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第75話 辺境伯への提案

しばらく時間が取れなかった事もあり、久々の投稿となりました。

当面は不定期な更新になるかもしれませんが、少しずつでも物語を進めていければと思います。

 翌日、わたし達は予定通りクランクの街を出発し、その後の道中も特に問題は起こらず、無事に領都バルタットへと辿り着く。

 領都故か、街の規模はアルフルスよりもずっと大きく、途中で見た外壁もとても大きくて立派だった。


 更にそのまま進んでいくと、今度はその先に白亜の大きな城が見えてくる。

 王城と言っても通じそうな程の外観と大きさで、グランツ辺境伯の持つ力がそれだけ大きい事を示しているのかもしれない。


 お城の入口では、先に出発していたスペイサーさんが出迎えて、そのままわたし達を先導してくれる。

 その後は慌ただしく準備が進み、日が暮れる頃にはわたし達も正装を終えて、ルチアさんに導かれるまま食事会の会場へと歩き出した。


 わたし達は、メグを先頭にわたしと那月が後ろに控える形で進んでいて、前を歩むメグの所作やドレスを着慣れた雰囲気を見ていると、この子が公女殿下であり、本来ならわたしとは縁遠い存在であった事を感じさせる。

 そんな思いが伝わってしまったのか、メグがこちらを振り返って困った様な笑顔を見せたりもしつつ、やがてわたし達は食事会の会場へと辿り着いた。


 会場では既に辺境伯が席に着いており、わたし達の入室に合わせて、まずは辺境伯とメグがお互いに挨拶を交わし合う。


「ようこそ、我が城へ。殿下とお会いするのは、ベルクゲストでの条約締結以来ですね」

「この様な場をご用意頂き、ありがとうございます。……すみません。私の方は覚えがなく、お初にお目に掛かるものと思っていました」

「いや、当時の殿下はまだ幼かった故、覚えておらずとも無理は無い。では改めて、ブラント・グランツです。以後お見知りおきを」

「マルグレーテ・セレネ・オブレストです。この度は我が国の勇者が起こした事件に謝罪申し上げると共に、ここまでのご支援に感謝致します」


 そう二人が会話を交わした後、辺境伯は那月とわたしへ目を向けると、雰囲気を和らげてから声を掛けてくる。


「勇者ナツキと魔女殿もご苦労だったな。無礼講とまではいかないが、気を楽にして食事を楽しんでいってくれ」

「あのさ閣下、そんなの無理って分かって言ってるっしょ?」

「そうでもないぞ? 其方は兎も角、魔女殿に貴族の礼儀作法を押し付ける気は無いから安心すると良い。それよりも、魔女殿を紹介して貰えるか?」

「どうせ閣下の事だから、調べはついているんでしょ。……フミナ、話せる?」


 那月に促され、わたしは緊張しつつも辺境伯へと向き合った。

 実際に辺境伯と対峙してみると、特段目立つ容姿をしている訳ではないけれど、鍛え上げられた剛剣の様な凄みが感じられる。

 これが、シグルス王国最大の領土を治める『黒龍』――、そう那月からの教えを思い出しつつ、その雰囲気に飲まれない様に一礼する。


「魔女のフミナと申します」

「そう緊張せずとも構わぬよ、其方は我々の恩人なのだから。これからも良い関係でいられれば幸いだ」


 辺境伯はそう言うと、あっさりと話を切り上げる。

 その言葉には含むところは無さそうで、事前にスペイサーさんから聞いていた通り、『略奪者ブリガンド』討伐の件だけでなく、これまでのアルフルスでの行いを好意的に見てくれているという事なのだろう。


 わたしの推測を裏付ける様に、特に前置きなどもなく、早速食事会が始まる。

 出てくる料理は豪華なものばかりだったし、辺境伯も色々と配慮をしてくれてはいた様だけど、だからといって緊張が抜けない状況の中、更にマナーにも気を付け過ぎたのがいけなかったのか、味もほとんど分からないまま、次々運ばれてくる料理に翻弄されてしまっていた。


 そんな風にわたしが四苦八苦している一方で、料理の流れが一段落したタイミングを見計らい、辺境伯からメグへの問い掛けが始まる。


「さて、殿下は我が国への亡命を望んでいるとの事ですが、間違いありませんか?」

「ええ。最早自国に安全な場所はなく、追手まで差し向けられる状況でしたので、ご迷惑をお掛けするかとは思いますが、友好国である貴国のご協力を仰ぎたく考えています」


 メグの要請を聞き、辺境伯は思案した風な表情を見せつつ答えを返す。


「承知致しました。最終決定は陛下に仰ぐ事になるが、それまではクライスが伝えた通り、我が領に滞在頂く分には構いません。『略奪者ブリガンド』亡き今、彼の国が使える手は幾つも無く、我が領への侵攻も困難でしょうから」


 辺境伯はそう言うと、スペイサーさんを呼んで指示を出そうとした。

 恐らく、この件について国王へ報告する手筈を整えようとしたのだと思うけど、それに対して当のメグから声が上がる。


「グランツ辺境伯、その事で一つ提案しても宜しいでしょうか?」


 その一言を聞いて、メグが何を言い出すのか予測が付かないのか、辺境伯は戸惑いを見せつつも先を促した。

 それに対して、メグは辺境伯が予想しなかったであろう提案を申し出る。


「宜しければ、私が直接王都へ赴き、国王陛下と交渉したいと思います」

「……本気ですか?」

「はい。その方が国王陛下の理解も得られ易いと思いますから。幸いな事に、私自身も旅路に慣れておりますし」


 メグはそう言うと、わたしと那月の方を向いてにこりと笑いかける。

 その様子を見て、辺境伯は唖然とした表情を見せたものの、咳払いをしつつ表情を戻してから、わたし達へと問い掛けた。


「成程。確かに二人が一緒なら問題無いのかもしれんが、其方らは良いのか?」

「結構悩んだけどね。でも、そうするのが一番間違いが無いかなって」


 那月がそう返すのに合わせて、わたしも同意を示して頷く。


 辺境伯の問い掛けは当然だと思うけど、だからこそメグが先手を打ってわたし達へ要請を行い、説得していた内容でもあった。

 国王とのやり取りを辺境伯に任せるのも一案だったけど、その場合、メグの希望がそのまま通るとは考え辛い。

 むしろ、まつりごとの道具にされかねないと訴えられてしまうと、わたしも那月もメグの依頼を無下にする事は出来なかった。


「……やれやれ、白雪姫スノーホワイトは随分と好奇心旺盛な様だ。まあ、其方らが良いのであれば構わぬか」


 辺境伯は半ば呆れつつそう言葉を零したけど、わたし達が国王の下へ直接赴く旨を伝えるべく、スペイサーさんに指示を出していた。

 その一方で、メグは交渉が成功裏に終わった事に安堵した表情を見せながら、辺境伯へ改めて謝意を示す。


 かくして、わたし達は辺境伯との会談を終えて、王都クレスケンスへ向けて旅立つ事になった。

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