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第67話 看板娘の衣替え

 メグの処遇について話がまとまった後、わたし達は今度はピンセント商会の二号店へと来ていた。

 その目的は、メグの当面の間の衣類とわたしの夏服の購入で、特にメグは今のままだと着た切り雀になってしまう。

 幸いな事に、メグの分の購入資金は先ほど頂けたので、王族に相応しいかどうかは置いておくとしても、替えの衣類に困る事は無いだろう。


 一応、わたし達はお店の関係者という事もあるので、店舗ではなくバックヤードに入ると、ここで衣類を選んだり試着をすることになった。

 その際にセルフィが案内を買って出てくれて、この子は何処に何があるか一通り頭に入っているから、わたし達にとって頼もしい助っ人だ。


「それじゃ、今日選ぶのはメグさんの衣類一通りと、姉さんの夏服ですね」

「そうですね。わたしの夏服は後回しでも構いませんけど」

「駄目ですよ、服装と季節感は合わせないと。ましてや、姉さんはこの店舗の看板娘なんですから」

「……それ、初耳なのですけど」


 セルフィの言葉を聞き、わたしは驚いて彼女を見つめる。

 そんなわたしを見てセルフィは溜息を吐くと、わたしに教え諭す様に説明する。


「姉さんは自覚無さそうですけど、この店は既に『黒曜の魔女』の店としてこの街で認知されています。他ならぬ、ティナさんが積極的にそう動いていますから」

「ええっ!?」


 わたしはそう驚きつつも、言われてみると腑に落ちるところもあって、複雑な思いに駆られる。

 思い返せば、ティナさんには色々な服を着せられたり、店舗にも積極的に立たされたりしていたので、彼女は元々そのつもりだったのだろう。

 そんな事を考えていると、セルフィはずいっとわたしに近付いてきて、わたしは思わず一歩後ずさる。


「そんな訳で、姉さんも常にそう意識した格好でいて下さい。仮に姉さんがだらしない恰好をしていると、お店に悪影響があるかもしれませんので」

「……はい」


 セルフィの言う事はもっともなので、わたしは素直に頷く。

 いつもしっかりした子だけど、商売事になると特に厳しいのは、彼女の夢に関わる事だし、ここの生活に慣れたという事でもあるのだろう。


 そんな事を思いつつ、わたしは近くにいたヒナタを捕まえてもふもふする。

 使い魔だからなのか、冬毛から生え変わる様子もなくずっともふもふだけど、初夏が近付いてきた最近の気温でも平気そうなので、普通のレッサーパンダと違って暑さ対策は不要なのかもしれない。


 そんな風に、衣替えが不要なヒナタをちょっと羨ましく思っていると、今度はメグがくっついてくる。


「お姉さまと一緒に服が選べて嬉しいです。その、服はお姉さまとお揃いにしても宜しいでしょうか?」

「そうですね。わたしとメグは服も同系統のが合うでしょうし、そこは問題ないと思いますよ」


 わたしがそう返すと、メグは更にわたしの腕に抱き着いてきて、上目づかいでお願いをしてくる。


「嬉しいです、お姉さま。それともう一つお願いなのですけど、下着を一緒に見て頂いても宜しいでしょうか? その、恥ずかしながら、これまでは自分で買うといった経験がありませんでしたので……」

「へっ!?」


 メグの『お願い』を聞いて、わたしは思わず狼狽える。

 確かにメグの身分を考えると、メグ自身が買い物をするのは稀だと思うし、下着の様な色々と面倒な物を初めて手に取る訳だから大変だとは思うけど、そのお願いはいろんな意味で不味過ぎる。


 メグの『お願い』と言えば、昨夜も『一緒にお風呂』や『添い寝』を希望され、その時は何とか逃げ切ったけれど、今回はわたしが逃げられない様、がっちりと腕に抱き着かれてしまっていた。

 腕を通してメグの温かさや柔らかさが伝わってきて、わたしが一杯一杯になりかけた頃、小さな救世主がわたし達の間に割って入る。


「メグさん。私がメグさんのお手伝いをしますから、姉さんを離して下さい」

「セルフィさん……」

「従姉を頼りたい気持ちは分かりますけど、こういうのはちゃんと店員に見て貰った方が良いです」

「はい……」


 そのままセルフィはメグを言い包めると、その手を引いて下着が置いてあると思わしき方へと連れて行ってしまった。

 昨夜もメグの『お願い』を食い止めてくれていたし、しばらくはセルフィにメグのお目付け役をお願いした方が良いのかもしれない。


 その場に残されたわたしと那月は、どちらともなくお互いに顔を見合わせて苦笑する。


「……それじゃ、私達もフミナの夏服を選ぼっか」

「……そうですね」

「なら、前みたくフミナに似合いそうなのを探してくるね。あ、旅装は同じデザインの夏服がもうすぐ届くんだってさ」


 それから、わたし達は夏服の候補を幾つか選ぶと、以前の様に試着していく。

 まだ肌寒さは残っている様に思うけど、夏を先取りした格好をしていくと、段々と心が弾んでいくのを感じる。


 そんな自分に気付いて我に返ってみると、ちょっと女子として馴染み過ぎた気もするけど、最早今更な感も強いし、気にするだけ無駄なのかもしれない。

 なので、今はあれでもないこれでもないと色々な服をとっかえひっかえしつつ、そのうちに合流してきたメグ達とも一緒になって、わたし達だけのファッションショーに勤しむ事にした。


