第60話 初めての冒険に行こう
スラムに魔法薬を納品した翌日、わたし達は薬草採取に行く準備を進めていた。
今回はセルフィやリゼット、フィリアも一緒で、彼女達にとっては冒険者デビューになるから、念入りに準備をしている。
実際には、わたしと那月、ヒナタが戦力の中心になるから、さほど危険は無いはずだけど、彼女達が冒険者を目指すなら全力を尽くすに越したことはないだろう。
その辺は子ども達も十分に理解していて、今回は薬草採取の補助がメインの仕事である一方、戦闘や探索には無理に参加せず、雰囲気に慣れる事を想定して準備を進めていた。
「セルフィ、水筒はどうすべきかな?」
「一応、私が[水生成]を使えるけど、ちゃんと持った方が良いわね。私はまだ魔法力に余裕が無いから」
「フィリア、火種は問題ないか?」
「うん、私は魔法力に余裕あるから大丈夫」
年長者で一番冒険者への憧れが強い事もあって、リゼットが特に精力的に動いていて、年下二人を上手くまとめていた。
この分なら、わたし達がしゃしゃり出る必要もなさそうだし、いざという時に手助けをすれば大丈夫なはずだ。
やがて、冒険に必要なものは一通り買い込んだので、みんなで家に戻る。
すると、コレットとシャルが店舗での仕事を終えて先に帰宅しており、わたし達を出迎えてくれた。
「あ、おかえり~」
「ただいま、シャル。それとコレットも」
「お、お帰り……」
シャルはいつも通りにこやかに、一方でコレットは変に緊張した様子で挨拶をする。
リゼットはそんなコレットの様子を訝しげに見ていたけれど、彼女が口を開くより早くシャルが動き出した。
「今日はね、私とコレットから、リゼットとセルフィとフィリアにプレゼントがあるんだよ。ね、コレット!」
「そ、そうよ。貴方達、明日から冒険に行くんでしょう。私とシャルとで餞別を用意して、フミナさんに魔法を付与して貰ったから、有り難く受け取りなさい」
そう言うと、コレットとシャルはリゼットとセルフィ、フィリアに対して袋を手渡した。
三人は最初はぽかんとしながら袋を受け取ったけど、その中身を見た途端、表情が喜色に彩られる。
「これ旅装か? それと魔道具のブレスレットも! 凄いじゃないか!」
「これ、フミ姉の旅装と色違い……」
「旅装がシャルで、ブレスレットがコレットね。ありがとう、大切に使うわ」
サプライズのプレゼントを受け、三人とも笑顔になりながら、二人に対して礼を言う。
それに対して、シャルは変わらずにニコニコしていて、コレットは顔を赤くしてあたふたしていた。
この企画にはわたしも一枚噛んでいたので、無事に終わってほっとする。
事の始まりはコレットとシャルから相談を受けた事で、コレットは魔道具のアクセサリ、シャルは旅装を三人に贈りたいとの話だった。
それから、材料の件でティナさんに相談したところ、必要なものをすぐに融通して貰えた事もあり、コレットとシャルは自由時間を生かして魔道具と旅装を作成していたらしい。
その際に、魔法付与についても相談されていたので、そこからは三人の身を守るべく、わたしも二人に協力して本件に携わる事になった。
その結果、旅装はわたしのものと同等の防御性能を付ける事ができ、ブレスレットは装着者の全防御力を向上させると共に、居場所の発信機能も付けている。
発信機能については、わたししか受信出来ない仕組みではあるけど、これだけの機能を盛り込めば三人の安全度を大きく引き上げられるはずだ。
そんな事を思い返していると、セルフィ達三人は今度はわたしの方を向いていた。
その事にわたしが気付いた途端、彼女達は一斉にお礼を告げる。
「姉さんもありがとうございます。お揃いの旅装で嬉しいです」
「フミ姉もありがとう。凄い魔法が付与されてる、……今度教えて?」
「ありがとう、フミナさん。足を引っ張らない様に頑張ります!」
三人からめいめいに感謝の言葉を伝えられ、ちょっと照れてしまったけど、それを隠しつつわたしは一言返した。
