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初恋の・・・


 美奈の初恋は祐一だ。


 というか、テレビ画面の中のNinjaグリーン様だ。


 小さい頃、ボーッとした姉が誘拐騒ぎを何回も起こしたせいで結構な頻度で交番に走った経歴があり、すっかり巡査達にお馴染みの『お嬢ちゃん』になっていた。


 世話焼きの美奈だが、守ってくれる人がいてくれるのは有り難かった。


 何しろ自分1人では姉を連れ去ろうとする悪人達に立ち向かえない・・・





 ある日クラスの男子たちがテレビ番組の話をしているところに出くわした



「石川〜、見たか? 新番組。お子様番組だけどよ、特撮がすげえんだよなー、ホンモンの爆発シーンとかあるんだぜ~!!」



 その男子は、保育園児の弟と一緒に子守ついでに見たという。



「すっげえんだよな~特に緑色! 代役ナシで自分でスタントマンやってるらしいんだ!」



 彼は、来週も見ると鼻息を荒くして熱く語ったが、小学4年生で特撮にハマるなよ〜と、冷めた目でソイツを見た美奈。

 その場ではふーん、で終わった話のはずだった。


 テレビのヒーローより身近な交番のお巡りさんが美奈のヒーローだったからである。



 そして次の週の下校時にソイツが校庭で遊びもせず、弟とテレビを見る! と言って走って帰っていったのを思い出し、何となくテレビの電源を入れて固まった。


 舐めていた。


 所詮、子供騙しよね〜と斜に構えていたはずなのに、30分後には感動して泣いていた自分がいたのである。


 いや、話云々よりそこには理想のヒーローがいたのである。



 『特にグリーン!』



 ヤツの言葉を思い出してウンウンとテレビに向かって涙を流しながら頷いていた。


 何度も見るためにテレビ録画をしておき、至福の30分・・・と言ってもコマーシャルが入るので実際は22分程度なのだが・・・を過ごす日々。


 次の週に又新しく録画をし直して1週間を過ごすのだ。


 特撮仲間と熱く語ってみたり、30分以内でレッドと恋愛を成就させ、グリーンを振ったホワイト(♀)を呪い殺したくなったり、グリーンの好物と設定にある納豆を毎日食べてみたり・・・

 

 そして1年後、最終回で死んでしまったグリーン様のお葬式を同志で集まり校庭の片隅で行った・・・今考えると黒歴史が満載だ。



「俺の葬式?!」



 と祐一に言われそうで、本人にはとても言えないが。




 祥三はそのNinjaグリーンと瓜二つ、というか兄弟なので似ていて当然なのだが、テレビ画面で見ていた頃のグリーンに酷似しすぎていた。



「美奈? どうしたの」



 と、この手の顔にすっかりお馴染みになったであろう姉が手招きをする。



「う・・・あの、その」



 耐性のある姉が羨ましい。


 母である、女神様(アイーシャ)が、ははーんという顔になった。



「ねえ、祥三君はさー、祐一君のやってたNinjaグリーン知ってるの?」


「あ~、やってましたね。そういや俺はなんか似てるよな、とか言われるの嫌でその頃は伊達メガネ掛けてましたね。兄貴は未だに掛けてますけど俺はもう止めましたね〜。俺は年齢が違うんで人違いで済んだから」



 伊達眼鏡兄弟である。



 そんな話をしているうちにソロソロとドアから出てこっちにやって来る美奈。


 こっそりソファーの端に腰掛ける。


 直ぐに逃げられる準備なのだろうか・・・



 そしてその横に、何故か当たり前のような顔でタマがやって来てジッとミナの顔を見ると膝に乗って丸くなった。



「あれ、寝ちゃった」



 ミナの声で皆んなの視線が彼女の膝に集まり・・・



 顔が赤くなったのは、何故か祥三だった・・・




×××




 アメリカに渡る前に、母が祥三に懇々と言った事があった。



「いい? 祥ちゃん、タマが嫌がる女の子は例えどんなに可愛くても、相手にしちゃ駄目よ! 『猫又』が認めなかったらウチの家には迎えられないんだからね」



 云うならば海外へ行って女性に騙されないようにするためのお目付け役がタマだった。


 嫌がりはしないが、いつもつーんとして、馴れる素振りのない綺麗な白猫は女の子達に人気はあったが、中には毛嫌いされる女の子達も多かったのだ。


 何故かホームステイ先の家族の奥さんにだけは愛想が良いので、そういうオバちゃん好きの『猫又』だったっけ? と首を傾げた位である。



 それが、日本に帰ってきて最初に会った兄の義妹になる予定の女の子には懐いている・・・


 スタイルがすごくいい上に、ハーフだからこその可愛らしさは海外についさっきまで居た感覚の祥三には正直、衝撃的だった。


 日本人っぽい艶があるのに透きとおる様に白い肌。綺麗に整った鼻筋に、小さめの鼻梁。パッチリとした海のように深い青い瞳、カタチの良い瑞々しいピンク色の唇。髪の色が何だか自分と同じような薄茶色をしていて親近感が湧く。



