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第44話 闇夜の襲撃

 工房での仕事と二人への魔法関係の授業を終え、屋敷に戻って化粧水とその試用について話すと、全員が物凄い勢いで食い付いてきたので驚く。

 とは言え、これで化粧水使用のモニタリングに事欠かなくなったので、みんなに一瓶ずつ渡して、使用した感想を教えて貰う事にした。


 それからは、普通にみんなで夕食を食べて、適度に団欒した後、各々の部屋へと別れていく。


 そのうちに、子ども達はお風呂も済ませた様で、今日も平和に終わりそうだと思っていた頃、ヒナタの【警戒】が屋敷の外に不穏な気配を察知した。

 その数は十を超えており、また明らかな敵意が感じられる。

 それに気付くや否や、わたしはモニカさんの部屋へと駆け出した。


「モニカさん、起きていますか?」

「フミナちゃん? 入って良いわよ」


 モニカさんの部屋に入ると、彼女はまだ侍女服を着こんだままだった。

 時間も無いので、わたしは手短に不穏な気配について告げる。


「万が一への備えはしていたけど、本当に来るなんてね……。こんな事をする程、おバカな組織じゃないと思ってたんだけど……」


 モニカさんは敵をマフィアと断定すると、傍らに用意していた薙刀を手に取る。

 彼女も戦って撃退する気の様だけど、わたしとしてはお願いしたい事があったので、それに待ったを掛けた。


「奴らも、那月さんのいない今がチャンスと見たのでしょう。それで、モニカさんにお願いしたいのですが、屋敷の中で子ども達を守っていて貰えますか」

「……フミナちゃんはどうするの?」

「わたしは外に出てマフィアを撃退し、可能なら衛兵に突き出します」


 わたしの言葉にモニカさんはしばし唖然とした後、血相を変えて反対してきた。


「そんなのダメよ、危険過ぎるわ!」

「そうは言っても、誰かがやる必要がありますし、奴らに手を引かせるチャンスでもありますので」

「フミナちゃんは魔法使いでしょう!? 私が出るから、子ども達はフミナちゃんが守って頂戴」


 モニカさんに想定外な程強く反対されて驚いたけど、ここは引く訳にはいかないので、理を説いて理解して貰う事にする。


「いえ、わたしに行かせて下さい。ここは既にわたしの――、いえ魔女の陣ですので、魔女(わたし)が負ける事はありません。魔女の陣に攻め込む事の意味を、彼らに知らしめないといけませんから」

