます。鑑定眼は最低ランクのGランク。唯一のGランクであり、歴史上2人しか見つかったことがありません。そして、その2人は魔眼の使い道が分からず職にもつけず、苦しい日々を送ったと言われています・・・」
「(何それ?!オレどんだけ引き運ないんだよ!はぁ〜すごい前途多難の予感なんですけど)。そ、そうなんですね、困ったなぁ〜笑」
続く