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第49話 仕掛けられた罠

 翌朝、わたしと那月さんは、ヒナタも連れてマフィアの本拠地に向かっていた。


 まずはヒナタに【隠密】を掛けて貰い、屋敷を出ると同時に、屋敷と敷地の防護結界を最大出力で発動させる。

 これで、傍目にも魔女の結界が施されたと分かるので、無理に屋敷に踏み込む人はいないはずだ。


 屋敷の守りを万全にしたところで、わたし達は〈ラプターズ・ネスト〉の本拠地へと足を早める。

 そこに至る経路の途中で、スラム街に足を踏み入れた途端、辺りの雰囲気が変わり、それまでに感じた事の無いような危険な空気に驚く。


 これまでも、魔の森やフォルパスのダンジョンなど、魔物が徘徊する危険な地域を行き来していたけど、スラム街の肌を刺す様な危険な雰囲気は、それに劣るものではなかった。

 あるいは、人の悪意というものは、それだけ危険という事なのかもしれない。


「……フミナ、大丈夫?」

「……はい。ちょっと面食らいましたが、何とか」


 【隠密】状態にも関わらず、スラムの異様な雰囲気に呑まれかけたわたしに気付いたのか、那月さんが声を掛けてくる。

 それに対して、わたしは改めて気を強く持つ。マフィアの本拠地に殴り込みを掛けるのに、スラムの雰囲気に呑まれる様では足手まといにしかならない。


 そのまま、わたし達はスラム街を駆け抜けると、その一角に(そび)える豪奢な建物へと辿り着いた。


 何とも言い難いのだけれど、豪奢な一方で悪趣味な外観をしている様にも感じ、そういう意味ではマフィアの本拠地らしい建物と言えるのかもしれない。

 更に観察していくと、建物の大きさなどを見ても相当な財力が見て取れ、犯罪組織がこうも堂々と構えているのはどうなのかと疑問に思うけど、それは何処の世界でも共通の問題なのかもしれなかった。


 わたし達はそのまま正門から討ち入ろうとして、そこで異変に気付く。

 そこにはマフィアの構成員らしき人が何名かいたけれど、門番や警護という感じではなく、何と言うか酩酊状態でふらついているだけだった。


「……何あれ? 二日酔いとか?」

「分かりません。但し、倒すべき相手は魔法使いですし、何らかの魔法の影響かもしれませんので、気を付けて下さい」

「りょーかい。魔法の気配がないか気を付けるね」


 そう言うと、那月さんは先陣を切って建物へと飛び込んで行く。

 それを追ってわたしも建物の中に入ったけど、屋敷の中も外と同様に酩酊状態の人がふらついているだけで、わたし達の侵入を咎める様子はなかった。


「えーっと、何も起こらないね?」

「そうですね……」


 マフィアの本拠地の異様な状況を見て、わたしは警戒度を一段引き上げる。

 那月さんも真剣な表情で周りを見渡しており、見落としが無いように細心の注意を払っているのが見て取れた。


「何かゾンビの群れみたいだね……」

「ゾンビですか? だとすると、これはやはり何らかの魔法のせい……」

「ちょっと待って! これって、血の臭い!?」


 那月さんはそう言うと、急いで奥へと駆けて行く。

 わたしも遅れない様にその後に続くと、徐々に血の臭いが強くなってきた。

 やがてその大元に辿り着くと、そこには胸を刺し貫かれた大柄な中年男性が事切れていた。


「那月さん、これって……」

「……この人は恐らく〈ラプターズ・ネスト〉の首領だと思う。モニカの情報とも一致するし」


 大柄な身体と特徴的な円月刀シミターを見て、那月さんはそう呟く。

 イーグルを尋問した時の、〈ラプターズ・ネスト〉自体はセルフィ達から手を引こうとしていたとの話から考えると、首領は魔法使いと対立関係にあったはずで、この姿はその抗争の果てという事かもしれなかった。


 そのまま、お互いに無言で周りを確認していると、不意に辺りが輝き出す。

 巧妙に隠されていた魔法陣が発動したと気付いた時はもう遅く、わたしと那月さんは光の中に閉じ込められ、魔法の発動を回避出来なくなっていた。


「フミナ!」

「那月さん、手を離さないで下さい!」


 わたしはそう言うと、那月さんの手を強く握って敵の魔法に備える。

 次の瞬間、魔法陣に描かれた魔法が発動し、その場からわたし達は消え失せた。

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