「……信じて良いの?」

「はい。それに、これ位は出来ないと、那月さんの相棒ではいられませんし」


 わたしが笑顔でそう返すと、モニカさんは悩んだ後に不承不承頷く。

 それでも心配なのか、彼女は最後に一言付け加えた。


「分かったわ。でも、フミナちゃんが危うかったら、私も飛び出すからね」

「わかりました。それでは子ども達をお願いしますね」


 その言葉を最後に、わたし達はマフィアとの闘争に向けて動き出す。

 外の気配は、屋敷を包囲するように徐々に動き出していた。




 その後、わたしは旅装に着替えてマフィアを迎え撃つ準備をする。

 幸い、奴らも慎重に動いている様で、まだ屋敷への侵攻へは至っていなかった。


 それ故、わたしは水際で奴らを食い止めるべく、外に出てから屋敷に施した結界の防衛機構を発動する。

 これで、屋敷は魔法的にロックされ、易々とは侵入出来ないはずだ。

 加えて、モニカさんが飛び出さない様、内側にもロックを掛けておく。


 防衛戦の準備が完了した事で、わたしは侵入者達へと大声で告げる。


「出てきなさい! ここが勇者那月の屋敷と知っての所業ですか!」


 わたしがそう言うと、奴らの気配が多少揺らいだ後、察知された事で隠れている意味はないと判断したのか、雑な覆面をした集団が姿を現す。

 その中心に居たのは、背の高い痩せぎすな男と、2mはあろうかという巨漢の男で、明らかに堅気でない雰囲気を纏っていた。


「……良い勘をしているな、女」

「それで、一応は不法侵入の理由を聞きましょうか?」

「……ここに女のガキが5人いるな? そいつらの所有権は俺らにあってな、それを取り戻しに来ただけだ」

「セルフィ達の事を言っているのなら、あなたの言い分は誤りです。彼女達は、何処にも所属していませんでしたので」


 敵の無茶な言い分に対し、わたしは毅然と言い返す。

 それに対し、今回の首謀者だろう背の高い痩せぎすな男が苛立った様子を見せたけど、不意に月明かりが差し込んだ事で、意外そうな表情へと変わる。

 どうやら、月明かりでわたしの顔が見えたらしく、周りのチンピラからはいやらしい目線と共に、下手な口笛が聞こえてきた。


「……ほう。俺の好みじゃねえが、大したタマだな。女、女に生まれた事を後悔したくなけりゃ、ガキ共を差し出しな。今なら軽いお仕置きで許してやる」


 首謀者がニタニタとそう語ると、周りのチンピラ共も下卑た嗤いを向けてくる。

 この世界に来てから、嫌という程向けられた欲に塗れた視線に、わたしはげんなりとしつつも、挑発するように否を返す。


「あなた達こそ、今引き返すなら止めませんよ。大の男がこれだけ集まって、女の子を無理矢理捕えようだなんて、恥ずかしくないんですか」


 その挑発に引っ掛かったのか、一人のチンピラが威圧しながらゆっくりと近付いて来る。


「んだぁ、女! 面が良いからって、調子に乗ってんじゃねーぞ! ガキ共より、おめえから先にヤってやろうか!?」


 そのチンピラは、尚もオラついたままわたしの傍まで来ると、わたしに向けて手を伸ばしてくる。

 そのタイミングを見て、わたしは正当防衛と見做し、防衛機構の一つを発動させた。


「があっ! ……てめえ、何……を……」


 地面から迸る電撃を受けて、そのチンピラはあっさりと昏倒する。

 他の侵入者達を見渡すと、唖然とその様子を見ていたので、わたしは奴らに対し宣言した。


「これで正当防衛成立ですね。魔女の陣に足を踏み入れた愚か者共よ、容赦しませんので覚悟して下さい」

「魔女……だと!?」


 わたしの言葉を聞いて、首謀者の表情は下卑た笑みから驚愕に変わったけど、わたしは容赦せずに侵入者全員に対して電撃を見舞う。

 一応は防衛機構なので、非殺傷性の罠になるけど、強烈なダメージと共に麻痺も誘発させるから、奴らはもう動けないだろう。


 そう思っていたところ、立ち上がる影が一つあり、わたしは驚く。

 侵入者の中でも最も巨漢の男で、それを見て再度電撃を発動したけれど、男はそれも耐え切ると、わたしへと向き合った。


「あれを二回も耐えきるとは、正直驚きました」

「……勇者は何処だ?」


 巨漢の言葉の通じない様子を見て、わたしは不審に思いつつも答えを返す。


「ここには居ません。あなた達こそ、勇者不在を見越して凶行に及んだのではないのですか?」

「そうか……。なら問おう。貴様は強いな? であるなら、貴様を倒せば、いずれ勇者も顔を見せるだろう……」


 どうやら、巨漢は強者との戦いを求めているらしく、話が通じそうにない。

 その様子にわたしはげんなりとしつつ、おざなりに答える。


「意味が分かりませんが、ここは引いて貰えませんか?」

「強き者との闘争は心躍る。であるなら、貴様との戦いを避ける意味は無い」


 そう言うと巨漢は自身の拳を打ち合わせ、それが戦闘開始の合図と言わんばかりに猛然と迫って来た。


 巨漢の想定外の俊敏さに驚いたけど、わたしは冷静にバックステップで巨漢の攻撃を躱す。

 しかし、巨漢の剛腕はわたしの想像を超えており、その拳はそのまま地面を撃ち抜くと、その衝撃でクレーターを作り出した。


「んな!?」

「甘い」


 その威力に驚いている隙を突かれ、巨漢の拳はわたしを捕えようと猛然と迫る。

 対して、わたしは咄嗟に風魔法を発動する事で距離を取った。

 巨漢の拳は宙を切るも、危険な風切り音を靡かせる。


 一方で、拳を振り抜いた事で巨漢の体勢は崩れており、それを狙ってわたしは力ある言葉を紡ぐ。


「――[空圧(エアプレッシャー)]」

「ぐ……、この程度!」


 わたしの[空圧(エアプレッシャー)]を受けて巨漢も一旦は跪くも、気合一閃で[空圧(エアプレッシャー)]を弾き飛ばすと、尚もわたしを猛追してくる。


 わたしはそれを回避しつつ、巨漢の制圧方法について考えていた。

 非殺傷系の魔法が効いていない様子を見ると、高威力の魔法を用いての最悪の手段も考えないといけないけど、わたしにその覚悟があるだろうか?


 あるいは他の手段はと思考を巡らせるうちに、わたしは一計を思い付く。

 しかし、真剣勝負の中で考え事をしたのが不味かったのか、巨漢はわたしを追い込んでいき、捕えるまで後一歩というところまで迫っていた。


「しま――」

「捕えたぞ! ……何!?」


 そのまま、巨漢の手はわたしを捕えた様に見えたけど、その瞬間、わたしの姿は泡沫うたかたの様にかき消える。

 光魔法[蜃気楼(ミラージュ)]――光を操り、幻影を創り出す事で相手を幻惑させる――により、巨漢はわたしの幻を追った形となり、大きな隙を晒していた。

 その隙を捕え、わたしは巨漢に対し、ゼロ距離で止めの魔法を放つ。


「これで終わりです。――[解呪(ディスペル)]」


 わたしの[解呪(ディスペル)]を受けると、巨漢は意識を失い、そのまま倒れ伏す。

 巨漢のおかしな様子を見たのと、それに加えて巨漢から怪しい魔力も感じたから[解呪(ディスペル)]を試してみたけど、やはり巨漢は何らかの魔法で操られていた様だ。

 どうやら、異常な耐性もそれが一因だったらしく、正気に戻った瞬間にダメージが入った格好になって、意識が飛んだらしかった。


 ともあれ、これで侵入者全員の制圧は出来たけど、巨漢に魔法を掛けたのが誰か分からないから、そこはまだ気を付けないといけない。


 そう考察していると、突然轟音が響き、わたしは強烈な衝撃に撃ち抜かれて吹き飛ばされた。

気になるところで区切ってしまいましたが、次話をお待ち下さい。

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