第64話 公女に掛けられた加護と呪詛
メグに[神の天秤]を掛けて幾ばくか経った頃、わたし自身に[鑑定]を掛けた時の様に、次々とメグのスキルが表示されていく。
マルグレーテ・セレネ・オブレスト
〔性別:女〕
〔年齢:14歳〕
〔種族〕
【人間】
〔クラス〕
【公女】
〔強化耐性〕
【頑健 LV1】
【精神耐性 LV3】
【魔力出力 LV2】
【魔力容量 LV2】
【魔力制御 LV2】
〔魔法〕
【土魔法 LV3】
【光魔法 LV5】
【錬金魔法 LV2】
【時空魔法 LV4】
〔スキル〕
【護身術 LV2】
上位魔法という事もあるのか、[鑑定]よりも表示内容が増えていた。
メグのスキルを見てみると随分と魔法技能が高く、特に光魔法は特筆するレベルで、彼女が望むなら聖女の称号にも十分手が届くだろう。
そう考えつつ、わたしはふと気付く。これだけの魔法力があって、オークを相手にただ無力に逃げ惑うだけという事があるのだろうか?
というよりも、まだ年若い一国の公女が修めるには、この魔法技能は高過ぎるとも思うので、まずは本人に確認してみる事にした。
「メグ、わたしには今、あなたのスキルが見えています。あなたは複数の属性魔法を高いレベルで修めている優秀な魔法使いの様ですが、間違いないですか?」
一方で、わたしの質問に対してメグは戸惑いを見せつつ、[神の天秤]の結果とは異なる答えを返す。
「……いえ。私の母方の家はオブレスト公国でも魔法の大家の一つとされており、私自身も光魔法はある程度使えますが、精々護身の範囲内です」
「そうですか。では[ホーリーフォース]を扱えたりは?」
「いえ! 私ではその様な高位魔法まではとても……」
「では、時空魔法の[アイテムボックス]は如何でしょう?」
わたしが続けた質問に、戸惑いを感じた様子を見せつつもメグは首を横に振る。
どちらの魔法もメグの魔法レベルなら使えるはずなのだけど、この違和感は何だろう?
私自身も戸惑いつつ、それでもメグへ[神の天秤]の示した結果を告げる。
「落ち着いて聞いて下さい。メグの魔法技能は光魔法と時空魔法が特に優れていて、先の二つの魔法も使えるレベルのはずです。なので、試しに[アイテムボックス]を使ってみて貰っても良いですか」
わたしの言葉を聞いて、メグは半信半疑という表情をしつつも[アイテムボックス]を試す。
すると、魔法レベルの通り普通に[アイテムボックス]が発動し、メグは呆然とした表情を見せた。
「嘘……、こんな事って……。時空魔法なんて習った事も無いのに……」
どうやらメグとしても本当に覚えが無いらしく、ただただ戸惑っている。
その様子を見て、あるいはこれこそが発光現象による影響かもしれないと考えた始めた頃、[神の天秤]の追加情報が入ってきた。
〔状態異常〕
【聖女の加護】――母が娘に掛けた加護。その特性上、魔法に対する抵抗力を向上させると共に、特に呪詛の類に対して強い耐性を得る。
【鏡写しの呪詛】――魔鏡に写した者同士の魂を移し替えるための呪いの呪詛。
鏡写しの特性上、本来の作用は複写だが■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。
どちらも尋常な内容ではなく、特に【鏡写しの呪詛】からは明確な悪意が感じられる。一部が文字化けした様に読み取れないけど、それだけ高位の呪いという事なのかもしれない。
この二つがメグのスキル異常の主要因に思え、わたしは仮説を立てる。
【鏡写しの呪詛】と【聖女の加護】が相殺し合っていたところに、魔の森での危機的状況か何かが引き金となり、【鏡写しの呪詛】の複写機能が予期せずに発動した結果、わたしのスキルの一部をコピーしてしまったというのはどうだろうか?