◆ ◆ ◆


 わたしの夏服やメグの衣類を購入した翌日、今度は魔法薬の作成を進めていた。


 メグの件もあって、魔の森から帰った後は中々時間が取れなかったけど、明日がクライスさん達と約束した期日になるから、今日のうちにしっかりと仕事をこなす必要がある。

 それだけでなく、お店の化粧水の在庫も大分少なくなっていたので、そちらも一緒に作ってしまうつもりだ。


 それと、今回はメグもアシスタントとして魔法薬生成に参加する事になった。

 公女殿下にそんな作業をさせるのは気が引けるけど、今はわたしの従妹という事になっているから、変に特別扱いしない方が良いという判断だ。


 実際に、メグは【錬金魔法 LV2】を取得していた事もあり、化粧水の生成で大いに活躍してくれた。

 更にセルフィやフィリアの手伝いもあって、その日のうちに十分な数の魔法薬を作る事が出来たので、これで明日の納品も大丈夫だろう。




 魔法薬を作成した翌日、わたしは那月とメグと三人で、再度アルフルスの庁舎を訪れていた。

 メグも一緒なのは、辺境伯からの先触れが今日にも来る可能性が高く、それを関係者でいの一番に確認しようという手筈になる。


 但し、庁舎に着いた後は、那月はメグの護衛として一緒に残り、わたしはそれと別れてスラムに魔法薬を納品しに行くことになっている。

 その理由として、先触れの来る時間が読めない事もあり、予め二手に分かれて適材適所で分担する方針に決めていた。

 スラムの治安に関しても、前回そこまでの危険はなかったし、今回もロスさんが護衛に付いてくれるので、那月がいない事を気にする程ではないだろう。


 また、那月のアドバイスもあり、今回はわたしの[アイテムボックス]を解禁する事にした。

 那月のアイテムバッグを借りるのも一案だったけど、大分クライスさん達とのやり取りも増えてきたので、変にスキルを隠し続けるよりも、彼らを信用してある程度は開示してしまおうという判断だ。


 庁舎に着くと、いつもの様にラングさんがやってきて、わたし達を出迎えてくれる。


「本日も庁舎までお越し頂き、ありがとうございます。ナツキ様とメグさんは、私の後を付いて来て下さい。フミナさんは間もなくルイサが来ますので、それまで少々お待ち下さい」

「了解! それじゃ行ってくるね、フミナ」

「お姉さま、お気を付けなさって下さい」


 三人が奥へ向かった後、今度はルイサさんがすっと姿を現すと、早速わたしを応接室へと案内してくれる。

 部屋に入って早々に、わたしが[アイテムボックス]からポーションと毒消しを取り出すと、ルイサさんは驚いた様に目を丸くしていたけど、すぐに我に返ると前回の様に淡々と魔法薬を[鑑定(アプライズ)]し始めた。


 ルイサさんが淡々と[鑑定(アプライズ)]し続け、わたしはその様子をぼんやりと眺めるという感じで、両者沈黙のまま時間が経っていったけど、ルイサさんは不意に手を止めるとわたしを真顔で見つめてくる。


「……貴方は[アイテムボックス]が使えたんですね」

「はい」

「では、どうして今回になってそれを明らかにしたのですか?」

「そうですね……、那月と相談して決めたのですが、しばらくはクライスさん達とのやり取りが増えそうですし、今日の様なケースに対応するには必要と思いましたので」


 その回答を聞いてなお、ルイサさんは真顔でわたしを眺め続けたけど、やがて手元の魔法薬に目を向けてから口を開く。


「分かりました。今回は予定通り[鑑定(アプライズ)]しますが、次があるようでしたら、検査方法については改めて相談させて頂きます」

「ええと……?」

「今回もここまで全て良品ですし、貴方も[鑑定(アプライズ)]が使えるのであれば、私の方での検査は簡略化する方向にしようかと」


 ルイサさんからの意外な提案に、わたしは驚く。

 [アイテムボックス]の明言は結構勇気がいったけど、その結果、彼女もわたしの事を信用する気になったのかもしれない。


 その後はまた、魔法薬の容器の音だけが響く時間に戻ったけど、気分は少し軽くなっていた。

 やがて、ルイサさんは魔法薬の[鑑定(アプライズ)]を終えると、前回の様にロスさんとバトンタッチして、わたしはロスさんと一緒にスラムへ向けて歩き出した。

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