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第24話 ポーションの材料を手に入れよう

 翌朝、わたしは那月さんと共に魔の森へ向けて出発した。


 今回の主な目的としては、ポーションなどの魔法薬に関して、素材採取だけでなく色々と試してみようと考えている。

 また、魔の森は非常に広大であり、奥地に行くほど危険になっていくらしいので、その危険度も把握するつもりだ。


 まずは街道に沿って西に進み、魔の森が見えたところで、街道を逸れて森の中へと入っていく。

 勿論、ヒナタの【隠密】と【警戒】は常時発動しているけど、魔物だけでなく他の冒険者の気配も感じられ、鉢合わせを避けるのも一苦労しそうだ。


「フミナ。一応おさらいだけど、今回は『中層』まで行って採取するんだよね?」

「はい。流石に『深層』まで行くのは危険ですし、そこまでは必要でもありませんので」


 魔の森は、魔物の強さや採取可能な素材から、『浅層』『中層』『深層』の三つに区分されている。

 『浅層』は人間の生活域に近い領域で、魔物も弱い半面大した素材も採れない。

 そこから魔の森に深く入って行くにつれ、『中層』『深層』となっていき、『深層』は最早魔界に近く、上位の冒険者でも足を踏み入れるのは危険とされていた。


 なので、命を大事に考えるなら『中層』までに留めるのが無難だし、今回もその予定になっている。

 但し、『浅層』であっても意外と色々な素材が見つかるので、わたし達は採取をしつつゆっくり進んでいた。


 そうして森の奥へと入っていくと、やがて森の雰囲気や植生も変わっていき、漂う魔力の濃度も濃くなってくる。


「雰囲気変わりましたね。そろそろ中層でしょうか?」

「そうだね。中層からは魔物もガラリと変わるらしいし、気を付けて行こ」


 那月さんが言う通り、『浅層』と『中層』とでは生息する魔物が全く異なり、その双方を生息域とする魔物はほとんどいないらしい。

 浅層最強のブラッドレッドベアーも中層には生息していない事を考えると、この境界における差は想定以上に大きいのかもしれない。


 また、中層のもう一つの問題点として、魔物の密度が各段に高くなっており、そろそろ魔物との遭遇を避けるのが難しくなりつつあった。


「那月さん、気を付けて下さい。そろそろ魔物と遭遇します」

「オッケー、どっちから来そう?」

「もう、すぐそこのはずですけど……。――!」


 そう話しながら魔物を探していると、突如として毒々しい花粉が漂い始め、近くにいたわたしはそれを少し吸い込んでしまう。

 それでも、咄嗟の反応でバックステップする事で安全圏へと退避した。

 丁度そのタイミングで、さっきまでわたしのいた空間を触手が通り過ぎていく。


「花粉と触手……、ラフレシアですか。――[氷結(フリーズ)]」


 先制攻撃こそ受けたものの、それにより地面で周囲の草花と半ば同化していたラフレシアを看破し、[氷結(フリーズ)]で仕留める。

 浅層の魔物と比べると厄介だけど、この位ならまだ対応出来そうだ。

 そう考えていると、那月さんが駆け寄ってきた。


「フミナ、大丈夫? 具合悪くない?」

「いえ、特には。……先ほどの花粉ですか?」

「うん。あれって眠りの効果があるから……って平気そうだね?」

「はい、一応は」


 ラフレシアは、眠り効果のある花粉と強力な触手を持つ魔物で、ぱっと見では何処にいるか分からないという点でも厄介だと言える。

 わたしが平気なのは、恐らく【精神耐性 LV5】のお陰だと思うけど、認識外からの先制攻撃には気を付けた方が良いかもしれない。


 その一方で、中層に来た事で素材採取はかなり捗っていて、魔力回復ポーションや状態異常回復ポーションの原料なんかも手に入り始めていた。

 これらの特殊なポーションがあれば、特に魔女のわたしとしては安全度を大きく高められるので、是非とも調合出来る様にしておきたい。


 そうやって採取を続けていると、今度は爬虫類の魔物『リザード』と遭遇する。

 大型のワニ並の大きさで、堅い皮膚は物理・魔法双方に対して高い防御力を誇る厄介な魔物だ。

 ぱっと見は大トカゲっぽい外見だけど、その顔付きは気持ち悪く、虫っぽいというか生理的嫌悪感を感じさせる作りをしていた。


「リザードだね。生半可な攻撃じゃビクともしないから、気を付けて」

「了解です。――来ますよ」


 わたし達が話しているのを見て好機と認識したのか、リザードが意外と俊敏な動きで襲い掛かってくる。

 それでも、中堅レベルの魔物と考えれば大分遅い部類に入る様で、堅い代わりに素早さは落ちるのかもしれない。

 いずれにしろ、的にするには丁度良く、わたしは力ある言葉を紡ぎ解放する。


「氷の中で永眠(ねむ)れ――[氷棺(アイスコフィン)]」


 水魔法LV4[氷棺(アイスコフィン)]――[氷結(フリーズ)]の上位魔法で、対象を氷の棺に封じ込めて極北の冷気で覆い尽くす――は、その一撃でリザードを凍り付かせる。

