第23話 次の冒険先は
それからは、ベッドや寝具を屋敷に運び込んで貰い、家具屋のおじさん達にお礼を言って見送った後に、わたし達は一息付きつつ向かい合っていた。
どうやら、モニカさんが追いかけて来たのは那月さんとしても想定外だったらしく、一方のモニカさんとしてもわたしとは初対面になるから、お互いの現況をすり合わせる感じだ。
尚、わたしは那月さんにピタリと寄り添って、その隣に座っている。
あの後も、モニカさんに何回かもふもふされそうになったので、比較的安全そうな場所をキープする事にした結果だった。
「それでさ、モニカはどうしてアルフルスまで来たの? 一応、王都での再就職先とかお見合いとかを斡旋してたはずだけど……」
「はい、その事には感謝しています。ですが、私としてはやはりナツキ様にお仕えし続けたく悩んでいたところに、陛下からお声掛け頂きまして」
「あ~、あの人らしいっちゃそうなんだけど、それもどうなのよ……」
何となくドヤ顔のモニカさんに対し、那月さんは珍しく頭を抱えていた。
〈勇者〉という事もあってか、この国の国王ともかなり近しいっぽいけれど、自分の知らないところで色々と決められているみたいだし、苦労も多いのかもしれない。
「それよりも、フミナちゃんですよ! どうやって、こんな綺麗で可愛い子を相棒にしたんですか?」
モニカさんはそう言うとわたしを熱っぽく見つめてきたので、わたしはビクついてしまい、思わず那月さんの服の裾を掴む。
「あー、フミナ。モニカもあまり無体な事はしないから落ち着いて。それと、モニカは信用できるからさ、話しても良いかな?」
「那月さんがそう言うのでしたら……」
わたしがそう承諾を返すと、那月さんは改めてモニカさんに向き合った。
「この子はさ、お母さんと同じなんだ。出会ったのは偶々だけど、その事が縁でパーティーを組んで一緒に暮らし始めた感じ」
「ツバサ様と一緒――という事は、こことは異なる世界にあるという、ニホンからいらしたという事でしょうか?」
「うん、そう。フミナからすると全く身寄りの無い世界だしさ、私もお母さんの事もあったし……ってところかな」
「そうでしたか……。フミナちゃん、大変だったんだね。これからは、お姉ちゃんに頼って良いからね」
モニカさんはそう言って、再度わたしに熱視線を送ってくる。
それを見て、わたしが少々怯えてしまった一方で、那月さんは頭痛を堪える様にモニカさんに問い掛けた。
「その、さ、モニカ。それってどういう……」
「はい、ここでもナツキ様にお仕え出来ればと思いまして、押し掛け侍女という感じですね」
「まあ、そうだろうとは思ったけど、それもどうなのよ……」
「そうは言ってもナツキ様、この広いお屋敷をお二人で維持管理するのは難しいのでは?」
そうモニカさんに痛いところを指摘され、那月さんの動きが止まる。
「それに、先ほどキッチンを拝見しましたが、お料理もされていないですよね? 毎食外食だとお身体に良くないですよ」
更に痛い指摘だったのか、那月さんは完全に固まってしまう。
なので、わたしからモニカさんへ疑問をぶつけてみる事にした。
「その、質問ですけれど、モニカさんはどうしてこんな遠くまで、那月さんを追って来たんですか?」
「そうだね、一つはナツキ様への恩返しかな。それと、もう一つは心配だからね。私にとって、ナツキ様は妹みたいなものだから」
そう言うと、モニカさんは那月さんを優しく見つめる。
ここまで追いかけて来た事から見ても、二人の間には主従以上のものがあるのだろう。
「そんな訳で、お二人の身の回りは任せてね。今日も美味しいお夕飯作るから、楽しみにしてて」
モニカさんのその一言で那月さんも諦めたのか、財布を一つ取り出してモニカさんに手渡した。モニカさんはそれを受け取ると、『食材を買ってきます』と言い残して、足早に出掛けていく。
どうやら同居人が増えるのは確定事項らしく、家事の出来る存在は有難いものの、これからは随分と騒がしくなりそうだった。
◆ ◆ ◆
その夜、わたし達はモニカさんの手料理を食べて寛いでいた。
夕食では驚いた事にお米のご飯が出てきて、お料理もそれにあった味付けがされていた。
モニカさん曰く、『ツバサ様――ナツキ様のお母様がお好きでしたので』という事らしく、日本風でとても美味しく、また懐かしさも感じる味だったと思う。
元々、那月さんと王都で暮らしていた時も、モニカさん一人で家事を切り盛りしていたらしく、その手際は魔法を見ているみたいだった。
わたしも那月さんも料理が出来ないので、この点はとても助かったと思う。
そして、今は部屋割りや今後について三人で話し合っていた。
「部屋割りはこんな感じかな。まだ色々足りないと思うから、何かあったら言って」
「そうですねー。お屋敷に物が余りありませんし、少しずつ揃えていった方が良いと思います」
「その辺はモニカに任せるね。フミナは何かある?」
「そうですね……、今後はモニカさんが屋敷を取り仕切るんですよね。なら、防護結界について知っていて貰えればと」
「りょーかい。ならさ、それはフミナからモニカに説明してくれる?」
那月さんの言葉を受けてモニカさんを見ると、彼女はニコニコしていた。
ここまでを振り返っても、かなりスキンシップが強い人の様なので、それに気を付けて話そうと心に決める。
屋敷については、未だほとんど何も無い状態なので、基本的にはモニカさんが手入れをしていく事になった。
但し、[清浄]の様に、必要に応じてわたし達も手伝う感じだ。
続いて今後の予定だけど、元々明日は魔の森に行こうと考えていたので、それを提案する。
「魔の森かあ……、何かやってみたい事はあるの?」
「色々と試してみたい事はありますが、主にはポーション作成とその材料の採取ですね」
魔の森はいやらしい魔物の巣窟というイメージなので、余り近付きたくない気持ちが強いけど、ポーションなどの魔法薬の材料となる薬草が豊富に採れるらしく、これらの薬を作るなら避けては通れない。
この話をすると、那月さんはちょっと嫌そうな顔になった。
「分かるんだけど、あそこっていかがわしい系の魔物ばっかりで嫌なんだよね~」
「そうですね。正直、森ごと燃やしてやりたくなります」
「……冗談だよね」
「一応は。そんな事をしたら薬草が採れなくなりますし、そもそも火魔法もそこまで得意な訳でもありませんので」
冗談のつもりだったけど、那月さんは慄きつつ『フミナならやりかねない……止めるべき?』などと呟いている。
フォルパスのダンジョンで、わたしがキレて放った[時空震]がちょっとしたトラウマになっているのかもしれない。
それでも、魔の森に行く必要性は分かって貰えたので、早速明日出発する事になった。