やや強引な解釈ではあるけど、メグが元々時空魔法を修めていないとするなら、今の魔法レベルは普通の手段で得られたものとは考え辛い。
また、彼女が呆然とした一因の通り、高レベルの時空魔法の使い手は中々いないのが実情で、複写が事実だとしてもその相手は限られるはず。
突飛な仮説にも思えるけど、魔の森で触れ合った際に生じた、強い魔力の奔流を伴った発光現象にも一応の説明は付きそうで、遠からずとは言えそうだ。
そこまで考えがまとまった事で、わたしは自説を皆に説明する。
三人共、当初こそ訝しげな表情で話を聞いていたけれど、メグは心当たりがあったのか、沈んだ表情でぽつぽつと語り始めた。
「お姉さまのご説明は正直信じ難いですが、【聖女の加護】と【鏡写しの呪詛】に心当たりがあるのも事実です。【聖女の加護】は恐らく母が掛けてくれたものでしょう。生前の母は私の身を特に案じていて、身を守る手筈を整えてくれていましたから」
メグはそう話すと、母の遺した護身の手筈についても語っていく。
メグの母親は聖女の称号を持った優れた魔道士だった一方で、身体が弱く病気がちだった事もあって若くして亡くなったらしく、それまでにメグの身を案じて様々な魔道具や加護等を遺していたらしい。
彼女が魔の森にいたのは、護身の魔道具により[転移]した結果らしく、一国の姫君が一人で魔の森にいた理由が判明する。
続いて、メグは【鏡写しの呪詛】と何故[転移]するに至ったかについても口を開いた。
「【鏡写しの呪詛】はもしかして……という話になりますが、継母が関与しているのかもしれません。継母は大きな魔鏡を大事にしておりましたので……」
「メグが継母――公妃に疎まれていた……という事ですか?」
わたしの質問に対して、メグは首を縦に振ると話を続ける。
「継母にとって、幼い頃の私は興味の対象外だったと思います。ですが……、最近は継母と会う機会も増え、その都度良くない視線を感じておりました」
メグの話によると、今回[転移]に至った経緯にも、公妃が関与している可能性があるらしい。
と言うのも、公妃からの指示で地方での公務をメグが代行する事になり、その公務を終えた帰り道で馬車が人目の無い森の中に入った後、メグの護衛をするはずの騎士達が突然襲って来たのだと言う。
その危機的な状況は、実の母の形見の魔道具による[転移]が発動した事で乗り切れたものの、[転移]先もまた危険な森の中だったので、メグはわたし達と出会うまで魔物から必死に逃げ続けていたらしかった。
メグが抱えている事情の重さを聞いて、わたしはどう対処すべきか戸惑う。
一方で、那月はメグの話を補足する様に確認の言葉を掛ける。
「確か、今のオブレストの公妃って国一番の美姫って言われていて、大公の寵愛も凄いから何でも言う事が通るって聞いたけど、それで合ってる?」
「……はい。正直に申し上げて、その通りです」
「そっか……。ならさ、公妃はメグに……ううん、『オブレストの白雪姫』に脅威を感じて排除に動いたのかもね。いずれ、自分の地位を脅かすのなら、って」
「その結果が、魔鏡を用いた呪詛と今回の襲撃という訳ですか……」
わたしの一言を最後に、わたし達は皆沈んだ面持ちで思案に耽る。
事が事だけに、この屋敷の人達では到底抱えきれない問題になるから、間違いなくクライスさん達にも相談する事になるだろう。
その一方で、わたしとしては【鏡写しの呪詛】が気になっていて、公妃の目的がメグの始末とは限らない様にも思える。
但し、これ以上考えても結論は出ないだろうから、まずは今自分がやれる事を提案する事にした。
「まず、メグの事情は分かりました。正直なところ、あなたの抱えている問題はわたし達の手に余ると考えます」
「お姉さま……。そう……、ですよね……」
「とは言え、出来る事もありますので、これからあなたの【鏡写しの呪詛】を解呪しようと思いますが、大丈夫でしょうか?」
わたしの最初の言葉を聞いて、メグは捨てられた子犬の様な表情になったけど、続く言葉を聞いて驚いた様に大きく目を見開く。
「そんな事が……、出来るんですか……?」
「絶対とは言えません、非常に強力な呪いの様ですので。ですが、この呪いをそのままにするのは良くないと感じますし、解呪出来る術者もほとんどいないでしょうから、わたしが執り行うのが一番良いはずです」
わたしがそう言い終えると、メグは瞳に涙を滲ませたかと思うと、わたしの胸に飛び込んで抱き着いてくる。
「ありがとうございます、お姉さま! 私怖かったの……。でも、お姉さまが救ってくれるならきっと大丈夫。私、とても嬉しいです!」
どうやら、メグも気丈に振舞ってはいたものの、継母に始末されそうになった上に、高位の呪いが掛けられているとの話は相当に堪えるものがあったようだ。
メグの年相応の反応を前に、不謹慎ながらちょっとほっとした思いを抱きつつ、わたしは彼女の背中をさすって抱きしめた。
メグ:(フミナに合法的に抱き着いて)『計算通り(ニヤリ)』




