表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/78

第42話 新たな魔法薬の作成

 翌日早朝、那月さんは領都バルタットを目指すべく、旅装を調(ととの)えていた。

 幸いな事に天気も良く、準備も万端な様で、今はわたしとモニカさんとで見送りをしている。


「それじゃ行ってくるけど、気を付けてね。特にフミナは無理をしない事」

「そう言う那月さんこそ、気を付けて下さいね。一応、ポーションは用意しましたが、無茶しちゃ駄目ですよ」

「そうですねー。私達は大丈夫ですので、安全に気を配って下さーい」

「うん。それじゃ、行っていきます」


 そう言うと、那月さんは小走りで駆けて行く。

 やがて、彼女の姿が見えなくなった頃、モニカさんがわたしへと振り返った。


「それじゃ、後は門を閉めちゃいましょう。ナツキ様が帰ってくるまでは、敷地の外に出ないようにしないとね」


 モニカさんの言葉通り、わたし達は門を閉めて屋敷へと戻る。

 普段と違う一日が始まろうとしていた。




 その後、子ども達も起きてきたので、朝食の後に今日の過ごし方について子ども達の要望を聞く事にする。

 基本的にはモニカさんが子ども達の面倒を見て、主に護身術や家事を教える他、空いた時間は子ども達各々の夢に向けての個人鍛練に充てるらしい。


 一方で、わたしの方は工房で魔法薬や新商品の開発などを行う予定で、都合が付けば、セルフィとフィリアに魔法を教えたり、魔法薬やその材料について説明をしようと考えていた。


 すると、フィリアはとことことわたしに近付いてきて、わたしの服の裾を掴むと上目遣いで見つめてくる。


「フミ姉。私、フミ姉に魔法を教えて欲しい」


 フィリアのいつになく積極的な様子に驚いていると、今度は反対側の裾を掴まれ、思わず振り返る。

 意外な事に、そちら側ではセルフィがわたしの服の裾を掴んでいた。


 普段は子ども達のまとめ役を担っているし、幼い外見に反していつも落ち着いているだけに、想定外なその行動に驚かされる。

 尚も、セルフィはフィリアがする様に、上目遣いでお願いをしてきた。


「フミナ姉さん、私もお願いします」


 二人に慣れない呼び方でお願いされて困っていると、モニカさんがニコニコしながら告げた。


「あらー、フミナちゃんはモテモテね。それじゃ、二人の事はお願い出来るかな? 私はリゼットちゃん達の相手をしておくからー」


 それからはモニカさんの言葉通り、魔法担当のわたし達と、その他のモニカさん達とで別行動する事になった。


 モニカさん達の方は、まずは護身術の授業から始めるらしく、子ども達が自分の身を自分で守れる様に鍛えていく意図の様だ。

 セルフィとフィリアにも後に護身術を教えるらしく、二人にとって大変ではあるけれど、これも必要な技能なので頑張って貰う事にする。


 そうと決まれば、わたし達は早速工房へと向けて出発する。

 まずは屋敷を出る前に【隠密】を掛けて、三人で手を繋いで屋敷の裏手へと回る。

 ピンセント商会が店舗を買い取った後、屋敷と店舗とを行き来できる様に垣根の一部を改装して扉にしていたので、それを通って工房まで辿り着いた。


 工房に入ったところで【隠密】を解除し、今度はみんなで服の上から錬金用のローブを羽織る。

 これは耐薬品性・防臭の効果がある優れもので、魔法薬を作る上で必要だったから、ティナさんに急いで用意して貰ったものだった。

 ティナさんとしても、『これがあれば、制服を着ていても問題無いのね』と物凄く乗り気だった事もあり、超特急での入手が実現したらしい。


「二人とも、ちゃんと着られましたか?」

「はい。ちょっと大きいですけど、大丈夫です」

「うん、私も大丈夫。これが魔法使いのローブ……」


 セルフィとフィリアにはちょっと大きかったけど、とりあえずは大丈夫そうだ。

 まずは形から入った格好になったけど、魔法使いへの一歩を踏み出せたからか、フィリアは感動している様だった。


 続いて作業部屋に入り、今度は薬草などの素材を並べて説明する。

 今回作るのは、普通のポーションと毒消しで、まずは二人には材料や作り方を見て貰う事にした。


 最初は錬金魔法の雰囲気だけでも学んで貰おうと思ったのだけど、わたしがポーションを作り始めていくと、フィリアは一目見ただけで覚えたらしく、その飲み込みの速さに驚いた。