 ちょっとだけ大人しそう(おとなしそう)なのが気になるけれど、海外の押せ押せで気の強い女の子に数年で馴れてしまった祥三の目には新鮮に映り、抜群に好印象だったらしい。



 ――いや、彼女は()()()()()()では()()と言っていい位、()()のだが・・・



 そんな祥三の気持ちなど気づかない周りは、全員が美奈の性格の訂正に回る事は無かったのであった・・・


 ――合掌。






 顔が赤くなったのを誤魔化すように、咳払いをする祥三。



「ごめん、妹さんだったんだね。はじめまして神谷祥三です」



 丁寧に日本式のお辞儀をする祥三に、タマを抱き上げてソファーから立ちあがり、お辞儀を返す美奈。



「はじめまして。石川美奈です。祐一さん、いえお義兄さんにはお世話になっております」



 と、家族ですらマトモに見たこともない位の、まるで花の咲くような笑顔を見せた。



『陥落したな・・・』



 美奈と麗奈以外の石川家の面々は祥三の真っ赤な顔を見てそう思った。








「いやさあ、あっちでさ、なんか変なストーカーみたいなオッサンにつきまとわれてさあ」



 ()()()の入れた珈琲を啜りながら若干、朱に染まった顔のまま話す祥三。



「ストーカー?」


「うん。多分日本人なんだけどさ結構な歳のオッサンなんだよね。ある日突然気がついたら、毎日のように大学に出没しててさ。ホームステイ先の家族が危険かも知れないから日本に帰れって言い出しちゃって」



 はぁ〜、とため息をつく祥三。



「べっつに大丈夫だって言ったんだけどね、可愛がってくれてたから余計に心配しちゃってさ。兄貴も結婚するって聞いたから丁度いいかなって思って。まあ、あっちに戻らなくても卒業証明書は送って貰えるように手続きして帰って来たから、そのまま日本に帰っちゃってもいいかなとは思ってるよ」



 祥三は肩を竦めながら珈琲を飲み干した。



「流石に日本まで追っかけて来ないとは思うけどね」


「ふーん?」



 祐一の目付きがちょっとだけ不穏な感じになる。彼は良い感じでお兄さん気質で、歳の離れた弟を可愛がっているからだ。


 そして美奈が心の中で



「ストーカー、コロス」



 と、念じていたのは間違いないだろう。





「そういえば、祥三さん」



 麗奈が、ふと気が付いて



「今日はお家に帰るんですか? 今からだと遅くなりませんか?」


「うーん、タマの脱走騒ぎで遅くなっちゃったからなあ。どうしよっか」



 美奈の膝の上で白猫は、我関せずといった感じで腹を出してひっくり返りスースーと眠っていた・・・



「アイツも飛行機疲れたのかね・・・」



 祥三が呆れた様にボソッと呟いた。










 「結局、又俺のところか」



 祐一のJeepの中には助手席に祥三、後部座席に彼の荷物とシロがに乗った。ついでにタマの空っぽのキャリケースも・・・。


 クロ達猫又4匹はどうも神谷の家に戻ったようで、いつの間にか消えていた。


 きっと夕方のししゃもご飯の時間だからだろう・・・


 隼雄がショボンとしていたが、どうせチュール目当てで祐一を追いかけてまた来るでしょ、とアイーシャに言われ慰められていた。


 そんなこともあってか、今日は久しぶりに麗奈が実家に泊まることになり、明日の朝迎えに来る約束をする祐一達2人を生温い目で見ていた石川家の面々である。


 そして、その傍らで祥三と美奈がLINE交換をしていたのも見逃さなかった・・・



「麗奈さん綺麗だな〜。兄貴と、8歳差なんだろ? 同い年のお姉ちゃんか〜」


「ん~~、まあな」



 車の中で欠伸をする弟を見ながら、



「もうちょっとで9歳差になるんだよな~・・・」



 と、つい呟いてしまう。


 麗奈は祥三と同い年だ。


 だからというわけではないのだが、自分にはちょっと勿体ないんじゃないかなと今だに思う事もある。


 でも。



「惚れたから、仕方ない」



 思わずそう呟いてしまい顔が緩む祐一を横目で見て。



「兄貴、何1人でノロケてんだよ〜」



 呆れ顔になる祥三を他所に祐一は笑いながら、Jeepのアクセルペダルを踏みこんだ。





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