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第46話 騒動の終結

「先ほどから申し上げている通り、わたしの行為は武装した侵入者に対する正当防衛です。それが、何故認められないのでしょうか」

「それを確認するためにも、詰所に来て頂きたいと言っている。其方の言い分を鵜呑みにする訳にもいかなくてな」

「一方的に、住んでいる屋敷に襲撃を受けた側でもですか? それも、こんな真夜中であっても?」

「事件が起きたのが真夜中なのだから、やむを得ないだろう」

「では、わたしが屋敷を離れた時、中の子ども達の防護はどうお考えですか?」

「それは本官の関与する所ではない。そもそも、侵入者は全て倒したのではないのかね?」


 想定外な事に、わたしは衛兵の責任者と舌戦を繰り広げる羽目に陥っており、今夜のトラブルは未だ片付いていなかった。


 〈ラプターズ・ネスト〉の侵入者全員を縛り上げ、衛兵が騒ぎを聞きつけて来た時は、これで今夜の騒動は解決するかに思えた。

 事実、彼らは侵入者を次々と確保していったのだけど、衛兵の責任者を名乗る男が現れ、わたしも同行するよう求めてきた辺りで雰囲気がおかしくなった。


 彼の言い分は、この世界の常識と照らし合わせても明らかにおかしいのだけど、相応の権力があるのか無理を押し通すつもりらしい。

 わたしとしては、代官が〈ラプターズ・ネスト〉側と知っているから、この人の言い分も到底飲めない話になるけど、侵入者の様に伸してしまう訳にもいかないから、対応が難しかった。


 屋敷のロックを外す訳にもいかないので、モニカさんにも頼れず八方塞がりの状況の中、衛兵の責任者から度々繰り出されるセクハラの魔手を躱しつつ、何とか穏便に収める手段を模索する。

 但し、その様なわたしの態度を見て衛兵の責任者も焦れてきたのか、強硬手段に出そうな雰囲気が漂った頃、救いの女神が現れた。


「フミナ! 無事!?」

「那月さん!?」


 思わぬ人の登場にわたしは驚く。

 那月さんは相当無理をしてきたのか、いつになく疲労困憊の体だったけど、わたしの元まで駆け付けると、そのままわたしを抱き締めた。


「良かった~。もう間に合わないと思ってたから……」

「……あなたは無茶をし過ぎです――[完全回復(エリクシル)]」


 那月さんの体力が危険水域だったのを感じ取り、わたしは自身の持つ最高の回復魔法を唱える。

 彼女の様子を見ると、領都からノンストップで全力疾走してきた様にも感じられた。

 この街の代官も〈ラプターズ・ネスト〉とグルだった事を考えると、那月さんもそれに気付いて、急ぎ戻って来たのかもしれない。


 ともあれ、お互いの無事が確認出来た事で、わたし達はそのまま笑い合う。

 衛兵の責任者は、自分が無視された事が気に食わないのか癇癪を起こしかけたけど、那月さんが峻烈な視線を向けた事で押し黙った。


「何をしようとしていた」

「……この屋敷の敷地で騒動があったと聞いてな、我々衛兵が駆け付けたのだよ。すると、その娘が侵入者を倒したというので、詰所で話を伺おうとした訳だ」


 衛兵の責任者は、あくまで自身の行為は正当というていで回答する。

 それに対し、那月さんはこれまで聞いた事もない様な冷厳な声音で返した。


「そう、ならすぐに引き返しなさい。今ならまだ見逃してあげる」

「な……! 我々としても、この街を守る義務が……」

「お前では話にならないし、信用出来ないと言っている」

「な…………」


 那月さんの言葉を聞き、衛兵の責任者は顔を真っ赤にして口をパクパクさせる。

 那月さんはその様子を見て溜息を吐くと、驚愕の事実を告げた。


「私宛に辺境伯を騙る手紙があった。そして、これは辺境伯も把握済み。こんな大それた事が可能な人間は一握りだろうけど、犯人は誰だろうね?」

「何!?」


 那月さんの話が想定外もいいところだったのか、衛兵の責任者は怒りも忘れ、唖然とした表情へと変わる。

 那月さんは、この街の代官かそれに近しい人物が事件に関与している疑いがあると告げている訳で、それが辺境伯の耳にも入っている事を考えると、相当な大事になる可能性がある。