 セルフィの方も十分に優等生な出来だったけど、魔法に関してはフィリアに分があるのかもしれない。


「凄いですね。一目で覚えきるとは思っていませんでした」

「魔法の勉強、楽しかった。フミ姉、もっと教えて?」

「フィリアはちょっと落ち着いて。フミナ姉さんは、仕事をしながら私達に教えてくれているのだから、そんなに急かしたら駄目よ」


 そんなこんなで時折魔法の解説を交えつつ、錬金魔法のいろはを学んで貰う。

 わたしとしては、これが商会でのメインの業務になるから、アシスタントをして貰う二人をしっかりと鍛えなければいけない。


 その後、少し休憩を挟んでから、今度は新商品の開発に着手する。

 既に構想自体は済んでいるから、後は実践してちゃんとしたものが出来るか試行錯誤していくつもりだ。


「次は新商品の試作ね。完成したら、二人の意見も聞かせて下さい」

「あれ? さっきの素材をまた使うの?」

「ええ。素材を最後まで有効活用しようと思いまして。買うと高いし、魔の森に採りに行くのも意外と面倒ですし」

「姉さん、有効成分はもう抜けていると思いますが、大丈夫なんですか?」

「そのための試作です。まずは試してみないと、ですね」


 わたしはそう言うと、ポーションと毒消しに使用した素材を混ぜて、更に匂いが強目のハーブ等を加えて臭いを中和し、専用の魔法を付与した容器に入れて魔法薬の生成を進めていく。

 ポーション類は高価との指摘があったので、廃材を再利用する事で材料費を切り詰めているけれど、その分錬金魔法の難度は高くなっていた。


 それでも、機器に付与した魔法の補助も効いて、やがて魔法薬が完成する。

 それは、最下級の魔法薬であるポーションや毒消しよりもずっと薄い感じで、魔法薬独特の薬品っぽさもなく、ぱっと見は水と大差無いように見えた。


「出来た……。まずは確認しないとね、――[神の天秤(リーブラ)]」



【名もなき魔法薬】

 皮膚に塗布する事で、肌の保湿や弱いながら回復の効果があり、また解毒・防毒といった作用も示す。魔法薬としての有効期限は長く、開封後も一月程度は一定の効能が維持される。



 [神の天秤(リーブラ)]で確かめると、正に想定通りのものが出来ていて、まずはほっとする。

 わたしが作ったのは化粧水で、日本での記憶と、大工さんとの話題から思い付いたものだった。


 この世界には回復魔法やポーションがあるけれど、そのせいなのか肌の調子を整える程度のアイテムはあまり出回っていない様だった。

 その一方で、一般人にとってポーションは高額で回復魔法も馴染みが薄く、結果として大工さんの奥さんや娘さんの様なケースは珍しくないらしい。


 わたしの作った化粧水は、ポーションよりも効果は控えめだけど安価で、開封後もしばらくは使う事が出来るから、通常の魔法薬よりもずっと使い易いはず。

 なので、セルフィとフィリアに対し、化粧水の効能を説明すると共に、率直な意見を聞いてみる事にした。


「…………という訳だけど、二人の意見を聞かせてくれる?」

「それって凄いの? あ、でも魔法薬なのに臭くない……」

「姉さん、凄いです! この魔法薬は、女性皆に必要とされますよ!」


 フィリアはあまり興味が無さそうだったけど、セルフィの反応が良かったので、まずはほっとする。

 また、フィリアの『魔法薬なのに臭くない』という感想も重要で、美容のために使うのに薬品臭がしたら色々と台無しだろう。


 それからセルフィと話し合い、一旦は屋敷の女性みんなで試してみる事にする。

 フィリアは、年齢的な面もあってまだピンと来ていない様だけど、魔法薬の実験と話すと喜んでいたから大丈夫だろう。

フミナは化粧水と名付けましたが、本質的には魔法薬なので、現実世界のものとは一線を画す効能があります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