挙式の夢
「明日の土曜日、出来たら一緒に出掛けたい所があるんだけど大丈夫?」
夕食の牛タタキを口に運びながら、
「もうそろそろ何処で挙式をするか決めとこうと思ってさ。場所によってはすぐ借りられるけど、そうじゃない所もいっぱいあるから」
何故か麗奈より祐一の方がこういう事にはマメである。
「ウェディングドレスも着てみたいんじゃないの? 俺なんかはさ、はっきり言ってお仕着せだからいいけど麗奈さんはそういう訳にはいかないでしょ?」
もぐもぐと口の中で咀嚼しながら首を傾げる祐一。
一方麗奈はそれを見て
『カワイイ! 祐一さん素敵!』
と悶えていた・・・困ったチャンである。
×××
「ハワイは、どうする?」
ウェディング雑誌を広げると、海外の特集が見開きページでバーンと広がっている。
青い空、白い雲、広がるエメラルドグリーンの海。
白い大きな窓からパノラマのように景色がひろがり、その前にウェディングドレス姿の女性モデルとタキシード姿の男性モデルが寄り添って立っている。
「俺は、夏に行く予定だからって言ったけど、別に他のとこでもいいよ。国内でも良いところはいっぱいあるしさ」
ウ~ン、と麗奈は首を捻りながら困った顔になった。素敵だなと思わないわけでは無いのだが・・・
「小さいころから結婚式とかあんまり考えて無かったんですよね。なんせ母親が女神様だって知ってたから。神様の前で誓うっていうのが実感湧かなくて・・・」
とんだ弊害である。
祐一も確かに、と胸中で同意した・・・
「ただ、思うんですけど、祐一さんの実家に行ったとき、『寄り合い』の皆さんが急にやって来ましたよね?」
麗奈が思い出してニッコリ笑う。
「あんな風に皆んなが、祝福してくれるのはいいなあ~って思ったんですよね」
「へえ、そうなんだ」
祐一は、ちょっと考える。
祐一の実家である里は、お節介な爺婆を始め、皆んながあんな感じで何かを理由にしてどんちゃん騒ぎを始めるのが当たり前なのだ。
これも麗奈の、『母が女神だから』というの弊害と同じだ。『当たり前』の素晴らしさは、離れたり失ってからじゃないと当人はわからないものなのだろう。
「じゃあさ、人前式っていう手もあるから考えてみる? 自分達でやることがちょっと多いかもしれないけどさ」
祐一が、ちょっとだけ照れたように垂れ目をフニャっとさせて微笑んだ。
『ひゃあああぁ〜!』
増々萌える麗奈である・・・・
×××
「あ、そうだウェディングドレスなんですけど、美奈がデザイナーさんが作りたがってるって言ってるんですよね」
「デザイナー?」
「美奈が専属で契約してる所なんですけどね。何度か事務所にお邪魔したことがあって、スカウトされそうになったんですよ。でも興味は無いから断ったんです」
「麗奈さんらしいね」
可愛いと美人を両立させたような麗奈だが、あまり目立つ事は好まない傾向があることに、祐一は気がついている。
その辺りもこの2人は似た者同士なのだろう。
祐一が珈琲を入れ始めると、いい香りが部屋に立ち込めた。
「美奈が私が結婚するって事務所で喋ってたらデザイナーさんがドレス作らせて欲しいって言い出したらしくって」
「へえ。えらく気に入られたね」
「て、いうか。ちょっと変わった人なんですよね。でも凄く有名みたいです」
何やら不思議な言い回しをする麗奈に、首を傾げる祐一。
「一度、美奈と一緒にアトリエにおいでって言ってくれてるらしいです」
「ふーん。じゃあ、今度一緒に行こうか。美奈ちゃんの予定も聞いてみないとね」
祐一は又柔らかく微笑んだ。
珈琲を飲みながら、雑誌やスマホで人前式の事を調べているうちに、いつの間にか麗奈を送っていく時間になった。
「あ、もう9時過ぎちゃったね」
「楽しい時間ってすぐに過ぎちゃいますよね」
ソファーで横に座る麗奈が唇をちょっとだけ尖らしてムッとした表情をする。
『あ、可愛い・・・』
なんとなくその、プルンとした美味しそうなピンク色の膨らみに吸い寄せられるように、顔を段々近づける祐一・・・
急に黙った祐一の顔が少しずつ近付いてくるのに気がついて、麗奈の頬が朱に染まり、そっと目を閉じた。
『ピンポーン!』
玄関チャイムが鳴って、飛び上がった祐一と麗奈。
『ああああああああっ! なぜ今っ! 一体誰!?』
2人同時に心の中で叫んだのは、確実である。
因みにこの2人は婚約者同士である。忘れないうちに記憶に留めておいて欲しい・・・
×××
「はーい」
祐一が玄関に向かって返事をしながら、慌てて眼鏡を掛けながら歩いていく。
麗奈はそれを見送りながら、
『あとちょっとだったのに・・・』
と少しだけガッカリしていた。
「うわっ! なんだっ!」
ガターンという何かが倒れる音がして、祐一の驚いた声がした。
「どうしたんですか!?」
麗奈が慌てて玄関に続いている短い廊下に駆けつけると、廊下に祐一が倒れていて見たことのない女性が彼の太腿の上に乗りあがって、祐一とキスをしている・・・ ように見えたが、彼は両手で自分の口を塞いでおり、女性の猛攻を防いでいた。
「ムー!!」
何を祐一が言っているのかは謎だが、彼がその女性に襲われているのは間違いない。
「祐一さんっ! 大丈夫ですかっ!? 警察を呼びますかっ?」
丁度足元に転がっていた祐一の黒い蝙蝠傘を手に呼びかける麗奈。
新手の強盗だったら大変である。
痴女だったとしても怖いが・・・
床で、もがいて逃れようとする祐一。
キスをしようとする女性。
呆然と蝙蝠傘を持ちオロオロする麗奈。
カオスである・・・。
これでは埒が明かないと覚悟をして、麗奈が女性に立ち向かおうと一歩玄関に向かって踏み出した途端に、
「ニギャー!!」
真っ黒い塊が麗奈の顔の横を弾丸のように飛び出して行き・・・
「きゃあああ!」
祐一を襲っていた女性の顔に貼り付き、頭に爪を立てた・・・
「あ、あれ?」
麗奈は思わず、見間違いかな? と目を擦る。
その猫は、祐一の実家である神谷の家にいた、黒猫だったからだ・・・・