 わたしも予想していた内容ではあったけれど、敵が辺境伯の名を騙ってまで、この街から那月さんを引き離そうとした事に驚く。

 いくら何でもそれはリスクが高過ぎると思うし、衛兵の責任者も予期せぬ事態だったのか、当初の横柄な態度は鳴りを潜め、その顔は徐々に青くなってきていた。


 尚も、那月さんはダメ押しの様に言葉を続ける。


「だからこそ、お前達の言う事を聞く訳にはいかない。申し立てがあるなら、辺境伯本人をこの場に連れて来なさい」

「くっ…………」


 那月さんの言葉を受けて、衛兵の責任者は苛立った表情で歯ぎしりをしていたけど、勇者には逆らえないとみたのか、やがて撤収していく。


 彼らがいなくなったのを見て、わたしは那月さんにお礼を言って、それから二人で屋敷の中へと戻っていく。

 ようやく、今宵の騒動は終結の気配を見せていた。




 わたし達が屋敷の中へと戻った後、早速モニカさんと合流する。

 彼女は彼女でわたしの安否をずっと心配していた様で、特に衛兵と揉め始めた時は気が気で無かったらしい。


 続いて、わたし達は今回の騒動で判明した内容について話し合う。

 那月さんの方は、辺境伯への挨拶後に手紙が偽物と判明したらしく、そこからアルフルスまで走って戻ってきたらしい。

 予想していたとはいえ、相当な無茶を聞いて、わたしは改めて驚く。


 一方で、辺境伯からの手紙の偽造に話が及ぶと、モニカさんは表情を真っ青にして那月さんの前に跪いた。


「申し訳ありません! 手紙の偽造に気付かず、更にナツキ様を遠ざける策の手助けをした形となり、どうお詫びしたら良いか……」

「えっと、モニカさん落ち着いて下さい。みんな無事でしたし、敵をおびき出して一網打尽にも出来ましたし、そこまで気に病まなくても大丈夫ですよ」


 モニカさんの悲壮感すら感じさせる様子を見て、わたしは思わずフォローする。

 一方で、那月さんは困り顔になりつつも、この場を収めるべく口を開く。


「まあ、フミナのお陰で結果オーライかな。だから、モニカも気に病まない事。次……は無い方が良いけど、その時に役立てて」

「……分かりました。ありがとうございます、ナツキ様、フミナちゃんも」


 モニカさんが落ち着いたのをみて、今度はわたしの方で得た情報を話す。

 実行犯がマフィアだったのは二人とも想定通りだった様だけど、この街の代官が一枚噛んでいる可能性を伝えると、改めて驚いていた。

 とは言え、残る主な実行犯はマフィア所属の魔法使いだけと思われ、組織自体は手を引く方針と伝えると、二人とも少なからず安心した様だった。


「そっかー。幾ら何でも無茶だと思ったけど、一部が暴走していただけなのねー」

「はい。ですので、この騒動も解決まで後一歩だと思います」


 解決への糸口がある程度見えたからか、ほっとした雰囲気が流れる。

 ところが、那月さんが無言のまま聖剣を携えて外出しようとしており、私は驚いて彼女の手を掴んで引き留めた。


「何処に行くんですか?」

「マフィアのところ。実行犯はさっさと捕えた方が良いっしょ?」


 すると、散歩に行く位の気軽さでそう返され、思わず唖然とする。

 どうやら、那月さんも今回の事件は腹に据えかねたらしく、さっさと幕引きを図りたいらしい。

 そうは言っても、今は深夜で那月さん自身の疲労も相当な事を考えると、無理をすべきではないと思う。


「なら明日にしましょう。今の時間だと思わぬ危険があるかもしれませんし、そもそも[完全回復(エリクシル)]を掛けたとはいえ、疲労は抜けきっていないはずです」

「フミナ…………」


 わたしの引き留めが奏功したのか、那月さんは困った顔をしつつも、思い留まる気配を見せる。

 その様子を見て安心していると、那月さんはおずおずと思わぬ提案をしてきた。


「そうだね、明日にする。それとさ、フミナにお願いがあるんだけど、今日は一緒に寝ても良い?」


 那月さんの思わぬお願いに、思わず大きく目を見開いて驚いてしまったけれど、彼女は尚も続ける。


「フミナが酷い目に遭うんじゃないかって、ホントに怖かった。だから、お願い」


 那月さんの何時になくしおらしい態度に思わず戸惑ったけど、彼女が落ち着くなら、この位はやむを得ないだろう。


「分かりました。その代わり、明日行く時も一緒ですよ」

「ありがとう、フミナ!」


 わたしが了承すると、那月さんの表情はぱあっと明るくなる。

 その様子を見て、わたしは苦笑しつつ、那月さんと一緒に寝室へ向かった。

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