 リザードも最初はもがく様な動きを見せたけれど、あっという間に完全に凍り付いて動かなくなった。


「リザードすら一撃かあ……。やっぱり、フミナは凄いね~」

「堅くても動きはやや鈍重でしたからね。後は高威力の魔法を当てるだけです」

「いや。簡単に言うけど、それって案外難しいんだよ」

「そうなんですか……、っ! 魔物が一体、高速で近付いて来ます!」


 リザードを仕留めて雑談していたところに、突然ヒナタの【警戒】が魔物を感知した。その魔物は、圧倒的な速度でこちらに近付いて来ており、もう遭遇戦は避けられそうもない。

 那月さんも気配に気付いたのか、魔物の来る方角を厳しい顔で見つめる。


 間を置かず、木の上から巨大な虎がわたし達を目掛けて飛び出してきた。

 那月さんは虎を目掛けて聖剣を振るったけど、虎はくるりとバク宙してそれを躱し、後方へ難なく着地する。

 二本の巨大な牙を持つ虎の魔物――サーベルタイガーは、そのまま警戒するかの様に那月さんを睨み、威圧の雄叫びを上げた。


 サーベルタイガーは俊敏で高い攻撃力を誇る、中層でも上位の魔物だ。

 ブラッドレッドベアーが中層にいないのは、サーベルタイガーとの生存競争に敗れたからという説もあるらしく、その強さはブラッドレッドベアーを大きく上回っている――というのが事前に調べた情報だった。

 実際にこうして対峙してみると、その危険性がまざまざと感じられ、後衛にいるわたしにさえも突き刺す様な殺気が向けられていた。


「フミナ、そこから動かないでね。これはちょっと余裕無いかも」


 那月さんも、いつになく真剣な表情でサーベルタイガーと対峙している。

 後ろにわたしがいるから下手に動けず、守りの剣になっている事で余裕が無いのかもしれない。


 確かにサーベルタイガーは非常に俊敏であり、普通に魔法を撃っても中々当たらないから、わたしは足手まといになってしまう可能性がある。

 だけど、普通じゃない撃ち方ならどうだろうか?


「那月さん、わたしが魔法で隙を作りますので狙って下さい。――いきますよ」

「フミナ……?」


 わたしはそう言うと、那月さんの了解を待たずに[アースニードル]の魔法を放つ。但し、いつもの様に魔物の足元ではなく、自分の足元に巨大な針を次々と生み出して、それを手に取っていった。

 まとまった本数の針が用意できたところで、わたしは風魔法も駆使して、その針を次々とサーベルタイガーへ投げつける。


 風魔法で射出された針は強力な弩弓を彷彿とさせ、サーベルタイガーも危険とみたのか、それを確実に避ける様に動きを変えた。

 その結果、[アースニードル]の連射であってもサーベルタイガーを中々捉えられないものの、防戦一方に追い込む事は出来ている。

 そこで、わたしは機を見て仕上げと言わんばかりに、今度はサーベルタイガーの四方八方から[アースニードル]を生み出した。


 サーベルタイガーはそれを見て、咄嗟の判断で唯一開けた前方へと飛び出し、一転してわたし達への逆襲を狙ってくる。


 だけど、それこそがわたしの狙っていた隙だった。

 サーベルタイガーは空中にいるので、どれほど俊敏であっても、この瞬間は回避が難しい。

 それでも、生半可な斬撃や魔法じゃ止まらないだろうけど、それは那月さんも心得ていて、聖剣が強い光を放つのが見えた。


「これは避けられないよ。聖剣技[ルミナスアロー]!」


 那月さんが聖剣を振り抜くと、聖剣を覆う光が光線となり、サーベルタイガーを撃ち抜く。サーベルタイガーはその一撃で斃れ、その勢いのまま墜落していった。


「今のが勇者の剣技……凄いですね」


 サーベルタイガーを難なく仕留めた一撃を見て、わたしは思わずそう漏らしたけど、那月さんは険しい表情を変えずに呟く。


「……おかしい」

「何がですか?」

「サーベルタイガーは確かに強い魔物だけど、普通、ここまで強くはないの。コイツはいくら何でも強過ぎる」


 那月さんはそこで区切ると、改めてわたしの方へ向き直る。


「普通に考えたら、私とフミナなら中層だって楽勝なハズだし、そうじゃなきゃ、他の冒険者は中層まで来れないよ」

「そうか。勇者である那月さんとそれなりに渡り合える魔物が中層にいるのは、確かにおかしいのかもしれません」

「多分、これは深層レベルの魔物。偶々なのか何か原因があるのか、すぐには分からないけど、気を付けた方が良いね」


 漠然とした不安はあったけど、わたし達は足早にその場所を後にする。

 既に日が傾いていた事もあって、その後はすぐに野営の準備へと取り掛かった。

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