「喜んで貰えて良かったです。明日は気を付けて頑張りましょう」
それからは、その雰囲気のまま皆で和気藹々と過ごす。
それでも、明日の冒険に備えるため、対象者は早めに就寝する事になった。
翌朝、わたし達はいつも冒険に行く時の様に、まだ暗いうちに起きて準備をした後、日が昇るのに合わせて出発する。
今回は大人数での行動になったけど、子ども達も準備万端の様で、まずは順調なスタートが切れてほっとする。
以前の様に街道に沿って西に進んだ後、わたし達は魔の森へと入っていく。
事前の言い付けの通り、子ども達は基本的にヒナタと一緒に行動して貰い、離れる時もわたしか那月の傍にいるようにして貰っている。
魔の森の魔物が色々な意味で危険な事は彼女達も良く理解していた様で、程よい緊張感を持ちつつ森の中を進んでいった。
やがて、わたし達は薬草の群生地を発見したので、薬草採取を始める。
「フィリア、これは何処が素材になるんだ?」
「それは葉っぱだから摘んで大丈夫。そっちは根っこだから掘らないと駄目」
「二人とも、あまり遠くに行っちゃ駄目よ。姉さん、これって化粧水に使う香草ですよね?」
子ども達三人は、初めての薬草採取を張り切って進めていく。
薬草採取に夢中になり過ぎないか気を配っていたけど、セルフィが要所要所で上手く手綱を握ってくれているので大丈夫そうだ。
しかし、その様な穏やかな時間は長続きせず、ヒナタの【警戒】が近付いて来る魔物の気配を察知する。
「リゼット、セルフィ、フィリア! 魔物の群れが近付いていますから、ヒナタの周りに戻って下さい」
わたしの声を聞いて、三人はすぐにヒナタのところまで戻って来る。
それから多少の間をおいて、十匹を超えるゴブリンが姿を現した。
ゴブリンはいつも通りわたし達にいやらしい目線を向けてきたけど、その目が子ども達にも向いていた事に気付き、その無差別な欲望にイラっとする。
だけど、そんな魔物の獣欲を向けられた状態でも、彼女達は訓練の通り動く事が出来ていた。
ヒナタに守られつつも、リゼットが剣を模した木刀を構え、セルフィとフィリアは魔法の詠唱準備に入っている。
その様子を見てまずは合格点と思いつつ、わたしはさっさと[アースニードル]でゴブリン共を一掃した。
「フミナ、お疲れ様。それと、今の対応は三人とも合格だね。それじゃ、次はゴブリンの魔石を取り出しちゃおっか」
子ども達、特にフィリアはわたしの[アースニードル]に関心を示しつつも、ゴブリンの屍から魔石を取り出しにかかる。
正直なところ、わたしとしては未だに苦手な作業だけど、魔石一つでそれなりの報酬が得られる事もあって、子ども達は手際よく魔石を取り出していった。
作業が終わった後は、わたしの[清浄]で子ども達に付いたゴブリンの血などの汚れを綺麗にする。
自分達に付いた汚れが綺麗に取れていく様子を見て、彼女達も補助的な魔法の有用性を理解した様だった。
その後も、わたし達はあまり森の奥には立ち入らない様にしつつ、薬草を採取していく。
薬草採取も順調だけど、魔物もそれなりに狩っているので、全体でみるとそこそこの収入が期待出来るかもしれない。
それから大分経って、日が傾き始めたのを見て、今度は野営の準備を始める。
子ども達は土のシェルターに驚いていたけど、自分達ならどうするかを三人で話し始めていて、逞しさを感じた。
「これ、凄く便利だな。私達でも出来る様になるものなのか?」
「これはちょっと無理ね。必要となる技量が多い上に高過ぎるわ」
「でも間違いなく有用。今後の目標にする」
「はいは~い! フミナの魔法は規格外だから、これが常識で普通に出来る事だと思わない様に! とりあえず、今日は中に入って休んじゃお!」
三人の様子を微笑ましく見ていると、那月が音頭を取って野営の準備を再開し始める。
子ども達も、初めての冒険で気付かないうちに相当疲労していた様で、その夜はすぐに就寝する事になった。




