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愛が重い?


「わー! 待て待て、おい神谷!!」



 桜田が慌てて祐一を追いかけてきた。


 何事か、といった感じで給湯室から女子社員が3人くらい覗いている。


 廊下を挟んで反対側の総務の扉から出てくる途中の男性社員も、固まってこっちを向いた。



 ――あ、給湯室の女子社員の顔が赤くなった・・・あ、あれ? 総務のヤローも赤くなるのってナニソレ?



 周囲を見回しながら何かコイツのイケメン度ってヤバくないか? と気がついた桜田は声のボリュームを下げながら祐一の後ろに付いて歩いていく。



「じゃあ、お前、あの子と出会った翌日に婚約しちゃったのかよ?」



 桜田の顔は笑っているのか呆れているのか、判断のつかないような微妙な顔である。



「そうだな。俺の田舎ではよく起る(ある)事だが、都会じゃ珍しいかもな」


「おいおいおい・・・」



 立ち止まった祐一を思いがけず追い越した桜田だったが、彼は慌てて立ち止まり祐一を振り返った。



「いいのかよ、そんなんで。ひょっとして実家の言いなりとかじゃないよな?!」



 祐一はその言葉を聞いて、殿()()の言いなりだった一族だよ、と一瞬苦笑いをしたが、ちょっとだけ桜田をコイツ本当はイイ奴なんだな、と思う。



「いや? ちゃんとお互いに惚れて婚約した。だから俺はツイてる方だと思う。それと実家はやっと俺が結婚するって大喜びで浮かれてたぞ」


「・・・そうか。それでいいのか」



 桜田は複雑そうである。






 

 じゃあな、と言うとスタスタと経理課へ歩いていく祐一を見送る桜田。


 無駄に長い脚で歩く為、やたら遠ざかるスピードが早いなと、ボンヤリ祐一の背中を眺めていたが、はっと気がついた時には見えなくなっていた。


 ――おーい、眼鏡を掛けねえと、なんか要らないトラブルを呼ぶぞ〜! 



 と桜田は祐一に一言声を掛けようと思っていたのだが、何だか朝からどっと疲れた様な気分になり、トボトボとその場を退散したのであった・・・







 一方、そんな騒ぎは知らない受付である。



「ねえねえ石川さんてさ、神谷課長と知り合いなの? 何だか親しそうじゃない」


「え。あの、その、えーと・・・」



 赤くなってモジモジする麗奈。



「あ! 分かった~お付き合いしてるんでしょ?」


「あ。ハイ・・・」


「うひゃ〜 イケメンゲットしたわね~ていう事はさぁ、入社前からお付き合いしてたんだ〜ヤダー彼氏を追っかけて入社? 情熱的ね! 頑張って。え、じゃあその指輪ってさ~」


「あ、祐一さんに買って戴きました」


「うーわー。見せて見せてっ!」



 そして麗奈の左手を見て・・・



「ねえ〜、コレひょっとしてさぁ、センターの宝石(いし)ピンクダイヤモンドで、土台がプラチナ? とか言わないわよね?」


「えと、そうですね」


「げっ! 神谷課長イケメンが過ぎるわっ! て、待ってこのデザインって○ィファニーじゃないの!?」


「あ、そうです! コレがいいって祐一さんが言い張ったので・・・」



 指輪が燦然と光る左の薬指を見ながら、嬉しそうな顔をする麗奈を見て表情が抜け落ちる田淵。




「・・・神谷課長ってもしかして、すんごい執着系? ねえ、コレってひょっとしてさぁ、婚約指輪?」



 真っ赤になる麗奈



「あ、ハイ。一応」


「はー、良かったわ」


「え?」



 ホッと胸を撫で下ろす仕草をする先輩受付嬢。



「愛が重すぎだわよ〜、良かったわ婚約指輪で・・・ はぁ〜 ビックリした」


「えぇ~・・・」



 裕一は、



『急だったから仮の指輪でごめんね』



 て言ってたんですけど・・・



 とは言えない雰囲気だなと思い始める麗奈。



「で、どれどれ、え~と待って! センターがピンクダイヤ? ナニソレ・・・」



 1カラット近くありそうなハートシェイプの濃いピンク色に白目になりそうな自分を、受付嬢のプライドを必死で駆り立てて引き攣り笑いで我慢した田淵に向かって



「宝飾店が宝飾展示会用に特注で随分昔に依頼した1点物なんだそうです。展示用なので普通は売らないって言われてたんですけど、試しにはめさせて頂いたらサイズがピッタリだったので(あつら)えたみたいだねって祐一さんが喜んで・・・」



 と、笑顔で答える麗奈。



「うそぉ・・・なんか神谷課長を見る目が変わっちゃうんですけど・・・怖っ! ・・・勿論ローンだよね? ね?」


「え? ブラックカードでしたけど」



 平然と答えるレナ。


 そうです。


 田淵女子は知らないけれど、彼女は会社の社長の娘。


 祖父や父が持っているのだから、当然日常的に見慣れている為平気である。



「あ。もういいわ、住む世界が全然違うからぁ・・・無理・・・あの人この会社の重役じゃなかった筈だよね・・・」



 遠い目をする先輩受付嬢を首を傾げながら見る麗奈であった。



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